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週刊READING LIFE vol.58

あなたは、何に怒りますか《週刊READING LIFE Vol.58 「大人」のリアル》


記事:射手座右聴き(天狼院公認ライター)
 
 

「あははは。あなた、何よ、この芸名。どうせこれ本名じゃないんでしょ」
その女性はいきなり言ってきた。
はあ? 芸名とはなんだよ。
 
なんで、初対面の人に、
こんなことを言われなきゃならないのか。
 
「いや、本名ですよ」
 
私は免許証を見せながら、こう言った。
頭がカーッとするのがわかった。
拳に力が入ってきた。
手がぶるぶると震えた。
 
私の本名は、山本可能(やまもと かのう)という。
可能という名前は珍しがられることが多い。
「失礼ですが、本名ですか」
などと聞かれることはある。
 
しかし、この女性は違った。
「何この芸名」と断定してきたのだ。
随分失礼で、怒りがこみ上げてきた。
 
さらに彼女は言った。
「何の仕事してるの」
「広告のコピーとか書いてます」と答えると、彼女は言った。
「あたし、日本で一番有名なコピーライターなのよ。
あなた、どんな仕事してるの?」
すごいマウンティングだった。
名刺を見ると、キャリアコンサルタント、と書いてある。
ちょっと驚いた。
私もキャリアコンサルタントの資格は持っている。
簡単に言うと、仕事やキャリア形成に悩んでいる人の支援をするための資格だ。
そんな資格を持つ人が、いきなりマウンティングを仕掛けてくるのだ。
「そうですね。大手のメディア企業やゲーム会社の仕事をしています」
と答えてみた。
「ふうん。私は政府の仕事もしているのよ」
なんだか、マウンティング合戦になってきたぞ、と思った時に、彼女は去っていった。
 
なんて失礼な人だ。もう少しでキレそうだった。が、踏みとどまったのには理由があった。彼女の名刺を見たとき、ハッとしたのだ。
その会社には、自分のお世話になった人が働いていたからだ。
ここで喧嘩をするのは、簡単だ。しかし、知人の会社の社長が相手というのは、気が引けた。腹が立つやら、悔しいやら、もやもやを抱えながら家に帰った。
 
なぜ、あんなに頭にきたんだろう。
失礼、と感じたから、だけではなかった。
 
そう。怒りポイントはたくさんあった。
このことに気づかされたのは、ある研修でのワークだった。
その研修は、「怒りをコントロールする方法」を「学ぶ」だけでなく、
「人に教えられるようになる」ための研修だった。
 
50人近い人が、この研修に参加していた。
年齢、性別はバラバラだった。
大手企業のビジネスマン、研修講師、医療系の方、社長、公務員、教師、自営業、フリーランス。
様々な仕事の方が来ていた。
 
最近、頭にきたことを、書き出してみるワークの中で
冒頭の「芸名事件」を思い出したのだ。
 
いきなり名前をいじられたから。
本名なのに、芸名だと言われたからか。
あざとく芸名をつけたのだろうと思われたからか。
芸名と思われた上に、バカにされたからか。
 
考えていくうちに、怒りの出発点に、ひとつのことが浮かんできた。
 
それはシンプルな話だった。
 
なぜ、いきなり芸名と断定することが失礼なのか。
そこにヒントがあった。
 
いままで出会った人にはない、コメントの仕方だったからだ。
 
「失礼かもしれませんが、これ、本名なんですか」
何百人、いや、何千人の人に、こう言われてきた。
その中で、私に基準ができていたのだった。
 
「人に名前のことを聞くときは、『失礼ですが』と断りをいれる『べき』だ」
と言う基準ができていたのだ。
 
仕事名刺交換で、役所や病院等の公的機関の窓口で、私たちは名前を大切に扱う「べき」だ、ということを学習している。冒頭の女性は、その「べき」の地雷を上から、どーんと踏みつけたのだ。
私の怒りはそこからスタートした。
 
名前を大切に扱われなかったところを出発点にしながら、怒りは増幅していった。本名を芸名だと言われ、芸名と思われた本名をバカにされ、といった具合である。怒りの連鎖は、新たな「べき」を次々と踏んでいった。
人の名前を断定しない「べき」。人の名前をバカにしない「べき」。
人の職業に張り合ってこない「べき」。初対面であろうとなかろうと、マウンティングをしかけない「べき」。キャリアコンサルタントを名乗るなら、張り合うのではなく、人の仕事に敬意をもつ「べき」。
こうして、怒りが蓄積されていったのだった。
 
