週刊READING LIFE vol.158

おばちゃんに一歩ずつ近づくことで得られる〇〇で、モヤモヤを吹っ飛ばせ!《週刊READING LIFE Vol.158 一人称を「吾輩」にしてみた》

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2022/02/22/公開
記事:大村沙織(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「だって、40代になると老化が始まっちゃう(笑)」
 
かつて坂本龍一はインタビューでこう言った。言わずと知れた有名ミュージシャンでもそんな人間臭いことを言うんだと思った。そして更に彼は語る。
 
「人間ってオギャーと生まれて20歳くらいまでは心も身体も変化していきますよね。でも、それ以降は成長も止まって、40歳くらいで今度は落っこってくるんですよね。だから、平坦でいられるのって20歳から40歳くらいまで、人生80年としてもたった20年なんです」
 
この言葉を見た当時は何とも思わなかった。40歳になると人間ってもう若いとは言えなくなるんだなあと、他人事のように思ったのだ。ちなみに私が初めてこのインタビューを読んだのは8年前のことだ。そして最近、この文章にまた巡り合ってしまった。……えっと、そうなると私の人生の平坦な時期の4分の3はもう終わったことになるんですけど? 私が「若い」と言える時期は後数年で終わってしまうんでしょうか?人生100年時代といわれる令和の世においても、同じことが言えるんでしょうか?

 

 

 

若い人へのモヤモヤを感じるのは、今に始まったことではありません。自分よりも年下のYoutuberの活躍に対して、「自分は何をやっているんだ?」と思ったり。年下の部下からの下剋上を恐れて、過敏な対応を取ったり。そんなモヤモヤ達を本に頼って取り除こうとしたこともありました。「自分は自分、他人は他人」と言い聞かせるようにしたことも一度や二度ではありません。しかしながらそれは文字通り「言い聞かせている」のであって、一時的な解決策にしかなっていないように感じていました。どこかで納得しきっていない自分がいたのだと思います。
若い人達の活躍を応援したい、その成長を応援したいという気持ちは確かにあるのです。つい先日も知人の20代の女の子が、自分の描いたイラストでオリジナルグッズを作ったという報告をしてきてくれました。彼女自身、「小さい頃からの夢が1つ叶いました!」ととても喜んでいました。SNS上での報告でしたが、文面からは彼女の大きな満足感やその過程まで楽しめたことも如実に伝わってきました。彼女がいろいろ試行錯誤していたことや課題を抱えていたことも知っていたので、こちらも自分のことのように嬉しく感じましたし、お祝いの言葉も送りました。ところが、その気持ちとの裏で確かに湧き上がってしまうどす黒いモヤモヤ。「自分は何をしているんだ?」の呪縛は私の心の中に未だに息づいていたのです。自分自身が心の底から腑に落ちていない何よりの証拠だと、自覚せざるを得ませんでした。
 
 
そんなときに読み返していたのが、冒頭のインタビューでした。最初にインタビューを読んだときはまだ20代前半。40代なんて遠い未来のことだと思っていたに違いありません。特に引っかかることなく、その文章を読み飛ばしさえしていた可能性もあります。でも今はまるで重みが違う。40歳は目と鼻の先に迫っているのです。しかしこのインタビューをきっかけに気付いたことがありました。
「『若い人』ではなく、対象を若さそのものに目を向けてみてはどうか?」
そんなわけで「若さ」とは一体何なのか、改めて考えてみることにしたのです。

 

 

 

