週刊READING LIFE vol.157

整形外科、整体、どっちの診断が正しい?《週刊READING LIFE Vol.157 泣いても笑っても》


2022/02/14/公開
記事:丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「えっ? なんて? 股関節の手術ですか?」
 
私は、2年前の秋、近隣で評判の良い整形外科を受診した。
その時、初めて聞かされた問題に頭が真っ白になってしまった。
 
高校時代にお稽古を始めたバレエ。
途中、休憩期間はあったが、また37歳の時にお稽古を再開した。
娘がお世話になることになった、バレエ教室の先生がとても感じが良かったからだ。
どちらかと言うと、身体は柔らかい方で、要領も良いので振付も割と良く覚えられた。
なので、大人になってバレエを再開してから、さらにバレエが好きになっていった。
子どもの頃からお稽古を積み上げてきて、身に着いている技術はないものの、楽しくお稽古が出来ることが生活の潤いとなっていった。
ちょうどその頃、世間でも大人から始めるバレエが流行っていたのだ。
 
バレエのお稽古は、やはり目的がないと上達しにくい。
なので、習っていたお教室では年に一度の発表会があって、毎年、それに向けてお稽古をしていた。
地味な努力を重ねることで、出来なかったことが出来るようになったり、1ミリずつでも上達したりするのが嬉しかった。
そして、何よりも発表会本番でのお衣装が楽しみの一つだった。
舞台メイクをして、きれいなお衣装を身に着け、ライトが輝く舞台で拍手を受けると、もうすこぶる幸せだった。
 
そんな経験を十数年味わったのち、個人で起業することとなった私は、不規則な仕事形態のため、お稽古から足が遠のいていった。
それでも、時間を見つけてはお稽古に通ったが、それは年に数回ということもあった。
けれども、根っから要領が良く、身体の柔軟性もあった私は、超久しぶりのお稽古でもそれなりにできるので、またしばらくお稽古に行けなくなることにも不安はなかった。
 
「また、仕事に慣れてきたら、お稽古に通えばいいわ」
 
そんなふうにのん気に思っていたのだ。
 
ところが……。
 
そんな調子でのお稽古を続けていた4年前の夏、通っていたバレエのお教室の先生と近くのコンビニでバッタリと会ったのだ。
年末にバレエの発表会があるから、是非出演してほしいと言われたのだ。
そのころは、比較的時間もあったので、それならば、ということで、また週に1回のお稽古を再スタートしたのだ。
 
すると、これまでとは明らかに違うことが起こった。
まずは、身体がとても硬くなってしまっていた。
1年くらいお稽古をサボっていても、すぐに身体の柔軟性が戻ってきたのに、その時ばかりはそうはいかなかったのだ。
それはもう青天の霹靂で、一気に不安になってしまった。
さらに追い打ちをかけるように、身体のある部分に痛みを感じるようになったのだ。
それは、股関節だった。
股関節は、バレエの動きでは酷使するところだ。
脚を曲げたり、高く上げたり、とにかく股関節の動きなくしては、バレエは出来ないのだ。
こんなはずではなかったのに、思うように出来ないことに不安と苛立ちを感じた。
これまでは、何の苦労もなかったことが、あっという間に出来なくなって、それが悩みの種となっていったのだ。
まるで奈落の底に突き落とされたような、そんな気分になっていった。
それでも、人間というのは、「自分だけは大丈夫」と、不安を抱くくせに、それでも、大事に至る訳がないと、真逆の方向を意地でも信じたいように出来ているようだ。
 
今思うと、その時にすぐ病院で診てもらっていたら良かったのに、だましだましその状態のままバレエを続けて行った。
なんとか発表会は無事に終え、また普段のお稽古に戻ったが、股関節の痛みが良くなることはなかった。
それから1年以上経ってから、近隣の地域で評判が良い整形外科を教えてもらい、やっと重い腰をあげて受診したのだ。
 
その病院は、有名スポーツ選手も治療を受けるような整形外科で、待合室には私が見てもすぐに名前がわかるような各界の選手との写真、サインが飾られていた。
驚いたのは、個人の病院なのに、レントゲンのほかにMRIの設備もあった。
なぜ、これまで整形外科に行かなかったかというと、近くの整形外科を受診しても、MRIは大きな病院に行かなくては受けられなくて、とても面倒で時間がかかったのだ。
その整形外科では、まずはレントゲンを撮って、さらに必要があれば、すぐにMRIも撮ってもらえるのだ。
一日で診断をしてもらえることは、とてもありがたいことだった。
 
レントゲン撮影が終わり、その画像を見た院長先生は、開口一番「これはもう股関節の手術をしないとアカンかもな」と、言葉を発したのだ。
 
「まさか、そんな……」
 
先生の前なので、その言葉はごくりと飲み込んだが、恐怖と不安が一気に体中を駆け巡ってゆくのがわかった。
得たいのしれない暗闇が否応なしに襲い掛かってきた。
バレエが好きで、唯一の趣味で、ずっと長く続けてゆきたいのに、それも出来なくなるんだろうか。
 
