週刊READING LIFE vol.167

事務員のわたしは、会社に2700文字の思いの丈をつづった文章を提出した《週刊READING LIFE Vol.167 人生最初の〇〇》


2022/05/02/公開
記事:izumi(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
まさか、こんな日が来るとは思わなかった。
会社に勤めて25年、人生初A4サイズ3枚分、2700文字の文章を提出した。
書いた内容は、いま仕事をしている部署での問題点だ。
わたしは事務員として、いまの部署に配属されている。
部署に所属しているのではなく、会社全体の事務部に所属している。
いつどこの部署に異動になるかはわからない。
会社全体の人員増減にともない、違う部署に異動していく。
2月に異動してきた後輩が、心の病いで会社に来なくなってしまった。
 
2月から異動してきて、4月に来なくなったので、在籍期間はわずか2か月だった。
以前も、ベテランが異動希望を出して異動していき、新しく異動してきた人が3か月程で退職してしまったことがある。
さすがに、なにが問題でこんなに人が定着しないのかと問題になった。
会社として、ほっておけなくなったのだろう。
上司から依頼された。
「文章、口頭のどちらでもいいので、今配属されている部署の仕事をどう思っているのかを教えてほしい」
 
口頭では、うまくしゃべれないと思い、文章で提出する方法を選んだ。
大人なので、オブラートに包んで書こう。
冷静に問題点を書き、数値化をできるものはできるだけする。
相手を攻撃するような内容は書かない。
だが、いくら考えても、それでは伝えたい内容は伝わらない。
思い切って、配属されて5年間、おかしいと思っている問題点をぶっちゃけた。
おおまかに言えば、部署の営業がやるべき仕事を、事務に任せているのが問題点だ。
この文章が事務部に止めてもらえず、配属されている部署のえらい人に渡れば、他の人と交代してほしいと言われるだろう。
 
提出したあと、内心びびりまくった。
おばちゃんの文句だと言われるかもしれない。
使いにくい人材と思われるのは予想できる。
あなたたちも悪い所があるのではないかと、上司から説教をされるかもしれない。
いろいろな気持ちが、心のなかに浮かんでは消えていった。
だが、すでに提出してしまったので、覚悟を決めた。
もしかしたら、会社にいづらくなり辞める場合もある。
はじめは不安でしかたがなかったが、一度覚悟を決めると気持ちがスッキリした。
本当の気持ちを素直に書いたので、なんだか心が洗われたような気分になれた。
 
今の部署で働くようになり、ストレスはどんどんたまった。
幸いにも、ランニングというストレス解消ができる趣味がある。
イライラした時は、ランニングの練習会に行き、おしゃべりしながら走る。
特に仕事の話をしなくても、会社以外の人との交流はストレス解消になった。
走る前はだるいなあと思っても、走り終わると気持ちがスッキリする。
まさに運動は運を動かすとはその通りで、下向きになる気持ちが持ち直した。
 
だが、運動だけでは解消できないストレスがやってきた。
後輩が、出社しなくなってしまったからだ。
後輩が異動してくると知った時は、ラッキーだと思った。
彼女の前評判は高かったので、安心していた。
「どんなに仕事がしんどくても、頑張れる人だから大丈夫」
人が定着しない部署だけれど、彼女なら頑張ってくれるのではないだろうか。
事実、自分で工夫をしながら、仕事をしてくれるので助かった。
 
わたしは、今の部署で仕事をしている間に、仕事の専門的な資格をとった。
資格をとると自信もつき、他の部署の仕事をしてみたいと思った。
なにより、今の部署から異動したい。
異動を願いでたが、すぐには受け付けてもらえなかった。
異動願いはマイナス要素を言わずに、プラスの要素で他の部署で働いてみたいと言った。
マイナスばかり言うと、異動をさせてもらえなさそうだし、一緒に働いている部署の人に砂をかけて異動するのも心が痛むからだ。
できるだけ穏便に出ていきたかった。
 
