週刊READING LIFE vol.56

2020年はヤスアキジャンプが日本を揺らす!《週刊READING LIFE Vol.56 「2020年に来る! 注目コンテンツ」》


記事:不破 肇(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

「この舞台に帰ってこられて本当に良かったです」
 
2017年横浜DeNAベイスターズの山﨑康晃選手は、ファンの前で憚りなく泣いた。
 
山﨑康晃と言えば、今や球界を代表するクローザーで、横浜DeNAベイスターズの守護神。
そして、彼の代名詞といえば、球場に登場する時に沸き起こるのが「ヤスアキジャンプ」だ。
Zombie NationのKernkraft 400が掛かると、球場がジャンプを始める。
独特の打ち込みのリズムに合わせて、
 
「おおおおお、おおおおおおお、おっおおおお!」
 
「ヤ・ス・ア・キ!」
 
とジャンプしながら一斉に叫ぶ。球場が揺れる。
ここで一気に球場のボルテージが最高潮になる。
若くして、チームのクローザーを任されたこの若者は、いつも試合を決める重責を担う。
2014年ドラフト1位で横浜DeNAベイスターズに入団。
2015年に1年目ながら37セーブ、7ホールド、防御率1.92で新人王、2018年、2019年と2年連続でセーブ王に輝いた。
 
しかし、そんな彼も順風満帆では無かった。
2017年4月13日と14日に阪神タイガース戦の救援に失敗してから、ラミレス監督からクローザーからセットアッパーに変更を告げられた。
セットアッパーとは、簡単に言えば中継ぎの中でもクローザーにつなぐ役割のことを言う。
クローザーは舞台でいえば主役、セットアッパーは脇役と行ったところだ。
しかも、負けている時での登板する可能性もある役割なのだ。
新人から華やかな舞台に立っていた山﨑選手にとっては、これは屈辱だったと思う。
しかし、彼は当時次のように言っている。
 
「こうなったのは僕に責任があります。そこはしっかりと自覚をもって取り組んでいきたいし、これまで以上に万全な準備をして挑んでいきたい。9回とか7回とか関係なく、ラミレス監督とコーチと約束したことを、人間として全うしたい」
 
結果、シーズン途中でクローザーに復帰するのだが、その際にファンの前で思わず泣いてしまったのだ。健気な言葉とは裏腹に、心に期するものは相当なものだったと思う。
 
さて、その山﨑選手が所属するDeNAベイスターズは今や球界を代表する人気球団になった。どのくらい人気かと言うと、チケットが球界で一番取りにくいぐらいなのだ。
しかし、昔はそんな球団では無かった。Bクラスが定位置で当日にふらっと球場に行ってもいつでも試合が観れたのだ。
それが、球団経営がDeNAに変わってから、斬新な発想でファンを熱狂させている。その熱狂の裏側には、球場周辺を盛り上げるだけでなく、横浜を丸ごと熱狂に巻き込む「ボールタウン」構想だ。とにかくファンをトコトン楽しませようという試みが目白押しなのだ。
 
球場があるJR関内駅は、駅舎の入り口がベイスターズのキャップが飾られ、ポスターが貼られ、ベンチは選手の背番号、発車メロディは球団歌だ。
試合にも工夫がされ誰もがスターになれるというコンセプトで、スターナイトという特別な日が設けられる。この日だけの特別ユニフォーム付きのチケットを発売、そして、ドローン100機による宇宙空間ショー。
また球団独自のビールを地元メーカーと開発、軽食も「ベイメンチ」というオリジナルがある。
座席も多彩で、地元日産自動車とタイアップした「日産スイート」は横浜ベイシェラトンのシェフが料理を振る舞う特別室や、ビアサイドバーがある「スカイバーカウンター」や座敷席「リビングBOX」もある。
そして、球場の真向かいにある横浜市庁舎は建て替えのため移転が決まり、その跡地を開発する星野リゾートなどと共同で立地を活かし、無料の観戦アリーナを設ける予定など、街全体がドンドンどんどんと青色に染まってきてる。。
 
さて、そんな横浜DeNAベイスターズだが、1998年のリーグ優勝と日本一になって以来、タイトルがない。しかし、今年はクライマックスシリーズで3位の阪神タイガースに敗れたものの、リーグ戦2位でシーズンを終えた。
クライマックスシリーズでは本拠地開催となったのだが、熱狂的な阪神タイガースファンを押さえて、横浜スタジアムはほぼ青一色に染まり異様な光景が広がった。
シーズンの動員は200万人を突破し、球団として過去最高となった。
そして、チーム力が増した現在、ファンの後押しで来年リーグ戦で優勝する可能性も秘めている。
その盛り上がりの中、実は2020オリンピックの野球の試合が準決勝、決勝を含む多くの試合が、横浜スタジアムで開催されることが決まっている。それに伴い、横浜スタジアムの改修工事が85億円をかけて進んでおり、2020年には収容人数が35,000人になる。
今年は右翼席がすでに増設された。このようなインフラの後押しが、ベイスターズ人気を更に加速させて行くだろう。
 
