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魂の生産者に訊く!

【魂の生産者に訊く!Vol.10-2】リピーターを生み続ける、下中たまねぎの魅力とは?(後編) 俺たちのファーム 石塚明さん《天狼院書店 湘南ローカル企画》


2022/04/25/公開
記事:河瀬佳代子(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
神奈川県小田原市の香実園のオーナー・石塚明さんには、代々受け継ぐ家業の柑橘農家とは別に、玉ねぎの生産者としての顔があります。
変化する時代に伴う需要を受け止めて、柔軟に対応していく秘訣とはどんなものでしょうか。
 
前編記事はこちら。
 
 

風が吹き抜ける玉ねぎ畑は、空と海に守られて


ここは香実園だけの、下中たまねぎの畑です。
海が見えて、気持ちがいいでしょう? 神奈川にもこんなところがあるんですよ。
 
この畑の一部は、ご年配でもう農業をやらなくなってしまった方が「おまえ、やってみるか?」って声をかけてくれたのがきっかけで、うちで耕すことになりました。お借りしている土地だから地主さんにご迷惑かけないように、きちんと管理しています。
 
ここでは年に1回の収穫で5~6トン、個数で言うと30,000~40,000個取れますね。畑で育てている玉ねぎは1種類だけ、七宝早生(しっぽうわせ)という品種です。それがいちばん食味がいいんです。
辛みを少なく育てるための工夫としては堆肥による土づくりなどいろいろありますが、一番の秘訣は気候です。ここは温暖で海風、潮風を浴びるのと、あとは昼間が暖かくて夜冷えるから寒暖差が激しく、たまねぎを作る気候に合っているんです。
今では定期的にポンコツファームに買いに来て下さるレストランや、味がいいからってことで何年も使っていただいている箱根のホテルのように、お得意さんができるようになりました。
 
 

「苗場」の作り方が、玉ねぎを制す



 
畑の端の方には、畑に植える前の状態の苗だけを植えている一角があります。いわゆる「苗場」ってやつですね。
苗はある程度の大きさまで育ててから、手で移植していきます。この茎の1本が1つの苗で、1個の玉ねぎになります。
 
ここだけを見ると、ただなんとなく草みたいなものが植わっているような感じですけど、これが全部苗ですね。これを畑に植え替えます。あっちの端までずーっと、この畑用に全部で40000本くらい作るんですけど、今残っているのは10000本以下です。
 
見た目は小葱に似てますよね。この葉っぱの部分は食べられますよ。
この全てを植えるわけではないので、苗が余ったら薬味みたいにして使っています。畑に植え替えて、薬味にもして、それでも余った苗はもう使わないので片づけてしまいます。
 

 
今年は苗がよくできたので余りましたが、もし苗づくりに失敗してしまうと代わりに植える苗が必要になります。あとは風で飛んだり、病気になったりとか、そういうこともあります。去年は雨が多くて、そうなると畑も多少消毒はしているけど土に残っちゃう菌もあって、病気を防ぎきれなかったんですね。
いくら畑があっても何かあったときに代わりの苗がなかったら植えられないので、毎年苗は多めに作るんですよ。
 
玉ねぎが病気になったときに薬で極端に病気を強く抑え込むと、土も作物も敏感になってしまうんです。ちょっと病気が出ると、逆に一気に全体に広がってしまう。今までは軽くすんでいたものが、反動でひどくなることもあります。病気を抑えながら作物を育てることの度合いは難しいんです。先輩の農家さん曰く「いい加減がいい加減」なんだそうで、言い得て妙だなと思います。
 
 

リピーターこそが、オーナー園の味方


次にご案内するのは、オーナー園の玉ねぎ畑です。
約500区画あります。もっと区画は増やせるんですけど畑の面積にも限界があることと、駐車場の兼ね合いもありまして、この規模になります。
 
最初は体験型農業から始めて、オーナー制にしました。利用者の約8割がリピーターです。リピーターができるということは、いいサービスができているということなので、僕は正解だと思っています。そこはこだわってやっていきたいところですね。
 

 
玉ねぎオーナー園として使っていただくのは11月〜翌年5月までの半年間です。オーナー園の畑が空いている期間は作物を作らず畑を休ませて、僕らが雑草を刈り取るなどの管理をしています。2020年はコロナ禍のため完全にお休みしましたが、2021年は再開を待っていてくれたお客さんがいらして、おかげさまで区画は満杯になりました。
 
