魂の生産者に訊く!

【魂の生産者に訊く!Vol.9-2】刻々と変わる状況に対応しながら、楽しんで洋蘭を作ると決めた(後編) 藤沢洋蘭 湯澤雄一さん《天狼院書店 湘南ローカル企画》


2022/01/17/公開
記事:河瀬佳代子(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
前編記事はこちら
 

環境とお財布に優しい燻炭の話


カトレアの鉢には、土は入っていません。
ここを訪れた方からもよく質問されるんですが、この土の替わりの黒いものは燻炭(くんたん)と言います。
燻炭とは、お米を籾摺り(もみすり)する時に出る「籾殻(もみがら)」を焼いたもので、専用の機材を使って生産します。
 

 
カトレア栽培ですと土台にバークチップ(=赤松や黒松など樹皮を砕いたもの)を使う人がほとんどですが、コストもかかるので、うちでは燻炭をずっと使っています。
燻炭を使うメリットですが、焼いているので虫がつきにくくなることや、保水性に優れていることです。藤沢洋蘭の田んぼから得られるもみ殻だけでは足りないので、ご近所の方や親戚にももみ殻を分けていただいて作っています。
燻炭は作る手間暇がとてもかかりますので今では使う人はほとんどいなくなりました。燻炭を使って花卉を栽培しているのは、恐らく全国でもうちしかいないんじゃないかと思います。
 
 

時代とともに移り変わる流通スタイル


出荷ですが、関東の卸売市場まで週3回運びます。
カトレアは1ケースが10輪(切り花)入りで、1回に10~20ケース出荷します。
 
胡蝶蘭は、直販(店舗と通販)と市場出荷の両方を行っています。JAさがみ店舗のわいわい市藤沢店寒川店でも販売しています。
わいわい市さんへは花を買いに来る方たちだけじゃなく、野菜や米、その他加工品等を買う目的に来るお客様にもうちの花を見てもらえるメリットがあります。販売と同時に展示場として活用させていただいています。実際に「わいわい市で見たので注文したい」というお客様も多いです。
 

 
そして昨年コロナ禍で市場が閉まった影響で始めたインターネット通販が好調です。
ネット通販を始めたことによって、ネットだけの取引のお客様はすごく増えました。県外の方からも「今まで知らなかったけど注文したい」と連絡があります。
 
コロナ禍も収まりつつあって、閉じていた流通も少しずつ再開になっていて、ここの直売所にもお客様が再び訪れてくださるようになりました。「実家に帰省できないから、花を送ってください」とか「葬式をしないのでお花を送ってください」とか「開店・開業のお祝いを持っていってほしい」というように、僕たちが直接先方様に配達する仕事が増えました。
 

 
あとはフラワーアレンジメントの注文が増えましたね。母の日、盆暮れや正月用の飾りの代わりにする方が多いです。リースや、床の間の飾りのイメージですね。中秋の名月にも注文がありました。
アレンジメントは、花を切ってオアシスに挿して作ります。僕はそういうセンスがないので、母と妻が独学で勉強して対応してくれていますね。カトレアと胡蝶蘭が中心に入って、そこに季節の花を混ぜて作ります。平均して1週間に10個くらい注文がありますが、需要が多い時期には1日に約20個~50個の注文が入りました。そうなるともうすごいことになってきますよ。
 
用途別にお祝いとか、仏用とかあれば合わせます。予算のご希望も承ります。
アレンジメントだと、涼しいところに置いて毎日水をあげれば1〜2週間くらいは花は持つと思います。お客様に喜ばれるのは「花の持ちがいい」ことなので、例えアレンジメントであっても鮮度がいい花から使っていきます。アレンジメントのご注文をきっかけにして、鉢の注文をいただくことも多く、とてもありがたいです。
 
コロナ禍になってから、悩みに悩んで生産をやめようかと考えたこともありました。でも皆様に「いつも綺麗なお花をありがとう」「おたくのお花が1番最後まで咲いていたよ」などの温かいお声をかけていただき、やめないで良かったと思えるようになりました。
 
 

胡蝶蘭を家で育てるのは難しくない!


「胡蝶蘭は自分で育てるのは難しい」というイメージは、皆さんの中にはありますか? お祝いでいただいても、どうしたらいいのか考えてしまうことも多いのではないでしょうか。せっかくのお花ですから、長く持つと楽しめますね。花を長く保つ方法を聞かれたときに、僕が答えていることがいくつかあります。
 

 
1つは「水のやりすぎはNG」。毎日水を上げると、胡蝶蘭はダメになります。
水やりは、夏で10日に1回、冬で半月~1か月に1回くらいでいいんです。
もともと胡蝶蘭って手がかからない植物なんです。上に書いたような間隔で水やりをすれば、手元に届いてから約1か月を目安として花は持つでしょうとお伝えしています。水や温度のコントロールがうまく管理できる人だと、半年くらい花を咲かせてくれています。言葉は悪いですけど「放っておく」感覚です。気がついたときに水をやるくらいでちょうどいいです。
 

 
もう1つは「適度に光に当てる」です。
ほとんどの植物は、葉や根が健康な状態が、花が長く持つ1つの要因なんです。
日光を当てすぎると葉が茶色や黄色になるので、当てすぎないこと。薄いカーテン越しに光を当ててあげるといいです。直射日光はNGです。
 
最後に「なるべく暖かいところに置くこと」です。
胡蝶蘭は寒さに弱い植物です。よく玄関や建物の入り口に胡蝶蘭を置いてあるケースが多いです。空調管理がされていて暖かい玄関・入口ならいいのですが、人の出入りが多く寒いことが多いです。人が長く滞在しているキッチンやリビング等に置くのがお勧めです。
 
