現役アナウンサーが教える 「ナレトレ〜恋する声〜」ナレーションで身につく伝達力

第11回:ナレーションは音楽である《ナレトレ~恋する声~現役アナウンサーが教える! ナレーションで身につく伝達力》


2021/09/13/公開
記事:渡辺美香(READING LIFE編集部公認ライター)

鍛えられるのはコレ!

伝え方を客観視する力

 
 
音楽は、私たちの感情に、強い影響を与えます。
曲に特別の思い入れでもない限りは、明るい音階のテンポの速い曲を聴くと、ウキウキした気持ちになり、暗い音階のスローな曲を聴くと、沈んだ気分になりますよね。
 
声や語りも、実は音楽と同じです。
発声の仕方や、話すスピードなどによって、常に、聴く側の感情をゆさぶっているのです。
わかりやすい例をあげてみましょう。
 
 
レッツ!ナレトレ
 
日本海では、カニ漁の解禁を前に、出漁式が行われました。
色とりどりのテープを握った地元の人々が見守る中、漁船は、大漁旗をなびかせて港を出ていきました。

 
この文章を、下記の3種類の音楽を聴きながら読んでみてください。(有名曲ですので、ネットの動画検索で出てきます)
 
① めぐり逢い / アンドレ・ギャニオン
② アイ・オブ・ザ・タイガー / サバイバー
③ ソウル・ボサノヴァ / クインシー・ジョーンズ
 
いかがですか。

①は、感動的なシーンによく使われるピアノ曲です。曲を聴きながら読むと、自然に、優しい落ち着いた語り口になりませんか。
②は、映画「ロッキー3」で使用され、スマッシュヒットしました。曲にあわせて、勇ましく声を張り上げたくなります。
③は、CMでもよく耳にする曲です。リズムにあわせて、楽しくはずんだ読み方をしたくなるはずです。
 
これらのナレーションの違いによって、伝わる出来事の印象もまったく変わってきます。
 
①は、人々の変わらぬ営みを、慈しむような行事として。
②は、大漁を目指した漁師たちの、気合の入った出航シーンとして。
③は、テープや大漁旗がなびくお祭りのような楽しい一日として。
 
同じ映像とともに同じ言葉を発しても、音楽と読み方によって、聴き手に残る印象や感情は、まったく別のものになるのです。
 
このことは、人と人との会話の中でも起こり得ます。
楽しい話をしているのに、相手が無表情だったり、まじめにしゃべっているのに、聴き手にふざけていると思われたりしたことはありませんか。
それは、中身と話し方の感情があっていないということなのかもしれません。
 
聴き手の感情や印象を決定する話し方のポイントは、大きく分けて6つほどあります。
 
1 滑舌(発音の良し悪し)  ハキハキ ⇔ あいまい
2 ボリューム(大小)    力強い  ⇔ つつましい
3 トーン(高低)      明るい  ⇔ 落ち着いた
4 スピード(速遅)     機敏   ⇔ のんびり
5 間(ある、ない)     集中する ⇔ 聞き流せる
6 声色(明暗)       明るい  ⇔ 暗い
 
滑舌は、発音が一字一句はっきりしているかどうかです。はっきりしていれば、ハキハキとしっかりした印象を与え、あいまいだと、遠慮がちな印象を与えます。
ボリュームは、声の大きさです。大きければ、力強く自信に満ちた印象になり、小さいとおとなしくつつましい印象になります。
トーンは、声の高さです。高いと、明るく可愛らしい印象になり、低いと、落ち着いた思慮深い印象を与えます。
スピードは、話すときのスピードです。速ければ、頭の回転が速くせっかちな印象になり、遅ければ、おだやかで丁寧な印象になります。
間(ま)は、話し方の中に、適度な切れ目や空白があるかどうかです。間があると、聴き手は意識を集中しやすく、間がないと、お経のように聞き流しやすくなります。
声色(こわいろ)は、声そのものの持つ音の響きです。顔の表情と連動しますが、同じ「あ」でも、暗い「あ」と明るい「あ」の響きがあります。
 
これらは、どちらがいい悪いというものではありません。
組み合わせによって違いますし、状況によっても、あう、あわないがあります。普段の、ハキハキ、力強く、明るい話し方が、葬儀の場では、軽薄にとられてしまう場合もあるでしょう。
滑舌があいまいで、のんびりした話し方が、仕事では評価されなかったとしても、恋人からは、心地よくて癒されると喜ばれるかもしれません。
 
昔、フライトアテンダントの知人から、機内アナウンスの読み方の指導を頼まれたことがありました。私は、滑舌よく、適度な間をとった、すべての乗客の意識に残るような読み方のアドバイスをしました。すると、知人は、後日、上司から注意を受けてしまったのです。それは、機内アナウンスが、すべての乗客の意識を集中させるためのものではなく、日常の移動手段という人々にとっては、BGMのように聞き流せるものでなければならかったからです。
坦々としていて、聴きたくない人の耳を邪魔せず、聴きたい人だけがテンポよく聴ける読み方がふさわしかったのです。私の指導は間違っていました。伝え方は、状況によって違うのだと感じた瞬間でした。
 
いずれにしても、話し方は、話す中身とは関係なく、音楽のように相手の感情に届きます。
自分の話し方からはどんな印象や感情が伝わりやすいのかを、客観的に意識するだけで、伝達力はぐっと高まると思います。
 
もし、人前でスピーチをする機会がある方がいたら、登壇前に、ぜひ携帯プレーヤーで、音楽を聴くことをおススメします。
会場を盛り上げたいのか、落ち着かせたいのか、リラックスさせたいのか、それにふさわしい音楽を聴いておくと、しっくりくる話し方に近づくことができますよ!
 
レッツ!ナレトレ
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
渡辺美香(READING LIFE編集部公認ライター)

名古屋のCBCテレビアナウンサー。26年にわたり、テレビラジオで、バラエティからドキュメンタリーまで、7色の声でさまざまな朗読やナレーションを担当。全国のアナウンスメント審査で最優秀賞の受賞歴も持つ。現在の担当番組やナレーション TV「まちイチ」、ラジオ「渡辺美香のWhat a wonderful world」「きく!ラジオ」「石塚元章ニュースマン!」など。

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