fbpx
週刊READING LIFE vol.137

「辞めてもいいよ」と言ったその後〜グループからチームへ〜《週刊READING LIFE vol.137「これを読めば、スポーツが好きになる!」》


2021/08/02/公開
記事:鎌田 良子(READING LIFE 編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「辛過ぎるんだよね」「走る量も半端ないし」「サボっている人もなんだかホントは許せないし」
「納得いかない事多いし……」「辞めてもいいかな」
ある日子どもに、相談された。2020年に入って割とすぐ、2月の初めくらいであったであろうか。高校2年生の終わり頃。
私も言いたい事が無い訳ではなかった。
「3年生の引退まで後少しなのに」「今辞めて後悔しないのかな」「だから運動部は辞めた方が良いと言ったのに……」
でも、きちんと伝えた。「自分で決めた事ならいいのでは?」

 

 

 

小さい頃から、好奇心旺盛だった。じっとしていない性格。楽しいことが好き。習い事はあげたらきりがない。
ベビースイミングから始まった「スイミング」。「体操教室」からの「新体操」。音楽好きの「エレクトーン」。友達から誘われた「阿波踊り」。学習塾も通っていたから、両立は大変だったし、発表会前などは、私もまるでマネージャーのようなスケジュール調整役かつ送迎役だった。でも、投げ出した事は1度もない。自分が決めた目標までは全てやり切った。
運動会ではリレーの選手だった事もあるし、応援団長も経験したので、中学校では運動部に入るのだろうと勝手に予想していたが、悩んだ末にコーラス部に入った。Nコン予選などは毎年盛り上がり、お風呂で歌っている姿に癒されたし、最後は部長として校内の合唱コンクールなどもリードして、これまたやり切った。

 

 

 

  ところが、高校で入部したのはなんとハンドボール部。
当初口にしていた「ダンス部」や「チアリーディング部」への憧れからの紆余曲折はあったが、先輩達や友人にも恵まれ楽しそうだった。とはいえ、周囲は中学の部活で鍛え抜かれた元バレーボール部や陸上部の運動神経抜群の仲間達。足も速いし、腕力もある。文化部出身者は一握りで、夏の合宿などでは熱中症になりかけた時もあり、親心的には心配だったし、周りに迷惑をかけているのではと思う時もあった。
そんな親の思いはつゆ知らず、ストイックなところもある子どもは、全く根をあげない。どころか、少しくらい体調が悪くても休まない。しかし、1年後に後輩として経験者が入部してきた頃から、時々揉めるようになった。部長、試合のポジションやスターティングメンバーを決めた頃ではないかと予想する。完璧主義気味の子どもは、他の事項を優先する事もある仲間をなんとなく許せなかった節がある。
顧問の先生は過去の栄光や実力もあったが、チームはなぜかなかなか試合に勝てなかった。そして、叱責される。本人達は勝ちパターンが掴めず、先生も長年の育成方法を変える事はなかった。保護者としては、これは昭和の時代のやり方ではないのか、もっと良い方法があるのではないかと思う事もない訳ではなかったし、実際多くの退部者が出た事もあったが、子どもも必死についていっていた。そんな背景もあるので、辞める事を口にしたのは相当の覚悟があったのではないか、本人に任せようと思った。

 

 

 

何度か理不尽な事もあったようだ。過呼吸になるほど泣いた時もあったと親友の母から聞いている。冒頭のような発言に対して、なぜ私は「いいよ」と言ったのか。奇しくも、仕事で同じような事があった過去がある。自分は自分で出来る方法で精一杯やっていた。でも、評価につながらない事もあったのだった。

 

 

 