オーナー園を休んでいる間にはこちらで玉ねぎを作って、お客さんに送ることもしていました。あとはドライブスルーのようにして、現地で販売会も行いました。休んでいる間にも、お客さんに満足していただける取り組みを考えていきましたね。
 
 

需要にはとことん応えたい。チャンスを逃さないためのファーム設立


俺たちのファーム」という農業組合法人を経営しています。
香実園は代々昔から続くうちの農家ですが、「俺たちのファーム」は3人で設立して下中たまねぎだけを作っている法人です。おかげさまで7期目に入りました。
 
法人を立ち上げるきっかけは、今から約10年前に遡ります。
郵便局に行くと、よくいろいろな通信販売のチラシが置いてありますよね。「ふるさと小包」と言いますが、あれを下中たまねぎでやりませんかという話がきました。最初農協の生産部に話が来たらしいんですが、その話を受けた方たちが「自分たちはもう高齢だし、そんな細かいことはできないから」と断っちゃったんです。
 
当時僕たちは10人くらいのグループで、20年ほど前から玉ねぎのオーナー園をやっていました。オーナー園は、ご自分たちで栽培してもらって収穫してもらう体験なんですけど、ボランティア的な要素が強くて商売としては儲からない。だけどそんなことをずっと一緒にやってきたからこそ、この仲間で何かできるんじゃないか。そう考えてみんなで「ふるさと小包」の話をしたところ「うちらが請け負ったらいいんじゃない?」ということになり、郵便局経由で下中たまねぎの通信販売が始まりました。
大きすぎないグループで、長年信頼関係があってうまくいっているからこそ、実現できたことですね。
 

 
「ふるさと小包」での販売は、最初の年は6月だけでしたが約300箱出ました。次の年からは、5・6月の2ヶ月間の販売で2000箱売れました。3年目が6,000箱、4年目が12,000箱、5年目で20,000箱を超えまして、今もその数字を維持しています。
去年はコロナ禍でしたが、神奈川県の「ふるさと小包」枠の中では一番売れているそうです。リピーターがリピーターを呼んでますね。決してお値段は安くはないけど飛び抜けて高くもなく、玉ねぎは使い切れる野菜のため、重宝されたのでしょう。そして「味が美味しい」と評判にもなりました。
 
販売を開始して出荷が10,000箱くらいになったときに、グループの玉ねぎが足りなくなったんです。売るものがなくなったので、その年は6月末日より前に販売終了になりました。
そうしたら仲間の一人から「せっかく需要があるのに、そんなにもったいない話があるか!」という意見が出てきました。この人は酪農家で、今まで玉ねぎを作っていなかった。でも「俺も玉ねぎ作りたいから、ちょっと一緒になんべえよ」って感じで話が進んでいきました。
 

 
それまでは自分もキウイや田んぼもやっているから忙しくて正直「これ以上玉ねぎの生産を増やすのは厳しいかな」と思いましたが、せっかくそういう声かけがあって「これはチャンスだ」と思ったんですね。家族には迷惑かけちゃうけど「それじゃ、やるかあ」って話になり、自分を入れて3人で、オーナー園とは別にファームを結成しました。
 
 

ただのポンコツたちかもしれないけど、お客さんが喜ぶから売る!


小田原市小竹に「俺たちのファーム」の直売所があります。小田原厚木道路(国道271号線)と県道709号が交差するところで、車でアクセスがしやすいエリアです。
 
販売所の名前は「ポンコツファーム」と言います。
名前の由来をよく訊かれるんですが、「設立した3人ともポンコツだからなあ」ってところから、半分ギャグで半分本気で名付けちゃいました。
 
「ポンコツファーム」は基本的に土曜日の午前に開きます。主に5・6・7月の玉ねぎの販売時期だけは週3回開店になって、地域の農産物を置いて売っています。自分も柑橘類を持ってきて販売することがありますよ。
 
2019年に開店した素朴なお店ですけど、なかなかの売上を出しています。
ここは完全に現金のみの対面販売です。今って意外と、観光地にでもいかなければ「話しながらモノを買う体験」ってないかもしれないですよね。自分もたまに店に立ちますけど、お客さんにとってはその買い方が楽しいみたいです。
 
