週刊READING LIFE vol.244

初対面のメンバーで取り組んだチームビルディングが、大成功を収めた理由《週刊READING LIFE Vol.244》

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2023/12/18/公開
記事::青山 一樹(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「この研修に、何の意味があるのだろうか?」と懐疑的になりながら、研修を受けことがある人は多いであろう。私も、つい数日前に受けてきた。
 
先日、年度末の全社員対象の研修が、4年ぶりに開催された。この3年間、コロナでやむなく中止になっていた。しかも、今年は、新大阪駅から電車と徒歩で、約1時間かかる場所での開催だった。私たち1,300名の社員が、一つの会場に集められた。そして、10人一組の130チームに分かれ、チームビルディングを行った。
 
チームビルディングは、①コミュニケーションの向上、②チームの結束力強化、③リーダーシップの発揮、を目的として実施される。つまり、これからチームとして、1ランク、2ランク上のステージを目指すために行う研修である。
 
しかし、この日のチームは特別だった。同じ会社で働く仲間といっても、ほとんどの人が初対面である。更に、部署・職種・役職・ビジネスエリアなど、全てバラバラのメンバーで構成された。加えて、チームビルディングに割かれたのは、たった2時間だった。そして、チームビルディングが終わると、この即席チームは自然解散となる。2度と同じメンバーで集まることが無いことは、誰の目から見ても明らかだった。
 
私は「このチームビルディングで、何が学べるのだろうか?」と思った。しかも、課題が「大阪市内を観光し、チームで独創的な写真を撮りなさい」だった。観光よりも通常業務をした方が、会社の売上や利益になるのに……。という雰囲気が会場全体に蔓延していた。
 
その異様な空気の中、私もチームメンバーと顔を会わせた。10人一組と聞いていたが、実際に集まったのは、私も含めて6名だった。業務の都合により、研修に参加できなかった社員が、4名もいた。「大丈夫かな、このチーム……」と不安になったのは、私だけでなかった。そして、重々しい雰囲気でチームビルディングはスタートした。
 
限られた時間の中で、私たちのチームは、あべのハルカス→新世界→通天閣という、大阪の代表的な観光地を巡った。しかも、チームビルディングは、予想以上に有意義であり、私たちはチームの解散が名残惜しくなる程だった。何故、2時間だけの即席チームによるチームビルディングは、これほどまでに盛り上がったのであろうか。それは、メンバー6人全員が、個々の強みを発揮したからだった。
 
まず、1人目の社員が「タクシーを使って、できる限り遠いところへ行きましょう!」と、あべのハルカスへ行くことを提案してくれた。しかも、「写真スポットを、既にオカンに確認しましたから」というセリフ付きで。このお母さんに頼った発言のおかげで、チームの雰囲気が一気に明るくなった。
 
しかし、すぐにトラブルに遭遇した。われわれは、タクシーの配車に60分かかることを宣告されたのだ。研修会場は、大阪の中心部から離れた場所である。会場周辺を走っているタクシーの台数は少ない。よって、配車に時間がかかるのであった。
 
すぐさま、2人目の社員が「では、あべのハルカスまで、地下鉄で行きましょう!」と別のプランを提案してくれた。この社員の出身地は大阪だった。「生まれも育ちも大阪なので、逆に大阪を観光したことは無かったです」と言いながらも、地下鉄の乗り換えを、われわれに伝えながら、あべのハルカスまで導いてくれた。
 
地下鉄で移動中、われわれが外資系製薬会社の社員と気づいたのだろうか。「弁天町という駅で降りたいのですが……」という相談を、外国人観光客から英語で受けた。
 
3人目の社員が「ここから、3つ目の駅で降りてください」と流暢な英語で答えた。私を含めた他のメンバーは「やはり本社の部長職に就いている人の英語力は違うな~」と、その英語力に感服した。
 
このように、メンバーの性格や特技が分かり始めたころ、最初の目的地、あべのハルカスが見えた。4人目の社員が「では、私が写真撮りますね~」と、おっとりとした、柔らかい声で言ってくれた。あべのハルカスから、300メートルほど離れた場所で、写真撮影を提案された。
 
私は「もう少し近づきましょうよ!」と言った。すると「高い建物が写っていれば、誰でも、あべのハルカスって気づきますよ~」と、その社員から、引き続きおっとり口調で、柔らかく反対された。
 
「おっとりとした口調で反対されると、言い返すことができなくなるな」と、私は心の中で呟いた。チームとしての最終目的地が、通天閣と決まっており、残された時間も少なくなっていた。そのため、おっとりとした社員の提案に従った。そして、われわれは、通天閣に向かうため、その手前にある新世界という繁華街を通ろうとした。
 
そして、私たちの目の前に広がったのは、ディープなエリア、新世界だった。昭和時代の残り香が漂うその街並みに、大阪出身の社員でさえも感動していた。昭和にタイムスリップしたわれわれは、浮足立ってしまった。他の通行人、観光客の邪魔になっているにも関わらず、写真撮影を続けていた。
 
そこで、5人目の社員が「他の人の邪魔にならないようにしましょう!」と、大阪観光で興奮し浮かれていた、われわれを諫めてくれた。その社員は、普段は寡黙ながら、言うべきことは、ビシッと言ってくれる父親的存在だった。その一言で、チームは引き締まった。周りの人に配慮しながら、串カツ屋、囲碁・将棋俱楽部の前で写真を行った。
 
