歳を重ねて実感する
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:山田THX将治(天狼院・ライターズ倶楽部 READING LIFE公認ライター)
「お前も、歳喰ったら丸く為ったなぁ」
世の中でよく使われる言葉だ。
言うなれば、慣用句に近い感覚で使われている。
然し、私自身に限っては、殆ど使われたことが無い。言われた覚えが無いのだ。高齢者の域に達した現在も、持ち前の江戸っ子気質で、気が短いことこの上ないのが私の実情だ。
いや寧ろ、怒りの沸点は下がって居ると思われる。
大人気無いとは思うものの、経験を重ねると共に、気に為ることが増えているのが事実だ。
気に為ることが増えれば当然、引っ掛かる(気に)ことも増える。
従って、ちょいとした事でも感情が動いて仕舞う訳だ。
傍から見れば、みっともないことであるのは本当だし、自制しなければ為らないと知りつつも。
私は元々、執念深い性格だ。
想ったこと、希望したことはいつまでも忘れない。
言い換えれば、諦めが悪いのだ。正確には、諦めるという概念が、自身の中に欠落しているのだ。
同様に、腹が立つ事柄を忘れることが出来ない。正確には、感情の納め方を知らない。もっと正確には、怒りの鞘の納め方を知らず(学ばず)歳を重ねて来て仕舞ったのだ。
唯、物事に突っ掛かってばかりは居られない。
怒ってばかりでは、疲れて仕舞うからだ。
私はそこで、怒らせる人間を放置することを覚えた。無視するのではない。一切の関りを、放って置くのだ。
無視は、能動的行為と為るのだ。放置は非能動的で即ちそれは、私の感情を向けないことに為るからだ。
最終的にこの方が、相手に対し侮蔑することにも為るし、怒りをぶつけるよりもダメージを与えられると考えたのだ。
事程左様に、執念深い私は宗教心が無いことも手伝って、許すことをしない。出来ない。
従って、放置された怒りの種が、私の周りには数多く存在している。
全て、決して許せないことだ。
こうして、許せないことに囲まれた生活を続けて居ると、自然と怒りの順位が付いて来る。ほぼ、毎日の様に入れ替わるランキングだが。
然しこの処、私の許せない順位の首位を独走しているものが在る。
それは、“偽善”だ。
これは単に、偽物の善意だけを示すのではない。見せ掛けの善意も含まれる。
この、見せかけの善意が曲者で、日本人によく見られる、‘空気を読む行動’等がその代表でも有る。即ち、日常生活で他人(ひと)の眼を気にして、思わず自重して仕舞う行動等だ。
これには、周りの雰囲気を《勝手に》忖度し、本音を見せない行動も含まれる。
そこには当然、自らの本音等は存在しない。在るのは、偽物の自分だ。
これは正に、周りの“為に”善意で行われていることだからだ。
然し乍ら、偽物の自分には、本物の善意の欠片も無いことは明白だ。
この、‘空気を読んだ偽善’の代表的な表現は、“○○の為に”と使われている。
よく、
「何の為の仕事ですか?」
とか、
「これは、何の役に立つものですか?」
と、謂った質問が、ビジネス上で交わされることが多い。
経済学的に謂えば、社会にもたらした付加価値に依って、ビジネスの対価は決まって来るものだ。
ソリッドな物言いで恐縮だが、どんなに楽しく遣り甲斐を感じる仕事でも、社会に対して付加価値を示すことが出来なければ、給金と為ってリターンされないのだ。
冷たいようだが、経済原理ではそう結論付けられるのだ。
多くの人、特に日本人は、自らのビジネスをプレゼンする際、
「我が社の製品は、皆様の役に立ちます」
とか、
「弊社のサービスは、皆様の為に開発致しました」
と、判で押した様な回答をするものだ。
然しそれ等は、本音を隠した‘空気を読んだ’発言に過ぎない。
即ち、偽善だ。
だからと謂って私は、
「この製品を数多く売って、大金持ちに為りたい」
と、子供じみた発言を促して居るのではない。
私なら、
「私が提供するサービスを、皆様に使って頂きたく存じます」
と、この程度に留めることだろう。
簡単に言うと、自分以外の為に仕事なんぞはしたくないのだ。
誰でも本音では、自分の為にしか努力はしないのだ。
肝心なのは、自分の為の仕事を、真剣に一所懸命に遣らなければ、周りやましてや社会の為の仕事に昇華する筈が無いことだ。
これは、尊敬する創業経営者である本田宗一郎氏の言葉に、インスパイア―された考え方だ。
