現役アナウンサーが教える 「ナレトレ〜恋する声〜」ナレーションで身につく伝達力

第9回:怪談を読んでみる《ナレトレ~恋する声~現役アナウンサーが教える!ナレーションで身につく伝達力》


2021/08/23/公開
記事:渡辺美香(READING LIFE編集部公認ライター)
 

鍛えられるのはコレ!

ニュートラルな読み方
間(ま)の取り方
言葉の強調の仕方
狂気の作り方

 
 
夏の人気の読み物といえば、怪談です。近頃は、You Tubeなどの怪談チャンネルがどんどん増えていて、一年を通して人気のコンテンツになっています。
怖いけど聴いてみたい…… 怪談には、独特の吸引力がありますよね。
聴き手は、一字一句漏らすまいと思って息をのんでいます。読み手としては、その期待に応えたいもの。「怖かった~」と感じてもらえるような読み方のポイントをまとめてみます。
 
 

ステップ1 淡々と読む

 
表情を出さずに、淡々と読みます。
怪談は、おどろおどろしい声で読むと怖さが出るのではないかと思いがちですが、声を作ったり演じたりして読み続けるのには、高度な技術がいります。完璧に演じられればいいのですが、普段の自分の声や喋り方が混ざると、とたんに聴く側は冷めてしまいます。
一方で、生気を失ったような淡々とした読み方は、比較的容易に、聴き手をゾクゾクさせられます。
 
蘭郁二郎の「穴」(青空文庫)の一節を読んでみましょう。
「穴」は、線路への飛び込み自殺にまつわる不可解な出来事が書かれています。事故現場に駆け付けた一行が、死体を見つけるシーンです。
顔の力を抜いて、淡々と、情景をしっかり理解しながら読んでみてください。
 
思わず伸上って見ると二三間先の線路のわきに黒っぽい着物を着た男が、ごろんと転がっていました。皆んなが無言でぞろぞろ行って見ますと、まるでレールの上に寝ていたのじゃないかと思われるほど見事に太腿と首とが轢き切られているのです。
『首がねえな――』そういって一人が小腰(こごし)をかがめて見ていましたが、
『あ、あんなとこに立ってやがる』
そういった方を見ると成程(なるほど)首だけがまるで置物のように道床(どうしょう)の砂利の上にちょこんと立っているのです。

 
 

ステップ2 間をとる

 
淡々と読めるようになったら、「間(ま)」を取り入れてみましょう。
怪談は、次に何が来るのかわからないから怖いのです。「一体どうしたの? 何があるの?」と聴き手に思わせる時間を「間」で作ってみましょう。
イメージは、ホラー映画で怖いものに出くわす前の暗闇のシーンです。
 
思わず伸上って見ると / 二三間先の線路のわきに / 黒っぽい着物を着た男が、ごろんと転がっていました。
 
/の部分で、間をとってみましょう。カメラがズームしていくようなイメージを持つと自然な間が作りやすいです。間をたっぷりとると、聴き手は「線路のわきに、なに? なに? なにがあったの~?」とゾクゾクしますよ。
 
 

ステップ3 言葉を、強調する

 
印象的な言葉を、そこだけ強調してみましょう。例えば、「首だけが」を強調するには、どんな方法があると思いますか?
 
そういった方を見ると / 成程(なるほど)「首だけが」まるで置物のように道床(どうしょう)の砂利の上にちょこんと立っているのです。
 
「首だけが……」後半に間をとる
「首……だけが……」言葉を意図的に切って、印象づける。
「くーびーだーけーが」少しペースを落とす
「首だけが!」はじけたように早く読む
「↑首だけが」高さをあげる
 
首だけが、砂利にちょこんと立っているのって怖いですよね。「首だけが」を、さまざまな強調の仕方を使って、ゾクッとさせてみてください。
 
 

ステップ4 狂気を入れる

 
怪談は、非日常の演出ですから、思い切って、相手が不安に思うような抑揚、強弱、スピードの違いを入れてみましょう。
車の運転にたとえると、ゆっくり走っていたかと思ったら、突然、ブレーキを踏んだり、急にアクセルを踏んだりする感じです。
聴き手を、「得体のしれない車体に乗り込んでしまった…… 降りたいけど降りられない、どうしよう……」そんな気持ちにさせられたら、最高ですね。
たとえば、間を入れながら、こんな読み方はどうでしょう。
 
  そういった方を見ると成程…… 首…… だけが…… (下線を一気に速いスピードで)まるで置物のように道床(どうしょう)の砂利の上にちょこん…… と立っているのです。
 
私も、この夏はじめて、この「穴」という怪談を読みました。
実は、読んだ後で、通常の読み方に縛られない狂気を、もっと演出すればよかったと思いました。話そのものに読み手が振り回されている、と聴き手に感じさせるような危うさこそが、怪談を怪談たらしめるのではないかと、あとで気づいたのです。そして、振り回されるほどの表現をするには、やはり、読み込み方が足らなかったなと反省しています。
ナレーションの面白さは、決して満足のいかないところです。
正解はありません。だから、楽しいのかもしれません。
みなさんも、怖い表現を、自由に工夫してみてくださいね。
 
レッツナレトレ!
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
渡辺美香(READING LIFE編集部公認ライター)

名古屋のCBCテレビアナウンサー。26年にわたり、テレビラジオで、バラエティからドキュメンタリーまで、7色の声でさまざまな朗読やナレーションを担当。全国のアナウンスメント審査で最優秀賞の受賞歴も持つ。現在の担当番組やナレーション TV「まちイチ」「なりゆきアフロ(チャント!内)」、ラジオ「渡辺美香のWhat a wonderful world」「きく!ラジオ」「石塚元章ニュースマン!」など。

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