第6回:話すように読む《ナレトレ~恋する声~現役アナウンサーが教える!ナレーションで身につく伝達力》
2021/07/26/公開
記事:渡辺美香(READING LIFE編集部公認ライター)
今回は、「話すように読む」という練習をしてみましょう。
文章は、話すように自然に声に出すことで、相手にも、自分自身にも伝わります。作家特有の語彙力、表現力なども身につきやすくなります。「蜘蛛の糸」の冒頭の部分を例にしてみていきましょう。
一度、すべて朗読してみてください。(声に出して自由に読んでみてください)
ある日の事でございます。お釈迦様は極楽の蓮池(はすいけ)のふちを、独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。池の中に咲いている蓮の花は、みんな玉のように真っ白で、そのまん中にある金色の蕊(ずい)からは、何とも云えない好い匂いが、絶間なくあたりへ溢れて居ります。極楽は丁度(ちょうど)朝なのでございましょう。
いかがですか。話すように読めたでしょうか。
このようにお願いしても、最初は、一字一句しっかりと読まれる方が多いです。普段何かを話すときには、文字をひとつひとつ追うようには話しません。しかし、ひとたび文字を目にしてしまうと、ついつい、しっかり読んでしまうものです。
続いては、「読む」ことより、「伝える」ことを意識できる方法を試してみましょう。
ステップ1 友人に解説するように読む
句読点の前に「~ね」や「だよ」などをつけてみて、友人に内容を解説するように読んでみてください。
ある日の事なんですけどね。お釈迦様が極楽の蓮池(はすいけ)のふちを、独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃったんだよ。池の中に咲いている蓮の花はね、みんな玉のように真っ白でね、そのまん中にある金色の蕊(ずい)からは、何とも云えない好い匂いが、絶間なくあたりへ溢れているんだよ。極楽は丁度(ちょうど)朝なのでございましょうね。
友人に話しかけるように、「ね」や「だよ」などをまじえるとどうでしょう。「ね」までの一塊の文を、とても自然なスピードと抑揚で読めるはずです。何度かこれを繰り返してガチガチの読み方をほぐしてください。
ステップ2 情景をリアルに思い描く
情景を「具体的に」思い描くことはとても大切です。読み手が、リアルに思い描くからこそ、伝わる読み方になるのです。
そうでないと、文中の変なところを強調がちです。たとえば、美しい風景描写である
「池の中に咲いている蓮の花は、みんな玉のように真っ白で」
これの、どこを強調したくなりますか? 字だけを見ていると、「真っ白で」を強調したくなりませんか?
しかし、目を閉じて想像してください。全体の情景はどうなっていますか。池一面の蓮の花が白いのです。一つの花が真っ白なのではなく蓮の花みんながそうだ、というところに感動があります。それを思い描けていれば「みんな玉のように」を強調したくなるはずです。
映像化してみよう♪
「お釈迦様は」顔立ち 立ち居振る舞い いでたち(着ているものの色や素材)など
「極楽の蓮池」広さ 構図 蓮の数 池の色など
「蓮の花 」 大きさ 花の開き具合 蕊の香りなど
ステップ3 自然な表情、感情を言葉にのせてみる
文章から受ける自然な表情や感情を、言葉にのせてみましょう。
繰り返しになりますが、あくまで「話すように」です。
明るく読もう! おだやかに読もう! と形から入ろうとせず、どうやって話したら、中身の魅力を伝えられるかを意識してください。
作られた感情は、必ず聴き手に分かってしまいます。
このことは、実は、表現の本質にかかわる重要な部分です。
うまい歌 ⇔ うまいのかわからないけど、じーんとする歌
涙をポロポロこぼす演技 ⇔ 俳優自身は泣いていないのに、見ている側が泣けてしまう演技
「美味しい」という元気なレポート ⇔ ただ食べているだけなのに美味しそうな様子
左側の表現は、どれも表現方法としてはとても器用です。しかし、器用だからといって、必ずしも、相手の心をゆさぶることができるとは限りません。右側の表現は、誰かに教われるものではありません。伝えるということの難しさは、ここにあります。
作られた感情にならないためには、心を動かされた部分を大切に伝えたいという思いで読んでみましょう。特に伝えたい部分はありますか。
たとえば、私なら下線でしょうか。
ある日の事でございます。お釈迦様は極楽の蓮池(はすいけ)のふちを、独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。池の中に咲いている蓮の花は、みんな玉のように真っ白で、そのまん中にある金色の蕊(ずい)からは、何とも云えない好い匂いが、絶間なくあたりへ溢れて居ります。極楽は丁度(ちょうど)朝なのでございましょう。
自由に、自分らしい自然な表情を出してみましょう。自分だけの息遣いや話し方を、改めて知る機会にもなりますよ。
今回は、「話すように読む」ポイントをまとめました。
簡単なようでいて、最も難しいことをお伝えしました。私自身も、いまだに、どうしたら話すように自然に読めるのか、そればかり考えて仕事をしています。
話すように読むからこそ、「伝わる」のですが、話し方そのものもボトムアップもしなければ、伝達力はあがっていきません。滑舌や、声、音程や間、トーンなどを生かせる話し方が身についてこそ、自然な読み方の「伝達力」もあがります。
このことは、「鶏が先か、卵が先か」といったジレンマに近い部分もあります。
今後は、話し方のスキルも、意図的にナレトレで鍛えていきましょう。
□ライターズプロフィール
渡辺美香(READING LIFE編集部公認ライター)
名古屋のCBCテレビアナウンサー。26年にわたり、テレビラジオで、バラエティからドキュメンタリーまで、7色の声でさまざまな朗読やナレーションを担当。全国のアナウンスメント審査で最優秀賞の受賞歴も持つ。現在の担当番組やナレーション TV「まちイチ」「なりゆきアフロ(チャント!内)」、ラジオ「渡辺美香のWhat a wonderful world」「きく!ラジオ」「石塚元章ニュースマン!」など。
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