週刊READING LIFE vol.144

離婚の原因をそんなの当たり前だと受け入れたら妻のことをもっと好きになった《週刊READING LIFE Vol.144 一度はこの人に会ってほしい!》

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2021/10/25/公開
記事:垣尾成利(READING LIFE編集部ライターズ俱楽部)
 
 
今年、結婚25周年を迎えることができた。
 
社会人4年目の26歳の時に結婚したので、私は51歳、妻は2歳年下で49歳だ。
既に、妻の人生の半分以上は私との生活、私も来年には人生の半分を妻と共に過ごしたことになる。
 
銀婚式かぁ…… と改めて共に過ごした時間の長さを振り返ってみたけれど、特段ドラマティックな出来事があったわけでもなく、平凡で平穏な時間の積み重ねの結果の25年だったなぁと思う。
 
妻とは同じ会社の同期入社で、職場のイベントが縁で知り合い、私が「一方的に好意を持って」積極的にアプローチして付き合うことになり、1年の交際を経て結婚を申し込み、その1年後に結婚式を挙げた。
 
そう、私が一方的に好意を持ったことから二人の人生が始まったのだ。
 
妻の何に惹かれたのかというと、出会いのきっかけになったイベントで、妻はみんなの中でポツンとひとり、うまく溶け込めずにいて、みんなが笑っている時にもその空気に乗り遅れているように笑わないような人だったのだ。
 
簡単に言ってしまうと、コミュニケーションが得意なタイプではなく、ひとりで居る方が落ち着く、といった人だった。
 
「この子が笑ってくれたら嬉しいかもなぁ」
なんとなくそんなふうに思ったら気になるようになって、同期名簿の連絡先を頼りに自宅に連絡をしたのだった。
 
まだ携帯電話もないような時代だったので、自宅に連絡するとお父様が電話に出て、「うちの娘に何の用ですか?」と言うような、取り次いでもらう前に高いハードルがあった。
 
今度ドライブに行こうよ、と必死の思いで誘い出したのが二人の始まりだった。
 
そうだった、私が先に好きになって必死にアプローチしたのだった。
孔雀が羽を広げて求愛ダンスを踊るように、妻の気を引こうと必死だったのだ。
 
妻は、決して誰もが目を引くような美人でもないし、第一印象通りコミュニケーションも苦手な人だったから、なぜこの人が良かったの? と言われても、ここに惹かれたんだ、という点は無かったのだけれど、逆にそれが良かったのだろう、好きになったのはやっぱり私が先なのだ。
 
なのに、長く妻のことを、ぜひ私の妻に会って欲しい!! と他人に紹介したいと思ったことも無かったし、一緒に暮らし始めてからもなにかと気に入らないことばかりが目に付いて、ケンカをすることも多かった。
 
ケンカの原因の大半は私にあって、妻のしたこと、言ったことに対して私が不機嫌になり、一方的に怒りをぶつけ、言いたいことを言って嫌な空気にしてしまうというパターンだった。
 
その度に、好きになったのは間違いだった、こんなに性格が合わないなんて、結婚自体失敗だったのかな、と後悔することが多かった。
 
今、世の中では3組に1組は離婚するとか、熟年離婚率が上昇しているといった話もよく聞くし、実際知り合いの中にも離婚経験者が何人もいたりして、長く夫婦でいる人の割合は減少傾向にあるようで、離婚に至る一番の原因は「性格の不一致」だ。
 
私も、性格が合わない、価値観が共有できない、と感じることにいつも不満を感じて苛立っていたのだが、そもそも全く別の環境で育ってきた二人が一緒に生活するのだから、性格も違うし価値観も違って当たり前なのだ。
 
今でもよく覚えていることのひとつに、食事の盛り付け方、の違いがあった。
 
私の母は食事を一人一皿に盛り付けるのが当たり前だったのだが、妻の家庭では大皿におかずを盛って、皆が食べたいだけ取る、というスタイルで、全く違っていた。
結婚早々に「なんでひとりずつ皿に盛り付けないのか」と怒ったことがあった。
 
ひとつひとつは些細なことなのだが、私の当たり前をいちいち否定されているような気がして不機嫌になっては怒ってケンカになる、ということを繰り返していたのだ。
 
違いを認めようともせず、受け入れることを拒否していた私は、違いが起こるたびに妻に怒りを向けてばかり。
 
いつしか自分の価値観を押し付けるばかりで、妻を理解しようと思う気持ちを忘れてしまい、妻のことを嫌いになっていったのだった。
 
でも、付き合っていた頃のように二人の時間を楽しみたいと思う気持ちはあったので、何かある度にケンカになってしまうことを辛く、悲しく思いながら、耐える夫婦生活を送っていた。
 
子どものために両親がいることが大事なんだ、と言い聞かせながら、ずっと我慢を続けていた。
 
それでも、夫婦生活を終わりにすることなんて考えたことも無くて、「こんな夫婦生活がしたいんじゃない。一緒にいる時間をもっと穏やかに居心地よく過ごしたいだけなのに、なぜケンカが絶えないのだろう」と思う気持ちを強く感じていて、私が変わらなければ二人の関係は改善しないのだろうなとも思うようになっていた。
 
結婚20年を迎える頃、このままでは本当に将来離婚を考えなければならなくなるくらいに一緒にいることがしんどくなりそうだと思うようになり、性格の不一致、価値観の相違、を受け入れることの必要性を強く感じるようになった。
 
