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週刊READING LIFE vol.248

人生一期待し人生一どん底を味わった恋愛が、発酵恋愛体質の私を変えた《週刊READING LIFE Vol.248 私史上〇〇な恋愛》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2024/2/6/公開
記事:松本萌( READING LIFE編集部ライティングX)
 
 
私は現在42歳で独身だ。結婚歴はない。一重で凹凸の少ない顔立ちからクールな印象を持たれる。抑揚のない話し方のため「落ち着いてるね」「焦ることってほとんどないでしょ」と言われる。猫背であることにコンプレックスを持っているが、意識しているせいか「姿勢がいいね」と言ってもらえる。30代後半までオシャレ迷子だったが自分の体型に合う洋服を知ってからは「オシャレだね」と言われるようになった。
 
人から見て外見も内面も平均値のようだ。だからか「未婚です」と伝えると「結婚しているように見えた」「意外だね」「えり好みしてるから今でも独身なんでしょ」と言われる。
 
えり好みをするほど男性から言い寄られた過去があるなら笑みを浮かべて「ええ、まぁ…… ふふ」なんて余裕をかますのだが、そんな経験はゼロのため「そんなわけあるかっ!」と思いながら「そんなことないですよー。誰も結婚しようって言ってくれないんですよね」と引きつった笑みで返している。
 
最近出会った男性に「過去付き合った人と別れるときってふることが多かった? それともふられることが多かった?」と問われ振り返ると、全て自分から終わらせていることに気がついた。「自分から別れようと言った」と伝えると「えー! そうなんだ。みんな引き留めるでしょ。続けたいって言われるでしょ」と言われた。
そう思ってくださって嬉しいです。ご期待に添えず申し訳ないですが、一度も引き留められたことはありません。
 
私に対する相手の思いが絶頂期のときに「別れよう」と言ったら引き留められたかもしれない。ただそんなときに別れ話を切り出したことはない。相手に違和感を持ったとしても、好かれている状況というのは手放しがたく別れ話までにはならない。相手の気持ちが落ち着いてきたときやアプローチが減ってきたころ「これからもこの人と一緒にいるイメージを持てるか」「この人と一緒にいるときの自分を、自分は好きか」と問うて「No」の答えが出たとき、「別れよう」と告げてきた。
相手も当初ほどの思いがないからか、はたまた私のクールな表情で発する「別れよう」という言葉に反論する気力を失うからか、別れ話でゴタゴタしたことはない。
 
思うに「大好き!」と自分が思う人と付き合ったことがないからだろう。告白されて「悪い人じゃないし付き合ってみよう」という気持ちで始めるパターンばかりだ。執着する思いがないため淡泊な関係で終わっている。
 
そんな私も誰かのことを「大好き!」と思ったことは過去3回ある。
3人とも同じパターンで好きになった。なんとなく「この人いいな」という恋とも言いがたい淡い感情を抱くようになり、人となりを知るにつれ尊敬の念が生まれいつしか恋心を抱くようになった。出会ってから「この人のことが好き」と気がつくまで時間が掛かっているため、自覚するころには思いが大きくなりすぎて発酵している。
端から見ると「重い女」だ。
 
心が重いと発する言葉も行為も重くなる。
長い時間を掛けて何度も見返しながらメッセージを作るのは当たり前。「?」で終わらせて返信せざるをえない内容を送るなんてこともした。やっとメッセージを送った後は一時間毎に返事が来ていないか携帯を確認してしまう。
返信が来ただけで大喜びするも、期待している内容でなかったらどうしようと思うとメッセージを開けずに数日寝かすなんてことを何度もした。
 
重たい。重たすぎる。
好きならさっさと「好きです」と言えばいいのだ。
でも言えなかった。「気持ちを伝えたら迷惑かもしれない」「ふられたらどうしよう」「この関係がなくなるくらいなら言わずに今のままの方がいい」
明らかに相手は私の気持ちに気がついていただろう。気がついていて何も言ってこないなら自分から伝えるか、「この人は自分には興味がない」と割り切ってメッセージを送るのを止めればいいのにできなかった。
 
