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私がボタンを、付けられないのは


 

*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:藤原 宏輝(ライティング・ゼミ1月コース)

「ボタンくらい、上手く付ける事が出来たら、よかったのになあ」と、思う事がある。

 

「これじゃあダメでしょ」

と、母は私の手元から、作りかけのパジャマを、スーっと取り上げた。

10歳の私が、家庭科の宿題のパジャマを、夜遅くまで一生懸命作っていた時のこと。

「あッ、まただ」と思ったが、母はパジャマのズボンを、ジーっと眺め、ふーっ! と小さなため息をついた。

出来かけのパジャマは、なぜか? ズボンの左右の長さが違っていて、ウエスト部分が合わない。

両親は2人とも、とても器用なのに、私の不器用さは、誰に似たのか?

母はパタンナーとして働き、お洋服のデザインもしていたからか、洋裁が大好きで得意である。

お家の中には、母専用の洋裁が出来るお部屋もあり、工業用ミシンや特殊なミシンなどがあり、いつでも好きなだけ、お洋服やカバンを作る事が出来た。

そんな母は、私の不器用さに、つい口が出てしまうらしく、口だけでなく手まで出てしまうのだ。

 

すぐに母は、ミシンの前に座り、宿題のパジャマのズボンは、糸切はさみでチョキチョキされ、あっという間に、ただの布切れになってしまった。

「せっかく、ここまで頑張ったのに」とも思ったが、昔から猪突猛進。言い出したら人の言う事はきかないし、やり始めたらまっすぐに! 思いのままに進む母を、誰も止められない。

不器用な私が、自分なりに頑張って作ったパジャマのズボンは、母が糸を全てほどき、ミシンをガンガンかけていった。

たったの数分間で、出来上がったパジャマのズボンは、ウエストの高さもピッタリで、さらにウエストのゴムも全部入れてくれた。完璧な仕上がり! だ。

「宿題完了!」と密かに喜んだ私が、そこにいた。

翌日、学校に持って行って、家庭科の授業でパジャマを提出した。

先生には、母が手伝った? 作った? 事は、バレバレで、その証拠にパジャマのズボンの「なぜ、ここに?」という場所に、糸をほどいた後の穴が無数にあった。

夏休みに入る時にもらった通知表、家庭科の成績はやっぱり……。また、2だった。

 

私は日頃から、お洋服のボタンが取れた時は「ボタン、付けて~!」と、巾着袋を作る時や丈直しの時も「ママ、お願い」と、何でも甘えてお願いし、母の手にかかれば、瞬時に仕上がった。

その事にすっかり、お任せし安心していたのだ。

 

母は、私が幼い頃から、いつも可愛いお洋服を買ってくれた後は、私の成長に合わせてそのお洋服を、また着られるように、フリルやレース、リボンなどで可愛くアレンジしてくれたりした。

「女の子は、こういうもの」という、母の理想からなのか?

そんな母は「あなたは、女の子だから」と私を、着飾らせる事が、楽しくて、嬉しかったようだった。

さらに、いつも「あれ、ダメ」「これ、ダメ」「危ないから、やめなさい」「女の子だから、おしとやかにしていなさい」「おとなしく、静かに」と口うるさく言った。

 

中学生になり、冬の寒い日の出来事。お友達の間で、編み物が流行った。

もちろん、私も挑戦した。編み物には‘かぎ針編み’と‘棒編み’があるが、不器用な私には‘棒編み’は、出来るはずもなかった。

そこで‘かぎ針編み’を挑戦したものの、進まずに絡む。少し進んでも、また絡む。

「やっぱり、無理!」と、投げ出した。

何度も編み直し、途中まで作った‘ピンクのマフラー’を見て、

「どうしたら、こうなるの?」

と母は驚いた様子だったが、私は母が何に驚いているのかが、分からなかった。

マフラーはよく見ると、何か所か幅がキュッと狭くなり、また何段かいくと、ホワーんと幅が広くなっていた。細くなったり、太くなったり……。普通には、編めない器用な編み方? 

母は「本当に、不器用ね」と大声で笑い出した。

 

そして、とうとう事件が起きた。

大学生になり、私は一人暮らしを始めた時のこと。お洋服のボタンが、取れた……。

慌てて‘針と糸のセット’を探し出して、自分でボタンを付けようとした。

が何度挑戦しても、糸通しを使っても、まず! 糸が、針の小さな穴に、なかなか通らない。

「やっと、糸が通せた!」と糸が針穴に通り、妙な達成感!

しかし次は、ボタンの穴が4つある。どこに糸を、通したらいいのか? さえ、分からない。

たかがボタン、されどボタン。結局、やめた。

ボタンとお洋服を、宅配便で実家の母宛てに、すぐに送った。

すると数日後、

「ボタン1つ付けられないって、どういう事!」と、母から呆れて電話がかかってきて、怒られた。

 

とはいえ、子供の頃からずっと、家庭科の宿題や夏休みの宿題、日頃のボタン付けなど、

「これじゃあ、ダメでしょ」

と、母は私にダメ出しして、キレイに作り直したし、私がボタンを付けようとすると、

「貸しなさい、危ないから。ママがやるから、やらなくていいわよ」

と‘私は何もしなくていい’そんな事を、ずっと繰り返してきた。

おかげで私は、お裁縫がほぼ全く出来ず、ボタン付けはやってみた事はあるが、付けてもまたすぐに取れる。という、情けない大人になったのだ。

私がボタンを、付けられないのは……。母が優しすぎたのか? 心配性だったのか? 完璧主義だったのか?

私が「やり方、教えて」と自分から言っていたら、母はきちんと教えてくれたのかもしれない。

 

お子さんには、ぜひ!‘せめてボタンくらいは、自分で付けられるように’と、育ててあげて欲しい!

今「子供だから、危ないから」と思っても、

大人になってから出来ない事の方が、日常生活では大変だし、恥をかく事もあるかもしれないし、かわいそうだ。きっと、将来的には‘出来る’ほうが幸せでは……。と思う。

 

ボタンを、上手く付けられない私は「相手に分かるように、伝える事。そして、相手が出来るように教え育てる事」は、育児も人材の育成も同じだ! とふと、思った。

 

《終わり》

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