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魂の生産者に訊く!

【魂の生産者に訊く!Vol.6-1】小さな工房から生まれる魔法のジャムたち(前編) 《天狼院書店 湘南ローカル企画》


2021/08/23/公開
記事:河瀬佳代子(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 

新倉さんちの手づくりジャム 新倉有文さん

ナス、じゃがいも、たまねぎ、コーヒー……。
「えっ?」と言いたくなるような、珍しいものを使ってジャムを作っている店が横須賀にあると聞いた。
その一方で、正統派の果実のジャムも、毎年万単位で完売させているという。
王道も覇道もきちんと仕上げてくるジャム屋さんって、一体どんなところなのだろうか。
その発想の源は、どこからやってくるのだろうか。
 
 

全ては3本の夏みかんの木から始まった


1998(平成10)年創業です。
僕は元々勤め人でした。脱サラというわけでもないのですが、息子と娘が就職したことで彼らにかかっていた学費が浮いたのでそのタイミングで早期退職をしました。そこから半年後にジャム作りを始めました。
 
実家は3代前まで農家でした。実家の裏に夏みかんの木が3本あるんですが、1本につき1年間に150~200kgくらい夏みかんが取れます。3本で600個くらい毎年夏みかんが取れますが、取れすぎて消費しきれずに下に落ちて無駄になるほどでした。それを見ていた僕の母親が「これをジャムにしたらどうか?」と言って作ったのが始まりです。
 

 
夏みかんをジャムにしたところ、まずまずの評判でした。「母親の冥土の土産にいいんじゃないか」と思って売ってみたところ、これもまあまあ売れました。家には梅の木もあったので、販売用にと夏みかんと梅のジャムを作り始めました。
 
そんないきさつですので、創業者は正確に言えばうちの母ですね。母は1926(大正15年・昭和元年)生まれです。弊社HPで夏みかんの木のところに立っている母の写真があります。
最初、母は自分たちで食べる分だけ作っていて、そこに僕の家内と、いとこの奥さんが加わり3人で作っていました。当時は今の店舗ではなく、近くに所有していたアパートの一室で作っていましたが、手狭になったので、空いていたこの横須賀・秋谷の土地に店舗を作って今に至ります。
 
 

小さな工房から手作業で生み出されるジャムたち



 
今は全部で約60種類のジャムを作っています。全てこの工房での手作りです。
1日に最大600個程度製造できます。
週に4日、パートさん含めて常時5〜6人で稼働しています。稼働日数は年間200日以下です。僕も厨房に立つことがあります。全ての工程を知っていますからね。長年勤めてくださっているパートさんも多くて、皆さんでチームワークを駆使して手際よくやってくださっているので、これだけの作業ができています。
 
この小さな規模で、外注や他の工場などもなくここだけで作っていまして、材料は基本全部包丁で、手で切っています。スライサーとかブレンダーのような機械は一応ありますけど、包丁で切った次の段階でしか使いません。仕入れ時期によっても材料が持っている甘味がそれぞれちがうので、みんなで果物の味見をしながら確認できるのは、材料を手で切ることの大きなメリットなんですよ。
 

 
材料を切ったら、そこから鍋を火にかけて、最強の強火で30分~1時間くらい煮ます。煮るのに長い時間がかかる材料だと1時間半くらいかかりますから、その間ずっとかき混ぜ続けないといけない。だから夏は工房の温度が上がって本当に大変です。
 

 
ジャムの賞味期限は18か月として作っています。工程としては材料を切って煮詰めて蓋をして、殺菌するまでが一通りのものです。
殺菌ですけど、ジャムの蓋をするときに一緒に空気を抜いて真空にします。ジャムって蓋の上がへこんでいると思いますが、それが空気が抜けている証拠ですね。
 
 

試行錯誤で生まれた、ベストな販売ルート


販売ルートは、小売はここ本店(横須賀)と鎌倉の店舗と、通販です。それと業務用も作っています。
以前はデパートで催事もしていましたが、店舗と通販が忙しくなってしまいまして今はやっていません。メディアで紹介されると1か月はうわーっと人が来ますが、そこを過ぎるともうブームはしぼんでしまいますね。ただそこからリピーターになってくださる方もいらっしゃいまして、定期的に注文していただけるのはとてもありがたいことです。
 
