言葉を綴ること
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:奥津光佳(ライティングゼミ・2026年5月開講/通信・4ヶ月コース)
思い返してみると、文章を書くことはだんだんと苦手になっていったと思う。
書き始めたのは、多分小学校くらいではないだろうか。夏休みの読書感想文に、国語の授業課題、宿題で書いてみたりなど。この頃は書くことが楽しかったように思う。
400字詰めの作文用紙に、好きな物語の感想文を何枚も書いていた。あの頃夢中になって、文字を書き込み続けていた。今読んだら内容としてはとても拙いのだろうけど、自分の頭の中を文字として書き出すこと、考えたことを形にすることが面白かった。
文章を書くことがなんとなく苦手に感じ始めたのは、中学生の、多分3年生ごろだと思う。高校受験の科目に小論文があったのだ。習い始めは面白かった。今まで考えたことのないテーマを与えられ、それについて自分なりの考えを巡らせる。どんな風に書くと良いのか、自分だけの視点をどうやったら出せるのか、まるでゲームのように楽しんでいた。800文字程度、あっという間に書けたのでなんの苦しみもなかった。
ただ、受験という場において、それは求められていなかったことだった。受験においては、合格するという目標に向かって正しい手順がある。小論文であってさえも、独自の視点や面白さよりも、高校側が、採点者側が求める内容があって、それにいかに合わせていくのかということが作法であった。
「こういうことは受験の時に書かないほうがいいね」
そういう言われて真っ赤な文字でいっぱいになった原稿を返された時、悲しさよりも虚しさを中学生なりに感じていたのを覚えている。
文章に正解があるということが、文章への苦手さを強めていった。大学に入ってからは日々のレポート、卒業論文、社会人になってからは日々の報告など、どの文章にも「正しさ」があった。それぞれの場面に応じた作法があって、求められている内容があって、それら察して書くということが必要だった。
気がついたら、正しい文章だけを書くようになっていた。当たり障りなく誰が読んでも内容がわかる文章。読みやすいと言ってもらえることは多かったが、それらを書くことは面白くはなかった。どう書けば間違えでないのか、正しい言葉、正しい表現を探して書くことはまるで丸ばつゲームのようだった。
書き上がった文章は、読みやすい以外の感想をもらうことはなかった。
もっと面白い文章が書けるようになりたかった。読んだ人が感動したり、笑ったり、喜んだり、涙したり、そんな人の心を動ける文章を書けるようになりたかった。
そんなことを思って、講座を受講した。
その講座では、文章を書くことを学ぶだけでなく、実際に文章を書くという課題提出があった。しかも、講師陣が読んで質の良い文章は講座のサイトに掲載してくれるらしい。
私はその講座に途中から参加したので、講座終了までの期間、毎週提出の合計12回、1回2000文字以上の文章を約3ヶ月間書き続けた。
学校や仕事以外でこんなに文章を書いたのは初めてかもしれない。
最初の頃は、よしやるぞ! と思って、いかに面白くするか、感動的なエッセンスを入れるのかという小細工をたくさんした。しかし、きっと文章に浅はかさが出るのだろう。なかなか私の文章は掲載にならなかった。講師からのアドバイスは的確で、文章としてうまく表現できなかったところや話の前後が繋がらずに濁した部分も見逃さずに教えてくれた。
自分のイメージする良い文章というのを書こうとして変に力んでいたのだ。しかもその良い文章というのは独りよがりで、ありがちな言葉、どこかでみた表現の寄せ集め。
良い文章を書こうとしているのに、その実は誰かに指摘されても自分が傷つかない、借り物を寄せ集めて、まるで盾みたいに自分のプライドを守るための文章だったと、今振り返ると思う。
そんな文章が面白いはずがない。人の心が動かせるわけがない。むしろ、文章から卑しさが滲み出てるんじゃないか。不掲載が続いていた頃、そんなことを考え始めていた。
もういい、どんなに歪でも良いから、格好つけずに自分の伝えたいことが、生き生きと生々しく伝わるようにありったけを書いてみよう。相手に面白がってもらえるように綺麗に整えるんじゃなくて、自分らしい不器用さを残していこう、と思って書き始めてからが面白かった。
文章を書くことが一気に楽しくなった。書き進めることに迷わなくなった。表現したい言葉が次々に出てくる。画面の文字は白黒なのに、不思議と色づいて見えていて、そんな感覚で書けた文章は自分で読んでいても面白く、提出するほどに掲載されるようになっていた。
全て逆なんだと気がついた。
講座で習った技術は、相手が読める文章を綴るためだけでなく、自分が文章を書くことを楽しむための技術でもあった。
自分の気持ちが動いた瞬間はどんな場面か、それはどんな物語が繋がって生まれたことか、自分という人間から文章という表現を引き出すための方法だった。
自分の心を動かして、面白いと思って書けた文章は、読み手にとっても面白い。
すごく単純なことだったが、私からしてみると大発見だった。
正しい文章をいかに書くのかではなく、自分が文章を書くことをいかに楽しめるか、そこがスタートなんだと思う。
この文章の提出を機に、課題提出も終わりを迎える。
でも、文章は書き続けていこうと思う。幸い、次に文章を書ける場所も見つかった。
自分が楽しみながら、相手も楽しめる文章を書く。
この3ヶ月間で手に入れた実感を忘れないよう、これから先も言葉を綴り続けていこうと思う。
≪終わり≫
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