週刊READING LIFE vol.244

みんなが嫌がるアレは、私にとても必要なものだった。《週刊READING LIFE Vol.244》

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2023/12/18/公開
記事:Kana(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「547,945件」
これはなんの件数か、わかるだろうか。
 
私は知恵袋が好きで、暇な時によくみている。
知恵袋を覗くと、世の中の人のいろんな人生を垣間見たような気持ちになるのが好きだ。
悩みごとのプラネタリウムを見ていると、自分の悩みも満天の星空の小さな一つでしかないと思う。
たまに、心を動かすような言葉を投げかけるベストアンサーに出会えたりすると、それが私の悩みの解決になることもある。
本とか雑誌などの商業的な読み物ではない、生身の人間の声みたいな感じがして好きなのだ。
 
さて、547,945件は、知恵袋における「通勤」に関する質問の件数だ。
 
「通勤が嫌で会社を辞めるのって、ありですか?」
「通勤中に変な人に会ってしまい、困ります」
「通勤手当って、非課税ですよね?」
 
その質問は、本当に本当に多岐にわたる。
 
ちなみに、他にも人生において重要そうなキーワードを調べてみると、「家電」は413,000件、「家賃」は507,658件と、「通勤」が件数で上回る。
数字でもわかる通り、「通勤」は相当に人々が関心を持っているテーマだ。

 

 

 

「満員電車のストレスがすごい」、「自由に使える時間が減る」というのが主に、通勤が嫌いな人の主張だ。
イギリスの西イングランド大学が行った調査では、1日の通勤時間が20分増えることで、給料が19%減るのと同じぐらい、仕事に対する満足度が下がるらしい。
2割も給料が減るって、嫌すぎる。
 
実は私の通勤時間は、今月からなんと25倍になった。
今まで2分で通勤していたのが、50分になった。
 
だが、しかし。
西イングランド研究の結果に反して私の満足度は減ることなく、むしろかなり増加した。
通勤生活がスタートしたことによって、私の生活は良い方向に変化したと感じている。

 

 

 

最大にして最高のメリットは、「時間が効率よく使えるようになったこと」だ。
電車に乗っている時間は、20分ほど。
毎朝私は、コートのポケットに文庫本を入れて読んでいる。
通勤時間2分だった頃はギリギリに起きていたから、朝のんびり読書などしていられなかった。
今、電車の窓から朝日を浴びながら読書をしている時間がすごく好きだ。
これまでは、大好きな作家の甘い恋愛小説なんかばっかり好んで読んでいた。
でも、最近は翻訳の心理学の本などを読んでいる。
内容や文体が多少読みにくい本でも、満員電車の中では十分な娯楽になり得る。
少し生活パターンが変わっただけで、読む本の種類まで変わったから驚きだ。
 
朝は本を読む一方で、帰りはライティングに時間を当てている。
最近感じたことなどを、つらつら綴ってnoteに投稿している。
実は以前から、noteに毎日文章を投稿するチャレンジをしていたのだが、続かなかった。
しかし、通勤中に書くようになってから、あれよあれよという間に2週間連続で投稿できるようになった。
あんなに苦労していたことが、こんなに簡単にできるようになるなんて。
小学生の頃、逆上がりの練習をたくさんしたけどできなくて諦め、久々に試したらすっとできてしまったことがある。
あの肩透かしを食らった感じを、また味わった。
「何かができるようになる」時は、費やした時間や努力の量が一定値に達したら訪れるわけではない。
成功する条件がうまく揃った時に、できるようになるのだ。
 
じゃあ、今回の毎日投稿が成功する条件はなんだったのだろうか。
それは、「制限時間が決められていること」が大きなポイントだった。
電車の中にいる時間は、20分だ。
私がその間に書ける文量は、大体600~700字程度だ。
最低限内容としてまとめることができるのも600字程度なので、これがうまくハマったのである。
これまではnoteを投稿しようと思っても、たくさん書いてまとまらなかったり、書く内容が決まらなかった。
だけど、今は20分というタイムリミットがあるから、サクッと書いてサクッと切り上げられるようになったのだ。
もちろん、天狼院のライティングゼミ・ライターズ倶楽部に参加して、文章を書く筋肉がついたという背景も、毎日投稿できるようになった大きな要因だろう。

 

 

 

2つめの変化は、「出会う人のバリエーションが増えた」ことだ。
遭遇する人のパターンが変わり、同じく通勤をしている同僚と話すようになった。
たくさんの人と挨拶を交わすだけでなんとなく気持ちがほっこりした。
普段はほとんど話さない先輩と帰りに一緒になり、先日の出張の感想を共有できた。
さらに通勤を話題にして、いろんな人と話す機会も増えた。
 
会社の人以外でも、電車の中で出会う人たちの様子を見るのも好きだ。
特に、女子高生の会話を聞くのが好きだ。
思ったことを素直に口に出す彼女たちの会話は、とても面白い。
今回のテストで捨てた科目を堂々と宣言し、電車の中でスカートの下のジャージを脱ぐことも。なんて自由なんだ。
身の回りで起こる何もかもが楽しくて、小さなことで一喜一憂して、なんでも友達と共有していたあの頃。
今でも、高校の友人の結婚式に行くと、あっという間に高校生の気持ちに戻る。
女子高生は無敵だ。

 

 

 