ここで販売するものの主力は、なんと言っても玉ねぎです。
玉ねぎを作っていると、どうしても「大きすぎる」などでB級品(訳あり商品)が出ちゃうんです。僕たちはファームで100トン作っていますから、B級品だけで10〜20トンは出てしまう。それは致し方ないことなんです。
 
B級品を一般の流通に出したとしたら、我々生産者の手取りは二足三文になっちゃうんですよ。でも普通に街中で売っている商品よりも少しだけ安いなら、欲しい人いるんじゃない? という発想から「じゃあ、俺たちで店やんべよ!」と誰からともなく言い出してポンコツファームを開店することになり、見事に当たりました。
 

 
「たまねぎの無いポンコツファームはただのポンコツだ」っていうのも、なかなかのインパクトでしょう?
この看板もメンバーの手作りです。書いた人は元は男性ファッション誌の編集長までやってましたからフォントもきれいに揃っている。フリーハンドみたいに見えるかもしれないけど、適当に書いている訳じゃないんですよ。
彼は家の都合で、40代で一念発起してメディアの世界から転身してきたからかなり個性的で、芸術家肌のところがありますね。本人もしゃべったらかなり面白いし。そんなこだわりのキャラクターの持ち主が、ポンコツファームの中心となって運営してくれています。
 
誰かと何かをやるって意外と難しいですよね。「この人とは仲がいいから大丈夫」って思っていても、ビジネスとしてうまく行くかどうかは別の話で、違う分野がお互いに得意だからうまくいっているってことはある。
 
ファームを運営している3人は年も違うし役割分担も違っているけど、仲はいいんですよ。自分は主に事務担当です。あとの一人は営業や設備作りが得意なので、率先してやってくれています。
三人三様で、時にはケンカもするけどすぐ修復できちゃう不思議な関係性ですね。今のところお互いが認め合って力を発揮できているんじゃないかと思っています。このままみんな健康に気を付けて、どんどん進んでいけたらと思っています。
 
自分たちが生まれた時から親しんでいる下中たまねぎを新しく知って、支えてくれる人がいることが何よりの励みになっています。需要があるからチャンスを逃さないことと、下中たまねぎをもっと広めたい。その気持ちを大事にしていきたいですね。
 
 
柑橘と同じくらいの愛情を、下中たまねぎに注いでいる石塚さん。その原動力は、下中たまねぎの魅力と、それを支える多くの人たちがもたらすパワーなのでしょう。もっともっと多くの人に届けたいと、きらきらと瞳を輝かせながら話す姿が印象的でした。
 
 
 
 
(取材・文:河瀬佳代子、撮影:山中菜摘)

ポンコツファーム
神奈川県小田原市小竹8-1
TEL: 0465-43-6880
開店時間:土曜午前(詳細はFacebook参照)
アクセス:小田原厚木道路二宮ICから4分、JR東海道線二宮駅より神奈川中央交通「二30」中井町役場入口行バス10分「下中駐在所前」下車徒歩3分
Facebook:https://www.facebook.com/ponkotsufarm/
※取材時の情報です。営業時間等変更している場合がございます。

 

□ライターズプロフィール
河瀬佳代子(かわせ かよこ)(READING LIFE編集部公認ライター)

東京都豊島区出身。天狼院書店ライターズ倶楽部「READING LIFE編集部」公認ライター。「Web READING LIFE」にて、湘南地域を中心に神奈川県内の生産者を取材した「魂の生産者に訊く!」http://tenro-in.com/manufacturer_soul、「『横浜中華街の中の人』がこっそり通う、とっておきの店めぐり!」 https://tenro-in.com/category/yokohana-chuka/  連載中。

□カメラマンプロフィール
山中菜摘(やまなか なつみ)

神奈川県横浜市生まれ。フリーカメラマン。天狼院書店スタッフとして様々なカメラマンに師事。現在は天狼院フォト部マネージャーとして活動しつつ、フリーカメラマンとしても活躍中。

この記事は、人生を変える天狼院「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」をご受講の方が書きました。 ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

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2022-04-20 | Posted in 魂の生産者に訊く!

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