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祭り(READING LIFE)

これも、「祭り」の一種。《WEB READING LIFE 通年テーマ「祭り」》


記事:神岡麻衣(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
血が騒ぎ肉躍る、まさに私にとっては「祭り」だ。
 
1日のほとんどの時間を仕事に費やしてきた私には、そんな瞬間がある。
多くの人にとっては苦痛に感じる瞬間だろう。私も、一瞬は「あちゃー……」と顔をしかめてしまう。しかし次の瞬間、「やるぞ!」「どれどれ、解決してみせようじゃないの」と気合が入る。
そう、トラブルが発生したときだ。
 
こんなことを話すと、「ふーん、珍しいですね」と言われてしまう。
転職したばかりのころに、自分の仕事のスタンスを同僚に話す機会があった。もちろん、「トラブル発生時なんて、目の前が真っ黒になるというのに……どうしたらそんな心持になれるんです?」と不思議がられた。
 
クレーム、不良品、不具合、人間関係のイザコザ、トラブルといってもいろいろある。もちろんトラブルはないほうがいい。「血が騒ぐ」と言う私だって、トラブルゼロのほうが嬉しい。心穏やかに過ごす、これ以上ステキな仕事はないだろう。
しかしトラブルはある日突然やってくる。
 
むしろ、私は「トラブル発生時、まさしくチャンス到来!」と思っている。
今まで私たちの未熟さが明らかになる。これを片付けて克服することができれば、私たちはそのぶんステップアップできる。
これまで経験したトラブルたちは、みんな私を成長させてくれた出来事だった。平和な社会人ライフを送っていたら、今頃私はなんにもできない子になっていたかもしれない。
「この経験がなかったら、今の私はいなかったかもな」と思うことばかりだ。
 
煽るつもりもまったくなく、真相につながる原因の特定がとても楽しい。
最近でも、トラブル発生時の対応では「金田一少年……もしくはコナン君だな」と思いながらだった。
 
いま、アプリを開発している会社で働いている。もちろん、お客さんからはアプリに関する相談をいただくことが多い。
ある日、とあるお客さんから問い合わせが1件とどいた。
 
「画面が真っ白です。『ロード中』と表示された場合も、画面がかわらない。」
「データ送受信がうまくいかない。届いてない人がいる。」
入社以来、聞いたことのない事象ばかりだった。
 
アプリを使う上で、疑うべきは、原因の在り処。こちらのシステムに問題があるのか、先方のネットワークに問題があるのか。原因を特定するために、お客さんへ質問をいくつか投げかける。
 
「発生した時間はいつですか?」
「どこで使っていて発生しましたか?」
「発生しているIDを教えてください」
「発生した端末はなんですか?」
「ネットワークを一度切断して、もう一度接続して操作してみてください」
 
お客さんに答えてもらった内容をもとに、原因を特定する。これがいつもの流れだ。しかし、今回は違った。いくら調べても、いくら情報を教えてもらっても、原因が皆目見当つかない。とりあえず、複数人に発生しているらしい。
 
とりあえず、お客さんのもとへ向かうことにした。現物を見ないことには、何が起こっているのかわからない。
不具合が発生してしまった複数ユーザーに集めて、順番に端末を確認していった。おそらく10人くらいいただろうか。会議室で実施し、ユーザーの皆さんに順番に並んでもらった。学校の健康診断みたいだった。
 
結果、発生している不具合はそれぞれ違った。私は順番に解決してみせた。
使い方を見せることで解決した人もいたし、まったく完全に不具合に見舞われている人もいた。
少し手こずってしまったが、いくつか操作を試して解決できたものもあった。
最初は沈んだ表情で端末を持ってきていたユーザーが、目をキラキラさせて帰っていく。私まで心がホカホカしてしまった。
 
不具合に見舞われた人については、事象を詳しく記録に残し、会社に戻って報告した。すぐに修正されたので、お客さんに連絡し、無事に解決したとの連絡を受けた。
 
トラブル発生時、私は早期解決を心がけている。初動が大事。これを後回しにすると、ユーザーが製品を使えず仕事や生活に支障が発生してしまう。この時間が長ければ長いほど、不満を抱いてしまう。
 
