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週刊READING LIFE vol,114

私の「本」とのつきあい方 《週刊READING LIFE vol.114「この記事を読むと、あなたは〇〇を好きになる!」》


2021/02/08/公開
記事:伊藤朱子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
私には読まないで置いてある本がある。なぜ、読まないのか……。
理由は簡単だ。まだ読む準備ができていないから。
 
読まないならば、買わなければいいと思う人もいるかもしれない。
でも、本は読むためだけにあるのではない。
読まなくても本は重要な役割を果たす。
 
私が読まない本の中の1冊に、アートディレクターの石岡瑛子さんの著書『私デザイン I DESIGN』がある。
ちょうど私が自分の将来について考えていたとき勧められた本だ。
私はなんだかモヤモヤとしていた。そして、その想い、考えをある先輩にぶつけた。私の話を聞いてくれた先輩は、石岡瑛子さんの生き方を知ってみたらどうか、と言って勧めてくれたのだ。
 
勧められてすぐに購入したものの、読まずに、本棚の中でもいつも見えるところに置いてある。
なぜ、この本を読まないのか。
いや、正確に言うと読む勇気がないのだ。
 
勧められた時には、勢いがあった。人生のヒントが欲しい、という気持ちもあった。でも、ネットで注文して届けられてその本を見て、私はそっと本棚にしまったのだ。
 
本の背表紙には大きく「I DESIGN」と書いてある。「私がデザインをする」そういう明確な意志がそのタイトルには現れていた。
 
私には、そのタイトルだけで十分だった。内容を読まずとも、その背表紙から受け取るメッセージが、私の気持ちを突き動かした。その背表紙を見るたびに、忘れてはいけないメッセージを受け取ることができる。
そして、私はまだそのメッセージの背景を知るほど、自分が整っていない。そんな気持ちでいる。
 
私は「本」が好きである。こう書くと、「本」を読むのが好きなのかと思う人も多いだろう。
もちろん、「本」が好きの中には、「本を読むが好き」、「読書が好き」も含まれている。しかし、正確に言えば、「読むのも好き」であって、私にとって「本」は読まなくても「好きなもの」なのである。
 
読まないで本を置いておくことを積読(つんどく)という。私には、本当に本を積み上げて積読しているものもあれば、買ってきて、きちんと本棚に入れてあるものもある。
実は、私は本を読むことよりも、これらを眺めることの方が好きなのかもしれない。
 
「眺めて、何が楽しいのか?」
読書好きな人に言われてしまいそうだが、本を眺めると色々と発見がある。
 
本棚に入っている本を眺める。
本棚には読み終えた本も、読んでいない本も一緒に並べられている。
本棚の本は、一応、行儀よく、背表紙をこちらに向け並んでいる。
本は私に背表紙でメッセージを発信してくる。
 
読んだ本からは、その内容を思い出すようにと、読んでいない本からは、ページを開くと広がる未知なる世界への誘いがある。
 
タイトルそのものが、強いメッセージを持っている場合もある。
そう、私が読まずに置いている石岡瑛子さんの本は、まさに、強いメッセージを発している本だ。
 
本を購入し、読まずに本棚にしまう時、私はほとんど無意識のうちに新しい本を並べる場所を選んでいる。読んでいない本も、読んだ本も区別なく並べる。後日、ふと思い立った時、時間がある時、朝、部屋を出ようとした時などに、この無意識に行っている分類を、私は眺めるのが好きだ。
 
「何で、この本はここに入っているのだろう?」
自分でも、なぜあの時にそこへ並べたのかわからない時もあれば、今の気分ならこちらかな、と思いながら並べなおすこともある。
少し時間が経ってその本棚を眺めると、自分が無意識に行っている分類や、その時の気持ちを感じる新しい発見もある。
本棚は自分の頭の中の一端や感情を表現しているようだ。
 
購入した本の中で、本棚に入れられない本もある。そう、まさに積読で、本はテーブルの上や棚の上に積まれている。
私は、「積んであるな」と感じることが好きだ。
積み重なっているそれが、パッと目に入る時、「何が積んであったかな?」
「先週買ったあれはどこかな」と思う。
 
そして、積んである本を上から1冊ずつ確かめる時、とても楽しい気分になる。
本の重さを感じながら、手にとって、そして表紙を眺める。本は私に語りかけてくる。
表紙はその本の内容を表しているものだと思うが、それを感じながら手に取り、そしてまた積み直したりするのだ。
 
