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娘からの贈り物 


 

 

 

 

*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

藤尾ひびき(26 年 9 月ライティングゼミ withAI)

 

わたしには、二人の娘がいる。それぞれに個性があって、これがなかなか面白い。その理由の一つが、下の子の小学校卒業式の日に起こった出来事だった。教室に呼び出された保護者たちは、自分の子どもの側へと誘導される。担任の先生の合図で、一斉に取り出したのは、この日までにこっそりしたためられたお手紙だった。

その感動的な一場面、わたしは今でも鮮明に覚えている。

 

最愛の娘からの手紙――わたしの目の前で堂々と、一字一句読み上げる娘を見つめながら、思わずぐっと奥歯を食いしばる。

無論、周囲の多くの親は目頭を押さえ、ハンカチを濡らしていた。

しかし――

あの時、落ちるはずの涙は、完全に引っ込んだのである。

 

まさかの出来事だった。なぜならわたしは幼稚園の卒園式で、じんわりと瞼が熱くなり、涙を流したことがあったからだ。何か特別な手紙をもらったわけでも、サプライズがあったわけでもない。ただただ、大きくなった娘の凛とした姿を見ているだけで涙がこぼれた。だから、小学校の卒業式を迎えれば、きっとまた同じように泣くのだろうとぼんやりと思っていた。

 

小学校生活において、下の娘には驚くほど心配事がなかった。というよりは、手をかける必要がないほど、何事においても順調だったという方が正しいのかもしれない。

一方で、一足先に中学生になっていた上の子は、苦手科目への意識が強く、成績は伸び悩んでいた。一度だけ、遊んでいた上の子を、強く詰めたことがあった。

「今より上を目指すなら、やるべきことはやらないと」

そのやり取りを、少し離れたところから見ていたのが、下の子だった。

そして数年後。

小学校の卒業式で、わたしはその下の子から、一通の手紙を受け取ることになる。

 

その日はまだ風が冷たく、曇った空から、ようやくお日様が見え隠れするような朝だった。お気に入りのワンピースを着て、最後の通学路を歩く。肩まで伸びた髪をきゅっと結った青いリボンが揺れていた。

娘が教室へと向かっていく背中を見送って、わたしは一人で体育館へと向かう。式が進むにつれて、幼稚園の卒園式の記憶がよみがえった。

 

――あのころは、まだあんなに小さかったのに。

 あの子も、あの子も、あの子も……。

 

成長していたのは、娘だけではない。卒業生たちの合唱曲を聴きながら、わたしは思わずスマホを持つ手を震わせていた。卒業式が終わると、子どもたちは教室へと戻って行った。最後のクラス活動の際に、わたしたち保護者は子どもたちから手紙を受け取ることになる。娘の元へ向かうと、娘はまだ少し、気恥ずかしそうに笑っていた。

 

いよいよだ。

 

そう思いながら手紙を読み上げる我が子を、わたしは眩しい気持ちで見つめていた。そこには、たくさんの思い出とともに、娘からの感謝の気持ちが綴られていた。

 

「最後に一つ、伝えたいことがあります……」

 

そう言った途端、娘がゴクリ、と生唾を飲む。自ずとわたしまで、ゴクリ、と飲んで耳を澄ました。

 

「中学生になったら」

 

締めくくりは、これからの抱負なんだな。そんなふうに少しだけ気持ちを先走らせながら、娘の言葉をなぞっていった。

 

「自分で自分のことを頑張りたいので、くれぐれも、勉強のことには絶対に、口を挟まないでください」

 

娘の顔をぼんやりと見つめたまま、わたしの涙はそこで止まった。

 

「うん?」

 

思わずわたしが首を傾げて見せると、娘は「冗談ではないぞ」と言いたげにキッとした視線を無言のまま投げてくる。

 

「絶対に口を挟まないで」

 

もう一度、言ってきた。

 

「……それ、いまぁ?」

 

わたしの返答は、いかにも腑抜けた声になって、思わず自分に失笑した。周りの親子もまた手紙を読み終えているようで、頭を撫でたり、背中にそっと手を添えたりしていたのだけれど、我が家はそのままフリーズしていた。

 

わたしは一気に頭の中で記憶を遡る。

 

――ああ、あれか。

 

妹というのは、本当に要領がいいふうに育つのだ。兎にも角にも、わたしの落ちるはずだった涙は、最後の最後でものの見事に引っ込んだ。

そして目を丸くするわたしを見て、娘はようやくふふっと笑うのだった。

 

あれから娘は、中学生になった。

有言実行とは、正にこういうことなのかもしれない。何をどこまで勉強しているのか、もはや今のわたしにはほとんどわからない。もちろん、高校選びについても、わたしから「ここにしなさい」などという口を出すつもりは毛頭ない。

 

「勉強には絶対に口を挟まないで」

 

あの日、わたしの涙を見事に引っ込めたあの娘の言葉は、今もしっかりと守っている。

 

《終わり》

 

 

 

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