やっぱ、相応しい競技だと気が付いた《週刊READING LIFE Vol.358「誇り高き戦士」》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:山田THX将治(天狼院・ライターズ倶楽部 READING LIFE公認ライター)
「うわぁ、凄っげー!」
テレビモニターを観ていた、正確には注視していた私は、早朝にも係わらず声を上げた。
それも、かなりのボリュームで。
私が観戦していたのは、イタリアのミラノ・コルティナで開かれていた冬季オリンピック大会だ。日本時間が早朝に為ったのは、時差のせいだ。
画面では、フィギアスケート・ペア競技が放映されていた。
私が注視して仕舞ったのは、日本の“りくりゅう”(三浦璃来・木原龍一)コンビが、渾身の演技を披露していたからだ。正確には、渾身の演技をせざるを得ない状況だったのだ。
何故なら、前年の世界選手権の獲得し、今オリンピックに於いても先に行われた団体戦で高得点を叩き出し、ペアとしてはトップの成績を納めていた。当然、ミラノ・コルティナオリンピックでフィギュアスケート・ペアの、金メダル候補一番手と目されて居たからだ。
処が‘好事魔多し’の例えの如く、‘りくりゅうペア’は、個人戦(この場合ペアで臨むので二人)の前半に行われたショートプログラムで、大失敗を犯し5位と出遅れていたからだ。
‘りくりゅうペア’は、これ迄に自らが出した最高得点の上を行く演技が求められていたのだ。
今回のミラノ・コルティナオリンピックでは、日本選手団が多くの競技で活躍し、
数多くのメダルを獲得した。
特に目覚ましかったのは、スノーボードやフリースタイルスキーと謂った、いわば空中曲芸に近い回転系の競技だ。
これは、夏季オリンピック大会に於いて、体操やスケートボード等で日本選手の活躍が目立つことと共通している。
即ち、陸上や水泳、冬季競技ならボブスレーやアルペンスキーと謂った、明らかに体格が大きい選手が有利な競技とは違い、比較的体格が小さな選手でも対抗出来る競技だからだ。
いや、正確には、空中での回転は小柄な選手の方が、大柄な選手より有利と思われるのだ。
実際、三浦璃来選手は、日本人女性の中でも小柄な、身長145cmしかないのだ。
要するに、小柄な日本人選手に比較的有利な競技が、最近のオリンピックでは多く採用されて居ると言い換えてもよい。
自他共に認めるオリンピック・フリークの私は、こうした空中回転系競技が増えた為の日本のメダルラッシュを、諸手を挙げて喜ぶ気には為れないのが事実だ。
理由はこうだ。
空中回転競技は、その殆どが採点競技だ。
採点競技は、審判員の主観が入るのが当然だ。他国の選手に有利な採点が出たりすると、いささか疑問を呈さざるを得ないからだ。
又、採点競技はその多くが、試技の美しさを採点するものだからだ。
これは、オリンピックのモットーは、〈より速く、より高く、より強くーより団結に『Faster, Higher, Stronger – Together』〉であって、その中に、《より美しく》の文言が入って居ないことも、私は気に掛かって居たのだ。
仕舞いには、競技が増え過ぎたオリンピック大会に関し、
『それなら、採点競技を全廃すれば佳いのに』
と、最早暴論に近いこと迄考える始末と為って仕舞った。
当然の結果として採点競技は、毎回集中するオリンピックの中で、比較的軽んじて仕舞う傾向が有った。
仕方が無いことでは有るが。
処が、今回の“りくりゅうペア”は、違って居た。
冒頭の叫びが、それを象徴していた。
今回のオリンピック後に知ったことだが、木原龍一選手は、元々シングル(フィギュアスケートの)の選手だった。シングルの選手としては、余り日の目を見なかった。
日本人のフィギュアスケーターとしては、大柄(身長175cm)だったことから、ペアチームとしてのスカウトが入ったのだ。
御存知の通りペア競技は、同じく男女で行うアイスダンスと違い、リフティングを要するのだ。
リフティングとは、男子選手が女子選手を高く、時には頭上迄持ち上げる技だ。
小柄な女子選手には恵まれた日本チームも、土台と為り持ち上げ役と為る大柄な男子選手には困って居たのだ。
その点、フィギュアスケーターとしては大柄な木原選手は、条件に合うと考えるのが必然だ。
ペア競技に専念する為、木原選手はフィギュアスケーターなら普段は遣らない、筋トレを強化した。結果として、リフティングの土台と為る強い筋力の下半身が必要だったからだ。
実際、ミラノ・コルティナ大会の氷上に立った木原選手の下半身は、ウエイトリフティング(重量挙げ)選手のそれに近いことが、衣装の上からでも解る程だった。
遡る事7年前の2019年、新任した外国人コーチの元、新ペアのトライアウトが行われた。
その結果、木原龍一選手の相方として、三浦璃来選手が選ばれた。
何でも、二人のスケートの相性が抜群だったらしいのだ。