積み直す時、本の順番を入れ替える時もある。
どっちの本が上か下かは、なんとなくその時の気分で決められている。一番上のくる本は、一番気になる本なのかもしれないし、一番、タイトルを目にしたい、自分が意識していたい本なのかもしれない。
「この次はこれを読もう」なんて思いながら、一番上に積む時もある。
仕事などで参考に読みたい本は、すぐに気がつくように一番上になっていたり、新しく購入した本は、一つの山の上に積み増されたり。
 
積まれた本を上から見て、一番上の本に気づかされることもある。なんとなく積まれていた一番上の本のページをめくったら、仕事のヒントを発見する時もある。
本棚に並べられているのと違い、その背表紙は横向きで認識しにくいものだけれど、そんな積まれた状態をぼんやり眺めていると、ひらめくこともある。
 
そして、幾つかの山が出来上がり、そろそろ違うところに移動かな、と思うと、その山は整理される。その山が解体されるのも、自然なタイミングが訪れるのだ。
 
こうやって、本棚に並べられたり、積読されている本の中から、幾つかの本はあるタイミングで読まれることになる。
 
ふと、最近、懐かしい気持ちになって『窓際のトットちゃん』を購入した。これは黒柳徹子さんの自伝とも言われるもので、私も子供のころ読んだことがあるものだ。この本も、購入はしたが、いつも本棚の見えるところに置いてある。
 
この本の表紙を見た時、細かい内容は思い出せなかったが、子供のころ「おもしろい」と思って夢中になった記憶が蘇った。
私にとってはそれで十分だった。今すぐ読み直したいわけではない。読み直したいタイミングがきたら、読み直せばいい。でも今は、そのタイトルを目にするたびに、子供のころに感じた感情を呼び覚ましてくれるだけで、十分なのだ。
 
本は読まなくても十分楽しめると思う。
本を買う時、もちろんその内容に興味があるから購入する。しかし、買うタイミングと読むタイミングが必ずしも一緒とは限らない。
そして、必ずしも一緒でなければならない、ということでもないと思う。
 
内容だけを知りたいなら、電子書籍でもいい。本はかさばるから、電子書籍でもいいと思う人もいるかもしれない。私もお風呂の中で本を読むのに電子書籍を活用しているが、でもやっぱり「本」という物体が欲しい。
 
本には、その形があり、ページを開かなくても、装丁やタイトルからメッセージが発せられているのだ。
それを受け取るだけでも、十分な価値がある。
 
最近、本をプレセントされることの喜びも覚えた。遠く離れて暮らす友人が、本を何冊かピックアップしてプレゼントしてくれたのだ。
すぐに読んだ本もある。でも、まだ読んでいない本もある。
 
読んでない本を眺めながら、この本を贈ってくれた友人の気持ちを想像する。何でこの本を選んでくれたのだろう。そう、考えるだけで十分楽しい。
 
プレゼントでもらって、読んでない本に『雨の日の手紙』というエッセイストの秋山ちえ子さんのエッセイ集がある。
それは、表紙が色あせている。おそらく、持っていた本の中から贈ってくれたのだろう。
 
私は、その本に出会うまで、秋山ちえ子さんを知らなかった。そして、贈ってもらってから1年ほど経つが、まだ読んでいない。
 
その本は、私のベッドの一番近くに本棚に入っている。夜寝る前に、ちょっと手に取ることができる場所だ。読んではいないが、ぱらっとページをめくることはある。
ページに書かれているエッセイのタイトルが手書きの文字になっていて、何か雰囲気を伝えてくる。そして、目に飛び込んでくる数行を眺めて、また本を閉じる。
そのタイトルを見るたび友人を思い出し、「雨の日の手紙」のその手紙の内容を想像する。
 
こんな風に、読む前に十分に味わって、いつかゆっくり静かにその本を読みたいと思う。
 
私は本を読まないわけではない。
本を読むこと以上に、読むまでの時間も楽しんでいるということだ。
 
私にとって本を眺めるということは、自分の頭の中と感情を知ることになる。そして、過去を思い出す。
初めて本に出会う時、その本の持つ物体としてのエネルギーを感じ、本に書かれている知らない世界を想像する。だから、急いで中身が分からなくてもいい。
 
本を買う。
本を身近に置く。
 
読む時間がないからといって、本を遠ざけないでほしい。
読まなくても、それがあるだけで、十分に受け取れるものはあると思うから。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
伊藤朱子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

建築設計事務所主宰。住宅、店舗デザイン等、様々な分野の建築設計、空間デザインを手がける。書いてみたい、考えていることをもう少しうまく伝えたい、という単純な欲求から天狼院ライティング・ゼミに参加。これからどんなことを書いていくのか、模索中。

この記事は、人生を変える天狼院「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」をご受講の方が書きました。 ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

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2021-02-08 | Posted in 週刊READING LIFE vol,114

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