国際結婚ギャップ解消サバイバル

【国際結婚ギャップ解消サバイバル 第3章】映画『ロケットマン』と『ジョーカー』の共通点から知った夫の名も無き育児《天狼院書店 海外ローカル企画》


2021/01/06/公開
記事:武田かおる(READING LIFE 編集部公認ライター)
 
 
「そんなのダメに決まってるでしょ!」
 
私は腕組みし、眉間にシワを寄せながら答えた。
 
二年前の出来事だった。友達の誕生日に、近隣都市ボストンで行われるコンピーターゲームのイベントに誘われたので、学校を休んで参加したいと息子が言ってきたのだ。
 
そもそもコンピューターゲームのイベントとは何なのか?
 
息子によると、イベントの会場はボストンでも有名なコンベンションセンターで、参加するのに50ドル程(約5千円)のチケットを事前にネットで購入しなくてはならない。イベント当日にはゲーム業界では有名なユーチューバーも来るそうだ。息子は私を説得するために一生懸命説明するのだが、ゲームに興味のない私には全くそのイベントのイメージが掴めない。
 
息子はまだ中学生だ。いくら友達のお父様が付き添うからと言って、学校を休んでゲームのイベントに行くなんて、2つ返事で承諾することはできなかった。それに大人も参加するイベントなので、どんな人が来るのかもわからない。もしもそれが遊園地だったり、地元の映画館だったりしたらもう少し想像できるし、許可を与えるハードルも下がっただろう。安全な場所なのか、私がよく分かっていないところに行かせるのも不安だった。 
 
だが、息子はどうしてもそのイベントに友達と一緒に行きたいと言うので、頭ごなしに反対するのもどうかと思い、「お父さんにも相談しよう」と、とりあえず息子に提案した。夫も学校を休んでまでゲームのイベントやらに行くことには賛成ではないだろうと私は高を括っていたのだ。
 
夫が仕事から帰ってきた後に話をした。夫は私の予想を裏切り、「せっかく友達が誘ってくれたのだから行かせてやりたい。息子の交友関係を大事にしてやりたい」と言った。私が「ゲームのイベントのために学校を休むというのが受け入れられない。それにどういう人が来るのかわからないから安全面が気になる」と言うと、「自分が仕事を休んで付きそう」と、そこまで言うので、「学校を休んで遊びに行くのはこれが最初で最後」、「成績を下げてはいけない」という条件の元で私もしぶしぶ承諾した。
 
結局息子は友だちといったそのイベントがとても楽しかったみたいで、意気揚々と無事に帰ってきた。それはそれでよかったのだが、私の中では何か釈然としないものが残った。

 

 

 

私が友達と出かけるため、夫に子供の世話を頼んだことがあった。自宅に戻ると飲みかけのLサイズのカップがテーブルに置いていたので、当時幼稚園児だった娘にどうしたのか聞いてみた。
 
「パパがチョコレートのドーナツとホットココアのの大きいのを買ってくれたの。大きかったから全部飲めなかったの」
 
私が出かけた時は、夫が子供にドーナツ屋さんのドライブスルーでドーナツとココアを買うのが恒例になっていったようだった。車の中に飲みかけのココアが入ったLサイズのコップを見つけたことが何度かあった。
 
子供の頃からの食生活が大事と知り、小さい頃は子供になるべく甘すぎるものは与えないようにしていたのだが、夫に子供の世話を頼むとこんな風に、常日頃の私の努力が水の泡になる。子供もお父さんと一緒に過ごせる日は普段私が買わない甘いものを食べさせてもらえるのを知っているから楽しみになっているようだった。とにかく、夫は、子供の望むことをして甘やかしたいようにみえた。
 
子供を甘やかすことは簡単だし、子供の希望を叶えてあげれば喜ぶ。はっきり言って、そうできれば子育ては楽だ。だが、世の中は甘くない。自分が望んでもできないこともあるし、甘いものも食べ過ぎれば肥満や病気の原因になるため、食べすぎは良くない。そういった事を教えるのも親の責任だと思う。
 
現実の社会で生きていくには、我慢させることも多少の厳しさも必要だ。少なくともそんな風に私は育てられたし、こうして一応、それなりに一人前の大人になったと思う。私は両親から非常に厳しく育てられたし、長女だったこともあり、物心ついたころから親に甘えた経験など無い。経済的に裕福な家庭ではなかったので、欲しい物も買ってもらえなかったことのほうが多い。
 