あとは通天閣の写真を撮るだけ、というタイミングで、われわれの目の前に現れたのが、屋台の射的場だった。「射的、やるの? やらないの?」と、各々が顔を見合わせた。本音としては、射的をやりたいのだろうが、先ほど父親的存在の社員に注意されたばかりである。そのため、「射的、やりたい!」とは言い出しづらい雰囲気であった。
 
その閉塞的な雰囲気を壊すべく、最後の社員である私から「みんなで、射的をやりましょう!」と提案した。他のメンバーも、1回500円の射的に賛成してくれた。そして、メンバー6名が横並びになり、一斉に射的を楽しんだ。その後、通天閣をバックに、6人とも満面の笑みで、写真撮影を行った。そして、現像されたのは、あたかも長年一緒に働いているチームと見間違えるような、メンバーの仲の良さが分かる写真であった。そこには、2時間前の、よそよそしい雰囲気は一切、写っていなかった。
 
では、なぜ個性を発揮すれば、チームとして上手くいくのだろうか。われわれ6人の個性を、チームビルディングの目的である①コミュニケーションの向上、②チームの結束力強化、③リーダーシップの発揮、に分類したうえで分析してみた。
 
コミュニケーションの向上
日本語、英語に限らず、1人のメンバーが話している時は、他のメンバーは黙って話を聞いていた。即席チームで成果を出すために大切なのは、まずは短時間でお互いを知ることだ。異なるバックグランドを持つ社員同士のチームのため、本来であれば、2時間で、相互理解するのは困難である。しかし、お互いが「傾聴」に注力し、相手の考え・意見を尊重したため、長年一緒に働いているチームみたいになった。コミュニケーション力とは、話すスキルではなく、聴くスキルということに気づいた瞬間でもあった。
 
チームの結束力強化
メンバー全員が、個人の考え・意見を傾聴した結果、お互いに信頼関係を築くことができた。その結果、チームの結束力を強化した。では、どうやってチームの結束力を測ることができるであろうか? それは、一つの意見に対し、別の意見、もしくは反対意見が出てくるかどうか。そして、それらの意見を考慮したうえで、最適解を出せるか否か、である。
 
2時間のチームビルディングの中で、われわれは多くの決断を強いられた。例えば、タクシーで移動するか、地下鉄で移動するか。あべのハルカスに、近づいて写真を撮るべきか、遠くから撮るべきか。射的をするか否か。などの決断を。
 
これらの決断に正解も不正解もない。大切なのは、反対意見を持っている人たちに納得してもらい、限られた時間の中で、即決することである。われわれのチームでは、既に先ほどの「コミュニケーションの向上」により信頼関係を築いていた。そのため、例え自分の意見が通らなくても、不平・不満を述べる社員は1人もいなかった。
 
リーダーシップの発揮
「コミュニケーションの向上」と「結束力強化」が実現しているチームは、他のチームよりどの点が優れているだろうか? それは、フォロワーシップである。フォロワーシップとは、効果的なフォロワーであることを意味する。つまり、リーダーシップの補完として重要な役割を果たすことを示す。
 
チームビルディングと聞くと、「自分が、リーダーシップを発揮しなければならない」という思い込みに縛られてしまう。実は、リーダーシップを発揮すること以上に、フォロワーシップを発揮することの大切さを、このチームビルディングを通じて学んだ。
 
なぜなら、2時間の大阪市内観光では、状況が目まぐるしく変化し、その都度、決断を迫られた。そのため、状況に応じ、リーダーを変えなければいけなかった。仮に、特定のメンバーしかリーダーシップを発揮できないのであれば、決断力が鈍り、チームが一つに纏まることができなかった。
 
決断とは、例えば、交通手段を決定する人。観光地を決定する人。英語で対応する人。写真を撮る人。メンバーの気を引き締める人。射的の実行を決断する人。などである。
 
これらの決断を迫られたとき、必要なのはリーダーではなく、効果的なフォロワーである。リーダーシップを発揮するためには、フォロワーシップを充分に発揮するメンバーが必須である。つまり、リーダーとは、フォロワーによって役割を与えられた存在である。そして、状況に応じ、リーダーとフォロワーを決定するのが、チーム全員によるコミュニケーションと結束力であった。
 
このように、初対面の人たちとの、たった2時間のチームビルディングであっても、大きな成功を収めることができた。では、いつも一緒に働いている同僚とのチームビルディングであれば、もっと大きな成功を導くことができるはずだ。そのために、日ごろから意識的に傾聴、即決、フォロワーシップに取り組もうと、たった2時間の即席チームから気づかせてもらった。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
青山 一樹(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

三重県生まれ東京都在住
大学を卒業して20年以上、医療業界に従事する
2023年4月人生を変えるライティングゼミ受講
2023年10月よりREADING LIFE編集部ライターズ倶楽部に加入。
タロット占いで「最も向いている職業は作家」と鑑定され、その気になる
47歳からの男性育児奮闘記を広めるべく、ライティングスキルを磨き中

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2023-12-13 | Posted in 週刊READING LIFE vol.244

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