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週刊READING LIFE vol,120

20年経っても胸の奥に残り続ける後悔《週刊READING LIFE vol.120「後悔と反省」》


2021/03/22/公開
記事:篁五郎(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
どうしてあの時、あんなことをしたのだろう。
 
そう後悔してきた出来事の一つや二つ誰でも持っているだろう。
 
僕もそうだ。
 
いや、一つや二つどころではないな。数え切れないくらいある。それどころか毎日毎日新たに積み重ねていって増えていくばかり。そんな中でもとびきりに反省と後悔しかない出来事というのはいつでも胸の奥にしまっているものだ。
 
思い出すのも辛いのだが、本当に後悔しているからこそ忘れられない。
 
そう、それは今から20年くらい前。僕がまだ20代の頃の出来事だ。当時、僕はパチンコ店でアルバイトをしていた。その時に付き合っていた彼女がいて、交際も順調。周りの人達から羨ましがられながら付き合いを続けていた。
 
交際宣言をしていたのだで同じシフトになれば、休憩時間を一緒にしてもらったり、帰る時間も合わせて帰り際にデートみたいなことをしていた。
 
その時デートの定番は映画を観たり、ファミレスか居酒屋で食事をするくらい。お互いにお金があったわけではないから贅沢なことしていたわけではない。時にはずっと何の変哲もない話をずっとしていたり、時にはお互いにずっと黙って本を読んでいたりして過ごしていた。
 
大きなイベントは横浜アリーナや日本武道館でライブを見に行くこと。運の良いことに当時の僕は有名なミュージシャンのライブを主催するディスクガレージの会員でだったから布袋寅泰のライブチケットを一般販売よりも先に購入できる立場にあった。彼女は布袋のファンではなかったけど二人を結びつけてくれたギタリストだったから喜んでライブを見に行ってくれた。
 
もちろんお互いに大人なのだから、ライブの帰りに肉体を求め合うこともある。その時は貪るように体を重ねていた。若かったから夜遅くまで求め合うこともざらだった。
 
特に何かするわけでもなく一緒にいるだけで幸せだった。
 
その時間はずっと続くと思っていた。何があってもずっと続くと信じていた。
 
その時間がなくなったのは僕のせいだ。
 
どうして今でもあんなことをしたのか信じられない。今でも後悔しかしていない。
 
あれは確か、彼女と付き合って一年半くらい経った頃だと思う。言葉には出さなくてもちらついていたのは「結婚」の二文字だった。お互いに適齢期でもあるし、しかも彼女は一度婚約寸前まで付き合っていた人がいた。結婚を意識していて当たり前だったと思う。
 
でも、当時の僕はそれを受け止めるだけの余裕がなかった。
 
結婚となると、いつまでもアルバイトでいるわけにもいかない。どこでもいいから正社員になって安定した仕事をしないといけない。それが今でも当然だと思うし、それが結婚しても最低限の条件だと思う。彼女がそう思っていたかはわからないけど僕はそう思い込んでいた。
 
だから必死になって仕事を探した。
 
アルバイト先のパチンコ店で正社員になるのが一番手っ取り早いけど、見ているとお店に縛られてしまい抜け出せそうにないと思ったから消えた。次は両親が経営しているコンビニを手伝うことだが、聞こえてくるのは景気の悪い話ばかり。それもそのはずで、売り上げが落ち込んでいたから手伝っていた僕を辞めさせて人員をギリギリまで削減しているくらい。ギリギリの綱渡りで続けていた。とてもじゃないけど「結婚して二人で手伝う」なんて言える状況ではない。
 
もし言ったとしても寝る間もなく働くことは目に見えていた。そんなんでは幸せになんてできない。
 
しかし、あちこちに応募をするも結果は芳しくない。落ちこむ僕を彼女は優しく慰めてくれたが情けなさのほうが強かった。
 
自分のダメぶりを認めたくない僕が逃げたのは酒だった。明らかに酒量が増えてきて、バイトが終わってすぐに飲むようになった。彼女は止めたけど無視して飲むなんて当たり前。一人でも酒ばかり飲むようになった。
 
むしろ一人で酒を飲むのが好きになったのかもしれない。だって、その頃から彼女と過ごす時間が格段に減っていたのだから。
 
そんな僕を彼女がどう思っていたかはわからない。いや、知ろうともしなかった。
 
なぜか、彼女の気持ちは変わらないと信じていた。
 
だからあんなことを平気でできたのだと思う。
 
それは、ある日友達に誘われて飲みにいった時のことだった。僕はつまみを食べるのもそこそこにビールジョッキでジントニックをがぶ飲みしていた。最初の一杯は一気飲み。二杯目からはチョビチョビと飲んでいるが、ジョッキの数は増えていく。
 
