週刊READING LIFE vol.150

キャットシッターという存在を知っていますか《週刊READING LIFE Vol.150 知られざる雑学》


2021/12/06/公開
記事:田盛稚佳子(READING LIFE編集部ライターズ俱楽部)
 
 
保護猫を飼い始めて5年目、今年になって初めて知ったことがある。
それは「キャットシッター」という存在だった。
「ベビーシッター」は昔からなじみのある言葉であるし、利用している人がいることも知っていたが、まさか猫のお世話をする人がいることには正直驚いた。
 
きっかけは、まだ寒さの厳しい1月末のことだった。
本棚が併設されているカフェでゆっくりと一人ランチをしていたら、ふと目の前にある本棚にある一冊の本が目に入った。
「猫の學校」というタイトルの本だった。
5万匹の猫をお世話してきたキャットシッター歴25年の方が、人と猫が幸せに暮らすには、どうしたらいいかを書き綴った本で、吸い込まれるように手に取った私は、ついつい昼休憩の時間を忘れてしまうほど読みふけってしまった。
 
時間をかけて、きちんと読みたいと思った私は、後日その本を購入した。
そして、本をひと通り読み終わった頃、当時流行り始めていた音声アプリ「クラブハウス」を通じて、偶然にも現役のキャットシッターさんと知り合う機会を得た。
キャットシッターの大槻みほさんである。
6年前に神奈川県横浜市で西谷「ねこのお世話屋」を開業して、お留守番をする猫を一軒ずつ、丁寧にお世話しているという。
キャットケアスペシャリストや、動物介護士等の資格もお持ちの大槻さんと話していると、とても勉強熱心で猫に対する深い愛情を感じるとともに、ただかわいいというだけでなく、日々、備えておくことの大切さを教えてくださる。
 
猫という生き物は、基本的に家の中が大好きである。
わが家の猫は完全室内飼いのため、外に出るとすれば年に一度のワクチン接種の時くらいだ。
しかし、その一度の外出ですら、わが家では一大事になるのである。
仕事が休みの日に朝からいそいそと着替える私を見て、おそらく気配を察するのであろう。
「むむっ、今日は何かあるな?」という顔で、いぶかしげにこちらを窺う。
そして、キャリーケースに入れる前に洗濯用ネットに入れる(爪でのひっかきや、脱走防止のため)とき、これがひと苦労だ。真冬なのに汗だくになるほどである
ギャアギャアと泣き叫ぶ彼女を、よーしよしとなだめながら動物病院へ向かう。
そして、病院に着くや否や1年ぶりに気づくのだろう。針を刺される! と。
「いやだぁぁ! 帰るぅぅぅ!」
と言わんばかりに大絶叫する。まるで断末魔のような叫びである。
周りで診察の順番を待つ、犬猫の飼い主さんに
「まあ、元気な猫ちゃんですねー」
と軽く苦笑いをされながら、私は
「ちょっとちょっと! 少―しだけ静かにしてようね。すぐに終わるから」
とひたすら、声をかけるが彼女のイライラはおさまらない。
やがて診察台に載せられると、彼女の怒りは頂点に達する。
主治医の先生に向かって、
「ウワァァン! シャーッ!! (アタシに何しようとしてんのよ! 白衣オジサン!!)」
と、野生むき出しで家では一度も聞いたことのない声を上げる。狭い病院中に断末魔の叫びが響くので、毎年、本当に申し訳ない限りである。
 
とは言っても、外に出るのは一年に一度あるかないかであるため、それ以外は家でかわいがってさえいれば、特に問題はないだろうと私は思っていた。
大好きな国内旅行もできなくはなったが、それよりも彼女が成長していく様子を見るのが、子どものいない私にとっては、この上ない喜びであった。
万が一、どうしても旅行に行きたくなったら、ペットホテルなるものに預ければいいのではないかという甘い考えすら持っていた。
 
すると、大槻さんは優しく教えてくれた。
猫は家以外の環境を怖がる猫もいるので、訪問型のキャットシッターが近くにいるのであれば、そのほうが安心なのではないかと。
むやみに慣れない場所に預けるのは、猫にとってストレスがかかってしまうことになるからである。なるほど、わが家しか知らない彼女を知らない場所に預けるのは非常に酷なのだ。
 
ちなみに、大槻さんがキャットシッターの依頼を引き受ける際に必ず守っていることがある。
一つめは、事前の打ち合わせなしではお世話をしないということである。
人間同様、猫だってオス・メスに限らず、種類や性格もさまざまである。
飼い主だけが知っている猫の特徴や性格を理解して、初対面の人でも怖がらないようするためにきちんとヒアリングすることが重要であり、「安全かつ安心なお留守番」を提供するためには、欠かすことはできないという。
こうして、丁寧な打ち合わせをすることで、その猫に合った、まさにオーダーメイドのお世話をしてくれるのだ。これは、飼い主としては本当に心強い。
 