「バレエ、出来ひんかもな……」
 
その言葉に泣きそうになりながらも、さらに詳しくMRIで診ましょうということになった。
 
MRIの撮影は、若干閉所恐怖症の私にとっては、苦手なモノだったが、この時ばかりはそんなこともどこかへ飛んでいってしまっていた。
 
「股関節の手術?」
 
「バレエが出来なくなる?」
 
そんな不安に押しつぶされそうになりながら、MRIの機械が下半身を通り過ぎるのを待っていた。
 
そして、いよいよ院長先生の最終診断だった。
MRIの画像も合わせて診断すると、思っていたほど、私の股関節の状態は悪くはなかった。
むしろ、バレエなどで身体を動かしながら、股関節の可動域を保てるようにしてゆきましょう、というものだった。
注意されたことは、よく温めて、そして太らないこと。
この二つは、大丈夫、自分で出来ることだから。
そして、いただいた病名は、変形性股関節症、臼蓋形成不全。
 
「ひょっとしたら、幼い頃から股関節の調子が悪かったのと違う?」
 
と、院長先生に言われたが、それだけは絶対になかった。
でも、名前からして成長期に何かあったのか?と思いたくなるような病名だ。
 
それから、その整形外科でリハビリに通い、自宅でのストレッチを教えてもらい、真面目に続けてゆくことでなんとか楽しくバレエも続けられている。
それでも、バレエのお稽古をした後は、筋肉痛とはまた別に、股関節周りの痛みも残った。
整形外科でのリハビリも、そのストレッチも覚えられたので、自宅でケアをしている日々だったが、以前、腰痛でお世話になっていた整体の先生に施術をお願いすることにした。
 
整形外科での診断の話や、レントゲン、MRIの画像のコピーを整体の先生に見せると、「整形外科では、病名をつけることと、手術を勧めるんでね」と苦笑いされた。
整体の先生曰く、その部分だけを見て、切り取って考えるから、股関節の手術となるけれど、股関節がどうして痛むようになったかを考えると、そこだけの問題じゃないのだと。
 
確かに、整形外科でのMRI撮影では、ストレートネック、腰椎がずれているとも言われた。
整体の先生の見解では、それらの影響が股関節に出ているというのだ。
なので、整体の先生が首や腰、骨盤のズレを戻してくれると、なるほど、股関節の痛みはなくなったのだ。
 
有名な整形外科の院長先生、信頼のおける整体の先生、どちらもが相手の治療に物申しているのだ。
整形外科の先生には、早く受診しなかった理由に、整体の施術を受けていたと言ったらちょっと笑われたのだ。
そんなのでは治らない、と。
 
そして、整体の先生も、すぐに手術という整形外科に対して持論があるようだった。
 
一瞬、どちらを信じたらいいのか迷うようなケースだった。
一瞬、どっちなの?と、不安を抱きかけた。
 
でも、すぐ次の瞬間に、私の気持ちは落ち着いていった。
だって、私はその世界で自分の腕に自信を持っている先生に診てもらえているということなのだから。
 
お互いが知らないところで相手を批判しているということは、逆に言えば、自分の施術に自信があるということ。
それならば、私は幸せ者ではないか。
 
首や腰や、骨盤、さらには股関節に痛みはあるものの、その世界で腕に自信のある先生がいつもついてくれている訳だ。
今よりも状態が変わってゆけば、また診察を受け、その時の状態を知り、その時に最適な治療を選べばいいのだ。
身体が調子が悪いことは、確かに不安材料ではある。
けれども、治療やリハビリ、気を付けることで緩和することは可能だ。
それをその時々、自分の身体の声を聴いて、私が判断して前に進んでゆけばいいのだ。
自分の身体なのだから、これから先も仲良く、上手く付き合ってゆこうと思っている。
そう、泣いても笑っても、この身体とこの人生は私の大切なかけがえのないものだからね。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

関西初のやましたひでこ<公認>断捨離トレーナー。
カルチャーセンター10か所以上、延べ100回以上断捨離講座で講師を務める。
地元の公共団体での断捨離講座、国内外の企業の研修でセミナーを行う。
1963年兵庫県西宮市生まれ。短大卒業後、商社に勤務した後、結婚。ごく普通の主婦として家事に専念している時に、断捨離に出会う。自分とモノとの今の関係性を問う発想に感銘を受けて、断捨離を通して、身近な人から笑顔にしていくことを開始。片づけの苦手な人を片づけ好きにさせるレッスンに定評あり。部屋を片づけるだけでなく、心地よく暮らせて、機能的な収納術を提案している。モットーは、断捨離で「エレガントな女性に」。

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325


■天狼院書店「シアターカフェ天狼院」

〒170-0013 東京都豊島区東池袋1丁目8-1 WACCA池袋 4F
営業時間:
平日 11:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
電話:03−6812−1984


2022-02-09 | Posted in 週刊READING LIFE vol.157

関連記事