四十にして会得したこと《週刊READING LIFE Vol.241 どうか私を笑ってください》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
2023/11/27/公開
記事:松本 萌(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
中学生のころ、授業で「自分の未来図を書きましょう」という課題があった。
高校や大学に進学し社会人になり、○歳に結婚して○歳に子供が生まれ……。という自分の人生設計図を書くという内容だった。
私は大学卒業後就職し、バリバリ仕事をしながら27歳で結婚し、30代で子供を二人生み、60歳まで仕事をして75歳になったある日ぽっくり死ぬと書いた。
今41歳でバツなし独身だ。子供を生んだことはない。
中学以降の経歴は、地元では伝統のある学校として有名な高校に入学し、念願の弓道部に入部し同級生と切磋琢磨しながら青春を謳歌した。大学では興味のある分野の勉強をしながら海外に行って色々な国の人たちと交流し、楽しい時間を過ごした。氷河期と言われていたものの大手企業に就職し、今も同じ会社で入社以来憧れていた仕事をしながら過ごしている。
就活用の履歴書に書き出してみると「いい人生」と言えるかもしれない。
ただ恋愛の履歴書になると「残念な人生」になる。
子供のころから愛嬌がなく、「決まりは守らなきゃだめ」という学級委員長気質で口が達者だったため、男子から「こわい人」扱いされた。最初は「こわい」と言われるたびに傷ついていたが、そのうち「どうせなにを言っても真面目とかこわいって言われるんだろうな。だったらこわいキャラでいいや」と開き直り、必要以上に歯に衣着せぬ言い方をして小学校のときも中学校のときも男子から「こわいこわい」と言われた。反対に女子からは「裏表なくていい」と好評だった。
高校は女子校に進学した。自分のことを「こわい」と言う存在がいないという安心感から、肩の力を抜いて自然体で過ごせるようになった。
男性教諭はいるものの全員40歳以上という環境で、異性として意識する男性がいないことが影響していたのかもしれない。自分を可愛く見せようとか、自分を飾る人がクラスメイトにはいなかった。早弁はルーティン、夏は人目を気にせずスカートをバサバサ広げて涼むのが当たり前だった。
女子大に行ったため相変わらず学内では女性だけの世界だったが、サークルやバイト先で同年代の男性と話す機会が出てきた。高校時代は家族や教師以外の男性と話す機会がなかったため、どうやって男性と話せばいいのかわからなくなっていた。中学まで「こわい」と言われてきた過去を思い出すと、思わず口をつぐんでしまう自分がいた。サークルの同期の男子は優しくて穏やかな性格の人たちだったが、自分から話すことができず、話し掛けられてもつっけんどんな対応をしてしまい、仲良くなれなかった。サークルには参加するものの、女子とばかり話していた。
この状態は社会人になっても続いた。
先輩や同期に誘われて合コンに言っても思ったように話せず、次に発展することはなかった。周囲から「もっと気軽に話せばいいのに」「いつも通りでいればいいんだよ」と勇気づけられ「今度こそ!」と思うものの、毎回自分を出せず壁の花だった。
そんな状態だったので結婚する予定だった27歳になっても結婚相手はおろか彼氏すらいなかった。中学生のときに立てた計画の変更を余儀なくされ、その後軌道修正されないまま今に至っている。
「後悔しているか?」「人生をやり直したいか?」というと後悔もしてないし、「○歳に戻りたい」という気持ちもない。負け惜しみではなく、心の底から思っている。友人たちが恋愛を楽しみ、パートナーと大切な時間を過ごしている間、私は「行きたい」と思うところに行き、「会いたい」と思う人に会いに行き、「学びたい」と思うことを学ぶために時間を費やしてきた。
ただ恋愛をしたいという気持ちや結婚への憧れはある。今の人生のまま75歳でぽっくり死ぬのは嫌だ。
自分の何がいけないんだろう。
