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週刊READING LIFE vol.145

石川賢マンガ大全で知る、終わらない宇宙へと旅立った石川賢。そして!!《週刊READING LIFE Vol.145 きっと、また会える》

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2021/11/01/公開
記事:高橋拓己(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
過去に生きた作家の作品を知って思うのは、この作者が生きていたとしたら、他にどんな作品が描き続けられてきたかということだ。
その作家の新たな活躍や作風の変化を見て楽しみ、感動を貰うことがもう出来ないからだ。
 
作品が終わり、作家が描ききりたいテーマや人生論などが私たち読者の心に届くならまだいい。
未完の作品があると、それが作家の心残りのように感じられて、やるせない気持ちになる。それはファンであるが故の作品をもう見れない悲しみと、例えば私のようなアマチュア作家には筆を取れなくなった無念のように感じられるからだ。
 
ここに、生涯多くの作品を未完で終わらせ、他に類をない熱気とともに世に送り出し続けた作家がいる。
 
“石川賢”、その作家の持つ無限に終わらない虚無の世界を、私は書店で偶然見つけた『石川賢マンガ大全』を読んで知った。
 
石川賢(KEN ISHIKAWA)。 1969年より漫画家の永井豪のアシスタントを務め、翌年に漫画家として掲載デビュー。ゲッターロボや虚無戦記など数多くの作品を世に生み出し、その多くが唐突に終わる打ち切りのような結末であった。2006年に急逝。
 
その作家の名を私は何となく知っていたし、一作だけなら過去に大学の漫画研究サークルの部室で読んだことがある。
作品の名を『魔界転生』。日本最古の異能力バトル作家“山田風太郎”の伝奇小説を石川賢が漫画化した作品である。
原作では江戸幕府の転覆を狙う者たちが「魔界転生」という術によって名だたる剣豪を蘇らせる……というストーリーであった。後の世で『Fate』というゲームシリーズなどのサブカルチャーにも影響を与え、漫画化や映画化、アニメ化などに何度もメディア展開された作品だ。
必然、メディア展開される過程で大なり小なりの脚色とストーリー変更がされてきたが、石川賢の描いた『魔界転生』は一味どころか全く違うストーリーとなっていた。
なにしろ、真の敵である天草四郎時貞が大魔王サタンを蘇らせることを目的に日本を蹂躙し、実はイエス・キリストの生まれ変わりであった主人公が死闘と何度もの転生の末に戦い続ける……というあらすじだけでは何のことだか分からない展開にされているのだ。
あまりにも予想を越えすぎた展開とショットガンやガトリングガンを江戸時代の話にぶっぱなす荒唐無稽なバトルシーン、それらを熱意の込めた筆で描きつつ最後は「やってみろ!!天草四郎!!」の台詞で終わらせた打ちきりエンドに、当時の私はついていけず面食らったものだ。
 
石川賢の作品に再び触れたのは、最近アニメ化がされた『ゲッターロボ アーク』だ。
ゲッターロボ、そのタイトルだけなら一度だけでも聞いたことあるような気がするという人はそれなりにいるだろう。スーパーロボット大戦の出演作品でおなじみのそれが、石川賢の漫画代表作品だ。
主人公3人のパイロット達が乗り込む3機のマシンが合体してゲッターロボとなり、巨大な敵に立ち向かうという一見すると王道ヒーローマンガのようなストーリーだ。
パイロットを変え、敵を変え、舞台を変え……多くの展開を見せたシリーズの最終作がゲッターロボ・アークだ。
序盤から過去作のパイロットや敵の帝国が断片的に描かれる初見お断りな構成に、原作どおりの「出たなゲッタードラゴン」という台詞で完となる本編に、私はゲッターロボの集大成であるものを感じられた。
 
では、石川賢という漫画家はどのような作風でどのような人だったのか。
私は石川賢の作品を探し回り、唯一書棚に置いてあった『石川賢マンガ大全』という書籍を手に取った。
本体2800円、222ページというボリュームのその本には、石川賢の世界観のなんたるかが博物館の展示パネルのように読者を導き、そして終わらない虚無の世界へと私を導いた。
 
まず最初に目に入るのはカラーで描かれた原画だ。大全の中には、石川賢の急逝で未完となった『戦国忍法秘録 五右衛門』の生原稿も収録されている。
これを見るだけでも、大全を読む価値は1/3もある。圧倒的画力、といえとにかくミッチリとページの端や表情筋の一本まで描きこむような絵柄を想像するだろう。石川賢の原稿もそうだが、想像と違うのは見やすさだ。
ただペンを走らせ、線を一本一本描くだけではない。読者が見る細部と全体をキッチリ分けたような絵の構成は、例えるなら絵画の『最後の晩餐』に使われた遠近法だ。
後年になるにつれ、漫画家は経験を積み絵柄も変わっていく。石川賢の画風も、師匠である永井豪のような絵画から氏独自のバランスの絵へと変わっていった。
 
しかし、年代順に掲載された原画を見ていくと、確かに絵柄こそ変わっているが、絵の見やすさは変わらない。描きたいものを大きく原稿に描き、読者の視線を迷わせないように導く。文で書けば簡単なことを、石川賢の画風は余計な部分を削ぎ落とした上で完璧に仕上げていた。
それは氏の30年以上の漫画家人生が積み重ねた経験と熱意であり、その二つを両立させた画風は氏が世界へと誇れる芸術の一つだろう。
 
画風だけでなく、ストーリー構成にも石川賢にしかない魅力が詰め込まれていることを、石川賢マンガ大全は氏の作品全ての解説を、『少年マンガ』『ゲッターロボ』『SF』『青年マンガ』『時代劇』『趣味・その他』6つに分けて掲載している。その構成はさながら、石川賢の著者紹介を中心に置いたマンダラ画のようだ。
 