もし辞める事になったとしても、後悔して欲しくなかったし、抜け殻のようにもなって欲しくなかった。それで、話をよく聞くようにした。私は私で先ほどのような理由から、今までの仕事のやり方に限界を感じ、組織の学びを深めている時だった。サッカー漫画「ジャイアントキリング(ツジトモ著)」やそれを題材にした「今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則(中山 達也著)」「チームの力(西條 剛央著)」なども読んで、個人の責任感だけで自分を犠牲にしてやる事や、仲間を信じない事は間違いであったと悟った。そして、グループがチームに変わる瞬間や強みを見つける方法が、やっとイメージ出来るようになった頃だった。
甥っ子もラグビーを頑張っていたが、最近はは練習時間も短縮され、もう少し科学的手法も取り入れるようになったと聞いていた矢先だったので、もう少しやり方を変えて欲しいとは思っていた節がある。

 

 

 

そんな時に信じられない事が起こった。過去に誰も経験した事もない事だった。新型コロナウィルスの感染が始まり、その予防のため、部活が休みになった。そして学校が休校になった。私は私で助成金業務や労務相談で、劇的に忙しくなってしまった。そんな私の為に、子どもは夕食の準備他、色々サポートをしてくれた。オンライン授業は始まったが、部活が復活する事はなく、先輩達を送る会も中止になってしまったし、春の合宿も中止になった。甲子園が中止になり、オリンピックが延期になり、良い意味ではなく記憶に残る年、記録に残る学年になってしまった。部活の話だけをする事こそなかったが、学校に行けなかったり友人に会えなかったり、かなりストレスを抱えている事は容易に推測できた。

 

 

 

  当初は、天から与えられた考える時間であり時期の猶予だろうと思ったが、さすがに5月後半、最後の試合が出来ずにこのままなんとなく終わるのは可哀想だと思うようになった。本当に楽しみにしていた一番の行事、体育祭でさえも中止になってしまった。小学校で応援団長を務めたその唯一とも言える成功体験から、高校の最終学年には、応援合戦の幹部をやりたかったはずなのに。ずっと運動していないので、みるみる体力も落ちていく。大学受験が変わる年と言われるこの世代に、神様はさらに試練を与えるのか。

 

 

 

そんな思いとは裏腹に、確実に夏に向かって引退の時期は近付いていく。もう保護者としても諦めの境地だった。
せめて、卒業までに何か思い出に残る事ができれば良いと思っていたが、本人達も開き直ったようだ。緊急事態宣言が明けてから、もがきながらも少しだけ行動していた。公園に集まってまるでC Mのような動画を撮影したり、自主練らしき事を始めたり。青春を諦めていなかった。
そんな中、朗報があった。おそらく子どもも、間違いなくまたハンドボールをやりたい気持ちが高まっていた。結局最後の大会の中止は覆る事はなかったけれど、学校で後輩チームと、親善試合のような最後の試合を組んでくれて、その様子は保護者にも解放されるという事だった。おそらく、顧問の先生は各所に調整してくれたのだと思う。
真夏の酷暑の中、最後の試合が行われ、保護者達も最後のその姿を目に焼き付ける事が出来た。1年前に大怪我をしたメンバーも出ていたし、留学で退部したメンバーも応援に来てくれた。私達も飲み物やアイスの差し入れをしながら見守った。最後は後輩達も泣いていた。

 

 

 

スポーツや部活から学んだ事は、必ず仕事やその後の人生の役に立つと信じている。たとえ理不尽な事であってもそう思ってきた。でも、根性論や精神論は好きではない。しかし、私が読んだ本達は、そうではなく、もっと理論的に色々な事を教えてくれた。それ以来、スポーツ観戦の裏側の楽しみの側面をも知ってしまった。箱根駅伝の常勝チームの特徴、Jリーグの勢いのあるチームの特徴、ラグビー全日本は何を活かせたのか。日本人の強みとは何か。

 

 

 