しかし、そのベイスターズ人気は分かるが、なぜ山﨑選手がそこまで人気があるのかというと、それは彼の出で立ちにあるのではないかと考える。
人生の転機は、小学3年生の時の両親の離婚。その際に、家庭を顧みなかった父ではなく母と生活することを決めた。1DKのアパートで母、姉との三人暮らしだったそうだ。
 
それから厳しい生活の中でもプロ野球選手になって、家族を楽にしたいという強い思いを持って野球を続けた。野球の強豪校帝京高校からプロを目指し、ドラフト会議を待つが、どの球団からも名前を呼ばれなかった。
その際、プロを断念するが母がそれを許さず亜細亜大学に進学させた。
その甲斐あって、彼は4年後のドラフト会議で1位指名でベイスターズに入団したのだ。
ファンは、彼に自分を照らし合わせ、自分たちのヒーローとして応援をするのだ。
そして、冒頭にあったように、プロ生活でも決して順風満帆では無かったその野球人生にも共感するのだ。
この彼のヒストリーは何もベイスターズファンだけのものではなく、野球を愛する全ての人にとっても「夢を叶える」ということの代名詞として無条件に応援が出来るのだ。
 
私とのインタビューでは、
「お母さんのことが大好きです」と淀みなく答えてくれた。
彼の年代でこれだけ胸を張って家族に対する愛情を公に表現することは恥ずかしさなどが伴ってなかなか言えたものではない。このようなところもファンを惹きつける魅力だと感じる。
 
そして、プロ野球選手としての現在の地位については、
 
「クローザーというポジションでチャンスをもらえなかったら僕は今は無かったと思っています。だからそのチャンスを頂けたことをとても感謝しています」
 
とも語った。とても謙虚である。
ベイスターズの広報の方から、若くして成功すると、人が変わってしまったりして横柄な態度やサインをしなくなったりする選手もいる中で、彼はいつも謙虚でサービス精神が旺盛なのですとお話を伺った。
 
彼の魅力は投手としての活躍もさることながら、ツイッターのフォローワーが球界1で72万を超えていることから、その人柄が人気の秘訣なのである。そして、その人柄はマウンドにも滲み出ていて、ファンを魅了するのである。
 
まだ来年の日本代表のチームメンバーは発表されていないが、山﨑康晃選手は現在日本代表合宿に召集されている。
昨年行われた日米野球では、クローザーとして登板し、ベイスターズファンのみならず東京ドーム全体が「ヤスアキジャンプ」に酔いしれた。その球場の盛り上がりは尋常では無かった。
 
さて、2020年余程のことがない限り、彼は来年のオリンピックの野球日本代表に召集されるだろう。
日本の野球は世界レベルだ。
しかも、ホームでの開催は誰もが予想の付かない力を発揮する。
それはラグビーワールドカップ2019で証明された。自国開催という強みは時として信じられない奇跡を生む。
また、その時に何かしらのドラマがある。
ラグビー日本代表チームが「ビクトリーロード」で一致団結し、日本国民がそれを歌った。
侍ジャパンには、山﨑康晃がいる。そして山﨑選手には「ヤスアキジャンプ」という球場の雰囲気を一気に変えるパフォーマンスが味方に付いている。
これだけ条件が揃っていれば、どんな強豪にも立ち向かえるはずだ。
 
そして、願わくば野球の日本代表がオリンピック2020で優勝を世界一になり、横浜DeNAベイスターズが日本一になる。
 
その時のマウンドに立っている男が、山﨑康晃であって欲しい。
 
そんな願いを込めて最後に「ヤスアキジャンプ」で締めくくりたいと思う。
 
「おおおおお!おおおおおおお、おっおおおお!」
「ヤ・ス・ア・キ!」
 
 
 
 

◻︎ライタープロフィール
不破 肇(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

日大芸術学部写真学科卒業
学生時代カメラマンを志すも、サラリーマンになる。
現在は広告会社を経営しているが、
50歳となった今頃、昔の志の燻った火が灯り初め生き方を模索している。

http://tenro-in.com/zemi/102023

 


2019-11-04 | Posted in 週刊READING LIFE vol.56

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