胡蝶蘭の葉は黄色くならないようにしないといけないんですが、では黄色くなったら葉は全部取るのかというと、一概にそうとも言い切れないんです。
胡蝶蘭の種類によって、黄色っぽい葉や緑っぽい葉があります。パッと見ると全部同じように見えますが、ちょっとずつ濃かったり薄かったりしています。だから見極めが本当に難しいんです。まだまだ毎日勉強で、僕の中で満足はいってないです。そんな試行錯誤の中でも、お客様が喜んでくれる花がいいと思って追求しています。
 

 
 

「どんな花が求められているか」を念頭に


今まで洋蘭を手がけてきて嬉しかったことは、やはり花が咲いたときですね。
手塩にかけて管理をした花が咲くたびに「こんなに花ってきれいなんだな」って、改めて思います。
洋蘭は環境の変化に大きく左右される花です。花を咲かせるまでの、自分が手がける期間は半年あまりですけど、自分が思った通りの花が咲いた、あるいは思った以上の花が咲いたときは、未だにすごく感動します。つぼみがついたとしても自然に落ちることもあるし、人為的に落ちてしまうこともあります。もし1つでもつぼみが落ちると商品になりませんので、出荷まで持って行くことは当たり前のことではないのです。
 
お客様と直接話して売っていて「藤沢洋蘭さんの花、持ったよ」「すごく綺麗だったよ」と言われるのが本当にうれしいんです。多くの方からお話を伺っていると、求められているのは「長く楽しめる花」ということがわかります。花の命は有限ですけど、1日でも長く楽しめる花を生産しようと思っていて、それが少しずつ実現できています。
 

 
「いつも楽しく仕事をする」ことを忘れないようにしたいですね。開花サイクルがあるので、時期的に無理して仕事をしたことも何度もあるんですけど、やっぱり楽しく仕事はしたい。家族経営ですし、毎日一緒ですからいろいろありますが、みんなで笑顔でやっていくのが一番と思っています。
 
息子が2人いるんですが、彼らには私と妻が協力してやっている姿を見せられればと思います。僕は父から「お前は継ぐんだよ」ってなんとなく仕込まれて育ちましたけど、子どもたちには私や妻が笑いながら、時にはケンカしながらでも仕事をしている姿を見て「面白そう」って思ってくれればそれでいい。
 
コロナになる前は、子どもを市場に一緒に連れて行くこともしていまして、周りには「英才教育だね」なんて冗談まじりに言われました。「後を継いでほしいな」という気持ちもなくはないんですが、子ども心にも「楽しそう」という記憶が残る方がいいですよね。
植物を扱う仕事なので、誰かがいないといけないから温室を空けることができないため、休みを長期的に取れないのが心苦しいところで、なかなか遊んであげることができないんですけど、時間が取れれば少しでも子どもたちと遊べればと思っています。
 

 
コロナ禍になってから商圏も広がりまして、近隣から新鮮な花を探される方が増えました。
ネット販売を通じてのお客様も増えて、地元だけでなく県内外からの注文を多くいただけるようになりました。さらにはその後ろにも東京という消費地がありますので、ターゲットとして考えていきたいですね。
 
今、こうして、湘南という土地で農業ができています。現状地元の方はとても多くいらしていただいていて、これは湘南という、トレンドに敏感な消費者が多く住んでいるエリアにいることの強みだと思っています。直販で買うと花自体が新鮮ですからぜひご利用いただきたいですし、皆さまの期待に答えられるような花を常に育てていければと思います。
 
 
 
予測ができない天候を相手に、流通サイクルまで思案して花を育てることがどんなに大変か。きれいなところだけ見ていては決してわからない、貴重なエピソードがありました。
どれをとっても人の手がかかり、削ることができない。そのぶん努力が実った時の嬉しさもひとしおなのでしょう。藤沢洋蘭さんの花を手にした人たちが思わず笑顔になるようなパワーは、湯澤さんの「仕事を楽しむ」姿勢が伝わっているから。どこまでも前向きなお話でした。

 
 
 
 
(取材・文:河瀬佳代子、撮影:山中菜摘)

藤沢洋蘭
神奈川県藤沢市西俣野2652
TEL:090-5561-6175    FAX:0466-81-2403
営業時間:9:00~17:00 ※12:00~14:00まで昼休憩
定休日:なし(年末年始臨時休業あり)
アクセス:小田急江ノ島線善行駅より車で5分・駐車場完備
HP:https://nouenweb.enopo.net/orchard-etc-menu/hujisawayoran-page.html
SHOP:https://fujisawaran.buyshop.jp/
Facebook:https://www.facebook.com/profile.php?id=100063469959965

※取材時の情報です。営業時間等変更している場合がございます。

□ライターズプロフィール
河瀬佳代子(かわせ かよこ)(READING LIFE編集部公認ライター)

東京都豊島区出身。天狼院書店ライターズ倶楽部「READING LIFE編集部」公認ライター。「Web READING LIFE」にて、湘南地域を中心に神奈川県内の生産者を取材した「魂の生産者に訊く!」http://tenro-in.com/manufacturer_soul、 「『横浜中華街の中の人』がこっそり通う、とっておきの店めぐり!」 https://tenro-in.com/category/yokohana-chuka/ 連載中。

□カメラマンプロフィール
山中菜摘(やまなか なつみ)

神奈川県横浜市生まれ。フリーカメラマン。天狼院書店スタッフとして様々なカメラマンに師事。現在は天狼院フォト部マネージャーとして活動しつつ、フリーカメラマンとしても活躍中。

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2022-01-12 | Posted in 魂の生産者に訊く!

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