週刊READING LIFE vol.150

牛骨スープが教えてくれた骨のヒミツ《週刊READING LIFE Vol.150 知られざる雑学》


2021/12/06/公開
記事:赤羽かなえ(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
我が家に牛骨がやってきた。
 
文字通り、牛の骨。
 
1.5キロの塊はどこの部位の骨なのかはわからないが、大きさは赤ちゃんの頭くらいはある。
 
これを鍋に入れて牛骨スープを煮出す。
水でさっと表面の汚れや血を流して、4.5リットルの圧力鍋にどうにかこうにか押し込んで、臭み抜きに長ネギの緑の部分や玉ねぎの皮、野菜くず、ショウガなどを入れる。水いれて時間をかけて炊き上げるのだ。
 
この牛の骨を煮出し続けた後の牛骨の変化を見て、一般的にはあまり知られていないけど、今まで学んできたことが本当だったのだなあ、ということに気づいた。

 

 

 

私が、ボーンブロスと呼ばれる骨を炊くスープにハマり出してから、かれこれ1年くらいになる。それまでの私は、ボーンブロスどころか、昆布といりこで出汁を取ることすら億劫なくらいだった。
 
出汁を取るというと、テレビで和食の職人が感覚を研ぎ澄ませて温度と時間管理をして、というような大変さをイメージしてしまう。でも、昆布といりこをしばらくつけておいて火にかけ、沸騰する前に引き上げればいいからやろうと思ったらそんなに難しいことではない。それでも、出汁をとったあとの出汁ガラがもったいないなどの理由でなんとなく粉末タイプの出汁の粉に頼ってしまいがちだ。
 
ボーンブロスはもう少し時間がかかる。わが家のやり方は、骨に野菜くずなどの材料を入れて1時間以上煮出すだけ。もしくは圧力鍋で圧がかかってから30分ほど火をかけておくだけだ。
 
材料の骨で一番よく使うのが、鶏ガラだ。鶏ガラを手に入れることが難しかったら、手羽先や手羽元、モモの骨付き肉を使えば手軽だ。また、鯛やブリなど大きめの魚のアラなどから作ることもできる。知り合いがジビエを扱っているので、猪の骨でも挑戦したことがあるが、やはり扱いやすいのは鶏や魚だ。
 
なぜ、ボーンブロスにハマるようになったか、というと、タンパク質効率よくとる方法としてすすめられたからだ。
 
出産をしてしばらく経つと抜け毛がひどくなったという経験をした女性は多いのではないだろうか。私もその例に漏れることはなかったが、3人目の子どもを出産してからの抜け毛は、いつまでたっても抜ける量がなかなか減らないのだ。
 
抜ける量は減ってきたが、気になるまま数年がたっていた。栄養のことを少し勉強した時にタンパク質不足が抜け毛に影響するということを知ってなるほどと納得したのだ。
 
抜け毛だけではない。タンパク質不足になると、肌や爪、内臓の粘膜も弱くなるし、骨も弱くなるという。確かに、すぐ爪はボロボロになるし、肌もいたるところがカサカサして、冬になるとかゆくなることもある……自覚症状満載だ。
 
でも、タンパク質不足を補うために、肉や魚を食べる量を増やすのも、なんとなくピンと来なかった。毎日肉や魚を今以上にとるのは重いなあと思ってしまう。その時に、肉や魚を食べるよりも、ボーンブロスの方がスープでとるので、タンパク質やタンパク質が分解してできたアミノ酸を吸収しやすいのだと教えてもらって目からウロコだった。
 
外国では、約20万年前に古代の人たちが生活していた場所から、当時の人たちが動物の骨を食料としていた痕跡が見つかっているそうだ。韓国では、丸鶏をそのまま薬膳食材と煮込んだ「サムゲタン」という料理があるし、中国でも似たような料理が伝統的に残っているらしい。
 
思い返せば、私もサムゲタンは大好きだし、焼肉屋さんでは必ずと言っていいほどテールスープも頼む。ラーメンのスープなんかも、味が濃くなければ飲みほしたい。
 
もしかすると本能で身体が欲しているのかもしれない、と思って、早速、ボーンブロスを作ってみた。
 
ネットで作り方を調べてみると、骨をなるべく長い時間煮出すとよいと書いてある。また、酢など酸味のあるものは骨の成分を溶かすので入れるといいらしい。ネット情報に頼りながら、私のボーンブロス生活はスタートした。
 
昆布といりこの出汁を取るのもめんどくさかった私が、この1年ボーンブロスを続けることができたのは、健康にいいと教えられたこと以上にやっぱり美味しかったからだ。
 
それでも、初めて鶏ガラを見た時にはちょっと触るのを躊躇した。
 
首から肋骨、骨盤周りまで、骨がゴツゴツしている。スーパーでパッケージになっているムネ肉やモモ肉よりもリアルに鶏の姿だ。
 
普段の生活だと希薄になりがちな命をいただいていという実感を味わいながら手を合わせて炊き上げる。その出来上がったスープの美味しかったこと。既に味がついているお店のスープと違って薄味だけど、ほんの少し塩を足すだけで身体に染み渡るような旨味を感じた。
 
それから、週に2回ほど鶏ガラか魚のアラを炊くようになっていった。ついでに、ボーンブロスを取るようになったら、出汁を取ることも抵抗がなくなってきた。今まで食事でご飯やおかずがメインと思っていたけれど、スープや汁に気合をいれるように変わったのだ。
 
旨味は組み合わせるとさらに相乗効果的にうまくなる。鶏ガラのボーンブロスと昆布を炊いたり、出汁用のカツオ節を入れると、もうそのままラーメン屋でも開けるのではないかと勘違いしてしまうくらい旨味の濃いスープに我ながらうっとりとしてしまう。
 