「若さ」とは一体何なのでしょうか? 若さといっても、肉体的なものと精神的なものがあるのではと考えています。
坂本龍一が言及しているのは、恐らく前者のことでしょう。生きている以上、老いからは逃れることはできません。しかし老化そのものは抑えられなくても、そのスピードを遅くすることはできると言われています。NHKの「筋肉体操」に出演されている谷本先生は「筋肉は何歳から鍛えても肥大化する」と主張されています。加齢による筋肉の萎縮は、一般的に生活機能に直結する脚に出やすいようです。しかし60~72歳の高齢者であっても、週に3回、3か月間足の筋トレを行うことで平均11%の筋肥大が見られたというデータがあります。80歳以降でも筋肉は成長するというデータが示されています。すなわち筋トレを始めるのに年齢は関係ないということです。完全に若者と同じくらいの体力を取り戻すというわけにはいかないと思いますが、肉体的な若さは対策さえしっかりとできていれば年齢を重ねたところで恐れるに足りないような気もしてきます。
現に私の周辺にも70歳近い水泳仲間がいます。彼女達は50代から水泳を始めて、約15年泳ぎ続けているベテランスイマー達です。週に5日プールで泳いで大会にも出ている強者達で、私よりも長い距離の種目にも平気で出場し、しれっと大会新記録まで取ってきたりもします。それでいて「もっと早くなりたいわ」と向上心を失うことなく練習に励む姿は、見ていて眩しいほどです。私自身も将来彼女達のようなスイマーになりたいと、ひそかに憧れています。年齢を重ねると真っ先に心配になるのが体力面ですが、対策次第できっと何とかなると信じています。
一方で精神的な若さはどうでしょうか? これは個人的な意見ですが、「新しいモノやコトをいかに自分の身のまわりに配置させるか」が重要な気がしています。自分にとって未知の経験をすることはそれだけで刺激になりますし、脳科学的にも刺激にはボケや老化を抑える機能があります。年齢を重ねてしまうとどうしても行動パターンが決まってきてしまったり、一定の枠組みから出なくなってしまったりしがちです。そのため意識して行動パターンを変えたり、新しいことに積極的に触れていく姿勢は大事なのかなと思います。なるべく若い時分からチャレンジ精神を保っていくことで、老後になっても若さを失わずにいられるような気がします。

 

 

 

こうやってみると肉体的な若さも精神的な若さも、実際にできるかどうかはさておいて、心がけひとつで何とでもなるような気がしてきてしまいます。つまり年齢を重ねたところで若さを失うことはない。モヤモヤを感じる理由も、なくてもおかしくはないはずなのです。ところが実際に年齢を重ねても若い人へのモヤモヤを感じてしまい、それは年々強くなっているように思うのです。一体それはなぜなんでしょうか? 結局のところ原因は若さの有無ではなく、彼らが持っている才能に対してのモヤモヤが負の感情となって表れているに過ぎないということなのでしょう。
 
 
ここで「自分には才能がないから」と諦めてしまうのは簡単なのかもしれません。このまま若者を応援する立場に留まり、その背中を見守るだけの存在になるという選択も取れるのだとは思います。でも思うのです。それだと自分は何のために年を取ってきたのでしょう? ここまで年齢を重ねてきて、得られたものは一体何だったのだと。自分は無為に時間を過ごしただけだったのかと。そうなると自分の人生そのものを否定することにもなりかねません。それだけはどうしても避けたい。

 

 

 

そこで歳を重ねることで得られたものを考えることにしました。真っ先に思着いたのは「経験」ですが、他にもありました。それは良い意味でも悪い意味にも捉えられるかと思いますが、「図々しさ」。スーパーやコンビニなどで列に横入りしてくる人、たまにいますよね。彼らが見せるようなあの図々しさです。一歩でも間違えればハラスメントにも繋がりますが、うまく活用すればとても役に立つのではないかと感じました。
その図々しさを以って、分からないことは若い人達に聞いてしまえば良いのではないでしょうか? なぜ彼らがそのように優秀でいられるのか、どうやって才能を発現するための知識やノウハウを身につけたのか、方法を直接聞いてしまうのです。年上のプライドがどうとかは、この際無視します。だってそれが分からないとどうにもならないですし。プライドや見栄を守るために何年も自分だけで努力をして、それで時間をロスしてしまうことの方がよっぽど痛いですし、損です。やはり時間の壁は若さがあろうがなかろうが、才能があろうがなかろうが、越えられません。我々年長者達は時間を失うことの方を恐れるべきです。
それに今の若い人達はとても丁寧で、親切な印象があります。きっと図々しい大人達が馬鹿な質問をしても優しく答えてくれるだろうと信じています。内心で「こんなことも分からないのか?」と思われているかもしれません。それでも良いのです。繰り返しになりますが、大人にとっては残された時間の方が大事なのであって、プライドは二の次で良いのですから。

 

 

 

坂本龍一様、40歳になっても若さはきっと失われません。私達にはまだまだ輝くチャンスがあります。何せ私達には「図々しさ」という大人ならではの武器があるのですから。若い人達からしたらはた迷惑かもしれませんが、これが私の才能なのです。使わない手はありません。これを使って、一歩踏み出してみませんか?
 
 
 
 

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2022-02-17 | Posted in 週刊READING LIFE vol.158

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