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骨折り損も、たまには


 

*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:北村愛(ライティング・ゼミ名古屋会場)

 

私はこの半年間の間に2度骨折した。

最初の骨折は昨年の真夏。

ただ横断歩道を歩いていただけだったのに、左足があらぬ方向に曲がっていた。

くるぶしを骨折した。人生初の骨折だった。

 

そして2度目は今年の1月。

風呂掃除をしていたときだ。

掃除の面倒くささと寒さに耐えながら、横着な体勢でバスタブを洗っていたときだった。

よもや2度目があるとは思ってもみなかった。

滑って、右腕を2カ所骨折した。

 

そして、2度目の骨折のちょうど1か月ほど前のこと。

洗濯機のスイッチを押して体の向きを変えようとした瞬間、ぎっくり腰になった。

 

なぜこんなにケガが続くのか。

私、なんか悪いことしたっけ?

人様には極力迷惑をかけずにやってきたつもりなのに。

ちゃんとお墓参りもしているのに。

そんな思いがぐるぐる頭の中を巡った。

 

さすがに2度目の骨折は堪えた。

利き腕の骨折は生活のすべてを変える。

これまで当たり前にできていたことを諦めなければならない。

 

洗濯物はしわくちゃのまま干した。

箸が使えないから、好きなラーメン屋に行けなくなった。

料理ができないから、食事はいつも片手で食べられるものになった。

食器が洗えないから、食洗機に頼った。

片付けるのが面倒で、何でも床にモノを置いた。

部屋の掃除が億劫になり、あっという間にホコリがたまった。

服が着脱しにくいから、部屋着の袖口が伸びた。

キーボードの入力は左手の1本打法。

何をやるにも時間がかかり、やれないことを挙げればきりがない。

 

しかし、この状況をどれだけ呪ったところで、毎日ご飯は食べないといけないし、洗濯物は洗わないといけないし、仕事もしなければならない。

目の前にあることをやるのに精一杯な日々が続いた。

 

 

私は昨年の3月、17年勤めた会社を辞めた。

正社員で身を粉にして働いてきた。昭和生まれで氷河期世代の私は会社に文句も言わず、仕事の愚痴もほとんど言わず、コツコツと誰かに認めてほしくて働いてきた。

でもある時、ガソリンがぷっつり切れて、会社員でいつづける理由が、会社にしがみつく理由が、なくなってしまった。

 

会社を辞めたことは後悔していない。

むしろ、今まで背負ってきたものをかなぐり捨てて、心身ともに軽くなった。

会社の業績や人間関係、目標や成果。

そんな頭に何層もこびりついていたものが、すっとはがれていく瞬間はとても気持ちよかった。

 

 

そして、今、これからの生き方をいい年して模索している最中だ(笑)。

忙しさにかまけて見失っていた自分を再発見しようと試みている。

 

そんなときに、ケガが続いた。

もとは自分の不注意で招いたことだが、強制停止に遭い、思い通りにならない日々をどう過ごすのか、どのように現実を受け入れていくのかを骨の痛みと共に考える時間となった。

そうすると、会社員時代には考えられなかった「現実を面白がる」という、私にとっては新しい視点を見つけることができた。

 

ミミズが這ったような文字しか書けなくて笑えた。

Tシャツを着ようとして、頭を入れる穴に右腕を入れ、一人で混乱し笑えた。

風呂のふたが足の甲に落下し、腫れた足を見て「もしかして、3度目か?」と笑えた。

洗面所で左手のみで洗顔をしていたとき、鏡に映った必死の形相を見て笑えた。

ある日「左手ブレイクスルー」が起きて、日常の動作が左手でこなせるようになり、体と脳の進化にほくそ笑んだ。

 

そして意外なオマケがついてきた。体重が減ったのだ。

やれることがなくなったから、早い時間に床につくようになった。今までよりも睡眠時間が確保されたことで自然と痩せていった。

私の成長ホルモンは、まだまだ現役である。むふふ。

 

 

この半年間で起きたことは、確かに想定外だった。

落ち込んだし、やる気もなくなった。

でも、だからこそ見えてくるものもあるのだと、齢50を過ぎてあらためて感じた。

かつては物事を前向きに捉えることができなかった私が「面白さ」という視点を持つ、または感じることができるとは思ってもみなかった。

 

 

私の生き直しはまだまだこれから。

あえて、骨折り損なことに飛び込むこともいいかもしれない。

 

おわり

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