強く引っ張るタイプのリーダーシップで、コントロールするのではなく、どのように任せるのか、任せられた方はどうしたら自分事として考えるように出来るか。最近は、そのようなリーダーシップの醸成が、少年野球やサッカーのクラブチームの下部組織でも使われている。チームの力は足し算ではなく掛け算で形成される。その為、全員に少なくとも1以上の力が求められる。優れたリーダーに引っ張られた行儀の良いチームよりも、少しやり方は荒くても大きな成果が発揮される為に必要なものとは何なのか。
1以上の力が発揮される為には、リーダーがきちんと観察し、見ていてくれる事。それにより、大きな安心感の中で伸び伸び力が発揮出来る。リーダーは出来ないところではなく、出来た事、得意な事に注目する。自分の守備範囲を決めてそこだけを守るのではなく、むしろその垣根を超えていく事の大切さ。強いサッカーチームはよく走るし、ここぞという得点にからむ時の連携も素晴らしい。
どうすればそう出来るかと言えば、「こうありたい」「こうなりたい」というビジョンが全員一致している事が大切である。そして自分の目標は自分で決める。垣根を越えようとすれば、当然揉め事も起こる。でも、そこを超えないと強いチームにはなれない。雨降って地が固まるように。嵐の後には虹が見えるように。そのビジョンや目的が全員一致している事がグループではなくチームである事の条件だ。全日本チームとは言っても、全日本グループとは言わない。オリンピックに出てくるのはグループではなく、間違いなくチームである。強いチームはこの揉め事が起こる混乱期を超えている。成果が出ているチームは、採用(入部)の時からその価値観の共有が図られている。

 

 

 

では、どこまでがチームメンバーであろうか。冒頭の子どもの話に戻そう。もちろん部活のメンバーは先輩後輩関係なくチームメンバーである。今回、誰もが経験もした事がない緊急事態宣言下、部長は粘り強く交渉したであろうし、それを見ていたメンバーにも影響を与えたと思う。子どもの視点から、サボっていると見えていた仲間の見え方も変わったであろう。顧問の先生もチームのメンバーである。谷を超えたチームであった。今回は、担任の先生からもエールを貰った。顧問の先生も各所に交渉した事がわかる。保護者も自分が楽をする事を考えるのではなく、どうしたら3年生を気持ちよく送り出せるか、自身の仕事をしながらも何が出来るか、何度も話し合った。そんな出来事を職場では常日頃から話せていた為、最後の試合当日は、気持ちよく送り出して貰ったし仕事もフォローして貰った。支えて貰ったサポーター全てがチームメンバーであった。
年をまたいで2021年春、卒業式も保護者は出席出来ずにオンラインで見守る事となったが、その絆は今でも続いており、いつかリアルでお疲れ様会が出来る事を楽しみにしている。子ども達も大学生になり、学部はバラバラに散らばったが、今でも時々会っているようだ。公園だったり川岸だったりするような状態は残念ながらまだ続いているが、この体験をいつか自身で解釈したり意味付け出来る時が来ると信じている。

 

 

 

ちょうど明日、私の大学時代の友人が遊びに来る。子どもとも韓国ドラマについて話したりするオープンな人だ。サークル活動で知り合った友人と、出会った年の3倍以上を共にするとは思っていなかった。今子どもは、高校時代とは違った目的で、サークルを掛け持ちしている。アルバイトと両立出来るのか親としてはまた心配のお節介が始まるが、全ては将来に繋がっている。この事態を前向きに捉える事が全てとも思っていないが、楽しんでいる姿に安堵している。私も東京都のオリンピックボランティアは無観客で中止になってしまったが、T V観戦は楽しもう。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
鎌田良子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

群馬県生まれ。特定社会保険労務士。週4正社員®︎制度の社会保険労務士法人の社員として、特定社会保険労務士として中小企業の経営者の相談にのる傍ら、チームビルディング式働き方改革のコンサルタントやコラム執筆者としても活動中。

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325


■天狼院書店「シアターカフェ天狼院」

〒170-0013 東京都豊島区東池袋1丁目8-1 WACCA池袋 4F
営業時間:
平日 11:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
電話:03−6812−1984


2021-08-02 | Posted in 週刊READING LIFE vol.137

関連記事