骨折で知った「攻撃は最大の防御なり」《週刊READING LIFE Vol.238「この言葉って、そういう意味だったんだ!」》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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2023/11/6/公開
記事:山本三景(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
ついにその時がやってきた。
昨日、わたしの左手に1カ月もの間大げさに巻かれていた包帯が、やっと取れたのだ。
そう、わたしの左手は骨折していた。
1カ月前、点滅した信号を渡ろうとして全速力で走ったところ、信号の手前で派手に転び、左頬、左手、左肩をアスファルトに打ちつけ、結果として左手の指の付け根を骨折することになったのだ。
ええ、体力の低下と判断力の低下は否めません……。
きっと自分の足なら間に合うだろうと誤って判断してしまい、年齢と体力不足を計算して走ることができなかったのが原因だ。
指の付け根とはいえ、手首に近いデリケートな部分の骨折なので、動かさないように肘から下をガッチガチに固定され、
「どうしたの、その腕!?」
と、驚かれる日々が続いた。
しかし、1カ月もその姿でいると、最近では、なかなか痛々しさが取れないわたしの左手は、
「まだ治らないの? 長くない?」
なんて、ちょっと飽きちゃった感が出てくる。
骨折がそんな簡単に治るかい!
こっちのほうが飽きとるわい!
片手だけの生活が長く続き、ストレスがたまっていたところに、包帯を取ってよいという先生の言葉。
やった! やっと左手が空気に触れることができる!
まだ完治はしていないとはいえ、包帯が取れるのは嬉しかった。
しかし、1カ月も指を使っていないと、関節が固まってしまっている。
機械と同じで、使わないと身体も錆びるのだ。
まずはじゃんけんのグーをできるようにする。
1カ月の間、指を曲げていなかったため、いつのまにか自分の指から関節のしわがなくなっていた。
なんだかのっぺらぼうが指にいるようで、自分の指なのに気持ち悪い。
「使ってないと筋肉はすぐに衰えるからね。適度に使っていればすぐ戻るよ」
「筋肉は裏切らない」
友人たちに、包帯が取れたことと、長く左手を固定していたため、指の関節が固まってしまったことを話すと、あれやこれやと温かい言葉が返ってくる。
確かに、友人たちの言う通りだ。
「筋肉は裏切らない」という言葉は、「筋トレあるある」のようにとらえていたのだが、そうではなかった。
筋トレはしていないのに、初めて実感することができた。
「リハビリするなら、文章をキーボードでめっちゃ入力すべきかな」
なんて話していると
「攻撃は最大の防御!」
と、友人から返ってきた。
今まで片手で使っていたキーボードの入力作業を両手にすると、まだ痛いかもしれない。
しかし、使わないと元には戻らない。
防御ばかりでは前に進まないので、ガンガン使って良くしていかないと!
友人が送ってくれた言葉を見てそう思ったのだが、ある疑問が湧いてきた。
「攻撃は最大の防御」
よく聞くこの言葉、一体、誰が言い出した言葉なのだろう。
そもそも発端はなんだろう。
一旦気になりだすと止まらない。
勝手に推理してみる。
将棋からか?
意外と将棋由来の言葉は多い。
たとえば「必死」は将棋由来の言葉だ。
どう守っても必ず詰むこと。死ぬ覚悟で全力を尽くすことを言う。
ちなみに「詰む」も有名な将棋用語だ。
この言葉についてはすぐに将棋を連想する人も多いだろう。
王将がどこにも逃げられなくなる状態のことで、一般の社会でもよく「詰んだ~」と使っているからだ。
「後手に回る」は、相手に先を越されて、受け身の立場になることを言うが、将棋を知らないと、将棋由来の言葉とは気が付かない言葉かもしれない。
相撲はどう?
相撲由来の言葉は勝負ごとに使われることが多い。
「脇が甘い」は、相撲で肘を体に締め付けていないためにまわしを取られてしまう状態のことを言う。
この状態から、防御や詰めが甘い状態を指すようになったというわけだ。
攻撃と防御のことを指している言葉であるので、勝負ごとを得意とする相撲が有力なのではないだろうか。
いやいや歌舞伎では?
