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週刊READING LIFE vol,108

今の「キン肉マン」が教えてくれた、面白いコンテンツの秘密とは?《週刊READING LIFE vol.108「面白いって、何?」》

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2020/12/21/公開
記事:タカシクワハタ(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
このコロナ禍の中、「鬼滅の刃」が大ブームとなっている。
最近刊行された単行本の最終巻は200万部を超えるベストセラーとなり、
映画「鬼滅の刃 無限列車編」も史上最高級の興行成績を見せているということは皆さんもご存知だろう。
「面白いのはわかっているんだけど、見るタイミング逃しちゃったんだよね」
などと斜に構えていた私も、ある日うっかりアニメの第一話を見てしまい、そのまま最後まで一気に見てしまった。悔しいけどそれほど面白い作品だった。
 
「鬼滅の刃」がなぜ面白いのかについては多くの人が独自の論評をしているのでここでは割愛したい。ただ一つ、この作品がここまで多くの人に受け入れられているのは「ジャンプ漫画だから」というのがあるだろう。
「ジャンプ漫画」とは、「週刊少年ジャンプ」で連載された漫画のことである。おそらく誰もが一つは「ジャンプ漫画」に夢中になったことがあるのではないだろうか。
例えば僕らの世代であれば、「北斗の拳」や「キャプテン翼」、「ドラゴンボール」だったであろうし、少し若い子なら「スラムダンク」や「ワンピース」なのだろう。どの漫画も、「勇気」や「友情」がキーワードとなり、仲間たちと大きな困難を超えていくというストーリー構成で全国の少年少女たちを虜にしてきたことはよく知られている。それと全く同じことが、現在進行形で「鬼滅の刃」で起こっているのだ。
 
さて、そんな「ジャンプ漫画」の中で、僕が最も好きな作品が「キン肉マン」だ。
1980年代に大ヒットし、「キン消し」などのキャラクターグッズが大ブームになった漫画で、僕らと同世代の人は、誰もが一度は耳にしたことのあるタイトルだろう。
「キン肉マン」は、キン肉星の王子である超人「キン肉マン」ことキン肉スグルが地球で怪獣や悪の超人と戦うストーリーだ。その戦いの中でキン肉スグルは多くの仲間に出会い、友情を通じて成長していくというジャンプ漫画の王道的な作品である。
 
先ほど「ジャンプ漫画」の中で一番好きな作品が「キン肉マン」、と書いたが実は「ジャンプ漫画の中」だけではない。あらゆる漫画の中で一番好きな作品こそ「キン肉マン」であり、僕は人生で大切なことの全てを「キン肉マン」の中で学んできたと言っても過言ではない。
例えば、競技中に列車にはねられそうになった子犬を助け、失格となってしまったテリーマンからは「人生には勝利よりも尊い行動がある」ことを学んだ。
また、ピンチの場面でもあえて無言で助けに入らず、仲間の成長を促すキン肉アタルの行動から、「友情は馴れ合いではなく、時には仲間を突き放す厳しさも必要である」ということ学んだ。このように「キン肉マン」は僕にとってはただの面白い漫画ではなく、いわば「人生の教科書」ともいえる存在でもあったのだ。
 
さて、そんな「キン肉マン」が今でも連載されていることはご存知だろうか?
「えっ?」
と思った方も多いかもしれない。
確かに少年ジャンプでの連載は1990年代に一度終了している。
しかしそれから20年が経った2012年、webで連載が再開されたのだ。
しかもこれは前回の時間軸のままの正式な「新シリーズ」である。
ファンとしてはこれ以上ないうれしい知らせのはずだった。
しかし、僕はこの新シリーズ再開が決まった時、少し懐疑的な気持ちを抱いていた。
「うれしいけれども、果たしてこれは面白いのだろうか」
 
これには理由があった。
実はこの連載再開の前、数年にわたって「キン肉マンⅡ世」という、キン肉スグルの息子が主人公の連載が行われていた。
この「キン肉マンⅡ世」がなんとも微妙な出来だったのだ。
誤解のないように言っておくが、決してこの「キン肉マンⅡ世」はつまらないわけではない。
ただ、読後感がもやもやするのだ。
例えば改心したはずの悪役が非常に救いのない結末を迎えてしまったり、
前作で出てきたキャラクターが時間を経て悪い方向に変化してしまったりと
悪い意味で読者の期待を裏切ってしまっていたからだ。
作品としてはまずまず面白いのだけれども、人生の教科書となるべき何かが抜けている。そんな作品だったのだ。
 
そのようなこともあり、僕は期待と不安の両方を抱えながら、この新シリーズを迎えていた。
それから数年がたち、今も僕は毎週日曜日の夜中にこの作品を読んでいる。
さて、僕は今現在この「キン肉マン」をどう思っているか?
少し気になるのではないだろうか。
結論を言えば「とんでもなく面白い」
本当に面白い。少年ジャンプ時代のキン肉マンと比べても遜色ないどころか、
遥かに凌駕しているくらいに面白いのだ。
これは僕だけの意見ではなく、多くの読者たちが同じような感想を各所で述べている。
 