私の両親の子育てが正しかったのかどうかわからないが、自分なりに子供のことを思い、親として一生懸命子育てをやってきたつもりだった。
 
だが、息子が11歳になったころから反抗期が始まり、私は完全に子育ての壁にぶち当たることになる。息子が私の言うことを全く聞かなくなったのだ。
 
例えば、30分後にサッカーの練習に行くのに、「水筒に水を入れたり、サッカー用のすね当てを準備したりしなさい」と言っても、生返事でやり過ごし、出発のギリギリまで何もしない。このままだと練習や試合に遅れてしまうので、どうしても私の声が大きくなってしまう。最後は、言うことを聞かない息子に腹が立ち、私も感情的になり怒鳴り声になっていった。
 
私が怒鳴ると息子の態度は改善するどころか、ますます悪くなっていった。私が感情的になると、息子も大きな声で怒鳴り返してきて、さらに動作をゆっくりにしたり、私を苛立たせる行動を取るようになっていった。最後には、「くそばばあ」とか、とか、「何も知らないばか」とか、私を見下したような言葉を吐き捨てることこともあった。
 
ただ、やるせなかった。一生懸命に子供のことを思って世話をしているのに、自分の子供だから、大事だから、好きだから厳しく接しているのに……。息子を思う気持ちが全く伝わらなくて、空回りしている自分がやるせなくなった。
 
そんな私を見て夫は私が厳しすぎることを非難した。
 
「どれだけ反抗されても、最後は『I love you』と言葉をかけてフォローしないとだめだ。どんな事があっても、自分は親から認められて受け入れられていると自覚させないとだめだ」と。
 
私は、
 
「自分も厳しく育てられた。それでも大人になって親の厳しさは愛情の裏返しだったということが分かったから、言葉に表さなくても、時がくれば息子も私の気持ちを理解してくれるはずだ」
 
と反論した。
 
だが、夫は、
 
「ここはアメリカだし、子供は半分アメリカ人なんだから、ちゃんと言葉で愛情を表現しないとだめだ。日本みたいに黙っていても伝わるわけじゃない」
 
と私の考えを否定した。
 
夫の言うことは正論だった。確かに子供が小さかったときは「大好き」とよく言っていたけれど、最近は言っていなかった。気がついた頃には息子は私よりも背が高くなって、ハグもしなくなった。けれど、「クソババア」と悪態をつかれた後に、フォローするために「大好きだよ」なんて声をかけるほど私の心の器も広くなかった。
 
自分の今までの子育てを否定されたような気がした。アメリカで育っていない自分がアメリカの子育てなんてできないし、「I love you」 の言葉だけで全てが解決するわけではないと思った。
 
それに、夫は仕事が忙しいため、家にいないことが多く、ほとんどの学校のことや習い事、スポーツの練習や試合のスケジュールの管理や送迎などの子供の世話を私がしていている。たまに口を挟んできて、すべてを分かったかのように、私に説教する夫にも腹がたった。
 
そして、私は家庭内で一人孤立したような気持ちになった。

 

 

 

そんな折、映画『ロケットマン』を観た。ロケットマンはエルトン・ジョンの子供の頃からの半生を描いた映画だ。最初は無意識に、Queenのフレディ・マーキュリーの半生を描いた映画『ボヘミアンラプソディ』と比較して観ていた。同性愛者ということ、そしてミュージシャンとして成功し、富と名声を手に入れるが、心はいつも満たされていなかったという共通点がその2人にはあったからだ。だが、気がついたら、私はバットマンの悪役を主人公にした、映画『ジョーカー』のことばかりが頭に渦巻いていた。
 
『ロケットマン』と『ジョーカー』の両方の映画の主人公は、白人男性という以外特筆する共通点は一見無いように見える。
 
ここからは映画を観ていない人には、ネタバレの要素が含まれるので、ご理解いただいた上で読んでいただきたい。
 
エルトン・ジョンはどれだけミュージシャンとして成功しても心は満たされなかった。その理由の一つは父親との関係だ。エルトン・ジョンは、子供の頃から父親から邪険に扱われていた。エルトン・ジョンはミュージシャンとしてデビューし、名声や富を手に入れた後に父親の元を訪ねるのだが、父親の息子に対する冷たい態度は子供の頃のままで変わらなかった。当時、エルトン・ジョンの父親は再婚し、エルトン・ジョンとは腹違いのまだ幼い息子が2人いたのだが、その子どもたちには肩車をしたりして楽しそうだった。その父と異母兄弟を横目で見ながら、悲しそうな面持ちで父親の家を去る時のエルトン・ジョンの様子は非常に印象的だった。
 
