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週刊READING LIFE vol,108

「先生、面白いこと言って!」の裏側には《週刊READING LIFE vol.108「面白いって、何?」》

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2020/12/21/公開
記事:記事:黒崎良英(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
十年間ほど教職を続けていると、生徒から無茶ぶりを強いられることが、何度かあります。
いろいろありますが、最も困るのが、
 
「先生、おもしろいこと言って!」
 
です。
 
何が悲しくてそんな無茶ぶりに答えなければならないのか。
というか、唐突に何を言い出すのか、この子は……
しかも、この理不尽なリクエスト、意外と振ってくる生徒が多い。
 
いや、待ちなさい。君たちは先生に何を求めているのかね? それはテレビの中のお笑い芸人か、クラスの面白おかしい人気者にでも言ってくれ。
 
心の中で瞬間的に様々な突っ込みが出てきます。
 
が! ですがっ!
 
私とて教師のはしくれ。ここで慌てるような小さな器ではありません。
 
私は咳払いを一つ(もちろんマスクをしています)、生徒たちの無茶ぶりに、いわゆる鉄板のギャグで、冷静に答えるのです。
 
「犬が西向きゃ、尾は東。その犬白けりゃ尾も白い……おもしろい? HAHAHA!」
 
この見事なギャグに、生徒たちは、ぐぅの音もでません。
目をしばたたかせた後、やっと一言、
 
「は?」
 
と感嘆の一言を発する……わけありませんね。
呆れて物も言えず、ただポカンとするだけです。
 
いや、それ以前に伝わっていない。
生徒たちの目は如実に語っています。
 
「何を言ってるんだ、こいつ」
 
悲しいかな、生徒たちにはこの高尚なギャグを読み解くセンスが備わっていないのです!
くっ! やはりあふれる知性を制御することは困難さを伴うものか……
 
いえ、すみません。くだらなすぎるだけですね。
解説が必要なギャグほどつまらないものはありませんが、言った後で解説すると、
 
「ああ~、なるほどね~」
 
と言って去っていくのです。
 
思えば、教師というものは悲しい職業です。
その言葉一つ一つに面白さを求められます。
 
しかし、自ら考えた渾身のギャグは通じず、
 
「ここはこういう意味だから笑うところだ!」
 
と自ら解説してしまう始末。
私も何度苦渋を味わったことか……
 
一方で、意図しないところで笑ってくれたりもします。
 
いつだったか、言葉の意味について説明したときに、
 
「これは“笑止”。つまり笑いが止まらぬわ! という意味ですねー」
 
と言った時に、爆笑されました。確かにちょっと口調を変えて言いましたが……そんなに面白いでしょうか……どこにその要素があったのか、未だにわかりません。
 
若い生徒たちと、中年である私。世代も、育った環境も違うでしょう。
そりゃあ、笑いのツボだって違うはずです。お父さんの親父ギャグが通じないのも頷けます。
 
で、あるならば、「面白いこと」に、「これだ!」と答えられる定義や具体例というものは、なかなか提示することができないはず。
まあ、だからこそお笑い芸人という人々は苦労しているわけでしょうし……
 
ただ、その不確定なものの中にも、一つだけ言える、前提があります。
 
それは「伝わっている」ことです。
面白くないと思っている生徒は必ずこう言います。
 
「何言っているかわかんない」
 
そうです。そのギャグの意味が伝わっていないのです。
これは面白いとか面白くないとか、それ以前の問題です。
同じ土俵に立っていなければ、それは意味のない言葉の羅列です。
何という悲劇でしょう!
だからこそ、「犬が西向きゃ~」という高尚なギャグは通じなかったのです。
え? これは意味がわかっても面白くない? スミマセン……
 
そう、伝わらない、わからない。だからこそ、面白くない。いや、面白いのかどうかわからない。
 
思い出してください。学生の皆さん、そしてかつて学生だった皆さん。
 
学校の授業は「面白い」ですか? 「面白かった」ですか?
 
おそらく、ほとんどの答えが NO! だと思います。
それもそのはず、先生の言葉が伝わっていないからです。内容がわからないからです。
 
逆に、授業を面白いと思った方。その内容、覚えているのではないですか?
そして、そこで学んだことがいささかでも身についているはずではないですか?
 
