週刊READING LIFE vol.150

『博多弁女子』絶滅注意報、発令中!《週刊READING LIFE Vol.150 知られざる雑学》


2021/12/06/公開
記事:緒方愛実(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
正直、イラッとする。理性と本能の間でいつも気持ちが揺れる。
興味を持ってくれてるのだから、うれしいじゃないか。期待に応えないと、私も大人だしという気持ち、半分。
そっちも大人なのだから、人のこと、面白半分に担ぎ上げるんじゃないよ、という気持ち半分。
 
「え、緒方さん、福岡県生まれなの!? じゃあ、博多弁でしょ?」
 
他県民、特に、関西・関東圏の人々との飲み会にて、自己紹介でよくある場面。お酒と食事がそこそこ進んだところで、だいたいこの話題になる。そして、沸き立つのはおおよそ男性陣だ。
良い感じに酔った1人が、ニヤニヤしながら私を見る。
「え~じゃあ、かわいい博多弁、聞きたいなぁ~?」
わやわや騒ぐ男性陣、苦笑いしつつ興味津々の女性陣。その全体をぐるりと、見渡すシラフの私。
冗談みたいに、軽く言えば終わる。だが、大人気ない私はまた、本能的な部分が勝ってしまった。糸のように目を細め、低い声で呟く。
 
「は? 『きさん、なんば言いよっとや!』とでも言われたいんですか?」
 
瞬間、宴会場が水を打ったように静まる。みんなの表情が凍りつく。
 
あ、やってしまった。
 
内心、私は反省した。いつもは、公の場では、温厚で冷静な優等生を、きちんと装っているのに。つい、イラッ、と瞬間沸騰しまったのだ。
ちなみに、『きさん、なんば言いよっとや!』は「おまえ、何言ってんだ!」という、男言葉混じりの博多弁である。
早口の語気強めの博多弁に、意味まで聞き取れた人間は、この場にはいない。が、雰囲気からして、やさしい意味の言葉ではないことは感じとってくれたようだ。
以降、このグループでは、私の博多弁を聞きたい、と申し出る強者は出てこなくなった。
 
「日本全国の方言の中で、一番かわいいのは博多弁と、それを話す女子!」
 
とある芸能人の方が、そのようにテレビ番組で言った、そうだ。
グループの男性陣、そして、他県の人々が期待していた博多弁はこうだ。
 
『うち、あんたのこと、好いとうよ?(わたし、あなたのことが、好きだよ?)』
 
手をモジモジさせながら、頬を赤らめ、上目遣いだと、かわいいポイントアップだ。語尾が上向きにカーブしているとなお良い。
だが、はっきり言わせていただこう。
福岡県生まれ、または、福岡県育ちで、この博多弁を話す女性は、いない。
『うち(私)』は、ヤングな福岡ガールも、福岡レディも使うことはある。だが、『好いとうよ?』は。劇のセリフぐらいでしか、音読したことがない。自然と口から出るように、多用されるネイティブ表現ではもうないのが現実だ。
 
そして、大事なことがもう1つ。
県外の方が、期待する、テレビなどで使われている博多弁、と呼ばれているもの。それは、福岡県でも、ごく一部の人々しか使っていない方言なのだ。
世界的に見ても、47都道府県に分かれ、特産物や銘菓、風土が異なる、日本という国は特異な存在だ。特に、県を跨いだだけで、隣県同士でも理解ができなくなるほどに方言が異なり、それぞれに発達している、という点でも非常に珍しい。
その中でも、我が県は方言が複雑化している。大きな区分で上げれば、「市」ごと。地域によっては、「区」ごとに方言が異なるのだ。
福岡県の方言は、主に、「た行」、「か行」が語尾に多用される特徴を持っている。
だが、福岡市民は語尾が『~と』、北九州市民は、語尾が『~ちゃ』で終わる。
「何をしているの?」を意味する言葉でも、『なんしようと?』と『なんしようっちゃ?』と、まるで違う。
さらに、私の出身である福岡市早良区だと『なんしよんしゃーと?』と、語尾は同じものの、途中に「さ行」が交じるという変化をする。これは、「何をしていらっしゃるんですか?」という敬語表現になる。福岡市早良区では、これを相手の年齢関係なく使う。
「早良区の人はお上品やけん」と、早良区レディたちは誇らしげに言っておられた。
つまり、他県の人が知っている『博多弁』というのは、福岡県民でも、福岡市博多区の生まれと育ちの人々が使う方言ということになる。博多区は、JR博多駅があり、『博多祇園山笠(はかたぎおんやまかさ)』が執り行われる地域一体を示す。
我々福岡県民も、世間では一般的と認識されている『博多弁』の言い回しをなんとなくは知識として知っているが、ネイティブ表現をしろ、と言われたら困ってしまうのだ。
また、残念なことに、この『博多弁』も、ネイティブ話者が減って来ている。なので、福岡市博多区生まれ・育ちでも、『博多弁』を話さない、話せない世代が増加しているのだ。それは、福岡県の他の地域でも起こっていることで、私の地域でも「~しよんしゃー」という言葉を使う若者はごく一部だ。その多くは、方言ネイティブの祖父母と同居して、幼い頃から耳で覚えた人々だ。
 