二つめは、衛生管理を徹底していることである。
コロナ禍になってから特に気をつけているそうだが、大槻さんも外出時には消毒スプレーを常備しており、依頼主宅への入室する際には特に念入りに消毒をしている。
また、日によっては1日で複数のシッターの依頼が来ることもある。
そういった場合は、訪問先ごとにご自身の靴下を履き替えるという徹底ぶりである。
人間が気づかないうちに外から持ち込んでしまうウイルスもあると聞く。
こういう細やかな心遣いはありがたいものだ。
 
三つめは、お世話した様子のレポートを作成することである。
ただ、お金を受け取って、決まった時間だけ面倒を見ておしまいという単純なことではない。
お世話している際の写真や動画を添えて、依頼主が具体的にイメージできるように、猫だけでなく一人一人に合わせたオーダーメイドのレポートを作成するのだそうだ。
それを見ることで、依頼主もどうやってお世話してくれたのか、今後どう対応していけばよいのかを改めて知ることができるという。
飼い主にとって家族の一員である猫のことを大切に思うからこそできる配慮に、私はただただ尊敬するばかりである。
そこまで家族のことを思ってくれたら安心してお任せができると思うのは、きっと私だけではないはずだ。
 
防災の日が近かったある日、私は猫との避難方法についての大槻さんの講座を受けた。
皆さんご存知のとおり、日本は非常に災害の多い国である。
人間が避難することがもちろん大事なのだが、ペットと避難できる場所が確保されているかといえば、まだまだ後進的と言えるだろう。
実際、私の住んでいる地域では一緒に避難する場所が残念ながら今のところ無い。
近くの他の自治体では一緒に避難できる場所が増えているのを見ると、何もできないのが悲しいような悔しいような気持ちになる。
というわけで、もし災害に遭った場合は両親には避難してもらい、私は自宅で猫と一緒にいることしかできないと思っていた。
 
そういう話をふまえて大槻さんが提案してくださったのは、万が一の備えと学習を普段からしておくことの重要性だった。
人間の避難セットはあらかじめ準備できているが、殊にペットに関しては情報量が少ないのが現状である。
そこで、まず環境省のホームページで「人のペットの災害対策ガイドライン」や「災害時のペットとの同行避難について」をダウンロードかつ印刷しておいて、手元に持っておくことを薦められた。
スマホにPDFデータを入れていたとしても、もし充電がなくなったり、スマホを見ることができない状態になることも考えられる。
ここはペーパーレスなどと言ってケチることなく、家族の誰でもが見られるようにしておくことで、引いては家族が協力してペットを助けることにつながるのである。
猫に限らず、犬を飼っているご家庭でも同じことが言えるだろう。
これらの資料を読むことで、私は「同行避難」と「同伴避難」の違いを知ることができた。
ちなみに、「同行避難」とは避難所までの避難行動(行為)のことを指し、「同伴避難」とは
避難所で、ペットと人が同じスペースで過ごすことを指すのだそうだ。
私は避難イコール「同伴避難」と思っていたのである。大きな勘違いだ。
40代後半にして、世の中には知らないことがまだまだ多い。
飼い猫をかわいいと愛でているだけではなく、きちんと避難できる体制を整えておくことが飼い主としての責任であることを、大槻さんの講座を通して再認識した。
私の周りは犬を飼っているご近所さんが多い。こういうガイドラインがあることも普段の世間話の中でしながら、お互いが協力していくのもご近所付き合いの手段の一つであると思う。
 
この半年、実際にキャットシッターをされている方とお話することで、猫と飼い主の両方が安心して暮らせる方法を具体的に知ることができたし、ペットについての理解を深めることでわが家だけでなく、近所の方との相互扶助にもつながることを教わった。おかげさまで、私自身のご近所付き合いも以前より少し上手くなったと思っている。
もし、これを読んでくださった方が少しでもためになったと思ってくだされば、これほど嬉しいことはない。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
田盛稚佳子(READNG LIFE編集部ライターズ俱楽部)

長崎県生まれ。福岡県在住。
西南学院大学卒。
天狼院書店の「ライティング・ゼミ冬休み集中コース」を受講したのち、READING LIFE編集部ライターズ俱楽部に参加。
主に人材サービス業に携わる中で自身の経験を通して、読んだ方が共感できる文章を発信したい秘書兼事務職。

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2021-12-01 | Posted in 週刊READING LIFE vol.150

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