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タイパの時代に、あえて1年かけて家を壊す理由

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:島田智弓(26 年 9 月ライティングゼミ withAI)

 

私の住む名古屋の大須は、新しい建物や駐車場の工事が絶えない。 つい先日も大きな古民家が解体され、あっという間に駐車場になっていた。 この新しい風景がすぐに当たり前になってしまい、以前そこにどんな家があったのかを思い出せない。 なんでも効率よく、最短で消費していく「タイパ」が重視される現代では、こうした景色の上書きは日常茶飯事だ。 もしこれが、自分の実家だったらどうだろう。思い出が詰まった場所が、わずか数日で痕跡もなく消え去ってしまうとしたら――。 そんな効率優先のやり方に、ふと違和感を抱いたことがあった。

私は仕事で、東海エリアの魅力を伝えるライターをしている。仕事柄、東海3県を訪問することが多いのだが、先日、中津川市のかしもエリアで、現代の効率主義と真逆を行く珍しいお祭りに遭遇した。

それは「解体祭」。

解体? 祭? 一体どういうことだと思って主催する若者に話を聞いていくと、彼らはこう例えた。

 「これは、嵐のコンサートなんです」と。

なぜ私がその言葉に深く共感したのか。理由は大きく3つある。

一つ目は、「時間」のあり方だ。

現代の解体は、機械を導入して3日から10日ほどで一気に終わりを迎える。しかし、解体祭は建物がなくなってお別れをするまでに、1年ほどの時間をかける。近所の人やワークショップに興味のある人が集まり、少しずつ手作業で丁寧に壊していくからだ。 徐々に解体が進むことで、別れまでの余韻をじっくりと味わうことができる。

これは、ものをなかなか捨てられない私自身の感覚にも通じている。 大げさに言えば、持っているものには命が宿っていると感じており、捨てる時には必ず「ありがとう」の儀式をする。 タオルを捨てる時には「今までたくさん拭いてくれてありがとう」、財布を捨てる時には「これまで僕のお金を守ってくれてありがとう」と、一言声をかけて手放す。 こんな私だから、自分が育った家が解体されるとなった場合、業者が数日で壊していくやり方では到底心穏やかでいられない。しかし、この解体祭のようにお別れができたらどうだろうか。 それはまるで、嵐の解散宣言からラストコンサートまでの日々のようだ。 嵐は突然の解散宣言ではなく、準備期間を経て各地のファンにさよならを伝えるという、ファンに対する誠実な姿勢を見せてくれた。 ファンはきっと「失恋したときに嵐の歌に助けられた」「ドラマに夢中になった」「笑顔に癒やされた」など、当時の思いを噛み締めながら、そのラストツアーを迎えたはずだ。 家も、期限が決まった中で少しずつ壊し、「ありがとう」と言いながらお別れができる。しかも一人ではなく、家族や集まった人たちに見守られながら。

二つ目は、「新しい何かが生まれる」ということだ。 効率を求めるなら、解体は業者に任せるのが一番早い。だが、このお祭りには、関西の学生、中津川の行政マン、新聞記者、飛騨高山の本屋さんなど、様々な職業の人が20名ほど集まっていた。

参加者はヘルメットを被り、レンチを持って、ラジオ体操から一日がスタートする。みんなで建物の壁を剥がし、12時頃になると、家主のお母さんがイノシシ肉のバーベキューや娘さんが作ってくれたルーロー飯、郷土料理の「けいちゃん」を振る舞ってくれる。

作業を終えたあとは、家主のお父さんも交えてコーヒータイムだ。 コーヒー片手に、今日の作業の感想や仕事の話、解体している家の歴史などに耳を傾けながら2時間ほどを過ごす。 こうして参加者同士ですっかり打ち解け、夜には飲み会が開かれることもある。

さらに、解体で出てきた古材は家具や店舗の什器に生まれ変わり、新たな場所で再利用されていく。 この場所では、効率とは引き換えに、新たな人間関係と新しいモノが次々と生まれていく。

嵐のコンサートではファンの間に強い絆が生まれ、解散後も嵐は個々で活躍し続けている。

三つ目は、「地域への影響」だ。 かしも地域では、毎年子どもが1人生まれるか生まれないかという少子化の現実がある。そんな中で、若者たちが、汗を流しながらわざわざ解体にやって来る。 解体祭をきっかけにこのエリアを知り、何度も足を運ぶようになる。口コミが広がり、また同年代の若者がやって来る。効率よく人を集める仕組みではないけれど、手間をかけるからこそ生まれる人の循環がここにはある。

ここまで解体祭の魅力を語ってきたが、もちろん課題も山積みだ。 廃棄物の適正処理や危険を伴う作業への対策、木造以外の建物への対応など、壁はいくつもある。主催者もまだ若い世代だ。それでも、「一緒に解体をしたい」と全国から人が集まってくる。 地域の人々も温かく応援してくれ、最近では解体だけでなくリノベーションを手がけるお祭りも行われているという。 一緒に汗を流す学生や社会人たちの輪は、着実に広がっている。

何でも最短ルートで効率よく済ませることが正とされるタイパの時代。その裏で、私たちは多くの「プロセス」や「愛着を込める時間」を切り捨ててきたのかもしれない。 嵐が日本のエンターテインメント界で人々の心を照らしたように、この一見ひたすら面倒くさい「解体祭」もまた、私たちが失いかけている豊かな時間を思い出すための、一筋の光になり得ると感じている。

 

 

 

 

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