20.魅力的なヤツ〜対称性〜《オトナのための中学数学〜世のためになっているのか調べてみた〜》
2021/10/18/公開
記事:吉田健介(READING LIFE編集部公認ライター)
平安時代、朝廷に仕える貴族(公家)たちは、自分たちが着る服や、普段使う家具などの道具に、お気に入りの文様を施していた。中国などから輸入されきた調度品から文様の着想を得たのだろう。または、縄文土器にある模様のように、受け継がれてきたデザイン感覚から、文様を入れていたのか。
ある日、1人の公家が思った。「自分だけの超オリジナルを作りたい! 自分を表す、自分のための、世界で1つだけの文様を作りたい!」
と言うことで、普段から文様好きだった彼は、今まで見てきた文様デザインの脳内ストックを駆使し、数日かけてオリジナルの文様を編み出した。
「ついに完成した! おお…… むっちゃいかしてるやん!」
出来上がったオリジナル文様に彼は大満足。いつまで見ていても飽きることはありません。「ずっと眺めていられる」我ながら惚れ惚れ。
ふと思った。「みんなに自慢したい……」
ということで、彼は自分が作った文様をどうやったらみんなに自慢できるか考えた。
「そうだ!」良い案が思いついた。それは、普段乗っている愛車(牛車)のボディに、その文様を入れるというもの。それなら、みんなに披露することができる、ということで、早速彼は愛車の元へ向かい、至る所に文様を描きまくった。
「いい! すごくいい!!」
さっそく彼は生まれ変わった愛車に乗った。爆音でエンジンを吹かせながら走るように、イカした文様の牛車が街を練り歩いた。
ちらりと窓から外の様子を伺う。
「何あれ? かっこいい」「いかしているー」
街ゆく人々は、自分の愛車の文様に目を奪われていた。珍しそうに見えている者や、驚きの声をあげる者など、その様子を見て彼は満面の笑みを浮かべた。高揚感に満たされ、気分はまさに超最高。大満足して家に帰っていった。
「何あれ!? むっちゃクールやん!!」
それを見ていた、斜向かいに住む1人の公家が言った。
「いいなあ…… 僕も同じことしたいな……」ということで、斜向かいの彼も、自分で文様を作り牛車のボディに、オリジナル文様を塗装した。
他に、直接見たり、噂を聞いた者がこぞって、自前の牛車に文様を施し、街はちょっとした牛車カスタマイズブームとなった。
これが家紋の始まりとされている。諸説あるが、平安時代あたりに生まれた家紋は、現代に至るまで、広く日本に残っている文化の1つと言える。
家紋と言えば、織田信長や徳川家康など、戦国時代の武将たちを思い浮かべる人も多いだろう。兜の前部分に、家紋をデカデカと取り付け、本陣の椅子に座りながらキメ顔しているイメージ。家紋が入った旗や衣装を身に付け、「戦(いくさ)します!」的なイメージ。昔の人を想像する人も多いかもしれない。しかし家紋は、今も日本で多くみることができる。田舎の方に行くと、家に家紋がドンと施されている所も多い。またお墓に行くと、家紋が石に彫られているのを目にすることができる。つまり、周りを見渡すと案外家紋を目にすることができる。
あまり家紋を見たことがない人、あえて家紋を見たことがない人はこの機会にじっくりと家紋を見てみてほしい。ネットで検索すると簡単に見ることができる。
葉っぱが描かれているもの、似たような絵柄だが、ちょっと向きの違うもの。三角や丸など幾何学模様のもの。蝶や鳥といった動物になっているものもある。様々だ。日本に家紋は約5000種類くらいあると言われている。そしてこの家紋に共通していること。それはシンプルであること。どれも、一貫してシンプルなデザインが多い。たまに、描き込まれたような線が入っているものもあるが、超描写しました! といったほどでもない。
こうしたシンプルさをシンプルたらしめているもの、それは対称性だ。どれも共通して対称性を持っている。あえて非対称にしたような家紋もあるが、かなりの率で家紋は対称性を持っている。そしてその対称であるからこその力強さ、迫力、印象深さを家紋から感じることができる。
そもそも対称性があることでどんな利点があるのか。蝶の羽や花を思い浮かべるとわかりやすいだろう。これらは対称であるものの代表だ。他にも三角形や四角形といった図形もあるだろう。対称性がある、とはバランスや均整がある、と言い換えることができる。また家紋のように、力強さや迫力を備え、蝶や花のように軽さや繊細さを持つことも。時に人はそれを「美しさ」と呼ぶのかもしれない。
周りを見渡すと対称になっているモノはたくさん存在する。
例えば神社仏閣。鳥居や入り口の門、本殿など、神社仏閣にある様々な建築物はどれも対称性をもっている。建物に施されている模様も対称性を持っている。日本だけではない。世界の至る所に存在する建築物は、どれも対称性を持っている。対称だから迫力があり、対称だから綺麗で、対称だから美しい。対称性とはそんな力を持っている。
僕たち人間も対称性を持っている。いわいるイケメンや美女も、この対称性に大きく関わっている。イケメンや美女の共通点は、容姿の左右対称性の高さだ。生物にとって対称性が高いということは、強い子孫を残すために必要な要素なのだ。体もそうだ。左右対称であることは、効率的に活動する上で必須条件。むしろ非対称であったことで、生存競争に負けていったと考えることもできる。このように対称性とは、文様の格好良さだけではなく、生き物の生活にも大きく関わっているのだ。
ところで、徒然草の一説にこんな言葉ある。
「すべて何も皆、ことのととのほりたるはあしき事なり。し残したるを、さてうち置きたるは、面白く、いきのぶるわざなり」
意味はこうだ。
「すべて何でも皆、事の整っているのは悪いことである。し残した部分を放置しているのは、面白く、長生きするわざである。内裏を造るにも、必ず作り終わらない所を残すことである」
なんだか心に刺さる言葉だ。
いずれにしても、対称性とは、大きな力を持っていることは変わりない。対称性という視点で周りを見渡すと、違った色で世の中を見ることができるだろう。そして違った視点でモノを創ることができるかもしれない。バランスがあり、均整があることで、美しさも見出すことができるのだから。なかなかに魅力的なものではないか、対称性とは。
❏ライタープロフィール
吉田健介(天狼院ライターズ倶楽部READING LIFE 公認ライター)
現役の中学校教師。教師が一方的に話をするのではなく、生徒同士が話し合いながら課題を解決していく対話型の授業を行なっている。生徒が能動的に学習できるような授業づくりを目指している。
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