今回気づいた、私が思っている「べき」は、みなさんに共感してもらえる「べき」が多いと思う。それと同時に、ほかの人よりも、自分がこだわる「べき」があったことにも気がついた。
マウンティングをしかけない「べき」の部分だ。
会社を辞めて、7年間、フリーランスをしてきた間に、ものすごくマウンティングに敏感になっていた。
 
仕事上の名刺交換は問題なかったが、異業種交流会などでの名刺交換は、きつかった。なにかと軽んじられる気がしていた。
 
「広告を作る仕事をしています」
というと、
「具体的に、どんな関係のお仕事ですか」
と聞き返されることが多かった。
 
どうやら、みなさん、イメージしにくいようだった。
「ふーん。デザイナーなの」
みたいな返しをされて、そこで会話が終わることも多かった。
 
実際のところ、私の仕事は説明しにくかった。
 
あるときは、TVCMから印刷広告まで、全体の設計と企画、それから予算チェックなどまでやる。またあるときは、キャッチコピーをひとつ書いてほしい、と言われることもある。WEBサイトを作るときもあれば、パッケージデザインのディレクションもする。ミュージックビデオのシナリオから撮影、編集までに関わることもある。
そんな自分の仕事を説明するのが、億劫で、ついついさぼってしまう。
「広告屋です」とか冒頭のように、「コピーライターです」などと
言ってしまうことが多い。
さらに、弱点はあった。マウンティングが嫌い=自分を低く説明してしまう、という問題だった。
 
そこで、ハッとした。
 
そうだ。今後嫌な思いをしないための方法は2つある。
ひとつは、「自分が有名になること」だ。いや、しかし、これは現実的ではない。
「有名になろう」と思っても有名にはなれない。何かしら、世のため、人のためになることを突き詰めることが先だ。結果として、有名になれるのだろう。
 
ふたつめは、自分でもできること、だった。
「自分のことをきちんと説明できるようにする」ことだった。
自慢ではなく、マウンティングではなく、自分のことを魅力的に表現することが必要だ。それが相手に伝われば、冒頭のようなことは少なくなるかもしれない。
 
仮に出だしで、失礼を受けたとしても、それを覆せるような自己紹介を
作ればいい。
そう、自分が失礼を受けるのは、自分が「失礼な扱いをしてください」という雰囲気をだしてしまっているから、かもしれない。
 
怒りを少なくするには、自分が大切に扱われるように、振舞うこと。
自分が大切に扱われるようにするには、まず、自分自身を大切に扱うこと。
 
それは自己紹介もそうだし、自分が何の仕事をし、何を食べ、何を着て、どこに住むか。すべてが、自分を大切にすることに関わってくるのではないか。
 
そう考えると、「芸名事件」の怒りは少し消えていった。
 
明日からは、少しだけ、胸を張ってよい姿勢ででかけよう。
 
あなたは、何に怒りますか。
その怒りに隠れている「べき」はなんですか。
考えてみたら、少し、何かが変わるかもしれません。

 
 
 
 

◻︎ライタープロフィール
射手座右聴き (天狼院公認ライター)

東京生まれ静岡育ち。新婚。会社経営。40代半ばで、フリーのクリエイティブディレクターに。退職時のキャリア相談をきっかけに、中高年男性の人生転換期に大きな関心を持つ。本業の合間に、1時間1000円で自分を貸し出す「おっさんレンタル」に登録。4年で300人ほどの相談や依頼を受ける。同じ時期に、某有名WEBライターのイベントでのDJをきっかけにWEBライティングに興味を持ち、天狼院書店ライティングゼミの門を叩く。「人生100年時代の折り返し地点をどう生きるか」「普通のおっさんが、世間から疎まれずに生きていくにはどうするか」 をメインテーマに楽しく元気の出るライティングを志す。天狼院公認ライター。
メディア出演:スマステーション(2015年),スーパーJチャンネル, BBCラジオ(2016年)におっさんレンタルメンバーとして出演/blockquote>

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2019-11-18 | Posted in 週刊READING LIFE vol.58

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