3つめの変化は、「毎日最低限のウォーキングができる」ことだ。
通勤を始めてから、デスクワークが多い日でも、毎日1万歩は歩くようになった。
朝からたくさん歩くと体がじんわり温まる。
2分で出社していた頃は、出社後にトイレの鏡で自分の顔を見ると青白さに驚くこともあったが、今では血色も良い。
歩いている途中に、あの犬かわいいなとか、紅葉綺麗だなとか、おしゃれな家だなとか、
ただただぼーっと心に浮かんだことを感じる時間は、すごくメンタルに良かった。
オランダではあえて何もしない過ごし方をしてリラックスする「ニクセン」という習慣があるそう。
私は、何もしないでぼーっと過ごすのが大変苦手であり、何も予定がない日でも、何か考え事をしたりつい作業をしてしまうことが多い。
でも、朝通勤で歩いている時間が、どう頑張っても有益な作業や考え事はしにくい。
だから、強制的にニクセンをする時間となり、リラックスできるようになったのだと思う。
 
さらに、「ポイ活」も始めた。
歩いた歩数によってマイルが溜まり、溜まったマイルをポイントに変えられる仕組みだ。
少しお得に生活できる上に、自分の歩いた歩数に対して意識が向くようになった。
毎日少しずつマイルが貯まるのを眺めてはニヤニヤしている。

 

 

 

4つめの変化は、「仕事帰りに寄り道ができる」ことだ。
以前は家が近すぎて、仕事から直帰して家でぐうたらしていた。
すぐにお風呂に入ればいいのにスマホをいじってゴロゴロしていた。
田舎だから道も暗くて、一度帰宅すると外出する気にはなれなかった。
 
でも、通勤時間ができた今は、通勤のついでに行きたいところに寄ることができる。
例えば、先週は、火曜日は本屋さんに寄り、ブックサンタという子どもへ本を寄付するチャリティーに参加した。
水曜日は、プレゼンを頑張ったご褒美として、ハーゲンダッツを買って帰った。
たったこれだけですごく充足感を感じて、リフレッシュできた。
 
これまでは、「やらなきゃいけないことは平日にやり、やりたいことは休日にやる」と無意識に考えてしまっていた。
だから、平日を頑張って耐え凌げば休日がくる! という生活をしていた。
クロールのように、休日に息継ぎをすることで平日を泳ぎ切っていた。
 
しかし、この生活には問題点があった。
休日は疲れを癒すのに精一杯で、十分に楽しめない時もあれば、逆に平日我慢していたやりたいことをやるのに忙しく、休日に予定を詰めすぎて疲れることもあった。
 
よく考えたら、やりたいことは平日だろうが休日だろうが、プライベートの時間のいつでもやって良かったのだ。
今更ながらそれに気づき、平日は1~2回寄り道を取り入れている。
それが平日の仕事のリフレッシュにもつながり、週の後半でも疲れずにスッキリと働けていると感じる。

 

 

 

5つめの変化は、「気持ちを切り替えられる」ことだ。
私が通勤時間が爆増するにも関わらず、引っ越した理由は、生活を変えたかったからだ。
家と職場が近すぎて、気持ちを切り変えられないことが多かった。
家にいても会社のことを思い出して反芻したり、怒られて嫌なことを思い出したり。
家でスマホをいじりすぎてしまうのが嫌だったのだが、今思えば、仕事のことを考えてしまうのが嫌で、スマホに流れてくる情報を見て何も考えずに時が過ぎるようにしていたのだろう。
 
これまで平日は、時間のブロックが、仕事している時間と家にいる時間の2つしかなかった。
しかし、通勤時間や寄り道の時間、通勤中に同僚と言葉を交わす時間といった、たくさんの時間のブロックで1日が構成されるようになった。
食べ物で例えるなら、ひたすら毎日牛丼だったのが、たくさん小鉢の着いてくる定食を食べるようになったみたいな感じ。
精神的にもかなり豊かになったと感じる。

 

 

 

以上が、私の「通勤時間が増えたことによる変化」の全てだ。
 
人生を変えるには、「付き合う人を変えること」、「住む場所を変えること」、「仕事を変えること」の3つが効果的とよく言われている。
 
私の場合は、住む場所が変わって通勤が発生したことで、時間の使い方が変わった。
これは、大きな発見だった。
あとの2つはあまり経験がないが、この人生を変える3要素は本当に効果てきめんなのかもしれない。
 
通勤時間は、嫌いな人もいるけれど、私にとってはすごく必要だった。
通勤が苦痛だという人もいれば、家と会社が近すぎて嫌という人もいる。
ある人から見たら悩みと思えることも、別の誰かからしたら全然悩みじゃないという場合は往々にしてある。
ある場所、ある時間では見えなかった星が、場所や時間を変えると輝いて見えたり、逆に見えていた星が見えなくなったりするように。
 
悩みごとの星は、いつだって巡っている。
今の悩みは、明日にはどこかに行き、違う悩みで悩んでいるかも知れない。
悩みごとの星をよく観察しすぎると、とても眩しいように感じるけど、広くプラネタリウムを見渡すとそんなに明るくないし、そっと場所を変えたら見えなくなるかも知れない。
悩み事に押しつぶされない人生を生きるために、私は視野を広く持つこと、環境を変えることを恐れないことを、これからも大事にして生きていく。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
Kana(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

愛知県生まれ。滋賀県在住。 2023年6月開講のライティングゼミ、同年10月開講のライターズ倶楽部に参加。 食べることと、読書が大好き。 料理をするときは、レシピの配合を条件検討してアレンジするのが好きな理系女子。 好きな作家は、江國香織、よしもとばなな、川上弘美、川上未映子。

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2023-12-13 | Posted in 週刊READING LIFE vol.244

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