週刊READING LIFE vol.167

苦手意識はこうやって克服しよう《週刊READING LIFE Vol.167 人生最初の〇〇》


2022/05/02/公開
記事:佐藤謙介(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「パラダイムシフト」という言葉がある。
 
パラダイムとは「枠組み」とか「固定概念」という意味だ。
「シフト」は「位置を変えること」「状態が別の状態になること」という意味なので、パラダイムシフトは「人が持っている固定概念が変わること」となる。
 
では皆さんのなかで「パラダイムシフト」と聞くと何を想像するだろうか?
私が最もパラダイムが変わったなと実感したのは、やはりiphoneの登場だろう。
私が20代前半のころは、携帯電話と言えば今でいう「ガラケー」が主流だった。ガラケーも途中からネットに繋がるようになり、メールを送れるようになったり、カメラ機能が付いて友達に自分が撮った写真を一緒に送れるようになるなど、それなりに進化をしていた。ところがiphoneの登場はそれまでの携帯電話の進化を覆す衝撃を世の中に与えた。
 
それまでの携帯電話は「電話すること」が主で、その他の「インターネット接続」や「カメラ機能」はあくまで付属機能でしかなかった。ところがiphoneは「インターネット接続」が主で電話を付属機能にしてしまったのである。
 
おそらくいまiphoneやスマホを手にする人の中で「電話をかける」ことを目的で購入している人はまずいないだろうか。外出先でも簡単にネット接続できるようにしたいとか、綺麗な写真を撮りたい、それをSNSでシェアしたい、電車の中でゲームをしたい、移動中に音楽を聴きたい、お財布を持たずに電子マネーで買い物したいなど、電話をかけるという機能はiphoneを購入する理由の中ではかなり優先順位が低いはずだ。
 
つまりiphoneはそれまで携帯電話に対して私たちが持っていた「電話をする」という固定概念をパラダイムシフトさせた商品なのである。
 
他にも世の中を見渡せばパラダイムシフトはいたるところで起きている。
例えばタクシーはタクシー会社が運転手を雇ってサービスを提供するものだったが「Uber(ウーバー)」が登場したことで、一般人がタクシードライバーになることが出来るようになった(つまりタクシー会社が無くても良い時代になった)。さらに「Uber」で言えば、日本では「Uber Eats」の方が馴染みがあるかもしれない。
 
これまでデリバリーと言えばピザやお寿司などのデリバリー専門店から注文することが当たり前だった。ところが「Uber Eats」は私たちが普段外食しているファストフードやレストラン、カフェなどの食事を家で食べることを可能にした。いままではマックのハンバーガーを食べたければ、お店まで行って買しか方法が無かったが、いまではスマホで簡単に注文して家まで届けてくれるのだ。
 
こういったパラダイムシフトは世の中では頻繁に起こっている。
ただ、皆さんはここで一つ不安を感じないだろうか?
 
「世の中の変化の速さに、自分が全くついていけてない」と。
 
私がそれを顕著に感じるのはSNSについてだ。
SNSと言えば私はfacebookを主で使っているが、既にfacebookは若い世代にはほとんど使われていないらしい。彼らは「Instagram」や「TikTok」などの写真やショート動画を使ったメディアにとっくに移行してしまっている。(おそらくいまだに「Instagram」や「TikTok」しか例に出せない時点で、もうすでに遅いのだろうが)
とはいえこういったメディアもすぐに新しいメディアに取って代わられるので、今の若い人たちも数年もすれば私と同じように「今の若い人たちが何に興味あるのか分からない」と言い出すはずだ。
 
こういった世の中のパラダイムシフトに人が付いていけない理由の一つに、人間には「現状を維持したい」という脳のバイアスがあるかだと言われている。
ちなみにこの現状を維持したいという気持ちには「現状維持バイアス」というそのままの名前が付いている。人間は自分が馴染みのある状態を好み、新しいものや変化を嫌がるという性質がそもそもあるのだ。
もちろん中には新しい物好きな人がいて、とにかく新しいものが出るとすぐにそれを試したくて仕方ないという人もいる。しかしこういった人たちは本来の人間の性質からすれば少し変わった人たちなのかもしれない。(もしくは新しいことを試す必要がある職業の人たちなのではないだろうか)
 