私からのメッセージはどんよりした雰囲気満載だっただろう。そんなメッセージに返事を返してくれた過去の大好きだった人たちに心から「ありがとう」と「重たいメッセージを何度も送ってごめんね」と伝えたい。
 
20~30代の私は自分の重たさに気がついておらず、なんと3回も同じことを繰り返した。一つの恋が終わる度に「今度恋愛したときは重たくなる前に自分の気持ちを伝えよう」と誓いながらも同じことを繰り返していた。
重たい私と決別させてくれたのは、私の発酵恋愛対象者3人目の人だ。3人の中で一番期待して、一番どん底を味わった。

 

 

 

第一印象は「精悍な人」だ。物静かでおしゃべりではなく、存在感やオーラを感じさせるタイプではない。どちらかというと意識して自分の存在を消しているように感じられた。それでも惹きつけられるものがあり、自然と目で追うようになった。
 
仲間内で飲み会の企画があり、LINEを交換した。私から「今日もおつかれさま」というありきたりのLINEを送った。自分から積極的にLINEを送るタイプではない私が送ったということは、その頃には恋心が芽生えていたのだろ。
 
精悍なイメージとはうらはらに、かわいい「おつかれさま」スタンプが送られてきた。ギャップにドキッとした。好みの人でなければ「へー…… こういうスタンプ使うんだ」で終わるのだが、気になる人だと「えーこの人こういうスタンプ使うんだ。意外だな。でもそんなところもいいな!」となる。現金この上ないのだが、そんなものだ。
 
「おつかれさま」のメッセージ以降ラリーが続いた。
「忙しくて残業……」「今日は仕事早めに終わったからジム行ってきた」「洗濯物たまっちゃって週末はずっと洗濯してたよ」「明日から一週間出張。でも何も準備してない…… これからするところ」
 
一見まめにLINEをするタイプに見えなかったが、仕事や週末の出来事、好きな歌手など色々なことをLINEを通じて知った。「コーヒーはブラック。甘い物は食べません」みたいな顔立ちなのに、ザッハトルテや生クリームたっぷりのクレープが好きなことを知った。
 
ある夏の夜はラリーが深夜まで続いた。
仕事のかたわら資格取得を目指していて「今日は勉強中」とLINEがきた。「邪魔になるといけないからLINEするのこれで終わりにするよ。勉強頑張ってね」と送ったら「LINEしたいからしようよ」と来た。
 
今までしたことがないお互いの恋愛話やこれからどんな生活をしていきたいかという話になった。
色々なことをメッセージする中で「今一人暮らししてるんだよね?」と聞かれたので「そうだよ」と答えた。「何時くらいに帰ってくるの? 夜ご飯どうしてる?」「だいたい20時くらいかな。夜ご飯は作り置きしてるものを温めて食べてるよ」「そうなんだ。どんなご飯食べてるの?」「和食がメインかな。お味噌汁は欠かせないね。毎日のんでるよ」
合間を置かずテンポよくLINEが続いた。
 
「お味噌汁美味しいよね。俺、萌さんの作るお味噌汁飲みたいわ」ドキッとした。動揺しつつも「家に来るってこと? えーどうしようかな。我が家に入るの、高いよ。笑」「帰ってくるの20時頃でしょ。そのころ行くわ」「じゃあ食べ終わった後の片付けよろしくね」本気なのか冗談なのかわからないメッセージのやり取りが何往復か続いた。私の心臓は終始ドキドキしっぱなしだった。
気がついたら深夜2時だった。次の日も仕事の私たちは寝ることにし「おやすみ」のスタンプを送ったが、ドキドキして寝付けなかった。
 
