メディアグランプリ

誠実さを語る人は、ありがとうを言わなかった


 

 

 

 

*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

松原大修(ライティングゼミ5月開講)

※この記事は、一部フィクションを使用しています。

最初は、単なる癖だと思っていた。たった、それだけの話だと……

「ありがとう」を言う人と言わない人がいる。

まるで、「いただきます」「ごちそうさま」を自然に言える人とそうでない人がいるかのように……

言わなくても「まあ、そんな人もいるよね」で見過ごされがちなこと。

でも、婚活を続けるうちに、「ありがとう」を言わない人への違和感が、少しずつ、ぬちゃぁ……とした確信へ変わっていった。

お店で店員さんにお会計してもらった時、レストランを出る時、道を譲ってくれたそこの人へ、そして、デートが終わる別れ際の一瞬にその人の本性が出る。

婚活やマッチングアプリをしているとこんな人を嫌と言うほど見てきた。

プロフィールでは、

「誠実にお付き合いできる人を探しています」、「真剣にお付き合いしたいです」、「対等に話し合える関係を求めています」とお決まり文句かのようにみんな言う。

でも、そう語る人ほど、「ありがとう」を言わなかった。

最初は、偶然だと思っていた。たまたま出会った人がそういうタイプだけだったんだと。

ほのかさんと出会うまでは。

ほのかさん(仮名)は、「真剣な出会いを探しています」が口癖のような人だった。

プロフィール文にも、「家族や友人以外の場所で、素でいられるような関係を求めています」と書いてあった。実際に会った時も、「マッチングアプリって、遊びの人多いんですよね」と。カメラの話になると、彼女はよく笑った。「いつか、一緒に鳴門海峡行きたいですね」なんて話ながら。

その後も、どこで将来暮らしたいか、どんな生活したいか、休日はどう過ごしたいか……、いろんな人生観を共有した。この人と一緒に歩めたら、幸せだろうな………と思った。でも、同時にうっすらと違和感もあった。

ほのかさんは、「いただきます」「ごちそうさま」を言わなかった。

その瞬間、心のどこかが、すっと、冷めていく気がした。

結局、デートの帰り道、改札に吸い込まれていく彼女は、私にも「ありがとう」を言わなかった。

 まゆさん(仮名)もそうだった。

彼女は、プロフィールに、「対等な関係が理想」「なんでも話し合いたい」と書いていた。

2回目のデートの時、私の行きつけのパン屋さんに連れて行った。

いつもなら出来立てのふわっとしたパンの香りが立ち込めている。でも、その日はなぜか、湿った空気の臭いしかしなかった。

店員さんから、「袋はご入用ですか?」と聞かれた時、ぶっきらぼうに「いらない」と。会計してもらった時、やっぱり、「ありがとうございました」も言わなかった。

心の中で、「こんな人、自分の生活圏に連れてくるんじゃなかった」と少し後悔した。

 元彼氏の話になった時にも、「空気が悪くなるのは相手のせい」、「話せる雰囲気を作ってくれなかった相手が悪い……」と言っていた。いつか自分も言われるんだろうな。

そう思って、返信をためらっていると、「あなたのペースじゃ、私なんて幸せにできないだろうから」と言われ一方的に別れを告げられた。この時も、最後まで、相手の口から「ありがとう」は出なかった。

 3年前、結婚を考えてお付き合いしていた、りこさん(仮名)もそうだった。

彼女は、言葉遣いは丁寧で、店員さんや初対面の相手にも親切で、返信もマメだった。

だから、私は、「この人になら、私の未来を委ねてもいいかもしれない」と少し信じていた。

でも、人は、関係を終わらせるときこそ本性が隠せない。

同棲を始めて、1年が経過しようとしていた秋の日、

ずっと自分だけ知っていた、でも放置せざるを得なかった相手の裏切りが明らかになった。

話し合いの時、ずっと、りこは黙ったまま。せめて、「ごめんなさい」は言って欲しかった。

じめっとした行き場のない湿気が部屋の中を漂う。

まるで、「私は、何ひとつ悪くない」と言っているかのようだった。

数日後、突然彼女は、大きな家具と家電だけ残して失踪した。その時も、「ごめんなさい」「ありがとう」の書き置きすらなかった。パニックと安堵が混ざった不思議な感覚が体中を駆け巡る。でも同時に、ここで彼女にこれ以上、自分自身を壊されてたまるかという気持ちもあった。

最後は、相手側の弁護士を通して話し合いになった。

彼女は浮気相手の子供を身ごもっていた。それでも、「私は悪くない」と言った。

「もっと早く結婚してくれなかったあなたが悪い」

そう言われた時、私は、何かが、静かに折れる音を聞いた気がした。

戻りたくても、戻れないあの幸せだった日常……。

子供がほしいと言われ、朝から晩まで働いた日々。将来のために貯金していた口座。家具を選び、部屋を探し、「家族になろう」って相手の言葉を信じて積み上げてきた時間。

その全てが一瞬にして、他人事になった。

それでも、私は最後に、「今まで、4年半、一緒に過ごしてくれてありがとう」そう伝えた。

彼女からは何も返ってこなかった。

人は、手に入れたい相手には、優しくできる。でも、もう必要なくなった相手への態度にその人の人格が宿る。

誠実さは、自分から言うものでも、プロフィールに書くものでもない。

関係が終わる時に、「ありがとう」が言えるかどうか。

最後に、ちゃんと「ありがとう」を言える人、どこかにいないかな……

そう呟いて、今日も私は婚活アプリを開く。

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院カフェSHIBUYA

〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6丁目20番10号
MIYASHITA PARK South 3階 30000
TEL:03-6450-6261/FAX:03-6450-6262
営業時間:11:00〜21:00



■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「名古屋天狼院」

〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3-5-14先
Hisaya-odori Park ZONE1
TEL:052-211-9791
営業時間:10:00〜20:00


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00



関連記事