16.その秘めたる能力、宇宙級 〜平行四辺形〜《オトナのための中学数学〜世のためになっているのか調べてみた〜》
2021/06/06/公開
記事:吉田健介(READING LIFE編集部公認ライター)
ふと思う。
例えば、体が大きい人や、髪の毛が少なくなっている人がいるとしよう。
「食べ過ぎやって」「あ、申しわけ(毛)ない」
と、冗談でお腹が出ていることや、毛髪が少ないことを話題にできる人。
こうした人たちは、自らの強みとして、見た目をキャラクター化し普段の生活を過ごしている人、と勝手に、独断で思っている。自分のことは棚に置いといて。
逆に、そうした話題をしにくい人もいる。
相手がとっつきにくい性格だったり、ものすごく目上の人だったりすることもあるだろう。ここでは、いつもお世話になっていたり、温厚でいい人だったりと、見た目以上に、見た目が気にならない、それ以上の何かを持っている人、を想像してほしい。太っていたり、髪の毛が薄いことなど、大した問題ではない、とある種、太っていたり、髪の毛が薄いことを気にしている人たちからすれば、神のごとし位置に君臨する彼ら。そんな彼らに「食べ過ぎやで」「そんな気は毛頭ない」と見た目をネタにすること自体が場違いで、むしろ口にした瞬間に自分が悪者にされたり、空気読めないやつ的な扱いを受けるリスクが発生する。自分の周りに、多からずもそうしたキャラ性を持っている人はきっといるはずだ。
例えば、テレビタレントに関根勤さんがいる。これはあくまで、僕の主観で勝手なイメージかもしれないが、関根勤さんのことを悪く言う人を見たことがない。母にしても、妻にしても、友人や同僚、その他今まで関わってきた面々を振り返ってみても、関根勤さんに対して「あいつはダメだ」「私この人苦手」とバッサリと切り込む人を見たことがない。あくまで主観である。むしろ「面白い」「笑顔が素敵」など、良いイメージを持つ方が多い気がする。ふとテレビをつけて、番組がやっていて、何人かのタレントさんが並ぶ中、関根勤さんがいるとどこかホッとしたような気分になる。「あ、関根さんがいる」と。そのままチャンネルを変えずに、番組を見続けるのだ。だって関根勤さんがいるわけだし、なんだか安心するし。しつこいようだが、あくまで主観だ。
何が言いたいかと言うと、スキャンダルを起こしてワイドショーや週刊誌で叩かれる人、叩かれやすい人もいれば、その逆の人、非難の対象や、ネガティブなネタにされない人、されにくい人もいるということ。
同僚にしろ、近所付き合いにしろ、周りの人間関係で、そういった防御力の高い人は、何かとみなさんの周りにもいるのではないだろうか。
そしてそれは人に限らず、数学でも同じことが言える。
「いきなり数学の話かよ」
と思われた方。まあまあ、そう言わんと。
これは数学の記事なのだから、僕もいつかは数学ネタに着地するわけで、むしろ何もなく「では、ごきげんよう!」なんて締めくくった日には、天狼院のスタッフにお叱りを受けることになろう。あくまで主観。
連立方程式やルート、三平方の定理など「使わねえよ」の話に何かと挙がる彼らは、皆さんにとってもお馴染みの面々であろう。彼らくらいになると、罵声を浴びせられ続けて、もはや「使わないよ」とその辺の中学生に言われたくらいではびくともしない。
「いやいや、むっちゃくっちゃお世話になっているんだって!」と声を大に、文字を極太ゴシックにして訴えたくなる僕を、「まあまあ落ち着いて、一旦座りましょう」と肩に手を置いてなだめてくれる余裕があるくらいだ。
逆に、あまり話題に挙がりにくい、むしろ話題にすら挙がらないメンツも存在する。
例えば、「+」や「−」。この2人も立派な数学である。数学を語る上でなくてはならない記号で、両者がいるからこそ、話がすっきりとまとまり、つっかえることもなくみんなを安心させてくれていることは言うまでもない。他にも「比例」はどうだろう。比例と言えば、グラフの代表格であり、言わずもがな僕たちの生活で頻繁に登場する数学だ。テレビをつけてみると、2つの関係性を縦と横にとって、直線のグラフで表していることは、想像もしやすいはずだ。
そんなこんなで、数学にも関根勤級が存在するわけで、あまり彼らを悪くいっている光景を目にしたことはない。それは普段の生活で役立っている実感があるわけで、周りからも認められているからであろう。番組を見ながら「なんだか安心する」と、心が落ち着くように、ディスるポイントがないからであろう。
そして僕は見たことがない、「平行四辺形」をボロクソに言っている人を。
平行四辺形とは、2組の向かい合う辺がそれぞれ平行である四角形のことだ。と、そんな定義っぽい言い方をしなくても、みなさんお馴染みの庶民派図形である。
数ある四角形種族の1つであり、シュッと整ったその顔立ちは、まるで坂口健太郎のような、スタイリッシュさと安心感と親近感のあるキャラと言っていいだろう。あくまで僕の主観だ。むしろ、「底辺×高さ÷2」の合言葉を持つ三角形と比べて、「底辺×高さ」だけで面積を求めることができる分、÷2を最後にする必要がない分、「良いやつじゃないか」とちょっと肩を寄せ合いたくなるくらいの勢いがあると勝手に思っている。
そんな平行四辺形は、社会でどう使われているか、といった話題で、批判の槍玉に挙げられることはない。実際に、世の中での活躍っぷりが想像できなくてもだ。タレントにしても、職場の同僚にしても、数学にしても、往々にしてそうしたキャラは存在するようだ。
しかしこの平行四辺形、実際にどう活用しているかを語ると、ちょっとやばいくらいの存在感を放っている。身近にあり過ぎるが故のギャップというやつだ。「え、まじで。君、そんなにすごい人だったの!?」と目を疑うくらいの能力を持っている。
それを紹介するに一番良い方法は、三浦さんに聞いていみるとよいだろう。
平行四辺形と言えば、三浦さんだ。平行四辺形についてその魅力を聞きたければ、三浦さんに聞けば間違いない。平行四辺形の秘められた力を引き出したのは、何を隠そう三浦さんなのだから!