この言葉が歌舞伎由来だったのか! と思う言葉は多い。
「もっとめりはりをつけて」の「めりはり」も歌舞伎の声をゆるめたり張ったりすることからきている。
別れ際に言う「捨て台詞」も、歌舞伎の台本に書いていない台詞を臨機応変に言うことからだ。
意外性なら歌舞伎もありかもしれない。
意外性ならお笑いの可能性は?
じゃんけんの「最初はグー」という、じゃんけん前の掛け声は、飲み屋でみんなが酔っぱらって飲み代の支払いをじゃんけんで決めるときに、タイミングがあわなかったため、志村けんが言い出したと言われている。
しかし、「攻撃は最大の防御」という言葉は、なんとなく、かなり出典が古い気がするので、お笑いだとちょっと歴史が新しいのではないだろうか。
お笑いの始まりが20世紀初めの喜劇映画だとしても、歴史という点では歌舞伎より可能性は低い……。
お笑い由来は薄いかもしれない。
うーん、何が由来だろう。
気になって調べてみると、『孫子』の中の言葉だった。
歌舞伎も相撲の歴史も到底敵わない。
なんと、兵法だったか!
『孫子』とは、紀元前500年ぐらいの中国春秋時代に書かれた兵法書だ。
まぁ、戦いの指南書のようなものだ。
この『孫子』は、かの有名なナポレオンも戦争の際に参考にしたという。
作者は孫武というのだが、孫子が尊称であるから少しややこしい。
春秋戦国時代って言われても……。
紀元前って言われてもピンとこないんですけど……。
ざっと2500年ぐらい以上前の中国だ。
大人気漫画『キングダム』の時代が春秋戦国時代である。
この漫画を読んだことがある人はイメージしやすいかもしれない。
『キングダム』は歴史上、初めて中国を統一する後の始皇帝の元で戦争孤児の身分から「天下の大将軍」を目指す、主人公、信の成長の物語だ。
『キングダム』に登場する武将たちの戦い方や、人を鼓舞する言葉が、孫子の兵法とリンクする。
そのため、現代の組織のリーダーシップを『キングダム』と絡ませているビジネス書が多くある。
その背景にあるのが、孫子の兵法というわけだ。
「攻撃は最大の防御なり」
一度は声に出したことがある言葉だ。
声に出したことはなくても、誰もが聞いたことがある言葉だろう。
攻撃している間は極論ではあるが、守らなくてもいい。
守ってばかりいてはダメで、攻撃することで最後は勝ちに繋げる。
相手に攻撃するチャンスを与えないこと、これがこの言葉の意味だと思っていた。
しかし、実は『孫子』は逆なのだ。
「勝つべからずは守るなり、勝つべきは攻なり」
どういうことなのかというと、勝てないときは守り、勝てそうなら攻める。
守りが基本で、チャンスが来たら攻めに転じる。
要は、相手が攻撃できないと思うほどの防御力が最大の攻撃だということだった。
逆じゃないか!
わたしの場合、骨折した手を守ってばかりいては良くならないので、使うと痛いかもしれないけど、果敢に使って良くしていく。
若干無理やり感もあるが、これがわたしの孫子を知る前の「攻撃は最大の防御」だ。
これはこれで否定することもないだろう。
リハビリとはそういうものだと思うから。
ちょっとしたことで折れない強い骨を作る。
そのためには、規則正しい食生活を送る。
判断力を鈍らせないように睡眠を十分にとる。
こういうことが防御力を高め、パフォーマンスが向上し、いつでも闘うことができるということなのだ。
これが、孫子か!
ガンガン攻撃していれば守備をしなくていいということではない。
いつでも攻撃できるように防御を完璧にしておけよということだ。
今、両手でこの文章をキーボードで打っている。
まだ少し痛いがこれもリハビリだ。
とりあえず、本当の意味を知る前の「攻撃は最大の防御」を実践している。
□ライターズプロフィール
山本三景(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
2021年12月ライティング・ゼミに参加。2022年4月にREADING LIFE編集部ライターズ倶楽部に参加。
1000冊の漫画を持つ漫画好きな会社員。
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