本田氏は、御馴染みの口調で、
「人の為なんかで、仕事する奴は居ねぇよ。誰でも、自分の為に仕事するものだ」
と、仰ったことが有る。著作にも、残されている。
又、世界のホームランキング・王貞治氏も、
「チームの為にプレイしたことは有りません。自分の為にプレイするのです」
そして、
「自分の為にプレイすることのみが、チームの為にプレイすることなのです」
と、続けている。
本田宗一郎氏も、王貞治氏も、同じことを仰っているのだ。
御両人の偽善の欠片も無い本音に接して以来、私は偽善に疑いを持ち始めたと謂っても過言ではない。
もう一人、映画の師である淀川長治先生の言葉も、私の思想のバックボーンに為って居る。
淀川先生はよく、
「本物を見抜きなさい。特に(当時、若かった私達を指して)若い人達は、本物を見抜ける大人に為りなさい」
と、教えて下さった。
特に、親友だった黒澤明監督の作品を例に挙げ、
「黒澤(*)は、本気で映画を作りました。登場人物に偽善は有りません」
そして、
「だから、黒澤の作品はどれも面白いのです」
更に、
「(偽善が無い)本物の面白さだから、素晴らしい作品なのです」
と、教えて下さった。
そう謂えば、黒澤監督作品『天国と地獄』(1963年)のラストで、殺人配役(死刑確定囚)の山崎努の台詞に、
「偽善的に憐れまれるよりも、本音で憎まれた方が良い」
と、在った。
これ等は、淀川先生が言う、“偽善の無い本物”の好例だろう。
その様な訳で、私は“偽善”は最も忌むべき事と教わって来た。若しくは、自修して来た。
だから、今と為っては、私の許せないこと順位のトップを、“偽善”が独走しているのだ。
年齢を重ねて来て、これで良かったと思って居る。
“偽善”を嫌って、可能な限り本音で生きて来た。
本気で、何事にも向かって来た。
事業再生と謂う現在の主業にも、一所懸命に尽力して来た。
その結果、《山田=嘘が無い人間》と認知される様に為った。
同時に、いつまでも物事に突っ掛かる老人と為った。
然しその一方で、コンサルタント(事業再生の)として、ワンランク上がることと為った。
これ全て、“偽善”が許せないことの首位を独走し続けた結果だ。
人生を振り返って、そう感じ入って居る次第だ。
歳を重ねるに連れて益々、そう思って居る。
ま、
こんな人生で、良かったのではないだろうか。
尤も、
本音を出せない私は、偽善者と為って仕舞うのだから。
(*)著者注
淀川長治先生は、公の席で黒澤明監督のことを、
『黒ちゃん』
と、呼んでいらっしゃいました。
但し、教え子である私達の前では、
『黒澤』
と、呼び捨てで話されました。
但し、発音は、一般的な、
『クロサワ』
ではなく、
『クロザワ』
と、濁って居ました。
これ、淀川先生の生徒(僕等を決まってこう呼んで下さった)だけが知る秘密です。
《終わり》
〈著者プロフィール〉
山田THX将治(天狼院・新ライターズ倶楽部所属 READING LIFE公認ライター)
1959年、東京生まれ東京育ち 食品会社代表取締役
幼少の頃からの映画狂 現在までの映画観賞本数17,000余
映画解説者・淀川長治師が創設した「東京映画友の会」の事務局を45年に亘り務め続けている 自称、淀川最後の直弟子 『映画感想芸人』を名乗る
これまで、雑誌やTVに映画紹介記事を寄稿
ミドルネーム「THX」は、ジョージ・ルーカス(『スター・ウォーズ』)監督の処女作『THX-1138』からきている
本格的ライティングは、天狼院に通いだしてから学ぶ いわば、「50の手習い」
映画の他に、海外スポーツ・車・ファッションに一家言あり
Web READING LIFEで、前回の東京オリンピックの想い出を伝えて好評を頂いた『2020に伝えたい1964』を連載
続けて、1970年の大阪万国博覧会の想い出を綴る『2025〈関西万博〉に伝えたい1970〈大阪万博〉』を連載
加えて同Webに、本業である麺と小麦に関する薀蓄(うんちく)を落語仕立てにした『こな落語』を連載する
更に、“天狼院・解放区”制度の下、『天狼院・落語部』の発展形である『書店落語』席亭を務めている
天狼院メディアグランプリ38th~41stSeason四連覇達成 46stSeason Champion
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