どんな思考癖が自分の思い描いていた未来から自分を遠ざけているのだろう。
なぜ恋愛に苦手意識を持ってしまうのだろう。
一人で考えていても答えが見つからないので、「この人の恋愛スタイルに憧れるな」「こんな夫婦関係って理想だな」と思う人のメルマガを読んだり、講座に参加するようにした。
その中で「親密な関係であればあるほど、自分ファーストで行動すること」と「恋愛は特別な人間関係ではない」ということを学んだ。
「親密な関係であればあるほど、相手を思いやった行動をすべきでしょ」という声が聞こえてきそうだ。もちろんその考えは正しい。誰も思いやりのない人と親しくなりたくない。
ここで言う「自分ファースト」は自分のわがままを押しつけたり、他人の意見を無視することではない。「自分自身を大切な一人の人として扱うこと」という意味だ。
家族や恋愛関係という深い関係であればあるほど、二人の間の境界線があやふやになってくる。以心伝心なんて言葉があるが「言わなくてもわかってくれるだろう」とか「私たちの関係性ならこれくらい許してくれるよね」という甘えの状態になりやすい。相手も同じ思いでいてくれたらいいのだけど必ずしもそうではなく、我慢しながら相手の要望に応えたり、口には出さないものの内心穏やかではない状態になっていることがある。そしてあるとき「そういえば前も同じようなことがあった。なんでいつもあなたはそうなの!」と爆発し、言われた方は「じゃあなんでその時言ってくれなかったのよ!」と喧嘩になる。
二人の思いが同じでないとき、相手の要望に応えられないとき、なんだか自分ばかり我慢しているんじゃないかと思ったときこそ自分ファーストの精神で「自分は今どうしたいのか」を自分に問い、相手に「私はこうしたい」と伝えることが大切だ。
親しいからこそ言いづらいという気持ちもあるだろう。
でも想像してみてほしい。自分のすぐ隣りにいる大切な人が、いつも自分を押し殺して我慢しながらあなたのそばにいるとわかったら、あなたはどう思うだろう。私ならショックだ。相手のことが好きであればあるほど申し訳ない気持ちになる。「なんで言ってくれなかったんだろう」「なんでも言い合える関係だと思っていたのは自分だけだったのかな」と寂しくなる。
恋愛苦手症候群な私にも、数少ないがお付き合いした人がいる。ただそのときは「自分ファースト」の考えを知らず、いつも悶々としていた。「LINE送っても返信が遅い」「週に一回は会いたいのに、いつも相手の都合次第。今度いつ会えるんだろう」と不満を持ちながら、相手が嫌な気持ちになってはいけないと思い、言えなかった。完全に自分を無視していて辛かった。恋愛を楽しめなかった。
自然体で親密な関係でありたいと思う人にこそ「自分ファースト」で自分の素直な気持ちや考えを伝えよう。そして伝えるときは「私はこうしたい」「私はあなたがこうしてくれると嬉しい」と常に私を主語にして相手に伝えよう。間違っても「なんであなたはいつもそうなの」「なんであなたは私のためにやってくれないの」と相手を主語にしないように気をつけよう。
自分の思いを伝え、それにどう対応するかは相手の問題だ。もし相手が変わらないのであれば「自分ファースト」の精神で二人の関係を自分はどうしたいかを考え、その考えに沿って行動をすればいい。
「ない」ことにフォーカスをしているとないことが自然なことになり、「ある」ことがあたかも特別なことに感じてしまう。仕事、お金、健康、洋服、食べ物、何でもそうだ。ない状態が長く続けば続くほどある状態になると喜びが爆発し、とてもありがたみを感じる。
反対に「ある」状態が長く続けば続くほどあることが自然なことになり、特別感が薄れていく。
これは恋愛においても同じだ。
パートナーがいない期間が長いほど「いる」状態がとても特別なものに思われ、街中で手をつないでいるカップルとすれ違うたびに「いいな」「うらやましいな」「なんで私にはパートナーがいないんだろう」とへこんでしまう。
「特別」はやっかいだ。
特別の反対は「普通」だ。普通じゃない状態を叶えたり継続することに対し、人はプレッシャーやストレスを感じる。