うちの珍しい商品で、コーヒーのジャムなどがあるんです。
これを見つけた人は必ず驚くんです。だってコーヒーがジャムになるなんて信じられないでしょう? でもできるんですよ。
コーヒーのジャムの原材料のコーヒー豆ですけど、催事をやっていた時に知り合った北鎌倉のコーヒー屋さんにお願いしています。新倉ジャムの本店ではカフェをやっているんですけど、カフェで出しているコーヒーも、ここの北鎌倉のコーヒー屋さんの豆です。焙煎もブレンドもしてもらっています。もう催事はやめてしまいましたが、同じ出店者同士で横の繋がりができたことはとてもありがたかったです。
 

 
よく「営業かけているんですか?」と訊かれますが、していないです。自分から営業をかけると話が広がり過ぎてしまうのであまり繋がりません。こちらから話を持ち掛けると「じゃあ1度ジャムを使ってみようか、だめだったらハイさよなら」と、大体そういう感じになってしまいます。次につながらない。
今は「先方から営業の話が来たらそれを受ける」ことだけをしています。「果報は寝て待て」じゃないですけど、その方が徐々に取引先が増えていくので、逆にいい方法だとわかりました。
 
 

ジャム作りのスケジュールと、数々の材料たち



 
今は約60種類のジャムを作っていますが、主な年間のジャム販売スケジュールは次の通りです。
1月~:柚子・レモン・はちみつ生姜レモン
2月~:にんじん・ブロッコリー・大根
3月~:夏みかん・だいだい
4月~:伊予柑・デコポン・タンカン
5月~:湘南ゴールド・いちご・キウイ・ネーブルオレンジ
7月~:梅・ルバーブ・すもも・トマト
8月~:あんず・かぼちゃ・とうもろこし・メロン・枝豆
9月~:ぶどうの果皮
10月~:桃・ぶどう・栗
11月~:ナス・さつまいも・りんご・いちじく
12月~:みかん
 
これは小売用のジャムの製造目安ですが、他に業務用も作っています。
業務用のジャムは、基本なんでも対応できます。依頼があれば作りますが、原材料が豊富にある時期に限ります。湘南ゴールドや夏みかんの業務用ジャムは冷凍していないので、生の果実が大量にある時に作りますね。
 

 
原材料はこの三浦半島近辺で調達しているものと、取り寄せているものがあります。
【近場から調達している原材料】
      トマト、かぼちゃ、ブロッコリー、にんじん、三浦大根、メロン、いちご
【遠方から調達している原材料】
     さつまいも(神奈川県足柄・茨城)
     とうもろこし(長野)
     レモン・デコポン・ブラッドオレンジ(愛媛)
     りんご(群馬)
     いちご(長野・群馬・静岡)
 
この中では、さつまいもというとどこでも採れそうなイメージで、遠方から取り寄せる必要もないと思われるかもしれませんが、1回に何百kgの単位で買い付けますから集積場が必要なんです。ところがこの辺りにはさつまいもの集積場がないため、神奈川のJAからいただく関係で足柄からのお取り寄せになっています。
 
近場から材料を調達している農家さんとは直接やりとりをして、選んでいます。縁故で材料を調達することもありますね。あらかじめ予約しておいて、その材料のシーズンになると受け取りに行きます。近場だとすぐ加工できますし、送料もかかりませんしね。
 
 

「こんなものもジャムにするの?」と言われるまで増やした種類


ジャムの種類ですけど、最初に作ったのは夏みかんと梅のジャムでした。自分のところに木があったものから作りました。
その2種類の材料を、グラニュー糖と黒砂糖の2つの砂糖で作ってみました。
最初は普通の白砂糖を使って作っていましたが、白砂糖だとジャムの仕上がりがちょっとべったりした感じになっちゃうんですよ。そこでグラニュー糖に変えたら上手くいった。ですので、
①夏みかん×グラニュー糖
②夏みかん×黒砂糖
③梅×グラニュー糖
④梅×黒砂糖
の、4種類のジャムから始めはスタートしています。
 
