【国際結婚ギャップ解消サバイバル 第8章】オミクロン株による人手不足の加速と年末から店先から消えたもの《天狼院書店 海外ローカル企画》
2022/01/17/公開
記事:武田かおる(ライターズ倶楽部編集部 公認ライター)
信じられない時間に閉店するスターバックス
「用事がなければ車の運転を控えたほうがいい。除雪が遅れていて道のコンディションが悪い」
年明け早々に、夜中から雪が降り積もった翌朝、早朝に出勤した夫から携帯にメッセージが送られてきた。
町からも昨日、「人手不足のため除雪に普段よりも時間がかかる」と町のフェイスブックページにアップされていた。だから特段驚きはしなかったが、様々なところに人手不足の影響が出てきていることに不安になった。
私が最初に人手不足を実感したのは、昨年の11月半ばで、まだオミクロン株がアメリカで蔓延していない時期だった。
その日、私は去年3月に新型コロナの感染拡大が始まって以来、ずっと会っていなかった知人と2年ぶりに会うことになっていた。
待ち合わせの場所は、お互いの家の中間地点にある、交通量の多い道路に面したスターバックスだった。朝10時過ぎに店に到着したとき、駐車場もかなり混み合っていたが、一つだけ空いていた駐車スペースに運良く車を停めることができた。店内も混雑していて座る場所もなかった。
お天気がよく暖かかったし、人混みを避けるために、私達は外のテーブルを陣取り、2年間の空白を埋めるためにおしゃべりに花を咲かせていた。
午後1時ごろ、あれだけ混み合っていた駐車場で、駐車禁止の場所まで車を停めるほどお客さんがいる繁盛ぶりだったのに、気がついたら車がほとんどなくなっていた。
その後、一人のお客さんが店先まできて、肩をすくめた後、踵を返して車に戻っていった。私達は何が起きているのか確認するために、入り口のドア付近に近づいてみた。すると、
「人手不足のため、1時に閉店します」
という張り紙が貼ってあった。
個人経営のコーヒーショップなら理解できるが、全世界展開しているスターバックスが昼間の1時に店を閉めることが信じられなかった。人手不足だとはニュースで聞いてたが、ここまで深刻化しているとは思っていなかったからだ。
その店は毎朝5時半からオープンするが、一時以降シフトを組むことができないということなのだろう。
私達はコーヒーを買った後、外のテーブルにいたので、店の閉店時間について何も言われなかったが、店内にいたら閉店の断りが店員からあったのかもしれない。
こんなスターバックスはここだけだろうと思っていたら、別の離れた町に住む知人も昼の2時頃、最寄りのスターバックスに行ったら閉まっていたらしい。あれから2ヶ月が経つが、ホームページで確認したところ、あのスターバックスの店舗は今も昼の1時閉店となっているようだ。
同じ時期、人手不足の問題が子供が通う町の公立の中学校にも影響していた。
「9月の新学期より担当していたスペイン語の担当の先生が、怪我のため復帰の日時が未定になってしまった。代理の先生を募集しているが見つからないため、スペイン語を選択している生徒は、次の3つから、今年度の今後のスペイン語の時間をどうしたいか、希望を選択するように。
1) ロゼッタ・ストーンというオンライン教材にて学習する。
2) 中国語を選択する
3) 宿題や苦手な教科を学習する時間にする」
学校側も採用が思うように進まず、「本年度については代理の先生は探さない」と、匙を投げてしまったことが伝わってきた。こんな事は初めてだ。それでもコロナ禍に毎日通わせてもらえるだけでありがたい。
我が家の子供はロゼッタ・ストーンでオンライン学習することを選んだ。ロゼッタ・ストーンは30年前に設立された老舗の多言語学習用ソフトウエアで私もその教材でフランス語を勉強したことがある。子供によると、専用のマイク付きヘッドフォンを渡されて勉強するらしく、楽しく学んでいるようだ。
このように昨年末から様々な分野での人手不足が深刻化してきていた。これまでは、コロナで働き方を見直す人が増えたことが理由の一つだと聞いていた。だが、12月に入って感染力の強いオミクロン株が蔓延し、感染者が急増したことで、人手不足にさらに拍車をかけた。感染者が増えるということは濃厚接触者も同様に増えているということになる。病院も人手不足が深刻化していて、マサチューセッツ州では、12月末から、急を要しない治療や手術を延期したり、大手の人手不足の病院に州兵を派遣している。
先日、かかりつけクリニックの医療グループからメールが来た。内容はコロナ感染者の増加に関連した医療スタッフの不足のため、対応にいつもよりも時間がかかることについての理解の要請から始まった。そして、年に一度の健康診断は延期してほしい等の他に、スタッフへの侮辱的な言動が増加しているため、今後、同様のケースが発生した場合、事情を当方の責任者が確認した上で、侮辱的言動をとった人はクリニックから出てもらう。と強い文体で書かれていた。
医療スタッフへの言動へのお願いについての連絡は初めてだった。よほど、医療スタッフの対応へのクレームを起こしてくる患者やその家族が増加しているに違いない。この医療グループからのメールは医療現場の悲痛な叫びのように思えた。
スタッフの不足は当然ながらサービスの質やスピードの低下が起きてしまう。その結果、患者やその家族のフラストレーションにつながっていく。彼らのストレスが病院スタッフにぶつけられることが増加した結果、結局スタッフが辞めてしまったり、新しいスタッフを雇っても辞めてしまう等、人手不足の負の連鎖に陥ってしまうように思う。