一方『ジョーカー』では、主人公のアーサーは母子家庭で父親が誰なのかわからないまま大人になるのだが、あることがきっかけで父親が誰であるのかを知り、父親と思しき人に会いに行く。アーサーがその父親かもしれない男に望んだことは、金銭の要求や、息子として公に認知してほしいなどではなかった。ただ、父親として自分を認め、優しく抱きしめて欲しい。それだけだった。

 

 

 

映画を観て、父親と息子の関係について考えさせられた。ストーリーの設定はそれぞれ異なるが、父親と息子の関係というのは普遍的なもので、いくつになっても父親に認めて欲しい、優しくしてもらいたいというのは、時代や場所を問わず共通するもので、子供にとって非常に大事なもののように思えた。息子というものは、世界中のどんな人に認められるよりも、父親に認めてもらいたいと思うのかもしれないと。
 
思い返せば、最近の私は、息子に話しかけるときは、注意や、やらなければいけないことをリマインドするばかりだった。学校から帰った後は、手を洗いなさいから始まって、宿題をやったのか、習い事に遅れるから早くしなさい、ゲームをいい加減に止めなさい。そんな命令的な言葉の繰り返しだった。
 
会話をすれば喧嘩になるので、気軽に話すことすら避けていた。そして、私が息子にすることは、親としての責任を果たすために、食事の用意や洗濯、送り迎えをするだけになっていった。時々息子が甘えてくることもあったが、体が大きくなってきたこともあって、突き放したこともあった。
 
週末も夫は仕事のことが多く、毎日子供の世話に追われて、私だけが子育ての責任を押し付けられたような気持ちになっていた。アメリカでの子育ては初めてで、学校の事、学外のスポーツや習い事等、なにか大事なことが抜け落ちているんじゃないかと自分自身がいつもピリピリしていた。時間に追われ余裕がないため、すぐイライラして思うように行動しない息子に感情的になっていた自分を反省した。
 
一方で、夫は子供に甘すぎる面は否めないが、まず子供の意見を聞き、その意見を尊重し受け入れていた。必要があれば叱り、時に子供の目線で一緒に楽しみ、愛情を注ぎ、何があっても息子を受け入れるという、目には見えない名も無き育児を息子や娘にやってくれていていたのだということに気がついた。
 
後に、夫も自分が思春期の頃にかなり荒れていたと教えてくれた。当時義理の母も手が負えなくなり、全寮制の男子校に入れられたそうだ。それもあって、息子と私の関係が拗れてしまわないようにと、当時の自分の気持ちを思い起こして私に忠告していたようだ。一方で、義理の父は、反抗期の息子に寄り添って心のサポートをしていたのでは、そして、夫は父親からしてもらったことと同じことを息子にしているのではと考えた。
 
私ももう子育てにピリピリするのはやめることにした。学校の成績を上げることも大事だけれど、まずは息子自身が親である私達から認められているということ、そして、家の外でどんな事があっても家に帰ったら自分を受け入れてくれる居場所があるということを自覚してほしいと思った。
 
息子と私の関係が悪くなった時から、よく夫は息子と二人で出かけるようになった。二人だけでスキーに行ったり、魚釣りに行ったりして父と息子の二人の時間を堪能しているようだ。息子は夫にだけに打ち明け話をすることもあるらしい。
 
今日もコンピューターの部品を一緒に買い行くのだと言って出かけて行った。
 
私にはできない子育ての部分を補ってくれている夫に感謝し、温かい気持ちで二人を見送った。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
武田かおる(READING LIFE編集部公認ライター)

日本を離れてから、母国語である日本語の表現の美しさや面白さを再認識する。
『ただ生きるという愛情表現』、『夢を語り続ける時、その先にあるもの』、2作品で天狼院メディアグランプリ1位を獲得。

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