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週刊READING LIFE Vol.26

枝分かれの人生に怯えて《週刊READING LIFE Vol.26「TURNING POINT〜人生の転機〜」》


記事:田中望美(チーム天狼院)
 
 

幼い頃からずっと一人、心の中で思っていたことがある。
決して道を踏み外さないようにしなきゃ、と。なぜなら、そうしなければ命の危険にも影響を及ぼすと思ったからだ。
 
あなたは、手相を信じるだろうか?
 
私は、占いはよくわからないし、もししたとしても、自分にとっていいことだけを信じるようにしている。けれど、自分の体に現れている手相だからだろうか、信じる信じないの以前の問題で、手相は私にとって何か大きな決断を下す時に、誤りを正す方位磁石のような役割を担っていた。
 
手相をよく知らない人でも、「運命線」というものがあることはご存知の方も多いのではないだろうか。手のひらの「て」という手相の丸みを帯びた曲線のことである。その運命線には、その人の人生観が現れていると言われる。運命線にも色々あって、線が濃い人もいれば、薄い人もいて、線が網目状の人もいれば、一本線の人もいる。けれど共通して言えるのは、運命線の長さは、「寿命に比例する」ということだ。さて、あなたの運命線はどのくらいの長さだろう?
 
私が決断を間違えてしまったら、命の危険を感じると思うのは、この運命線の形状が原因なのだ。私の運命線の手相は少し形が変で、長さ自体は手首の方まで伸びているため長い方なのだが、緩やかな曲線のちょうど真ん中くらいで、運命線と同じくらいの濃さの線が枝分かれのように伸びているのだ。しかも、その線の長さはとても短い。私は長い方を運命線だと信じたいのだが、短い方を運命線だと考えてもいいほど、しっかりと「て」の形になっているのだ。
 
ある手相占い師がこう言っていた。
「もし枝分かれになっている運命線があれば、人生のそのくらいの時期に下す判断によって、道が決まると思います」
 
もし私が100歳くらいまで生きるとしたら、50歳の時くらいに運命の分かれ道を決める決断に迫られ、その判断によっては、寿命の長さが大きく変わってくるということなのだ。
 
そのことを知ったのが確か小学生くらいの時だから、約10年ちょっと、私はいつも難しい判断を下す時は、これによって自分の寿命が決まるのではないかと怯えながら生きてきた。
 
中でも、未だにこの判断は間違っていなかったか分からないけれど、明らかに枝分かれの運命線に影響するのではないかと思われる決断の時が私にもあった。
 
それは、簡単に言えば、一般に多くの人が選ぶ正社員として「就職」するか、自分が今好きなことのために「夢」を追うかという決断である。
 
私の中に、確かな覚悟があれば、迷うことはなかったのだろうけど、私はとても揺らいでいた。本当の心の中は、そりゃあ好きなことで食べていけたらいいけれど、そうなるための道のりが厳しいのは目に見えていたし、好きなことをすることが幸福かと言われたら、必ずしもそうではない。いい意味で安定的に充実感を持って生きていけるのは、多数派と同じ生き方だろう。夢を追えば、得るものもあるだろうけど、犠牲にするものも多いのだ。
 
その時の私はまだ社会経験もままならない頃で、世の中の本当の厳しさも知らなかった。だから夢を持てた。だけど、そうなるまでの覚悟も足りていなかった。だから当然のごとく、迷いに迷ったのだ。おそらく、人は、たくさん迷う項目があればあるほど大きな「決断」になるのではないだろうか。
 
結局私は、「自分が好きなことで食べていけるようになる」という道を選び、今ここにいる。
そのきっかけとなったのは、ある一冊の本との出会いだった。
 
私は就職活動が本格的に始まった大学時代、どうすればいいのか決められず、もどかしい気持ちを払拭したくて、ただただ動いていた。毎日スケジュールでいっぱいになるくらい会社の説明会へ行き、バイトをし、ダンスをし、学校へ行き、遊んでいた。
 
その日は、履歴書を書くために、大学の図書館にこもって作業をしていた。ずっと机に向かっているのが疲れたので、気晴らしに図書館内を回った。そんな時、ふと目に止まった本が、水野敬也著『夢をかなえるゾウ』だったのだ。何の気なしに読み進めると、ページをめくる手が止まらなくなった。次第に、周りの目も忘れて涙が溢れた。私はどこかでこう言ってくれる何かを待っていたのだ。誰かに背中を押して欲しかった。想いを共有できる場所が欲しかったのだ。迷い悩んでいる時、一番最初にそうしてくれたのが、この本だった。私は『夢をかなえるゾウ』シリーズを全て読み、覚悟を決めることができた。私はこの道で行く、と周りにも言えるようになり、いろんな人に会い、話を聞き、興味のあるイベントにもたくさん参加するようになった。脇目も振らず、ただ自分の決めた意志に向かって行動していた。
 
『夢をかなえるゾウ』という本に出会って、私の人生は大きく動き出した感じがする。そういうのが人生のターニングポイントと言えるのかもしれない。今まで、眠っていた思いがはち切れて、どんどん外に出ていった感覚もあの時は確かに感じた。
 
そもそも人生に正解も不正解もないし、正しいも間違っているも自分では分からないし、誰に分かるものでもない。
 
だから今でも、あの時の選択が正かったのか分からないし、だからこそ不安になる。若気の至りだったんじゃないかと心が揺らぐことも多い。
あの時もう一方の決断をしていたら、どんな人生を歩んでいたんだろう?
あの人と結婚して子供産んで幸せに暮らしてたのかな。
というか、今こうなるなら、あの時やっぱりああしておけばよかったのに、なんで自分こうしなかったんだよ。
 
そんなふうに考えてしまうことだってある。
 
私は時折自分の手の平を見る。そして想像する。
あと20年もすれば、50歳。その時にどんな大きな決断に迫られるのか。
けれど、人生は1日1日の積み重ねでしかないというのは、変わらない事実である。だったら私はその時に決断を誤ることなく、するりと超えられるように今を頑張って行くしかないとのだという回答にたどり着く。
ある手相占い師が言っていた。
 
「手相はどんどん変化して行きます。あなた自身の行動によって変わっていくのです。だから、今良くないとしても、大丈夫、安心してください。自分次第で、手相も運命も変えられるんですよ」
 
 
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2019-04-01 | Posted in 週刊READING LIFE Vol.26

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