疲れた時には「アレ」を頼ろう!《週刊READING LIFE vol.142「たまにはいいよね、こういうのも」》
2021/09/06/公開
記事:河瀬佳代子(READING LIFE編集部公認ライター)
昔から「店で売られている惣菜」が今一つ好きになれない。
どの店も趣向を凝らし、消費者の好みをリサーチし、原材料を厳選し、健康に気を遣ってカロリー計算して、「これぞわが店のベストな惣菜である!」な惣菜を店舗に並べているんだとは思うが、今まで食べてみても「100%美味しい!」と思ったためしがない。まあまあ美味しいは美味しいけど、でも次回買うかと訊かれたら「うーん……」となる。
例えば、サラダにしろぶりの照り焼きにしろコロッケにしろ、決してまずくはない。むしろ、美味しい部類に入ると思う。それなのにどうして、進んで買おうという気にならないのだろうか。
その理由の1つとして、売られている惣菜には味が濃いものが多いからだ。
濃い味は、それはそれでいいのだけど、時たま一口食べた瞬間に、
「これって、人が1日に摂る塩分以上のしょっぱさじゃない?」
みたいな惣菜に当たることがある。思わず食べるのをやめてしまうくらいな塩味だ。単に塩が多いだけの味の濃さではなく、調味料が多く使われているとそれも味の濃さに繋がる。食べ物そのものに元々含まれている塩味もあるし、昨今塩分の摂りすぎ注意が叫ばれている中ですすんで塩を多く摂取することもないんじゃないかと思っている。
2つ目の理由は、市販の揚げ物・炒め物には油っこいものが多い。
どうしたって作りたてから時間が経てば、油は酸化してしまうので致し方ない。その油がしつこく感じる、後から胃もたれすることが予想できるので、勢い「買うのやめておこうかな」ということになる。
そんなわけで、特別料理が上手いわけでもないけど、今までの経験から惣菜を買って残念な思いをしたくないので大体自分で作っている。しかしそんな日常に変化が訪れることになった。
平日仕事をしている女性の皆さんに訊きたい。
「毎日のご飯の支度、どうしていますか?」と。
日本では男性よりも女性がする家事時間の方が、いまだにはるかに長い。「家のことを『協力』するよ」と言ってくれる男性も多いのかもしれないけど、では細々としたこともやってくれるのか? と考えると、我が家のことを例にしても、そうではないことの方が多いのではないだろうか。
1日たっぷり働いて家に帰ってきて「あー疲れた」ってまずは横になりたいけど、ご飯の支度があるからなあ……と思う女性は多いのではないだろうか。私もその1人だけど、帰ってきてそこからご飯の支度をするのが嫌なので、朝にその日の全ての食事の用意をしてから出勤している。
こう書くと短いけど、実際朝にやることはとんでもなく多い。
洗濯機回しながら鍋を火にかけて、フライパンで何かを焼いて、サラダを作って、炊飯器をセットして、おかずが大体出来上がったらシャワーを浴びに行っている間に煮物が完成する……、みたいなことをずっとやっている。ルーティーンのようなものなので「慣れ」なんだろうけど、その日のおかずを考えるところから始まっているし、時々「しんどい」と思うことはある。
それでも、出来合いのおかずが好きじゃないから頑張って作っていたが、その習慣を少し変えることが起こった。それは、コロナ禍のせいだ。
約1年半続くコロナ禍で、日常から何からすっかり変わってしまったような気がしている。
毎日の暮らしだけじゃなく、仕事のやり方も変えて行かざるを得ない。コロナ禍にどう対応していくのか、それについて「自分はこうすればいいんじゃないか」と思っていても、周りの意見があるからそれが通るとは限らない。1つのことを進めるに当たっても、何人もの人と関わらないといけない。そういう案件を根気よく、1つずつ潰しているのだけど、当たり障りのないように解決すること自体が本当に疲れるのだった。
仕事の帰りに映画を観に行くのが習慣になっていたけれど、途中下車をする気力もないくらい疲れていることが多くなった。観たい気持ちはあるのに、身体がついていかないのだ。
(映画観たいけど、早く帰って休みたい……)
仕事の後に集中力を使うことを避けて、ひたすら休みたいと思うようになり、映画に行く本数も減っている。そのくらい、今までと違うことを進めないといけないことに疲れているのだ。
そうして帰宅して、化粧も落とさずに横になる日が続いていた。とにかく一休みしないと何にもできない。まして夕飯の支度だの後片付けだの、しゃきしゃき身体が動かない。
疲れているなあ。帰りの電車から最寄り駅に降り立つと、つくづくそう思うようになっていた。そんな時、ある看板が目に入った。
「金曜日は唐揚げの日!」
そう、駅前の惣菜屋さんは、日替わりで特売をやっているのだった。月曜日はコロッケ、火曜日は焼き鳥、水曜日はシューマイ、木曜日は生姜焼き、そして金曜日は唐揚げを特売でセールで売っていたのだ。
(唐揚げかあ……)
すごくその看板は求心力があった。美味しそうだなあ。でも脂っこいのかな。買うことにためらいはあった。だが、夫が「ここの唐揚げ美味しいんだよな」と言っていたのを思い出した。
(たまには、買って帰ろうかな)
気がつくと足が惣菜屋さんに向かって進んでいた。私は惣菜屋さんの行列の最後尾に並び、ショーケースの中の惣菜を眺めた。どれもとても美味しそうだった。骨つきのローストチキン、揚げシューマイ、ほうれん草の胡麻和え、どれもみんな私に向かって「おいでおいで」をしている。
「ご注文をお伺いします」
「唐揚げを10個だと、何gくらいになりますか?」
「300gくらいですかね」
「じゃあ、それでお願いします」
お姉さんは丁寧に唐揚げを袋に入れてくれた。帰宅して、まだあたたかいそれを盛り付けて食べてみる。
(ん? 美味しいじゃない?)
