15.カメラの三脚〜点と面〜《オトナのための中学数学〜世のためになっているのか調べてみた〜》
2021/05/03/公開
記事:吉田健介(READING LIFE編集部公認ライター)
滝の写真を撮った。
流れるような水線は、まるで絹の糸。
岩岩を滑るように這い、物理法則に沿った落下は、その勢いから一定の風を周辺に生み出す。そして周りの新緑を常に揺らす。
43mから降り注ぐ白い糸。朝の光が滝の入り口を照らす。降りるに従って、朝日のグラデーションはトーンを下げ、落下地点に広がる大きな水溜りや岩の影は、漆を塗りたくったような黒に沈む。その絶対的な黒が、なお絹のような白さを引きてる。また、その際立った白が、周りの絶対的黒を、より黒たらしめている。
京都の自然200選にも選ばれている琴滝。
早朝に出発し、車で20分程のところにあるその滝は、周りに人もいない。夢中でカメラのレンズを向けた。到着した頃には夜の気配も消し去り、朝の空気があたりを覆っていたが、鎮座する琴滝は、周りの世界とは切り離されたように、独立して、1つの滝として存在していた。
美しい。
まるで巨大な水墨画か日本画をそのまま切り取ったような様は、ただただ美しかった。
43mから振り下ろされる水の流れは、43m分の落下音を響かせる。が、耳障りではない。ただ心地よく、周辺の木々が、土が、岩が、音を吸収したり、跳ね返したりしながら、調和していた。
画家、千住博の「ウォーターフォール」。その巨大な絵は、目の前で滝が存在しているかのような錯覚を覚え、音まで聞こえてくるような印象を感じさせてくれる。まさにそれが現実になったようだ。目の前に飛び出し、まるで「本物が見たい……」という夢が叶ったかのようなリアルな滝。いや、リアルだ。現実に今目の前で存在する滝。いつものように、流れてきた水がただ下へ落下するという、当たり前の自然現象。それがあまりにも特別で神秘的で、何より静かに感じる。そんな琴滝の姿は、カメラを持つ僕を夢中にさせた。
滝を一筆でなぞったように、流線に撮りたい時は、シャッタースピードを遅くして撮影することがセオリーだ。シャッタースピードを遅くするとは、人間の瞼に例えると分かりやすいだろう。目を閉じている状態から、一瞬目を開ける。これが通常のシャッター速度だとすると、遅くするというのは、目を開けている時間を長くするということ。これによって、目の前に写っているもの全てが、動く物も含めて画面に収められることになる。こうすることで、流れる水は止まったように見えるのではなく、上から垂れる絹糸のような線を描く。
ここで重要なことは、しっかりカメラを固定しておくこと。カメラを持つ手が動いたり、風でカメラが揺れたりすると、被写体がブレてしまう。なんだがピントがボケたような、失敗したような画面になってしまう。なので、しっかりと固定することでカメラを安定させる必要がある。そこで登場するのが三脚だ。三脚を立て、台の上にカメラを固定させることで、手で持って撮影するよりも、抜群の安定感で撮ることができる。三脚の特徴はまさにそれ。自分でカメラを持っていなくても、三脚のみで自立してくれる所。椅子のように脚が4本である必要はない。3本で十分。なぜって、3本あれば地面に立てることができるから。もちろん4本でも立てることはできるが、3本で十分だ。当然のことながら、2本ではいけない。2本では立たせることすらできない。もちろん1本でも不可能。ただし、一脚というアイテムは存在する。脚が1本になっているタイプ。自立することはできないので、自分でカメラを持って支える必要がある。
三脚が三脚であるには、ちゃんと理由がある。
つまり、脚が3本あれば、きちんと自立できることは、数学的に説明可能だ。
「(1直線上にない)3点を通る平面は1つしかない」
要するに、点が3つさえあれば、ちゃんと面を作ることができるという意味。
三脚の足の先端を点と捉えると、3点で地面に固定されることになる。周りに凸凹があろうが関係ない。下図のように、しっかりと面が確保されている状態となる。だから、脚が3本でも十分に固定できるというわけだ。
例えば、画鋲を針が上になるように置いたとしよう。その上に下敷きを乗せようとしている所を想像してほしい。
画鋲1つでは、下敷きを乗せることはできない。
画鋲2つでも…… 難しそうだ。
だが画鋲が3つあれば、どうだろう。三角形になるよう画鋲を配置すれば、下敷きを乗せることは可能だ。ただし、画鋲3つを一直線に並べてはいけない。どちらかに傾いてしまい、乗せることができない。
先程の「1直線上にない」とはこういうことだ。一直線上にさえ画鋲を配置しなければ、下敷きを乗せることができる。
四脚でも地面に乗せることはできるが、この場合は条件がある。平らな地面でないと安定しない、という点だ。ゴツゴツした岩の上に椅子を置いてみると分かりやすい。地面に凹凸がある上に座ろうものなら、どちらか一本の脚が浮いてしまうはずだ。座れなくもないが、ちょっと重心を変えると、角度が変わってしまう。そして今度は違う1本が浮いてしまうという始末。要するに、安定しない。なので、安定感という点でいうならば、3本で十分なのだ。多すぎても少なすぎてもいけない。3本がちょうど良いのだ。
ちなみにカメラの一脚だが、実はこれも一脚である理由がある。脚が1本ではもちろん安定しないが、1本だからこそ、残り必要な2本が自動発生するように作られている。いったい何を言っているのか分からないかもしれない。想像してみてほしい。今、あなたは一脚を使ってバラの花を撮影しようとしている。カメラに手を添えて、足を肩幅に広げながら最適な構図を探っている。さてお気づきだろうか。そう、自分の足が残りの2点の役割を担っている。つまり、自らの足を含めて、三脚状態となっているのだ。
自転車の補助輪も、この3点と面の関係で、安定させている。
右に傾いても、左に傾いても、必ず車輪が3つ地面に接地している状態となる。つまり面を作っている。これによって、自転車が転倒することを防いでいる。
ところで、僕が使っている三脚は軽いせいか、風の影響を受けやすい。また、カメラの重みに耐えきれず、固定している台が少しずつ下に傾いてしまう。
要するに、全く安定しない。
「自分は岩だ、自分は岩だ」と自己暗示を掛けて、風の揺れや、傾きを防がなくてはならない。もはや何脚なのかわからない。
その度に、ちゃんとした三脚を買わなくては…… と反省をするのだが、財布の紐がそれを許さない。欲しいレンズ、欲しい機材は、ネットのページを静かに眺めることで、欲求を解消している。
「今ある機材で頑張ろう……」そう誓ったことが何回も、いや何万回も。
この文章を書いているのが2021年の5月。新型コロナウイルスによる3回目の緊急事態宣言が発令されている最中だ。この機会に京都府内の気になっていた風景を1つずつ撮影して回るつもりだ。三脚は必須。まだもう少し今の三脚には頑張ってもらうつもりだ。
同じ原理で活用されているアイテムは意外と多い。興味がある人は探してみるとよいだろう。少し気にしながら周りを見渡してみると小さな発見があるかもしれない。僕たちが普段気にしていない所に、案外大きな発見とはあるものだ。小さなところにも潜む数学を感じてみてほしい。
*写真はインスタグラムで公開中!(kensuke__yoshida)
❏ライタープロフィール
吉田 健介(READING LIFE 編集部公認ライター)
現役の中学校教師。教師が一方的に話をするのではなく、生徒同士が話し合いながら課題を解決していく対話型の授業を行なっている。様々な研究授業で自らの授業を公開。生徒が能動的に学習できるような授業づくりを目指している。
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