すると、お店に人が入ってきて僕たちが座る隣の席に女性の二人組が来た。年の頃は同じくらい。髪の色は二人とも明るい茶色。一人はセミロングでパーカーを着ていて、もう一人は長い髪を後ろで結び、膝までのミニスカートを履いて当時流行していた厚底ブーツを履いていた。
 
二人組は友達と目が合うと会釈をしてきた。「良かったら一緒に飲みませんか?」と友達が声をかける。
 
「じゃあ、せっかくだから」
 
二人組の女性はテーブルをくっつけてきた。お互いに軽い自己紹介をしてから乾杯をする。向かい合っていたテーブルをくっつけたせいか、自然に隣同士が男女のペアになる。こうなうなると不思議で隣り合った二人で会話をするようになる。
 
僕の隣は厚底ブーツの女性だった。仕事は同業者で二駅隣の駅にあるパチンコ店で働いていいるという。親近感を抱いたのか妙に話が弾む。お互いに付き合っている人がいたが、忘れてしまったかのように会話を重ねて、酒を流し込み、大きな声で笑い合った。
 
そうなれば出てくる言葉は「また会えるかな」の一言だ。お互いに携帯電話の番号を交換してその日は別れた。友達も連作先を交換したみたいでガッツポーズをしていたのを覚えている。
 
それから僕は彼女がよりも厚底ブーツの女性と会う時間が増えてきた。
 
お互いに遊び。そうわかってはいたけど、時間を見つけては会うようになっていた。付き合っている人との関係を終わらせる気も壊す気もない。ただ、埋められない何を埋めたかっただけだった。
 
肉体関係はなかったか? 子どもじゃないからあるに決まっている。彼女とは違う肉体を溺れるように求めて体を重ねた。向こうも単に性欲を発散したいだけだったと思う。
 
居酒屋で飲んだときに彼氏は淡白で何もしてこないと話していたのを覚えている。
 
反対に僕は性欲にまみれていたし、酒を飲む代わりに肉体を求めていた。
 
しかし、いつまでも隠し通せるわけではない。
 
彼女が段々怪しむようになった。当時はどうしてばれたのか不思議だったけど、今から見ればバレバレだ。何せ明らかに生活が変わった。彼女といても酒を飲んでばかりだったのが飲まなくなった。
 
「どうしたの?」
 
こう聞かれても「禁酒しているんだ」とわかりやすい言い訳で誤魔化していた。それと正社員の職探しをしなくなった。毎週毎週ネットで求人を検索して応募をしていたのにピタッと止まれば怪しむのは当たり前だ。
 
「どうしたの?」
 
彼女に聞かれても「ちょっと疲れたから休んでいる」なんて下手な言い訳をしていた。
 
今でもこの時に仕事を探していたらどんな風になっていただろう? と思う。厚底ブーツの女性に心惹かれていたわけじゃない。好きだったのは彼女だったし、当時も彼女と結婚をしたいと思っていた。でも、その準備をするのが怖かった。
 
どうして怖かったのかはわからなかった。何か怯えていたのははっきりしている。
 
今なら少しはわかる。多分、意気地がなかっただけ。一歩踏み出すことが怖くて怖くて自分の巣の中に籠もっていたかった。それだけだったと思う。
 
きちんと自分の気持ちに向き合っていれば気づいたかもしれない。そして、彼女に話せばわかってもらえたかもしれない。
 
でも、僕はその手段を取らずに逃げた。
 
厚底ブーツの女性という存在に逃げた。ただ、それだけのことだった。
 
そんな曖昧な気持ちや関係を続けたままディスクガレージから封筒が届いた。横浜スタジアムで行われる氷室京介のライブチケット先行発売がされるという。モヤモヤしたい気持ちを晴らしたいと思った僕はチケットを申し込む。
 
誘ったのはもちろん彼女だ。
 
厚底ブーツの女性とは、もう関係が切れていた。淡白な彼と結婚すると聞いた。プロポーズされた時に遊びだった僕とは踏ん切りを付けようと思ったと断言されてしまっては二の句も付けられない。
 
ただ、その言葉を聞いて良かったと思っている。自分の気持ちを確かめる機会に恵まれたのだもの。感謝しないとなんて呑気なことを考えていた。その後に訪れる出来事を何も知らずにいたのだから。
 
