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週刊READING LIFE Vol.26

転機は天真爛漫な笑顔とともに~5歳の少女が教えてくれた私の生きる意味~《週刊READING LIFE Vol.26「TURNING POINT〜人生の転機〜」》


記事:坂田光太郎(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

転機というものは唐突に訪れてくる。
 
当時24歳の私も、まさかあのバスツアーに参加したことで転機に出会うとは思わなかった。
参加というのは語弊があるかもしれない。私はそのバスツアーにスタッフとして参加した。
もっと詳しく言えばそのツアーを運営する団体にボランティアとして登録しており今回の「ぶどうの苗植え体験ツアー」に声がかかった。
 
私は、写真係に任命された。参加者と距離を縮めて欲しいとの運営者の心遣いで私がカメラを持つことになった。
初めての一眼レフに戸惑いながらなるべく皆さん満遍なく撮れるようにバスを動き回った。やはりカメラがあることで皆さん気軽に私と接してくれた。
そんな中でもやけにカメラに食いついている人がいた。
子供だ。
 
今回のツアーには、ワインを楽しむ大人だけではなく、ぶどうを植える貴重な体験を楽しみに参加したファミリーもいた。
歳は5歳ばかりの女の子。おませな年頃の女の子はカメラが大好物なようで、私が彼女の目の前を通ると「撮って、撮って!!」とせがんでくる。
仕方がないのでレンズを向けると驚いたことにピースではなく、自分専用のポーズをするのだ。自分がどう取られれば可愛く見えるのかしっかりと計算しているのだ。やはり、子供でも、女は女だと思った。
あとあと運営者から「子供の写真が異様に多い」と言われた。
 
そりゃそうだ。
 
すっかり女の子とも、参加者とも仲良くなった頃バスは、山梨のぶどう農園に到着し、早速農園に向かった。
農園の方々の説明を聞き、苗植えを開始する参加者たち。
私はカメラマンとして、その体験している姿を撮っていると、案の定、女の子がより付いてきた。
 
「あーお兄ちゃん! こっちで植えてるから撮ってよ〜!」と。
私は「はいはい〜」と女の子とお父さんが植えている場所まで移動した。
すると「あれ?」と女の子は私の顔を不思議そうに見た。
そして「なんで、お兄ちゃんの歩き方、変なの?」と聞いたのだ。
そう、私の足には障害があり、他人より内股に歩いてしまう傾向があった。
女の子にとっては初めての遭遇だったのだろう。
障がい者とふれあうというもの自体。
だからこそ彼女はまっすぐに透き通った目で私に訪ねてきたのだ。
「こんな時いつも上手い返答ができればかっこいいのに」と思う。
あの時も大した言葉を返せなかった。
 
その後も彼女の問いの答えを探してみたが、明確な回答を頭の中で探すが、どう説明すれば良いのか悩んだまま無情にも苗植えが終わり、ワインの試飲会も終わった。
そしてバスはぶどう農園を後にした。
 
その答えが見つかるのは、ツアーから数日後の話である。
ツアーの反省会も兼ねて主催者と食事に行った時の話だ。
「あ、そういえばあの女の子のお母さんがありがとうって言ってたよ。いっぱい遊んでくれてって」
たしかにツアー中あの子とずっと遊んでいた気がする。
帰りのバスの中でも参加者の多くが寝静まる中、彼女と私だけ起きて手遊びなどをしていた。彼女も楽しそうに遊んでいたが、恐らく私も当然楽しかった。
「いえいえ、僕の方が楽しんでいたんで」
「あ、なら良かったよー。あとお母さんがこんなことも言っていたよ」
「え? なんですか?」
「ツアーが終わってからあの子とお母さんが、買物に行ったんだって。
そこで君と同じような歩き方をしている人がいたんだって。その方を見て
『あ、この前楽しく遊んでくれたお兄ちゃんみたいだね! 』って言ったんだって。普通自分と違う人を見たら尻込みしちゃうのに君と遊んだ思い出が強くってなにも変だなと思わなかったんじゃないかな。多分あの子は君と遊んだ思い出が心に残っている限り、偏見とか持たない子になると思うよ」と教えてくれた。
「え! そんなただ遊んでいただけですよ」
「それでも、人一人の考え方を君は変えたんだよ。それは誰もができることじゃないし、すごいことなんだよ」
私がそんな人を変えることができるなんて今まで考えたこともなかった。
それどころか、自分という人間がなにをやりたいかすらもわからない未熟者なのに。
「そういう意味でも『ありがとう』ってお母さんが言っていたよ」
と主催者は伝えてくれたがお礼を言わなくてはいけないのは私の方だ。
私はこの身体を恨んではいない。だが、この身体で何ができるのかとずっと悩んでいた。
だからこそボランティアに参加したのだ。
この身体でなにができるかを模索していたのかもしれない。
それはきっと私だけではない。
東日本大震災の後、ボランティアへの関心が高まり参加者が急増したらしい。
「ボランティアは偽善だ」など当時ネット等でボランティアに異議を唱えていたが私は偽善とかではないと思う。
むしろ、もどかしかったからあれだけの人が参加したのではないだろうか。
「東北の人が困っているのに私は何にもできない」というもどかしさを持った人が、あれだけの人たちがボランティアに参加したのではないだろうか。偽善とかではなく、己の存在を確かめるために参加した方もいると思う。
人は時より、自分の存在について悩む生き物なのかもしれない。
だからこそ、今の若者「社会貢献」というものに関心が高いのだ。
 
私も自分の存在を確かめたく、ボランティアに参加した。
「俺は、何がやりたいんだろう?何ができるんだろう?」と。
その答えをくれたのは5歳の女の子だった。
私の転機となったのは天真爛漫なあの笑顔だった。
 
それから、私はイベントの主催者に「子供に関わるイベントに多く参加させてほしい」と伝えた。
なにも私を通じて偏見のない子になってほしいなんて大層なことを思っていない。
ただ私と関わることで1人でもあの子と同じ考えをしてくれる子が現れてくれたら嬉しい。ただそれだけだ。
 
転機というものは唐突に訪れてくる。
私もまさか5歳児に自分の可能性を教えてもらえるとは思わなかった。
「俺はなにをやりたいんだろう?」その答えに近道はない。
だが、様々なことを行い、注意深く1日1日を見つめ直すとその答えに早くたどり着くことをあの子から学んだ。
 
あれから3年、私の人生にとってはすごい大きな転機となった。
あの子は覚えているだろうか。
君の笑顔が私の転機になったことを。
今後会うことがあるかはわからない。
今の私にできることといえば、子供と遊び、自分と違う人間を怖がらなくって
良いと伝え続けることだけだ。
それしかできないが、その行動が子供達の転機となれば嬉しい。
あの子はきっと優しい大人になるだろう。
もし、大人になった君にもう一度会うことができたら私は伝えたい。
「私の転機となってくれてありがとう」と。

 
 

❏ライタープロフィール
坂田光太郎(READING LIFE 編集部ライターズ倶楽部)
東京生まれ東京育ち
10代の頃は小説家を目指し、公募に数多くの作品を出すも夢半ば挫折し、現在IT会社に勤務。
それでも書くことに、携わりたいと思いライティングゼミを受講する
今後読者に寄り添えるライターになるため現在修行中。。。

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2019-04-01 | Posted in 週刊READING LIFE Vol.26

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