おおよそ、学習とはそのようなものです。
すなわち、楽しみながら、面白いと感じながら取り組むと、内容が身についていくものです。
 
もっとも、この「面白い」は、「わっはっは! おもしろ~い」という意味ではなく、「そうだったのか、実におもしろい!」の方の面白い。です。
とはいえ、その根本に流れるものは同じこと。「伝わっている」ということです。
 
教科書や参考書の文章、教師の解説、それらが伝わっているからこそ、「面白さ」を感じることができるのです。
 
面白さを感じることができたら、次を知りたい、もっともっと知りたい、楽しみたい、と、いわゆる学習意欲も湧いていきます。
 
中国の聖人と言われた孔子も、「それを好む人は、楽しむ人におよばない」と言っています。
 
つまり、学習効果を上げるのに一番良い方法は、「対象を理解して楽しむこと」と言えるようです。
 
何だか当たりまえのことを言っているようですが、これがなかなか難しい。
 
教える方にしても、教えられる方にしても、そこまでいくのには、相当の工夫と時間が必要になってくる。
 
先生方も、日々様々な工夫をして、授業に臨んでいます。
多忙すぎる中で、なんとか良い授業、生徒にわかる授業ができないものか、と、少ない時間の中でも頭をひねっています。
 
そして、こうも思っています。
 
「何とか面白い授業ができないものか」と。
 
実際、面白い授業を行う先生はいらっしゃいます。
私が現役学生だった時代に出会った、教師の方々の中にも、魅力的な授業を行う先生はいらっしゃいました。
 
雑談が面白かったり、単元に関係した豆知識が面白かったり、単純に性格が面白い先生だったり……
皆さん、多くの工夫をされていたのだと思います。
 
わかる授業であると同時に、面白い授業にしたい。
教壇に立ったことのある人間ならば、必ず思ってしまいます。
 
しかし、ずばり、「面白い授業」にするにはどうするべきか。
これに対して、私はもちろん、多くの先生方も、答えを出せていないと思われます。
 
わかる授業を目指すことは、ある程度方法があると思います(それでも難しいのですが)。
 
しかし、その上で面白さを追求するというのは、かなり至難の業になるでしょう。しかたなく、私はくだらない、しかし渾身のギャグで興味を引くという小賢しい手を使うしかなくなるのです。
いや、結果つまらないとしても、です。
 
ですから、少なくとも私ができることは、「伝わる」という部分を、もっと追求していくことだと考えます。
少なくとも、
 
「何言っているかわかんない」
 
を払拭していくことだと考えます。
 
もはや、生徒たちは、「授業はつまらないもの」「耐えるもの」という認識ができてしまっています。
 
ならば、伝わることだけは達成したい。
理解までいかなくてもいい、「へえ、そういうことなのね」のだけでも、いや「へえ」だけでもいい。
伝わったことで、彼ら彼女らの脳裏に、一つでも多くの知識や考えを、植え付けられればいい。
 
その結果、「面白い!」はついてくるものであると、信じてやっていく他にないのでしょう。
 
声に出さなくとも、毎回、「自分の授業はつまらないなぁ」と落胆の言葉が心中で出てきてしまいます。
きっと、生徒もつまらないと思いながらも、しかし、何より自分自身のために、必死でついていこうとします。
 
もっと面白くならないかなぁ、と思いながらも。
 
きっと、
 
「先生、面白いこと言って!」
 
の裏には、
 
「先生、面白い授業にして!」
 
という、生徒たちにとっても悲痛な叫びが隠れているのでしょう。たぶん。
 
だからこそ、その無茶ぶりがあるたびに、私は背筋が凍る思いをしながらも、しかし、教師としての襟を正される気持ちで、こう答えるのです。
 
「犬が西向きゃ……」
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
黒崎良英(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

山梨県在住。大学にて国文学を専攻する傍ら、情報科の教員免許を取得。現在は故郷山梨の高校に勤務している。また、大学在学中、夏目漱石の孫である夏目房之介教授の、現代マンガ学講義を受け、オタクコンテンツの教育的利用を考えるようになる。ただし未だに効果的な授業になった試しが無い。デジタルとアナログの融合を図るデジタル好きなアナログ人間。趣味は広く浅くで多岐にわたる。

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2020-12-21 | Posted in 週刊READING LIFE vol,108

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