後輩が入ってきたので、やっと異動ができると内心小躍りして喜んだ。
後輩が慣れてきた頃に、わたしは異動する。
今年中に異動しよう、12月までにはなんとかなると未来の予定を頭の中で計画した。
なのに! まさか後輩がこなくなるなんて思わなかった。
 
後輩が来なくなり、3人だったメンバーが、わたしと同僚2人になった。
はじめはがんばろう! と意気込んでいたが続かなかった。
仕事は忙しくなり、お手伝いも来てもらっているが、部分的に仕事を渡せるだけだ。
毎日残業は続き、2人ともどんどん元気がなくなる。
お互いの気持ちの下向き加減が伝染しているのだろうか。
わたしはいつも頭がボーっとして頭痛がするようになり、同僚は会社に出勤するとキュッとおなかが痛くなるようになった。
会社を休みたい、このまま会社行きの電車ではなく、反対方向に乗りたいと何度も思った。
わたしたちの、体力、気力のレベルは0になりかけていた。
 
そんな時、希望の光が差し込んだ。
文章を読んでくれた、会社の役員が動いてくれたのだ。
配属されている部署と問題点について話をしてくれて、改善へと動きだしている。
いままでは、自分の気持ちを言ったつもりになっていた。
一緒に仕事をする相手に遠慮して、オブラートに包んだ意見だ。
できるだけマイルドにして、言いたい内容は、それでも相手に伝わっていると思っていた。
改善してほしいという本気度が、伝わっていなかったのだ。
今回、本当の気持ちを伝えたから、役員が動いてくれた。
いつものように、オブラートに包んだ意見なら、会社は動いてくれなかっただろう。
事務員の文章を読んで、動いてくれたのが嬉しくなった。
あらためて、本当の気持ちをつづった文章の力は、人を動かす力があると実感した。
 
ライティングセラピーという言葉がある。
自分の思いを文字にして書くと、気持ちがスッキリと癒やし効果になるのだ。
ネットでその記事を読んだ時、わたしはライティングセラピーをしているのだと分かった。
いままで、言いたくても言えなかった思いをはきだした。
会社に提出した時は不安になったが、気持ちはスッキリとした。
それは、ライティングセラピーによる効果だ。
 
毎日、書いている日記もライティングセラピーになっているはずだと、ふと思った。
最近仕事の内容は、避けて書かないようにしていた。
書くと、仕事を思い出してしまうし、ゆううつになる。
会社以外では、仕事を忘れて、思いっきり気分転換したい。
だけど、やっぱり書いてみよう。
何かが変わるかもしれない。
 
包み隠さず、仕事に対する気持ちを書いた。
人には見せられない内容で、読んだ後、性格が悪いなーと思った。
一日の出来事に対して、なんでそう思うのか? じゃあ何が出来るのか?
自分は本当はどうしたいのか。
その場で問題が解決されるわけではないが、気持ちを書きまくった。
 
次の日はあれだけ悩まされていた頭痛がなくなり、薬を飲まなくてもよくなった。
「こんなにすぐ効果があらわれるなんてうそでしょ……これもライティングセラピーなのか」
うそみたいだが、本当の話だ。
書く行為は時間も場所も関係なく、1人でできるお手軽さで、気持ちもスッキリする。
ライティングという最高の武器を手に入れた。
わたしは、わたし専属のカウンセラーにもなれる。
書いた内容を後から見直すと、自分自身を俯瞰して見ることができる。
おこった出来事について、違う角度から見るという方法も取れる。
自分の心は、自分で守ろう。
そう分かると、心に重くのしかかっていたものが、少しだけ軽くなった。
心にスッと風が吹いたような感覚とともに、大きく深呼吸した。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
izumi(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

2021年7月よりライティング・ゼミ超通信コースを受講。2022年1月よりライターズ倶楽部に参加。ランニング、トレイルランニング歴10年。最近山登りにハマってテント泊を実現したい。誰かの応援になる文章を、書けるようになりたいと日々特訓中

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2022-04-27 | Posted in 週刊READING LIFE vol.167

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