そのころは黒砂糖がいいと思って使っていましたが、だんだん製品の色が黒くなって見栄えがしなくなってきた。白砂糖だけにすると今度はベタっとするのでどうしようかと考えていたら、てんさい糖という砂糖があったのでそれで試作をしてみました。てんさい糖だと砂糖の色がジャムの邪魔をしないし、さらっと仕上がるんですね。とても軽い上がりになりましたので、最終的にはてんさい糖を使おうということになりました。
 

 
夏みかんと梅のジャムの次に作ったのが、いちごのジャムです。
お客さんから「ジャム屋なのにいちごジャムもないのか?」と言われまして作ることになりました。三浦半島のこの辺りはいちご作りも盛んでしたので、地元で材料を探しました。
 
ジャムの製造ですが、基本は「売れ筋のものを多く作る」ことです。
60種類のジャムの中で一番製造量が多いのは、湘南ゴールドのジャムです。年間約18,000個出ますが、完売してしまいます。
逆に個数を少なく作るのは野菜のジャムです。果物のジャムに比べると珍しい分、どうしても売れる個数が少なめになりますので、1種類につき400~500個の生産です。少ない個数のものを組み合わせて、午前と午後とで作るものを変えることもよくあります。1日に少量ずつ2〜3種類を作ることもありますね。
 
ブロッコリーや大根のジャムなどはお客さんに驚かれますが、調べてみるとほとんどの野菜や果物がどこかでジャムになっているので、実はそんなに驚くことでもないかもしれません。
ナスのジャムは山口県の熊毛郡で作っているそうですね。あとは中東にもナスのジャムがあるそうです。
以前、サヘル・ローズさんが収録でここにきてナスのジャムを食べていかれたんですが「これ、わたしのところにもあります」っておっしゃっていました。サヘルさんはイラン生まれということですけど、イランではナスのジャムを普通に売っているとのことでした。
 
野菜のジャムは天然のえぐみを生かしています。ですから面白い野菜を見ると、「この野菜はジャムになるんだろうか?」って考えるクセがつきました。そして試作してみます。うまくいけば商品化する。果物もそうです。そんなことの繰り返しで種類は増えちゃいましたけど、楽しいですよ。
 

 
 
(後編へ続く)
 
年間60種類ものジャムを、少人数で手作りする。
最初聞いた時は気が遠くなりそうな作業の量で、どうやって製造をコントロールするのだろうと思ったが、それも全て新倉さんの長年の好奇心と、工房のチームワークで行われてきた結果だった。並んでいるジャムたちの1つ1つを眺めていると、それぞれのジャムが誕生したストーリーを語り出しそうな気さえしてくる。ジャムそのものが、そのくらい魅力的なたたずまいなのだ。

 
 
 
 
(取材・文:河瀬佳代子、撮影:山中菜摘)

新倉さんちの手づくりジャム
神奈川県横須賀市秋谷1-15-20    046-855-5706
営業時間: 10:30~21:00
カフェ営業日 11:00~16:30 (定休日:水・木)
公式サイト: https://niikurajam.com/
※取材時の情報です。営業時間等、変更している可能性もありますのでご注意ください。

□ライターズプロフィール
河瀬佳代子(かわせ かよこ)(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

東京都豊島区出身。日本女子大学文学部卒。天狼院書店ライターズ倶楽部「READING LIFE編集部」公認ライター。「Web READING LIFE」にて、湘南地域を中心に神奈川県内の生産者を取材した「魂の生産者に訊く!」http://tenro-in.com/manufacturer_soul 、 「『横浜中華街の中の人』がこっそり通う、とっておきの店めぐり!」 https://tenro-in.com/category/yokohana-chuka/ 連載中。

□カメラマンプロフィール
山中菜摘(やまなか なつみ)
神奈川県横浜市生まれ。
天狼院書店 「湘南天狼院」店長。雑誌『READING LIFE』カメラマン。天狼院フォト部マネージャーとして様々なカメラマンに師事。天狼院書店スタッフとして働く傍ら、カメラマンとしても活動中。

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2021-08-23 | Posted in 魂の生産者に訊く!

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