氏の作品はアクの強い登場人物と展開がウリだ。破天荒で、それ故に自分に真っ直ぐな主人公達。敵は己の理想の戦いに殉じ、戦いの果てに異空間や宇宙へと突入し、そこで真なる神との戦いへと発展し物語はそこで打ち切られる……
 
代表作として、『ゲッターロボ』の項目に掲載され、先程にもあげたゲッターロボ アークのあらすじを挙げよう。
これは前作主人公の息子である“流拓馬”、前作の主役機パイロットの弟である“山岸獏”、かつてゲッターと死闘を繰り広げた恐竜帝国人と人間のハーフである“カムイ・ショウ”の3人が主役機ゲッターアークを駆り、宇宙からの敵であるアンドロメダ流国との熾烈な戦いに身を投じる物語だ。
それまでのゲッター作品を歴史として一纏めにした本作は、ゲッターロボシリーズの集大成という形を取りながらも、冒頭の台詞通りの場面で物語は第1部完となりそのまま未完となってしまった。
 
物語終盤、なぜ人間とアンドロメダ流国が対立するかの理由が明かされ、アンドロメダ流国との決戦に終止符が打つも人間を危険視した主人公チームの一人によって人類は滅亡に追い込まれる。
このあらすじだけでも怒濤の展開であることは窺えるのだが、最後はゲッターアークの攻撃が一切通じない強大な敵の出現、更にはその敵が最も恐れるゲッタードラゴンの登場によって物語は「一旦」締め括られる。
そのページ展開は、アンドロメダ流国との決着から僅か15ページ内の出来事である。
 
真の敵との決着はどうなったのか、進化しすぎた未来の人類の軍勢は宇宙と敵対し続けるのか、ゲッタードラゴンとは何なのか、ゲッターロボシリーズはどこに向かおうとしてるのか。
それら一切の説明がないまま、石川賢が全てのゲッターロボシリーズを集めて描き上げた漫画は終わりを迎えた。
 
ゲッターロボシリーズの未完には、氏の急逝もあったからなのだが、ではまだ存命だったとして果たして終わったかどうかは分からない。
おそらく終わることはないだろう。未完となったままの作品の設定を集めて1つの作品とした『虚無戦記』があるのだが、それも真の敵である神の軍団との三千年間の戦いの末「そして!!」のナレーションで締め括られてしまった。
 
先ほど「つまり、何がどうなったんだよ!?」や「オチが見えないということは、作者が何を伝えたいか分からないのでは?」とあらすじだけ読んで感じる人も多いだろう。
では果たして、氏の作品の殆どが未完となってしまった残念な作品なのか?
違うのだ、石川賢の描く漫画に理屈や結論はないのだ。あるのは激動を生き抜く主人公達の気概と、どこまでも広がるストーリー構成の魅力であることを大全は示してくれている。
 
自分の道に真っ直ぐに、愛するものの為に、例え過酷な結末へと突き進もうが我がままに己の道を往く主人公達のひたむきな意思は、物語のスケールが広がろうともその風呂敷を受け止められるのだと大全は解説してくれる。
確かに未完のまま、宇宙の真の全体像が分からないままの作品は多い。しかし未完に至るまでの説得力のある構成を大全は一作一作丁寧に、そして熱く解説している。
 
壮大な世界観を描き終えられないほど構想し描き続けた石川賢がどんな人物だったのか、大全は氏の生前のインタビューやコラムを通して鮮明に文字起こししている。
 
大全に掲載されたインタビューでは、生前の石川賢は家族や編集者は静かで素朴、家に仕事は持ち込まない、家族思いな人だったと語ると同時に、家族を楽しませる為であるが夕方からいきなり家族を海に連れ回すなんてこともする破天荒な人物であったと誰もが語っている。
 
自作について、石川賢は話を広げるだけ広げ、唐突に終わらせるいつもの終わらせ方を尻切れとんぼ、中途半端だと自嘲していたらしい。
しかし氏には、作家として大切にしている思いがあった。「描きたい場面を描く」「登場人物の内なる宇宙をハッキリさせる」だ。流儀というわけでもなく、ただそう描くのが好きだから。それが自分にとって一番描きやすい方法であるし、漫画家として正しいやり方だと思っている。人類は常に進化し続ける、そんな思想を元に様々な要素……ロボや宇宙、任侠や時代劇など様々な要素を取り入れ、無限に広がる世界観を作り出す。
そこで戦う主人公達は世界の荒波や摂理に呑まれずに目的や意思をブレさせずにハッキリとした思いで生存競争に勝ち続ける。
 
自分のエネルギーに載せて描き上げた作品の持つ魅力を、石川賢は自作を通して読者に伝えてきている。大全もそれを受け止め、読者に石川賢の人物像と作風を全ての作品と生前の記録を持って読者に伝えてくる。
 
一つのものに向かってバーっと描く。自分の好きなことを真っ直ぐに描ける石川賢の破天荒な性格は、今でも私達作家の胸にバイブルとして生き続ける……。
 
ゲッターロボという作品の原作者であり、世間的にはマイナーであり、知られても打ち切り作品で有名な故・石川賢先生の作品を知り、そしてそれに内包されている先生の哲学を知ることで、石川賢先生自身の人柄を感じ取ってほしい。
そんな思いが『石川賢マンガ大全』には込められていて、それを通して石川賢へと会わせると共に、氏が終わらせなかった無限の虚無と人間讃歌の宇宙の世界に私たちを出陣させてくれる。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
高橋拓己(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

東京成徳大学人文学部卒。石川賢の紙の本がもはや電子書籍にしかないと理解した今日この頃。

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2021-11-01 | Posted in 週刊READING LIFE vol.145

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