国際大会での研鑽を重ねた‘りくりゅうペア’は、特徴と為る大技を取得しなければ、これ以上の成績は納められないと気が付いた。
そして、他にはない大技として、よりダイナミックなリフティングを試みた。
選んだ理由としては、三浦選手が日本人女性の中でも極めて小柄だったからだろう。
然し、幾ら小柄とは謂え、生身の人間を持ち上げることは容易くはない。しかも、足元は氷と薄いブレードだ。素人なら立って居るだけでも大変な状態で、大人の女性を持ち上げるのは、アスリートと謂えども簡単な筈はない。
持ち上げられる側の三浦選手だって、片方の掌(てのひら)だけの上に乗るのは、曲芸に近いものがある。しかも、人間の掌は固形物では無いので、常に微振動して仕舞うのだ。
しかも土台は、氷とブレードだ。
そこで、じっと姿勢を保つ三浦選手も、それなりの体幹の強さを求められた。多分、木原選手程と迄は行かなくとも、三浦選手もトレーニングに励んだに違いない。フィギュアスケーターとは別の。
事程左様に、本来の私なら真剣に観なかったであろうフィギュアスケート競技だったが、今回の‘りくりゅうペア’だけは別だった。
早朝にも係らず、テレビの前に陣取っていた。
何故なら、‘りくりゅうペア’のリフティングに、オリンピックのモットーの一つ《より強く》を感じたからだ。その上、リフティングの高さに《より高く》を感じたからだ。
そして仕舞いには、
『これは、オリンピックに相応しい競技だった』
と、気付くに至ったのだ。
今更だけど。
失敗を犯したショートプログラムに反し、後半であるフリー演技の‘りくりゅうペア’は、見事に史上最高得点を獲得し、大逆転で金メダルに輝いた。
これ全て、大技のリフティングを歴史上類を見ない領域迄高めた、三浦璃来・木原龍一両選手の努力の賜物だろう。
メダル授与式も終わり、再び‘りくりゅうペア’の演技がフルで流された。
聞き覚えがある曲に、私は思わず膝を叩いた。
演技のB.G.M.は、2001年のアカデミー賞作品『グラディエーター』のテーマ曲だったのだ。この、ドイツ出身の作曲家ハンス・ジマー氏の手に依るテーマは、映画の象徴とも謂うべきものだった。
映画の題名にも為った『グラディエーター』とは、古代ローマ時代の闘技会で戦った剣士のことだ。日本語では、『剣闘士』と訳されている。
美しさを競う選手ではなく、《より速く、より高く、より強く》を求める戦士そのものだ。
言葉を替えると、この曲を選んだ‘りくりゅうペア’は、自らを戦士と宣言したものと思われた。
そこへ持って来ての、力強いリフティングだ。
彼等の演技は、オリンピック競技に相応しかったのだ。
改めて、映し出されたメダル授与式。
名前を呼ばれた‘りくりゅうペア’。
後ろに立つ木原龍一選手は、今度は軽々と三浦璃来選手を表彰台に挙げた。
両選手は、硬い絆で結ばれていることに気付かされた。
そんな様子と、テレビの前の私は感じ取っていた。
そしてもう一つ、或ることに気付かされた。
それは、忘れられがちな四番目のオリンピックモットー『より団結に』だ。
メダル授与式を終え、スティールカメラに向かって微笑む御両人を観て、私は、
『四番目のモットーを思い出させてくれて有難う』
と、感謝した。
そして、改めて、
『貴方達の演技は、採点競技にも拘らず、オリンピックに相応しい』
と、感じ入っていた。
三浦璃来選手、木原龍一選手、
本当に、おめでとう御座います。
貴方達は、真の戦士です。
《終わり》
〈著者プロフィール〉
山田THX将治(天狼院・新ライターズ倶楽部所属 READING LIFE公認ライター)
1959年、東京生まれ東京育ち 食品会社代表取締役
幼少の頃からの映画狂 現在までの映画観賞本数17,000余
映画解説者・淀川長治師が創設した「東京映画友の会」の事務局を45年に亘り務め続けている 自称、淀川最後の直弟子 『映画感想芸人』を名乗る
これまで、雑誌やTVに映画紹介記事を寄稿
ミドルネーム「THX」は、ジョージ・ルーカス(『スター・ウォーズ』)監督の処女作『THX-1138』からきている
本格的ライティングは、天狼院に通いだしてから学ぶ いわば、「50の手習い」
映画の他に、海外スポーツ・車・ファッションに一家言あり
Web READING LIFEで、前回の東京オリンピックの想い出を伝えて好評を頂いた『2020に伝えたい1964』を連載
続けて、1970年の大阪万国博覧会の想い出を綴る『2025〈関西万博〉に伝えたい1970〈大阪万博〉』を連載
加えて同Webに、本業である麺と小麦に関する薀蓄(うんちく)を落語仕立てにした『こな落語』を連載する
更に、“天狼院・解放区”制度の下、『天狼院・落語部』の発展形である『書店落語』席亭を務めている
天狼院メディアグランプリ38th~41stSeason四連覇達成 46stSeason Champion
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