神様に手が届く日《週刊READING LIFE 通年テーマ「祭り」》
2021/08/02/公開
記事:丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
「コンチキチン。コンコンチキチン、コンチキチン」
階段を昇るにつれ、目の前がだんだん明るくなってゆく。
それと同時に、蒸すような空気が身体にまとわりつく。
そこに加わってどこか懐かしい、キーンと響く鐘の音。
京都の夏を彩る祭り、祇園祭。
私は、生まれも育ちも関西で、海外赴任も経験したが、また関西に戻ってきている。
今の家からは、京都は日帰りで遊びに行ける距離にある。
京都三大祭の一つである祇園祭は、これまでいつもテレビのニュースで見ていた。
押し寄せる観光客、艶やかな鉾の数々、賑わいと美しさが印象的なお祭りだ。
どうも、近くに住んでいると、いつでも行けるし、わざわざ行かなくてもテレビでも見られると思ってしまうことが多いものだ。
ところが、数年前、京都での仕事がこの祇園祭の時期と重なったことがあった。
初めて本物の鉾を目にし、祇園祭りのお囃子の音を耳にした。
すると何だろう、身体がムズムズするような、ゾクゾクするような、言葉にしがたい何かが身体の中から湧いてきた。
もちろん、間違いなくワクワクする方の。
やっぱり、テレビで見るのとは全然違って、実際にそのものに触れるとその迫力や放つエネルギーの大きさを感じた。
鉾を至近距離で見てみると、その素材の一つひとつに歴史を感じ、古からの京都の人たちの美意識と職人の技を見せつけられた。
これまで、私は祇園祭を甘く見ていた。
若い頃は、伝統的なお祭りには興味を示さず、年齢を重ねると人混みの多さに疲れると想像するのだろう。
近くにあって、いつでもいけるという理由から、私は大きな経験をずっと長い年月逃してきたことを悔やんだ。
祇園祭は、これほどまでも美しいものだったのか。
それもそのはず、多くの鉾は重要有形民俗文化財で、まさに「動く美術館」と言われるのが納得できる。
長刀鉾(なぎなたぼこ)には、後方にかけられる織物「見送(みおくり)」のデザインに伊藤若冲の「旭日鳳凰図」が採用されている。
1000年の歴史を持つ祇園祭のスケールの大きさを目の当たりにする瞬間だ。
祇園祭のクライマックス、山鉾巡行は、動く重要無形民俗文化財と言われる所以も納得できる。
そう、この山鉾を目の当たりにした私は、祇園祭に興味を抱き始めた。
それから偶然にも、祇園祭を舞台にしたあるドラマを観たのだが、ここでまた頭を打たれるような事実を知った。
1000年の歴史を誇る祇園祭だが、その鉾を管理するのはそれぞれの鉾町の住民たち。
費用も労力も相当なものだろう。
さらには、囃子方たちも伝統を継承してゆくには、代々教え伝え、練習に練習を重ねて本番を迎えるという、並大抵の努力ではできないスケールだ。
町によっては、何度も途絶えながら、また住民の熱い思いで復活した鉾もあるようだ。
それが、山鉾巡行は、いわば祭りの露払いだというのだ。
元々、祇園祭は八坂神社のご祭神の素戔嗚尊(スサノオノミコト)、そのお妃の櫛稲田姫命(クシナダヒメ)、その御子の八柱御子神(ヤハシラノミコ)の魂を三つの神輿に移して、氏子の住む街中を通って厄を払ってもらうという神事だった。
でも、人間界は何かとけがれているので、まずは神様の通られる道を清めないといけないということで、氏子の町衆がきれいに飾り立てた山や鉾を先に巡行させて道中を清めるのだ。
そののち、主役の神輿が同じ道筋を巡るのだ。
私が心躍らせていた、祇園祭の主役、メインイベントだと信じ込んでいた、あの山鉾巡行は単なる露払いだったなんて。
キラキラしたものは邪気を払うという、昔の人たちの考えは素晴らしいものだ。
豪華な山鉾巡行は、真打登場のお膳立てだったのだ。
山鉾巡行には、前祭り(さきまつり)、後祭り(あとまつり)があって、まずは八坂神社に向かって巡行するのが前祭りとなる。
それぞれ、山や鉾が通る場所によって、どのお囃子を奏でるかまでも決まっているというのだから、本当に驚くばかりだ。
お囃子一つをとっても、ただの演奏ではなく神様に奉納する大切な役割を担っているのだ。
それでも、基本の精神は神人和楽と言われ、神様も人間も一緒になって和やかに過ごすという意味があるようだ。
ますます、祇園祭の奥深さに感動する話だ。
そもそも、祇園祭は疫病対策から始まったということだ。
住民の苦しみを和らげる神事として始まったのだ。
今では、私も間違っていたように、きらびやかな山鉾巡行がまるで祇園祭のメインイベントのように取り上げられるし、確かに見ていて美しい。
その後に、実際の八坂の神様が市中に出てこられた神事を見てみると、その小さな神輿には少し驚いたのだ。
八坂神社は、京都四条通の先端に建つ由緒正しい神社。
初詣客も相当数になる有名な神社だ。
その偉大さゆえに、勝手に仰々しい神輿を想像していたのだ。
ところが、三つのご神体が移されたその神輿は、想像していたよりもこぢんまりとしたもので、街中をおごそかに練り歩くさまは、それはそれで身が引き締まる思いにもなる。
神様とはとても遠い存在と思うのだが、八坂の神様の神輿を目にしたとき、なんだか手が届くような気がしたのだ。
それは、神輿の大きさ、距離感というよりも、こうして祇園祭について詳しく知ることによって、自分の中でより身近に感じられたからだと思う。
さらには、神人和楽の精神を知ったことも大きい。
7月の一カ月をかけて行われる祇園祭、宵山は7月16日と決まっている
私の誕生日と同じ日だ。
そんなことからも、ご縁を感じずにはいられない。
そして、今、こうして書いているのは、7月17日。
本来ならば、まさに、山鉾巡行の日である。
残念ながら、歴史のある祇園祭は昨年に引き続き、今年も山鉾巡行は中止となった。
世の中の状況が良くなり、祇園祭がこれまで通り開催をされるようになったら、必ず見に行きたいと思っている。
「コンチキチン。コンコンチキチンコンチキチン」
降るような笛の音と、太鼓の響き、天を貫くような鐘の合わさったお囃子。
あのお囃子の音色が、今、私の頭の中で響いている。
祇園祭が開催される日が来たら、きっとこれまでとは違った思いで、祇園祭を味わえると信じている。
□ライターズプロフィール
丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
関西初のやましたひでこ<公認>断捨離トレーナー。
カルチャーセンター10か所以上、延べ100回以上断捨離講座で講師を務める。
地元の公共団体での断捨離講座、国内外の企業の研修でセミナーを行う。
1963年兵庫県西宮市生まれ。短大卒業後、商社に勤務した後、結婚。ごく普通の主婦として家事に専念している時に、断捨離に出会う。自分とモノとの今の関係性を問う発想に感銘を受けて、断捨離を通して、身近な人から笑顔にしていくことを開始。片づけの苦手な人を片づけ好きにさせるレッスンに定評あり。部屋を片づけるだけでなく、心地よく暮らせて、機能的な収納術を提案している。モットーは、断捨離で「エレガントな女性に」。
2013年1月断捨離提唱者やましたひでこより第1期公認トレーナーと認定される。
整理・収納アドバイザー1級。
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