「ねえ、氷室京介が横浜スタジアムでライブやるんだって。一緒に行こうよ」
 
彼女に電話をする。前なら直接話していたけど後ろめたい気持ちがあるからか、なぜか電話で話していた。
 
「わかった。いいよ」
 
OKの返事をもらうけど声は弾んでいるように聞こえなかった。どうしたのだろう? 脳裏に浮かんだ言葉を打ち消す。
 
もう一度彼女と一緒に歩くんだ。やり直すんだ。彼女の気持ちを確かめずに自分で勝手に決めていた。
 
チケットは無事に取れていつものように待ち合わせをして横浜スタジアムへ電車で向かう。今までの贖罪なのか、僕は妙に饒舌だった。
 
最近起きた出来事、酒を飲む量が減ったのが続いていること、また正社員の職探しを始めたこと、あらゆることを話した。彼女も笑って聞いていた。でも、それは仮面を被っただけの笑顔でしかなかったのに僕は気づいていなかった。
 
関内駅に着いて横浜スタジアムへと向かい、氷室のライブを二人で楽しむ。
 
氷室自体が久しぶりのライブだからファンのテンションも高い。僕はそのテンションに乗っかるように彼女へ色々と話しかける。笑顔で返してくれてはいたけど、心からの笑顔ではなかった。
 
それに気づかない僕はどうしようもないバカ野郎だった。
 
ライブが終わって彼女と二人でスタジアムを退場する。彼女はいつものように僕の袖をギュッと掴んで離れないようにしている。大勢の人混みの中をゆっくりと時間をかけて出てくる。この時の、ゆっくりと流れていたのを忘れられない。そういえば、それ以来女性に袖をギュッとされたことはない。
 
どれくらいの時間が経ったのだろう。
 
横浜スタジアムの出口を出た僕たちは駅へと向かった。
 
「ちょっと疲れたからお茶していい?」
 
彼女が僕に話しかける。ウンと頷くと近くのカフェに入った。頼んだのはアイスコーヒー二つ。お酒も頼めたけど頼まなかった。
 
「今日は疲れたね」
 
無邪気に僕が話しかける。彼女はキリッとした表情をして僕に一言告げてきた。
 
「別れよう。知っていたんだ。五郎ちゃんが他の女性と会っていたの」
 
そんなこと思いもしなかった僕は目の前が真っ暗になる。
 
「すぐに謝ってくれると思っていたけど、黙っていたよね? 気づいていたのに気づかないふりしていたのは五郎ちゃんが謝ってくれるの待っていたんだよ」
 
彼女の目から涙が流れてきた。
 
「私ずっと待っていたんだよ。ずっと待っていた。五郎ちゃんから「好きだ」って言われるの。でも一度も言ってくれなかったよね? それなのに他の人とそんなことするなんて……」
 
僕は何も言えなかった。黙って彼女の言葉を聞くだけだった。
 
「本当は今日も行きたくなかった。でも、お別れを言おうと思ってきたんだよ。五郎ちゃん、何も気づいてないから辛かったんだよ」
 
もう彼女の目は真っ赤だった。僕は彼女の目を見ることすらできない。その後、彼女はパチンコ店のアルバイトも辞めると告げて席を立った。言った通り、翌日に彼女はアルバイトを辞めてしまった。周りは驚いていたが、実家のある鹿児島へ帰らないといけないと言っていたそうだ。
 
僕は、最後まで黙っていた。いや、言う資格なんてない。
 
当時はそう思っていた。でも、今になってみると正直に彼女にその時の気持ちや揺れていた理由を話してみたら良かったと反省をしている。自惚れているわけではないけど、もしかしたらそれで少しは何か変わったかもしれない。
 
しかし、僕が取った一連の行動は後悔するばかり。今でもどうしてあんなマネをしたのかわからない。今でも時々思い出すくらい後悔してもしきれない。
 
彼女は、風の噂によると結婚して一児の母になったらしい。今でも故郷の鹿児島にいるのかな。二度とないとは思うけど、もしもう一度会えたら伝えたいことがある。
 
「あの時、言えなかったけど、やっぱり君が好き」
 
拒絶されてもいい。伝えなかったことが今でも心の奥に残り続ける後悔だから。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
篁五郎(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

現在、天狼院書店・WEB READING LIFEで「文豪の心は鎌倉にあり」を連載中。

http://tenro-in.com/bungo_in_kamakura

初代タイガーマスクをテレビで見て以来プロレスにはまって35年。新日本プロレスを中心に現地観戦も多数。アントニオ猪木や長州力、前田日明の引退試合も現地で目撃。普段もプロレス会場で買ったTシャツを身にまとって打ち合わせに行くほどのファンで愛読書は鈴木みのるの「ギラギラ幸福論」。現在は、天狼院書店のライダーズ俱楽部でライティング学びつつフリーのWEBライターとして日々を過ごす。

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2021-03-22 | Posted in 週刊READING LIFE vol,120

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