いずれにしれも人間は基本的には変化することを嫌がる性質があるのだ。
 
しかし、世の中はどんどん変化しているので、私たち自身もその変化に全く無頓着でい続けるのも難しい。ではこういった人間が持っている「現状を維持したい」という性質を超えて、自分自身が変化するにはどうしたら良いのだろうか?
その中でも特に自分にとって「苦手意識」があるものを克服するにはどうしたら良いのだろうか?
 
実はこれにはちょっとしたコツがある。
それは「偶然を利用すること」だ。
 
「なんだそれは?」と思われたかもしれないが、これはある有名な組織コンサルタントの先生から聞いたのだが、人間が持っている固定概念や苦手意識などを外すときには「偶然」を利用したほうが上手くいくと教えてくれた。
 
どういうことかというと、多くの人が苦手意識があるものを克服しようとすると、その対象に真正面から向かっていくが、たいていそれは失敗に終わる。それは当たり前で元々上手くいったことが無いことを、そのまま根性だけで乗り越えられるなら、多くの人はとっくに自分の苦手意識を克服して成功しているはずだ。それが出来ないから人は悩み、いつまでたっても苦手を克服することが出来ないのである。
 
例えばダイエットは最も分かりやすい事例だろう。
「よし痩せよう」と食事制限や運動を初めても十中八九は失敗する。それは、これまで自分が好きなものを好きなだけ食べることが出来た状態から、突然キツイ食事制限や運動を始めれば、その変化をイヤがるもう一人の自分が「いきなりそんなにやったら体に悪いよ」「もう少しゆっくりでもいいんじゃない?」と甘いささやきを始め、当初の決意は数日、いや数時間で消えてしまい、結局今まで通りの生活に戻ってしまうだろう。
 
そしてこのチャレンジは自分の中に「失敗体験」として記憶され、「自分はダメな奴だ」と自己肯定感をさらに押し下げてしまうため、次にチャレンジしようとしても「また失敗するかもしれない」と考えてしまい、結局続けられないという悪循環に陥ってしまうのだ。
 
こういった「真正面からぶつかる戦法」がうまくいくことはほとんど無いというのが組織コンサルタントの先生が言っていたことなのである。そのため「偶然」を利用したほうが良いというのだ。
 
しかし、どうやって偶然は起こせばいいのだろうか?
実は私はこの偶然を利用して「減量」と「禁煙」を成功させたことがあるのだ。
 
私は社会人になったときに、仕事のストレスから暴飲暴食を繰り返し、また煙草も吸っていたため健康面ではかなり悪い状態だった。運動しようと思っても長続きせず、煙草を辞めたいと思ってもストレスから吸わずにはいられない状態が続いていた。気が付けば入社してから一年足らずで体重は15kg増え、煙草は毎日一箱は吸っていた。
その結果、年に一回の健康診断では「肥満」と診断され、悪玉コレステロールとか血中脂肪濃度とか、高血圧など、聞いただけでヤバそうな指標にことごとく「C評価」がつき「要改善」と診断されていた。
 
そんな自分が今では体重は20kg減り、煙草は10年以上吸っていない。さらに毎日走ることが習慣化され、昨年受けた健康診断ではすべての指標で「A」がつき、40代にして健康的な身体を手に入れることが出来た。
 
どうしてそれが可能になったのかというと、それがまさに「偶然」だったのである。
 
社会人になって10年ほど暴飲暴食、喫煙の生活を送っていたが、心のどこかでは「痩せたい」「煙草も身体に悪いからできれば辞めたい」と考えていた。
そんな時にたまたま友人から「村おこしのためにトレイルランニングというレースを企画したので協力してほしい」と相談を受けた。トレイルランニングという言葉はその時に初めて聞いたが、それは山の中を走るレースのことだった。
 