いったい今の「キン肉マン」の何が面白いのか。
いろいろな理由が考えられるが、
一番は「キン肉マンが主役ではないこと」ではないだろうか。
実はこの新シリーズはキン肉マンが主役ではない。
いや、主人公ではあるのだが、メインスポットが当てられているのは彼ではない。
実際、新シリーズになってからキン肉スグルが戦ったのは3試合しかない。
では誰が主役なのか?
今回の主役は、前シリーズは脇役であった超人たちだ。
それも、前作では見せ場が少なかったり、敵役として倒されてしまったりした超人たちが活躍しているのだ。いわばスピンオフ作品を本編のストーリーの中で展開するという手法がとられている。そしてこの手法により、キャラクターがストーリーを作るための単なるパーツではなく、「キン肉マン」という世界の中で日常を生きている一人の人間(超人ではあるが)としてより生き生きとして描かれることになる。
 
例えば、本シリーズでは「キン肉マンビッグボディ」という超人が活躍する。このキン肉マンビッグボディは、前シリーズではキン肉マンのライバルとして出てくるのであるが、あっという間にやられてしまう。いわゆる「かませ犬」的なキャラクターであった。それゆえに、前回の連載以降30年近くにもわたってネタキャラとして扱われることも多かった。
しかし、本シリーズのビッグボディは違った。彼は直情的でありながらも自らの圧倒的なパワーを信じて愚直に戦う勇敢な戦士だったのだ。そして最後には勝利をもぎ取り、30年近くつきまとっていた汚名を返上することとなった。
さらに前作ではあまり触れられなかった、ビッグボディの仲間との関係性もしっかりと描かれている。
ビッグボディには4人の仲間がいた。しかしこの4人も前作ではビッグボディ以上に弱くあっという間にやられてしまっている。中にはわずか3コマで相手に瞬殺されてしまったキャラクターもいた。今の言葉で言えば完全な「モブキャラ」であり、そこには何の人格も見出すことはできなかった。しかし、本作ではビッグボディの窮地に彼らが助けに来る場面が描かれた。彼らはビッグボディという一人の超人を心から尊敬し、彼を守るためなら自らの命も惜しくないという義理堅い男たちであったのだ。そしてこれらの描写からは、ビッグボディが多くの人に慕われ、命をかけてまで共に戦うという仲間にも恵まれるような、キン肉マンのライバルとして相応しい人物としてキン肉マンの世界で生きていたことがわかる。
そんなキャラクターの「人生」が本シリーズの「キン肉マン」には詰まっている。本シリーズのキン肉マンはストーリーもさることながら、各キャラクターの「人生」が面白いのだ。
 
そして、僕はもう一つのことに気付かされた。
キャラクターにも人生がある。そしてその人生はそれだけで面白い。
どんなモブキャラであっても、そのキャラクターが生まれて今に至るまでの人生があり、その人生は同じものは一つとしてない。だから面白いのだ。
それは私たち自身にもいえるのではないだろうか。
多くの人は、ノーベル賞受賞者でも、金メダリストでも、著名芸能人でもない。
彼らのようなすごい業績やそこに至るまでの波乱万丈はエピソードがあるわけでもない。
だからと言ってそう言った「何者でもない」人々の人生が面白くないのだろうか?
そんなことはない。
あなたの人生は、綺麗事ではなく本当に面白い。
あなたがコピーライターになるまでのこと。
あなたが長崎に移住したこと。
あなたがインド哲学を専攻していたこと。
あなたの通勤経路に猫が住み着いた家があること。
そのあなたの経験が全部面白いのだ。
そして同様に僕の人生も誰かにとっては面白いものなのかもしれない。
だからこれからも僕は自分の人生を描き続けていきたいと思っている。
 
こうしてみると、僕はまた、「キン肉マン」に人生にとって大切なことを教えられてしまったようだ。
皆さんも、もし良ければ「鬼滅の刃」のついでに「キン肉マン」にも手を伸ばして欲しい。
面白い作品であることはもちろんのこと、
きっとあなたの人生の教科書になってくれるのではないかと思っている。
そして、読み終わった後にはぜひ自身の人生を語って欲しい。
それが、何よりも「面白い」コンテンツであるから。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
タカシクワハタ(READING LIFE 編集部ライターズ倶楽部)

1975年東京都生まれ。
大学院の研究でA D H Dに出会い、自分がA D H Dであることに気づく。
特技はフェンシング。趣味はアイドルライブ鑑賞と野球・競馬観戦。

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2020-12-21 | Posted in 週刊READING LIFE vol,108

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