他県の男性陣が、『好いとうよ?』の次に言われたい『博多弁』が、もう1つ。
 
『なんしようと?』
 
「何をしているの?」と『博多弁女子』にやさしく言われたい、らしい。これも、語尾が上向きカーブで、ハートマークがついていたら100点満点だろう。
申し訳ない。ここでも、はっきり言わせていただこう。
福岡ガール、レディは芯の強い方が多い。そして、姉御肌の勇ましさを併せ持つ。福岡県は、貿易、職人による工芸、芸事で発展した歴史的背景もあり、仲間同士の絆をとても大事にする。家族だけでなく、近所の方、会社の同じ部署だけでなく、屋台で居合わせた気の合う観光客の方でも、おごってあげるなど懐に入れて可愛がる性質を持っている。出会って1時間とか、時間は関係なく、「気に入った!」と思えば、もう、他人でも家族の一員なのだ。福岡県民は、義理と人情を大切にする民族である。
だが、反面、仲間であると認めた瞬間、対応がドライになることもある。良く言えばフレンドリー、悪く言えば雑になる。
「おまえの母ちゃん、怖かもんな!」
「そうそう、おい(俺)は、尻に敷かれとると~」
福岡の男性陣の特に年功の方は、あいさつの様に、自分の奥さんの悪口を冗談で話題にする。旦那がそんなものだから、既婚者、パートナーが居る女性陣は、視線と態度が冷ややかになる。
時には、女友達同士、男友達同士でも、このような、ちょっと曲がったフレンドリーな対応をする。これは、福岡県民の中でも、好き嫌い別れる問題だ。
 
さぁ、付き合ったばかりの博多の女性が目の前に。彼氏のあなたがお茶目なことを彼女の前でしたら、何と言われるだろう?
 
『は? あんた、なんしようと?』
 
マスカラとアイラインで美しく彩った目からは、絶対零度の光線。そして、語尾は、下向きカーブを描いている。語気は強めでお願いします。
 
数年前、Twitterで話題になったある名言をご紹介しよう。
 
『なんしようと?』と、やさしく声を掛けてくれるのは、博多警察署のお巡りさんか、福岡吉本の博多華丸・大吉だけ。
 
福岡女子は、身内にお砂糖のように甘くない。名産品の辛子明太子と同じ、ピリリと塩っ辛いのである。あまりの辛さに、泣かないように、強いメンタルで挑むことをオススメする。
 
お淑やかで、男性の後ろを静々と歩く、『大和撫子』が、現実の次元にほぼ存在しないのと同じ。
語尾が、甘くやさしく上向きカーブする、『博多弁女子』も絶滅危惧種なのである。九州圏内の男性陣はみんな心得ている。
『博多弁女子』は、お淑やか美人の代名詞ではない。気の強い、ハツラツとした、芯のある女性を意味する言葉だ。そういえば、ご近所の佐賀県、熊本県の知人の女子も、かっこいい方が多い。九州の女性全体が強い可能性があるかも、しれない。
 