走ることさえ嫌なのに、ましてや山の中を走るなんて正気の沙汰ではないと思ったが、ただ「村おこし」というキーワードが自分の中で気になった。実はその当時「地域再生」に興味を持っていて、本などを読んで自分なりに勉強もしていたのである。
 
しかし仕事では全く地域再生に携わることが出来なかったので、いつかそんな仕事ができたら良いなと漠然と考えている程度だった。そんな時に「村おこしに協力することができる」と聞き、私はすぐに友人の誘いにOKと返事をした。
 
しかし当時は体重が100kg以上あり、さらに走るということを全くと言っていいほどしていなかったので、さすがにこのままではレースに出ることが出来ないと思い、朝起きて走ることにした。初めのころは3km走っただけで息が上がり歩き出してしまった。体重も重いうえに煙草も吸っていたので、その状態で走ることなんてできるわけがなかった。
 
しかし不思議と走ることを辞めようとは思わなかった。「村おこし」に協力したいという思いが強く、なんとかレースまでの3ヶ月の間に少しで良いから走れる身体を手に入れたいという気持ちが勝り、毎日走ることを継続した。それに合わせて煙草も禁煙し始めた。
もちろん昼間に煙草を吸いたい気持ちは湧いてきたが、「レースまでの3か月間だけは我慢しよう」と考えることができ禁煙を続けることができた。
 
そして3か月後、私は10kgの減量をし、禁煙も継続することが出来たのである。
 
そしてレースに参加して私の考えはさらに変わった。山の中を走ることは、私が想像していたよりもはるかに気持ちが良く、ゴールした時には今までの人生では感じたことが無い達成感を感じることが出来た。
 
私は人生で初めて走ることが気持ちいいと感じた。
その時、私の中でパラダイムシフトが起きた。
 
これまでは「走ることが嫌い」「仕事でのストレスから暴飲暴食、喫煙は仕方ない」という固定概念があったが、「もっと違う山の中を走ってみたい」「そのためにもっと痩せて走れる身体になりたい」という価値観に変わってしまったのである。それからというもの私は毎日トレーニングのために走り、食事も気にするようになり、そして煙草も止めることが出来たのである。
 
おそらく「減量しよう」「禁煙しよう」と真正面からこの二つに挑んでいたら、間違いなく失敗したのではないかと思う。しかし「村おこし」という偶然のきっかけから入ることで、「減量」「禁煙」を成功させることが出来たのだ。
 
実はこういった偶然は様々なところで利用することが出来る。
例えば私の知り合いで勉強が苦手で、これまで自ら勉強しようと思ったことが一切無いという人がいたが、彼はゲームが好きで、ゲームの解説動画をYoutubeでアップしてみようと誘われたことをきっかけに、動画やSNSに興味を持ってその分野を勉強し、今ではネット関係のコンサルティングの仕事をしている人がいる。
 
大事なことは「苦手なことに真正面からぶつからない」ということだ。
そうではなく、自分が興味を持つことが出来る何かを見つけて、そのついでに苦手なことも克服してしまうというのが、自分の苦手意識や固定概念を外し、パラダイムシフトを起こさせるコツなのである。
 
私も現在「英語」という昔からの苦手なものを克服したいと考えている。
ただいきなり真正面から英語に取り組むのは難しいということはよく分かっているので、何か「偶然」を利用できないかと画策しているところだ。
 
ぜひ皆さんも「偶然」を利用して、パラダイムシフトを起こし、苦手なものを克服してみて頂きたい。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
佐藤謙介(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

静岡県生まれ。鎌倉市在住。
大手人材ビジネス会社でマネジメントの仕事に就いた後、独立起業。しかし大失敗し無一文に。その後友人から誘われた障害者支援の仕事をする中で、今の社会にある不平等さに疑問を持ち、自ら「日本の障害者雇用の成功モデルを作る」ために特例子会社に転職。350名以上の障害者の雇用を創出する中でマネジメント手法の開発やテクノロジーを使った仕事の創出を行う。現在は企業に対して障害者雇用のコンサルティングや講演を行いながらコーチとして個人の自己変革のためにコーチングを行っている。

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2022-04-27 | Posted in 週刊READING LIFE vol.167

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