パートナーがいることに対し特別感をもってしまうと「パートナーがいるってすごい状態。それを叶えるのは自分には無理」と思ってしまい、恋愛に憧れながらいつまでたっても行動せずに時が過ぎていく。
なかなか彼氏ができなかった私は、彼氏がいる友達を「うらやましい」と思いつつ「あのこだから彼氏ができるんだろうな。私には無理だよ。だって子供のころは男子からおびえられてたし。何回合コン行っても彼氏できないし。そもそも合コン行っても緊張してちゃんと話せないし」と色々と理由をつけて、行動することや自分を変えることから逃げていた。
恋愛は本当に特別だろうか。
過去の私にとって恋愛は「特別な人間関係」だった。
今では人間関係の一つだと考えられるようになった。家族、親戚、友人、会社の同僚、ご近所さん等コミュニティーの名前はそれぞれだが、個人単位でみるとどれも一対一の人間関係だ。そうとらえると恋愛におけるパートナーとの関係は恋愛というコミュニティーにおける一対一の人間関係で、他のコミュニティーの関係性と一緒だ。
「自分ファースト」「恋愛は特別な人間関係ではない」という考えを自分のものにするまで、それなりの時間と経験が私には必要だった。「知っているとできるは違う」と同じく、知識として持つだけではなく、自分のものにするためには行動力と勇気がいる。
「自分ファースト」を自分のものにするため、職場での付き合い残業を止めた。
以前は頭痛がしても仕事を優先していたが、低いパフォーマンスでやっていても仕方ないと思い体調不良のときは帰るようになった。そうすると私に対し雑な対応をする人たちと一緒にいることが苦痛になり、付き合いで参加していた飲み会を断ってリラックスタイムにあてたりとプライベートを充実させられるようになった。
自分の趣味を優先し会う時間を作らない彼氏に対し「私はもっと会いたい」と伝えても変わらなかったので自分から別れを告げた。
以前なら一つの恋を手放すのが怖くて自分から別れを切り出すことができなかったが、大切にされていることを感じられない人間関係に執着していても辛くなるだけだと思い、手放した。数ヶ月後私との時間を大切にしてくれる人と出会えた。
「この人しかいない」と思った時点で特別扱いし、執着するようになる。自分と向き合ってくれる一人一人を大切にしながら、ただ執着はせずに関係を続けることが良好な人間関係を築くコツだ。
恋愛に対し免疫ができてきた私ではあるが、今でも「私はこうしたい」と伝えるのに勇気が必要だ。そして今、勇気を出すことを特別ではなく普通モードにするトレーニングをしている最中だ。
というのも今付き合っている人は「なんでそう思うの?」という問いかけが多いからだ。はっきり言えずモゴモゴ言うと「ちゃんと言葉にしてほしい」と言ってくる。「こんなことを言ったら引かれないかな。嫌じゃないかな」とヒヤヒヤしながら言うこともあるが「ハッキリ言ってくれて嬉しい」と言われる。
以前「私のどこがいいの?」と聞いたことがある。「本心を言ってくれるから。あと深い話ができるから」と返ってきた。
聞こえのいい言葉はその場では嬉しい。ただそれが本心ではないとわかったとき、嘘をつかれたように思え寂しくなったり、相手に気を遣わせてしまったのかなと申し訳ない気持ちになる。これは恋愛に限らず人間関係全般に言える。
恋愛は特別なものではなく、人間関係の一つだ。
40歳を超えてやっとわかった。
恋の期間は終わって「家族愛」を深めている同年代が多い中「今さら!」と自分でも呆れてしまうが、なにもなくぽっくり75歳で死ぬ運命からは抜け出せそうだ。
□ライターズプロフィール
松本 萌(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
兵庫県生まれ。千葉在住。
2023年6月に天狼院書店の「人生を変える『ライティング・ゼミ』」に参加し、10月よりライターズ倶楽部を絶賛受講中。実体験を通じて学んだこと・感じたことを1人でも多くの人に分かりやすい文章で伝えられるよう奮闘中。
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