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子育ては、『のび太のママ』くらいがちょうどいい


 

 

 

 

*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:藤尾ひびき(26 年 9 月ライティングゼミ withAI)

 

 

初めての子育ては、「のび太のママ」くらいがちょうどいい。

 

というのも、初めて自分が親になったとき、子どもを愛するがゆえに、つい躾に力が入ってしまうことも少なくない。

特に初めての子育てには、自分自身の経験を踏まえて描いた理想像が多大な影響を与えるはずだ。

けれど、あっという間にその理想は、泣き崩れる愛しい我が子を前に、いとも簡単に崩れてしまう。

 

わたしが初めて娘を産んだのは、もう十年も前のことである。

生まれてきた我が子は、赤ちゃんの頃からはっきりと、よく泣き、よく笑う子だった。

一歳になり、二歳になり、次第に自己主張が増えていく。

幼稚園に入園してからは、お友達と触れ合う中で、少しずつ自分の好きなものや興味のあることは何かを、探しているようだった。

 

そのうちに、自我が芽生え育ち、時々親の言うことを聞かなくなる。

靴を何度も遠くに飛ばす。

だんだんと、子どもが「親の許容」の境界を探るようになってくる。

 

そして――幼子は少しずつ、けれど確実に、心の成長を遂げていく。

園では毎日のように、大きな声で挨拶をしていたはずなのに。

小学校に上がると、子どもは挨拶が苦手な子に変わっていった。

わたしはどうしてもそれが許せなかった。

 

当時、わたしの職場は通学路の近くにあった。

上司の許可を得て、一年生だった娘には下校後、職場に来るよう伝えていた。

だが、職場の入り口に立つ我が子は、全く挨拶ができなかった。

お辞儀はする。だが、声が出ない。

 

上司や同僚たちは、「まだ小さいんだからね」と言って、笑って許してくれた。

けれど、わたしは許せなかった。

わたし自身、子どもの頃はどんな人にも挨拶をした。

それが礼儀だと、わたしの中では当たり前になっていた。

心の中にはモヤモヤが広がって、行き場のない感情が胸に沈んでいく。

 

自宅に帰ってからもわたしは、毎日のように挨拶ができない我が子のことを叱り続けた。

「どうしてやらないの」

「やらなくちゃだめでしょう」

まさか自分の子が。

それは、到底受け入れ難かった。

 

しかし、ある日の夕どき、娘と一緒にドラえもんのアニメを観ている時だった。

のび太のママがいつものように鬼の形相で怒る。

「宿題をやりなさーい!」

わたしはそれを観て、ふと気づいた。自分も同じだ――そう思った。

 

それと同時に、わたし自身が、子どもに自分の理想を押し付けているのではないかとも思った。

やるやらないではなく、もし、やりたくてもできないのだとしたら。

その瞬間、一気に不安が広がって、きゅうと胸が締め付けられるほどの罪悪感に襲われた。

 

のび太のママは怒るときは怒る。

面白いのは、それほどまでに宿題をやるよう強く言っておきながら、ママ自身は居間でお茶を飲み、テレビを見て笑っているのだ。

あれだけ怒ったのだから、最後まで見届けるのかと思えば、そうではない。

自分の時間軸をしっかりと守って行動しているのが分かる。

のび太自身も、宿題は自分の机に向かって、自分の力で解こうとする。

キッチンのテーブルでノートを広げることはしない。

 

わたしには、その距離の取り方がひどく新鮮に映った。

叱った後は、本人に任せてもいいのだ。

 

子どもは自分とは違う。

それなのに、できて当たり前だとか、こうするべきだとか、どうしても理想を押し付ける。

それを突き詰めれば、自分の子どもを守りたいという親心なのだ。

 

けれど、だからといって、子どもにはまだ何かの理由があって「今」できないこともあるのだ。

だから、ゆっくりとその子の中での成長を待つ勇気も必要なのだ。

のび太のママは、そういう腹の括り方をしている。

当時のわたしには、そう見えたのだ。

 

その日から、わたしは挨拶ができなかった我が子を叱ることをやめた。

その代わり、待つことにしたのだ。

「大人になるまでに、できるようになればいい」

そう思うことで、自分の中にあったモヤモヤとも、どうにか向き合うことができるようになった。

 

結局、自分の子どもは高学年になる頃には、近所の人にもちゃんと声を出して挨拶できるようになっていた。

 

夏休みが始まって、数日経ったある日。

娘に、当時のことを聞いてみた。

すると、どうやら娘自身には、わたしの言葉は響いていたそうだ。

けれど、それを実行できないことで、どんどん自信がなくなったのも事実だと教えてくれた。

その答えっぷりがあまりにも淡々としていたので、わたしは随分と呆気に取られた。

こちらが申し訳なさを抱える暇もなく、言い終えた娘はちょっと恥ずかしそうに苦笑いを浮かべていた。

 

そのうち「無理してやらなくてもいい」と自分で線を引き、登校班の班長になってから、仕方なく挨拶をするようになったらしい。

職場の同僚からも、後から聞いたことがある。

「あなたが見ていない時、時々挨拶はしてくれていたんだよ」と。

 

わたしは半信半疑でそれを聞いていたが、内心ひどくホッとしていた。

のび太のママなら、どう思うだろうか。

軽く笑って聞き流すだろうか。いや、否だ。

「あの子は、やればできる子だから」

わたしが思うのび太のママなら、おそらく、そう答えるに違いない。

 

《終わり》

 

 

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