「そんな、『博多弁女子』が、絶滅危惧種だなんて……」
 
声フェチの男性陣、女性陣は、ガッカリしたことだろう。県民の私も悲しい。だが、私は、見つけたのだ、『博多弁女子』を。
 
「あら~、お久しぶりやん。なんしよったと~?」
 
甘く響く、上向きカーブの博多弁は、まさにお手本のような美しさ。
彼女たちに会おうと思ったら、夕方から夜に訪れて欲しい。
博多区中洲。そこは、福岡の大人の社交場、娯楽の一大拠点だ。
そこで働いていらっしゃる、女性たちの多くは、福岡を訪れた人々が切望した『博多弁』を話す『博多弁女子』である。
もしかしたら、中には、他県出身の女性もいるかもしれないが、それはそれとして。昔の『遊郭』で働いていた花魁たちも、県外から身を寄せ、「わっちは(私は)」
などの花魁言葉を学んで話していたというし。例えビジネス博多弁でも良いではないか。福岡県内で一番やさしい語気を持ったまま、ネイティブ表現できる『博多弁女子』は、彼女たちだろう。
または、映画や舞台の『博多弁女子』役の俳優さんたち、かもしれない。
 
だが、誤解しないでいただきたい。
親しくなった『博多弁女子』が、雑な扱いをして、語尾が語気強めの下向きカーブになったとしても。それは、あなたを仲間と認めたゆえの、愛嬌なのだ。
もしくは、あなたが何か彼女たちに問題行動を行ったこと、が原因かもしれない。
思い当たる節が少しでもあれば、即座に謝ることをオススメする。『博多弁女子』は、曲がったことが大嫌いだ。どうか、完全に怒らせる前に。
 
生まれ育った故郷の方言が、つい出てしまうあなた。
そのことを、どうか、ダサい、恥ずかしいと、ネガティブに受け取らないで。
福岡県内というミニマルな地域で、昔からのネイティブ表現を操れる『博多弁女子』が減少傾向にあるように、他県でも、同じ問題が広がりつつある。
世界全体で言っても、毎年、少数民族の言語や文化が、押し寄せる波に削られていく砂山のように、じわじわと消失している。ことの重大さに、いち早く気づくのは、他県、他国の言語の研究者たちで、いざ、記録として後世に残そうと研究をはじめたら、すでにネイティブ話者が1人もいない、ということが現実に起こっている。
日本でも、方言ではないが、アイヌ民族、琉球民族の言語、文化の継承・保護は、国内外からも望まれ、進められている。こちらでも、ネイティブ話者が、減少しているのだ。
だが、テレビや映画、漫画で、それらの民族が、題材として扱われ、スポットが当たり、それをきっかけに、継承・保護が推進されることがある。その朗報がある度、他人事ながら、私は目頭が熱くなる。
 
「博多弁話してみてよ!」
 
持ちネタのように、宴会の席で扱われると、正直イラッとする。でも、多くの人が、興味を持ってくれることを、うれしい、と思う気持ちもちゃんとある。
「あのですね、博多弁っていうのは、」
心を落ち着かせて、最近は、説明するようにしている。せっかく興味を持ってもらったのだから、福岡県民として、そこは熱弁を振るわなければならない。我々は、地元愛が強い民族でもあるのだから。
方言は、文化と歴史。
あなたが、その方言を話せるとうことは、誰かが、あなたに言葉を掛けていてくれたこと。それは、家族かもしれないし、友人や、先輩かもしれない。例え故郷を遠く離れても、思い出と一緒に心のどこかで、大切に守り続けて欲しい。
言語は、形のない財産と誇りなのだから。
 
「じゃあ、博多弁講座しましょうか!」
「お、いいね!」
「胸キュンな博多弁と、ケンカに使える博多弁、どっちがいいですか?」
「なんで、その2択なの!?」
 
時に福岡県民は、サービス精神にあふれたお茶目さん、にもなれる芸達者な民族なのである。
 
 
 
 
※例に上げた福岡県の女子たちは、主に、私の知人の強いかっこいい女性たちをモデルにしています。もしかしたら、身内にもやさしい、かわいい『博多弁女子』が存在する、かもしれません。

□ライターズプロフィール
緒方 愛実(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

生まれも育ちも福岡県。学生時代は、日本文化・言語などを学んだ経験を持つ。カメラ、ドイツ語、タロット占い、マヤ暦アドバイザーなどの多彩な特技・資格を持つ「よろず屋フォト・ライター」。貪欲な好奇心とハプニング体質を武器に、笑顔と癒しを届けることをよろこびに活動をしている。

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2021-12-01 | Posted in 週刊READING LIFE vol.150

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