あ、ここで言う三浦さんとは、天狼院社長の三浦さんではない。同じ階に住む三浦さんでもない。ましてや友達の三浦さんでもない。きっと彼らに「平行四辺形とどういう関係なんですか!?」と聞いても、「やばい人きた……」と向こうから距離を取られてしまうことは間違いない。ここで言う三浦さんとは、三浦 公亮(みうらこうりょう)さんのこと。
ご存知だろうか「ミウラ折り」を。
知る人ぞ知るミウラ折り。その名の通り、三浦さんが編み出した折り方なのでミウラ折り。まずこのミウラ折り、図面を見ると一目瞭然。全てが平行四辺形になっている。
ネットで検索すると、画像がすぐに入手できる。興味を持った方、それをプリントアウトして実際に折ってみることをお勧めする。簡単に再現することができる。そして、実際に完成させてみたら分かる、そのすごさを。
このミウラ折りの最大の特徴は、ワンタッチで展開、収納できること。
どういうことかと言うと、畳まれた状態から、少し力を加えるだけで、ブワッ! と展開し、また元に戻そうと力を加えるだけで、ブワッ! ともとに収納できるのだ。
その特徴から、旅行用の地図に活用されている。コンパクトに折り畳むことができるので、ポケットサイズの旅行用地図とは相性がいい。書店にならんでいる地図を手にとってみると、ミウラ折りが使われている商品があるはずだ。
ブワッ! と開いて、ブワッ! と元に戻る感触は、驚きと共に、気持ち良くすらある。
ちょこっと力を加えただけで、何倍にも大きく開いたり、何分の1にも小さくなる。その場で何回か、ブワッ! ブワッ! と開いたり戻したりすること間違いなし。病みつき感は半端ない。
通常、紙を折っていくと、どんどんと厚みが増してくる。その原因は、折り目が同じ場所に重なるため、紙が膨らんでいってしまうからだ。しまいには、これ以上折れません! という限界が来ると同時に、折り目に大きな負荷がかかり、破れてしまうことも。
しかしミウラ折りは、平行四辺形の形を取ることで、折り目が重ならないようになっている。つまり折り目に負荷がかからないので、破れることもない。また折った後も、紙が膨らんで分厚くなることもない。旅行用地図の他にも、エコバックやケース、災害時に避難場などで使われる間仕切り用の段ボールにも活用されている。
そして、ミウラ折りを「ミウラ折り」として世界にその名を知らしめたものがソーラーパネルである。このソーラーパネル、家に屋根にペタリくっついてる家庭用のソーラーパネルではない。なんと、地球を離れ宇宙に飛び立つ人工衛星用のソーラーパネルのこと、つまり宇宙用のソーラーパネル。
小さく折り畳むことができ、広げると大きくなる特性を生かして、宇宙でお仕事をする衛星に使われている。エネルギーを太陽光から取り込むため、小さく持ち運んで、大きく使う。折り畳みのエコバックやテントのようなものだ。コンパクトに持ち運んで、使う時は大容量。使い終わったらまたコンパクトに収納。広げたパネルは全て平行四辺形。縦×横がずらりと並ぶソーラーパネル。÷2をしているものは1枚もない。
このミウラ折り、実は折り紙の世界でも作品として活用されている。
「ミウラ折り アート」と検索するとすぐに見つけることができる。
ミウラ折りを立体化させた作品は、見る者の目を引きつけ、視線で触る凹凸の感触は、不思議さと、癖になる気持ちよさ、中毒感を味合わせてれる。
もともと話題に挙がることが少ない平行四辺形。
彼らが普段から悪く言われることはない。そして、身近に感じるせいか良く言われることもあまりない。しかし、ミウラ折りを筆頭に、その秘められた平行四辺形の能力は、まさに底知れぬ魅力の塊。数学というものの奥深さを改めて実感せざるえない。教科書では強烈な存在感を示すことはなかったものの、これを機に平行四辺形の未知なる力を実感していただければ幸いである。
*写真はインスタグラムで公開中!(kensuke__yoshida)
❏ライタープロフィール
吉田 健介(READING LIFE 編集部公認ライター)
現役の中学校教師。教師が一方的に話をするのではなく、生徒同士が話し合いながら課題を解決していく対話型の授業を行なっている。様々な研究授業で自らの授業を公開。生徒が能動的に学習できるような授業づくりを目指している。
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