揚げてからそんなに時間が経っていないこともあるのだろうけど、その唐揚げはサクッとしていて後味がよかった。味付けもクセがなく、濃すぎることもなくよかった。
「お、今日珍しいじゃん。唐揚げ買ってきたの?」
めざとく見つけた子どもに訊かれてしまう。
「そうだよ」
「自分で作るんじゃないの?」
「今日は、買おうかなって思ったんだよ」
そこに夫も加わった。
「ここのやつ美味いんだよね。どうしたの? 今日は」
「ちょっと疲れてたから、買って帰ろうかなって思ってさ」
「ここの唐揚げ好きなんだよね。ご飯が進む」
「そうだね、今までスルーしてたけど、これ美味しいじゃない」
「ふうん。まあ、いいんじゃない? 帰ってきていきなり寝込んじゃうくらい疲れてるんなら、無理に作らなくても」
「そうだね」
こういう時、いい加減な家族でよかったと思う。もし家族が絶対に手作りのものしか食べたくないと言い出すようだと疲れが倍増するだろうし。適当にさせてくれて、助かったと思っている。
そこから私はおかずだけではなく、今まで買わなかった別のものも買うようになった。
きっかけは、中途半端に昼ごはんの支度をしないといけなくなった日のことだった。いつも家にいない家族がその日は休みということがわかり、自分1人で適当に昼ご飯を済ませることができなくなったからだ。ちょうど午前中に駅まで出かけた私は、またまた近くの看板に吸い寄せられてしまった。
「崎陽軒」
駅売りの、崎陽軒のお弁当を見て、あることを思い出した。それは3年前に亡くなった落語家が、ここの弁当を大層贔屓にしていたことだった。
(あのお弁当、あるかな?)
チャーハンとシューマイが入ったそのお弁当を1度食べてみたいと思っていたのだけど、そのうちそのうちと思いながら毎日が過ぎてしまっていた。
(今日みたいな日にこそ、買うべきかもしれない!)
中途半端でご飯の支度をするのも億劫な時、そしてちょうど思い出して近くにいるという偶然を、逃さない手はない! 早速チャーハン弁当を買い求めて帰宅した。
弁当の折りを開けてみる。
粒が綺麗に揃ってピカピカとしたチャーハンに、大きさの整った芝エビが形よく乗っている。そして崎陽軒といえばシューマイだ。上にうやうやしく乗っている、愛らしいグリーンピースの緑がアクセントになっている。たけのこの煮物なども味が染みていて美味しいのだ。
「今日のお昼は、弁当なんだ。珍しいね」
「うん。思い出したんで、ちょっと楽しちゃおうかなって。たまにはいいよね、こういうのも」
「そうだね。毎日は大変だけど、たまにはね」
普段だったら「手作りの方がいいかな」とか「経費節約」とか、そっちの方に頭が行ってしまうから、おかずや弁当なんて買って帰らないんだけど、こうしてたまに買ってみると、家で作るのとはまた違う良さもある。出来合いと一律に片付けてはいけない味だってあるし、自分が大変な時はこうして誰かに助けを借りるのもいいじゃない? それで自分がリフレッシュできる、回復できるのならば、それも悪くはないと思う。自分が助けて欲しい時に、頼れるものを探しておくのも悪くないじゃない? そう考えるととても気が楽になるのだ。たまのことだから、いいよね?
□ライターズプロフィール
河瀬佳代子(かわせ かよこ)
「客観的な文章が書けるようになりたくて」2019年8月天狼院書店ライティング・ゼミに参加、2020年3月同ライターズ倶楽部参加。同年9月READING LIFE編集部公認ライター。
「魂の生産者に訊く!」http://tenro-in.com/category/manufacturer_soul、「『横浜中華街の中の人』がこっそり通う、とっておきの店めぐり!」http://tenro-in.com/category/yokohana-chuka 連載中。
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