彼からしてみると単なる冗談だったのだろう。それでも当時の私は彼のLINEに救われた。
その頃の私は仕事が全くうまくいってなかった。新卒以来15年同じ仕事を続けていたが、フィールドを広げるために異動した部署が合わなかった。新しい仕事を覚えようにもなかなか頭に入ってこないため何度もミスをし、上司に叱責される毎日だった。そんな私の姿を見る同僚や後輩の目が徐々に冷たくなっていくのを感じた。
 
「会社に行きたくない」「辞めようかな」そう思いながらもサボることもできず、何を言われても傷つかないよう心をカラッポにして暗い気持ちで会社に行く中、彼からくるLINEが私の心を温めてくれた。泣きそうな気持ちでお昼休憩をしていたとき、出張中の彼から「富士山がきれいに見えたよ」と青空をバックにくっきりと見える富士山の写メ付きのLINEが送られてきた。自分のことを気に掛けてくれる人がいることに救われた。
 
「この人のことを好きだ」そう自覚しながら、行動できずにいた。
「今度会ったら気持ちを伝えよう」「今度こそ言おう」
いつもの悪い癖「今度こそ病」を発病させたまま数ヶ月が経ったある日、仲間内の飲み会で衝撃的なことを知った。
 
「結婚することになりました」と彼がおもむろに言った。
 
自分はどんな顔をしていただろう。いつも無駄にポーカーフェイスをする癖があるが、あのときもちゃんとできていただろうか。「そうなんだ! おめでとう!」明るい声で祝福できていただろうか。衝撃が強すぎて周囲に動揺がばれていなかったか自信がない。
その日を境にLINEを送るのを止めた。
 
あまりにも衝撃的だったためか、悲しみに襲われたり泣くことはなかった。事実を受け入れるのに必死だった。
強いショックが去った後、ある思いが心に浮かんだ。
「私はもう彼がいなくても大丈夫なんだ。彼からのLINEを生きがいにしなくてもいい日がそのうち来るんだ。だから彼は私から去って行ったんだ」
 
結婚話を聞いた一ヶ月後、辞令が出た。
今の部署にいたら自分が駄目になると思い異動願いを出したところ、希望の部署に異動することができた。

 

 

 

3回も同じこじらせを繰り返した結果3回目に至っては目の前で結婚宣言されるという衝撃的な出来事があったため、発酵恋愛体質を卒業すると自分に誓った。
 
気になる人がいれば自分から「ご飯行こうよ」と声を掛け、一緒にいる間は笑顔を絶やさず、自分から告白しないまでも「あなたのことをいいなと思ってます」という気持ちが伝わる行動をしていたら、相手から「付き合ってほしい」と言われるようになった。
長文の重たいメッセージを送るのを止めたら、反対に男性から丁寧なメッセージが返ってくるようになった。
 
発酵する程の熱量を抱いていない分、恋愛関係に淡泊になっているところは否めない。
それでもいいと思っている。時たま飲みに行ったり、メッセージのやり取りをするだけでは人となりは分からない。まずは付き合ってみて「これからもこの人と一緒にいたい」とお互い思えば続ければいいし、「なんだか違うな」と違和感を覚えれば別れればいい。縁があればどうせまた巡り会える。
 
発酵食品は体に良いけど、発酵するほどの重たい思いは自分の心に不健康だし、相手にも負担になるだけだ。
 
仕事や育児で忙しい彼とは何年も会っていない。彼への恋心はとうの昔に消えて未練もない。
ただふとした瞬間にあの夏の夜のLINEを思い出す。そして彼に聞いてみたくなる。「あのとき、あなたは私に恋してましたか? 私はあなたに恋してました」
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
松本萌(READING LIFE編集部ライティングX)

兵庫県生まれ。千葉県在住。
2023年6月より天狼院書店のライティング講座を絶賛受講中。
「行きたいところに行く・会いたい人に会いに行く・食べたいものを食べる」がモットー。平日は会社勤めをし、休日は高校の頃から続けている弓道で息抜きをする日々。

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2024-01-31 | Posted in 週刊READING LIFE vol.248

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