私は、「あのキラキラした目をまた見たい」と心のどこかで思っているのかもしれない。一度経験したら、やめられない。
 
トラブル対応で大事なことは、とある事件ですべてを学んだと思っている。社会人になって3年目を迎えようとする頃だった。
 
先輩からとある取引先を引き継いだばかりだった。社内でも最重要視されるほどの大口顧客のひとつで、主要人物であるSさんの動向は社内中から注目されていた。
そんな顧客をペーペーの私が担当することになり、正直なところ、「私で務まるんだろうか……」と不安に思っていた。
 
とにもかくにも、不安に押しつぶされてヒヨっている場合じゃない。前任者と一緒に担当変更の挨拶に向かった。
前任者は、その取引先を長年担当してきた。前任者とSさんは、なかなか会えなくなることが寂しいと感じているようだった。名残惜しさを感じていたのだろう、思い出話が尽きなかった。
 
そして、今も忘れない、Sさんのあの言葉。
「でさー、これ返品したいんだけど」
 
そこにあったのは大きな段ボール箱。開けると大量のうちの製品が。
 
その中身は、今まで担当していた取引先では、一度の受注で少量だけ納品するような製品だった。段ボール箱に大量に詰められたその製品、なんとも異様な光景だった。前任者が直近で受注した製品だった。
前任者は、一言「いいですよ」と回答した。
 
上司と相談し、そんなこんなで返品を受け付けることになった。前任者から情報を引き出し、データベースを調べて、やっと上司もOKを出してくれた。ただ、社内処理のためには返品総額を調べる必要がある。
段ボールを受け取り、データと照らし合わせて返品総額を調べた。値引額が違うので、単価に個数を掛ければヨシとはいかない。
製品を会議室に並べて数える。あまりの数に、「下着泥棒の押収物みたいだな」と笑ってしまった。受注日やロットごとにきれいに並べたので、ニュース番組で見かけるような、きれいに並んだ下着のようだった。
 
やっと返品金額がわかり、申請する。金額が金額なので、決裁者が何人もいた。役員・社長まで。
待てど暮らせど、決裁が下りたと通知は来なかった。
上司に「まだですかね?」と話している矢先、Sさんから連絡があった。「いつまでかかってるんだ!」と。
 
上司と一緒に、謝罪するため訪問した。
 
実は、本当に使いたい製品があったという。返品が受け付けられてから再度発注したかったそうだ。
 
この時私は、心から後悔した。
「どうして意図を聞かなかったんだろう」
「もっと早く行動できたのはずだった」
など、過去の自分を追い詰めたくなる気持ちでいっぱいだった。
 
取引先を出て、すぐに代わりの製品を手配した。
社内申請がなかなか通らない理由を経営陣へ尋ね、決裁がおりるようお願いをした。
 
そこで、私は決意した。
「想定外のことが起きたとき、素早く解決にむけて動くようにしよう」
「お客さんの発言の先に、どんな要望があるのかしっかり聞こう」
 
素早さこそ誠意。私たちの製品を使っているお客さんは、想定外のトラブルが起こるとその仕事や生活に支障がある。お客さんの仕事や生活が止まってしまった時間を、できるだけ短くしないといけない。
とりあえず
 
これが、今の私の根底にある考え方だ。困っているお客さんを助けたい一心で、原因解明に動く。
トラブルが起こった時の原因解明、そして原因が分かった時の快感がやみつきだ。いわゆる、「脳汗かいた」という現象なんだろう。頭と視界がパッと開けた感覚。
 
あのキラキラした目、次に見られるのはいつなんだろう。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
神岡麻衣(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

昭和の生き残り、平成と同い年。大阪生まれ東京育ち。猫好きだが猫アレルギー。とあるベンチャー企
業で部署立ち上げに奮闘する毎日を送る。ビールを飲んだ後のオレンジジュースがやめられない。どん
な環境でも生きていける人間になることが目下の目標。

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2020-06-29 | Posted in 祭り(READING LIFE)

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