そうやって2~3か月ほどで、肌のカサカサがなくなったきた。サンドペーパーかと馬鹿にされるくらいガサガサしていたかかともツルツルとはいかないけれど、もう昔のように引っかかって不快になったり、割れて痛い思いをすることがなくなった。
 
ボーンブロス、すごいかも!
もっといろいろな骨で試してみたい、そんな風に思うようになっていた。
 
そんな折に、例の牛骨との出会ったのだ。
 
大切に育てられた牛の骨らしい。値段を聞いた時に、聞き間違えたかと思うくらいの値段で驚いた。こりゃあ文字通り、骨の髄まで吸わなかったら元が取れないかもしれない。これは、トコトン出汁を取りつくしてやろう。
 
グーグル先生によると、牛骨は何度も出汁がとれるらしい。鶏ガラは圧力鍋で3回ほど煮出したら、粉々に砕けてしまうのに比べたら、やはり骨が太いだけのことはある。
 
1回目に圧力鍋をかけた時には、骨の周りについていた腱や膜などのゼラチン質が熱ですこし剥げた。2回、3回と炊いていくうちにそのゼラチン質がどんどん溶けだしていく。4回目に圧力鍋にかけて蓋をあけたときに、異変が起こった。
 
一塊に固まって、赤ちゃんの頭くらいの大きさだった骨の塊がバラバラになって、5~6個の骨の塊にわかれたのだ。すべて膜などでくっついてすごい! 熱をあて続けたらそれがどんどん溶けだしていくのだ。
 
そして、次に火にかけた時には、びくともしなかった太い骨がパキっと乾いた音と共に折れて、中からすかすかになった断面が現れた。
 
「骨って何でできていると思いますか?」
 
栄養の勉強を教えてくれる先生が私に聞いた。
 
「カルシウムだと思います」
 
と答えた。小さい頃から、骨を丈夫にするのはカルシウムだと聞いていて、カルシウムの取れる小魚や牛乳をとりなさい、と、言われてきたからだ。
 
先生はニヤっと笑って、
 
「カルシウムも正解です。でも、骨の半分はコラーゲンでできているんですよ」
 
と答えた。コラーゲン? あのとったら翌日にプルプルになるやつ? スッポンとか、にこごりとか? イメージが全くつかなかった。
 
先生の説明によると、骨は鉄筋コンクリートのような構造をしているのだそうだ。鉄筋にあたる部分がコラーゲンでできた繊維で、その周りにカルシウムやミネラルなどの無機物がコンクリート的に固めている。だから、骨を強くしたいなら、カルシウムだけでなくコラーゲンができることがすごく重要なのだ。
 
骨にコラーゲンなんて意識したことはなかった。肌をキレイにしたくてコラーゲンをとるっていう話は聞いたことがあるけど、骨や腱や膜にも重要な役割を果たしているなんて……。
 
実際に6回も圧力鍋に放り込まれた骨たちは、すっかりバラバラになり、びっくりするくらいに簡単に折れた。そして中は、すかすかに抜け落ちたような穴が沢山あいていた。
 
このスカスカの部分をコラーゲンが支えていたんだなあ……。
 
だから、人間の身体にもコラーゲンが必要なのだ、ということになるのだ。
 
牛の骨がもろくはかなく折れた姿は、まさに人間の老年の人達が悩まされる、骨粗しょう症を見ているようだ。
 
カルシウムも色々なミネラル分も大事だけど、コラーゲン、めっちゃ大事なんだな、ということが、牛骨の変化を見て実感できた。
 
でも、骨がカルシウムとコラーゲンで作られているという情報は、私が学んでいる先生だけが言っている画期的な発見というわけではない。ネットを検索すればすぐに出てくるような情報だ。
 
でも、骨にはカルシウム、というイメージが強すぎて、きっと一般的には浸透していない話だと思う。現に、私の母は骨粗鬆症に近い状態だということで薬を飲んでいるけど、カルシウムのことは口にしても、コラーゲンの話は一切出てこない。
 
「ちなみにコラーゲンがどうやって作られるか知っていますか? 例えばスッポンをとったら翌日にお肌プルプルだっていうけど、それってスッポンのコラーゲンが顔にへばりつくんだろうか?」
 
先生はまたもやニヤニヤと笑いながら投げかけて来る。私は考えたこともなくて首をかしげた。
 
「コラーゲンは、アミノ酸が三つ編みみたいによりあわせてできているんだけど、そのよりあわせるという働きをするのに鉄がはたらいているんだよ。だから、スッポンのコラーゲンは身体の中で一度、アミノ酸に分解された後で、鉄の力を借りてコラーゲンになる。スッポンは、身体の中でアミノ酸の材料にはなるだろうけど、食べたからすぐにプルプルになる、というのは、思い込みかもしれないね」
 
先生は、ある意味夢を壊す天才だ。スッポンというとお肌プルプル……と思っていたのでちょっと残念な気分になった。
 
私達の身体には、タンパク質や鉄がとても大事だし、普段の食生活のなかにボーンブロスを取り入れることはとても重要だ。
 
何よりもそうやって煮出した牛骨のスープはやっぱり美味しくて、美味しいと元気が直結するならこれに勝る幸せはないな、とスカスカになった牛骨の断面を眺めながらひとりごちるのだ。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
赤羽かなえ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

自称広島市で二番目に忙しい主婦。人とモノと場所をつなぐストーリーテラーとして、自分が好きなものや人が点ではなく円に縁になるような活動を展開。2020年8月より天狼院で文章修行を開始し、身の上に起こったことをネタに切り取って昇華中。足湯につかったようにじわじわと温かく、心に残るような文章を目指しています。

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2021-12-01 | Posted in 週刊READING LIFE vol.150

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