医療機関だけでなく、航空会社や学校、スターバックスを始めとする飲食店、スーパーなど、人手不足をひしひしと感じる今、消費者や患者としての立場で私ができることは、逼迫している医療機関に行かなくて済むように、今までどおり感染対策に気をつけたり、健康管理に気をつけること。そして、サービスに若干不満を持っても、人手不足の状況を考慮し、前線で働いている人たちに敬意をして接することだ。不満やイライラは伝染する。私がその感染源にだけはならないように、前線で働いている方々に親切に接したい。
年始年末に店先から消えたもの
11月末、アメリカではクリスマスと同様に家族や親戚で集まる感謝祭がある。
昨年は、まだワクチンも摂取できていなかったので、家族だけで七面鳥を焼いて感謝祭を過ごした。今年は中学生の子供以外は新型コロナのワクチン摂取が完了していたので、親戚4人と私達の家族4人、合計8人が集まることになった。私は念の為に、自宅でできる新型コロナの抗原検査キットで陰性を確認してから集まることを参加者全員に提案した。親戚がどう受け取るかわからなかったが、すんなり同意してくれた。
11月末のその時、きっと多くの人が同じように検査してから集まるだろうから、検査キットが品薄になっているだろうと思ったが、夫が会社帰りに大手スーパーの薬局で見つけて買ってきた。
その後、量販店のオンラインショップなどでも抗原検査キット(アメリカ食品医薬局で緊急使用許可されたもの)を販売しているのを見つけたのでいくつか買っておいた。これが、非常に役に立った。なぜなら、オミクロンの感染拡大で、多くの人が検査を希望するため、病院や検査場での待ち時間が、長いときでは数時間に及ぶことがあるからだ。抗原検査キットは、鼻の粘膜を綿棒でこすり取って検査する。15分程度で結果が出るので手軽に検査が行える。
検査のタイミングが早すぎると陰性と出てしまったり、精度はPCR検査よりも劣るそうだ。そのため、検査は通常2個セットで売られていて、一回目が陰性であっても数日後に再検査するように説明書に記載されている。
先日親戚が濃厚接触になり、症状もでていたため抗原検査キットでの検査をしたところ、結果は陰性だった。そのため、日を改めて2回目の検査をしたが、2回目も陰性だった。症状が続いたため、その翌日改めてPCR検査を受け、陽性が確認された。このように、テストの精度はある程度劣ってしまうということを理解した上で使用しなくてはならない。
ここ1週間の間に、子供が少し喉が痛いというので自宅のキットで検査をした。病院に行って待たなくても自宅で検査できて、15分ほどで結果がわかるのは助かる。
また、もう一人の子供も学校で一緒に過ごしていた友達が陽性とわかった。子供は先月ワクチン接種を完了しているが、念の為に自宅の抗原検査キットで検査した。今までは検査をしてくれる医療機関に行って、かなりの時間待たないといけなかったので、自宅でテストができて結果もわかるのは楽だし安心だ。
感染が増えてきた年始年末、抗原検査キットを買い込んだ人が多かったようだ。
また、ある地区の学校は全生徒に配布し、1月の新学期の登校の前に自宅でテストを受け、陰性を確認してから登校するというところもあった。こういった背景から、昨年のクリスマス頃から、1月初旬の現在、検査キットはオンラインショップも店舗でも品薄になっている。通常2000円から3000円で購入可能だが、値段を吊り上げて販売しているオンラインショップもある。まさに、抗原検査キットは新型コロナが始まった2年前のトイレットペーパー状態になっている。
昨年末、アメリカのCDC(アメリカ疾病予防アンリセンター)は、コロナに感染後の隔離期間を、症状がない場合や症状が改善している場合、10日間から5日間に短縮した。その後は、仕事に復帰できるが、感染リスクを最小限にするために引き続き5日間のマスク着用となっている。また、濃厚接触者に関しても、ワクチン接種して半年たたない人や追加接種をした人の隔離条件は緩和されている。(1)
隔離期間の後、PCRテストを受ける必要はないので、隔離機関が今までの半分に短縮されたことで不安もあるが、検査キットで念の為検査をすれば、会社や学校への復帰もやや安心だ。
抗原検査キットは現在、マスクと同様に、感染を抑えるための必須アイテムになりつつある。オミクロン株の収束が先か、検査キットが店舗に普通に売られる日が戻るのが先か。とにかく検査キットを必要としない日常が一刻でも早く来ることを願うばかりだ。
参考資料
(1)CDC, CDC Updates and Shortens Recommended Isolation and Quarantine Period for General Population, 2021年12月27日 https://www.cdc.gov/media/releases/2021/s1227-isolation-quarantine-guidance.html (2022年1月13日閲覧)
□ライターズプロフィール
武田かおる(READING LIFE編集部公認ライター)
アメリカ在住。日本語の面白さを再認識し、2019年よりライターズ倶楽部に参加。
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