私は妻のどこに惹かれたのだろうか? を改めて考えてみた。
めちゃくちゃ美人だから、スタイルがいいから、明るく社交的な性格だから、一緒にいて会話が盛り上がるから、共通の趣味があるから、などなど、人によって惚れるポイントって色々あるのだろうけど、私が妻のことを好きになったきっかけは、人とのコミュニケーションが苦手で、自分の気持ちを上手く表現できない妻が、せめて私の前では自然体でいられて、壁を感じることなく思ったことが言えるようになってくれたら嬉しいな、と思ったことだったことを再認識したのだった。
 
一緒に暮らしてきたこの20年、そのことを大事にしていなかったことを反省し、もっと妻が自分の気持ちを素直に言えるように、ちゃんと気持ちを受け止めて理解する努力をしよう、と行動を改めることにしたのだ。
 
性格も、育ってきた環境も、価値観も違って当たり前。
感じ方も違って当然なのだから、妻の言うことを否定するのではなく、理解する努力をしよう。そして、理解できないときは拒絶ではなくどう感じているのかを聞くようにしよう、と私自身の行動を変える努力をするようになった。
 
今からでは遅いのかな…… と不安もあったけれど、ケンカは激減した。
 
夫婦間のコミュニケーションが上手くいかなかったのは、私が悪かったからだ。
私はこれまで、感情のキャッチボールで、妻に対して受け止められないような酷いボールばかりを投げていたのだ。
捕れないボールばかりを投げているのに、なぜ捕らないんだ、ちゃんと捕れよ、と責めてばかりいたのだ。
 
それが、妻が受け止められるようなボールを投げることを意識するようになったら、妻が投げ返してくるボールが変わったのだ。
 
「そんなボール投げられたって捕れるわけないでしょ!!」と妻も私に対して捕れないボールを投げ返していたのが、「この気持ちを受け止めてほしいよ」と捕れるボールを投げることを意識し始めたら、妻もちゃんと受け止めて、捕りやすいボールを返してくれるようになった。
 
伝わる言葉を選んで、捕れるように気持ちを伝えるようにしたら、妻からも捕れるボールが返ってくるようになったのだ。
 
感情のキャッチボールが少しずつ上手くできるようになってきたら、言いたいことを言ってもケンカになることが減り、家庭の居心地の良さも改善し、二人で一緒にいる時間が苦痛の時間ではなく、楽しみの時間と思えるようになっていったのだ。
 
性格の違い、価値観の違い、に違和感を持つことは今でもいくらでもあるけれど、その背景にある気持ちをお互いに言い合えるようになったら、そんなふうに受け止めたんだな、そういう捉え方もあるのだな、と思えるようになって、相違を責めることをしなくなったのだ。
 
ケンカが絶えなかった頃は、口を開けば文句や愚痴になるのがわかっていたから、友人に対しても妻の話はあまりしなかったのだけれど、良い関係を積み重ねることができるようになって、妻の話を避けることをしなくなったのは大きな変化だ。
 
「垣尾さんは夫婦関係が良いですよね。話を聞いていて仲良くされているのが伝わりますね」と言ってもらえることも増えたくらい、この5年で夫婦関係は大幅に改善した。
 
妻は相変わらずコミュニケーションが苦手で人前に出てくるタイプでは無いけれど、妻の性格の違い、価値観の違いを受け入れることができるようになったら、良い所を見つけることができるようになったのだ。
 
私の中での一番の大きな変化は、違いを認められるようになったことだと思う。
 
私にはない視点で物事を見ていること、私と違う価値観で物事を受け止めていることを否定することではないと思えたら、いろいろなことが自然と認められるようになっていった。
 
非の打ちどころのない素晴らしい妻だ、とは言えないけれど、友人には一度は妻に会ってほしい! と思えるくらい、妻の良い所を見つけることができるようになった。
 
同じように、夫婦間のコミュニケーションで悩んでいる人は多いと思う。
長く夫婦でいる間には、たくさんのすれ違いや理解できないことも出てくるものだ。
しかし、それを性格の不一致、価値観の違い、という言葉で簡単に片付けてしまわないで欲しい。
 
違っていることは悪いことだと思ってしまうと否定することしかできなくなるけれど、理解しようと思えば理解できるようになるものだ。
 
そして、理解する気持ちが持てるようになったら、違っていることを楽しめる気持ちの余裕も持てるようになってくるのだ。
 
夫婦円満の秘訣は、お互いがお互いの違いを理解しようと努めることと、違っていることを良いことだと思えるようになることなのだと思う。
 
結婚25周年、私は自分の間違いに気付き、改めたことで人生の半分を共に過ごした妻のことをもっと好きになることができた。
特に盛大なお祝いはしなかったけれど、二人で出かけるのにちょうどいいサイズの車に買い替えることにした。
 
これからの二人の人生の残り半分は今よりもっと楽しく過ごせそうだ。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
垣尾成利(READING LIFE編集部 ライターズ俱楽部)

兵庫県生まれ。
2020年5月開講ライティングゼミ、2020年12月開講ライティングゼミ受講を経て今回よりライターズ俱楽部に参加。
「誰かへのエール」をテーマに、自身の経験を踏まえて前向きに生きる、生きることの支えになるような文章を綴れるようになりたいと思っています。

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2021-10-20 | Posted in 週刊READING LIFE vol.144

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