週刊READING LIFE vol.169

世代を超えて賢い消費者になろうじゃないか!《週刊READING LIFE Vol.169 ベスト本レビュー》


2022/05/16/公開
記事:飯田裕子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
年齢での上下関係を意識しないアメリカ人でも、世代は意識するらしい。諸説あるが、ピュー研究所というアメリカのシンクタンクによれば、第二次世界大戦後の復員兵たちの結婚・出産ラッシュの世代がベビーブーマー(1946年から1964年生まれ)。1965年から1980年生まれをX世代、1981年から1996年生まれをミレニアル世代、そのあとの世代をZ世代と言うそうだ。
 
これを見た時、同じ惑星に生きているのに、アメリカと日本では、世代の分け方も違うんだな、と思った。まあ、国が違えば、起こる出来事が違うのだから、当然と言えば当然か。こちらも諸説あるようだが、日経新聞に載った解説によれば、日本では、団塊の世代(1947年から1949年生まれ)、新人類(1950年代後半から1964年生まれ)、バブル世代(1965年から1969年生まれ)、団塊ジュニア(1970年から1984年生まれ)、ゆとり世代(1987年から2004年生まれ)、それ以後は新人類ジュニアと言ったりするらしい。
 
みなさんは、一体どこに入るだろうか。
 
アメリカの世代の区切りのシンプルさを見ると、日本は何だか区切りすぎぢゃないか、と思ったりもしてしまうが、本当はこれでも足りないらしい。毎年、その年の漢字を決めるのが恒例のように、その年の新入社員たちの特徴を、おもしろおかしくネーミングするのも、日本の世代分けの一つのようだ。例えば、1994年の新入社員は「浄水器型(うまく取り付けられれば良く機能する)」とネーミングされていた。新卒採用が一般的だからこそ出来る技なのだろう。
 
でも、なんでわざわざ世代分けなどするのか? それは、会社に勤め、物を売る仕事をしていれば、おのずと自明かも知れない。①少し年齢の離れた上司や部下とどのように付き合えばよいのかの指標を得るためだったり、②消費者のニーズを見極めて売れる商品やサービスを作るため、だろう。この2つは、資本主義社会に生きる私たちの、永遠のテーマと言ってもいい。アメリカの世代に関する本を見てみても、関心事はやっぱりこの2つだった。

 

 

 

私が最近読んで面白いと思った本は、この永遠のテーマ②に関わる。しかも、世代を集団ととらえて、実例を交えて「私たちは、消費行動を通して世の中を変えられるのだ」と呼びかけている本だ。
 
世代と消費、と言えば、普通は、「バブル世代は、バブル時代のはぶりの良さを覚えているから、大胆に消費しがち」とか「最近の世代は、すでにたいがいの物は手に入れているので、体験を重視する」など、消費の傾向を見て売り出す商品を考える、という、マーケティングの方面からの言及が多いと思う。そもそもが、その世代の人たちが、自ら「これを作って! あれを作って!」と要望を出して作ってもらっているわけではなくて、作る側が勝手にリサーチして試行錯誤して作ったものから、自分たちの好みに合うものを選んでいるだけ、という感じもある。何となく受け身だ。
 
それに、フェアトレードや農産物以外では、その商品がどのような環境で作られてきているのかについて、気にはなっても、あまり深くは考えないことも多い。もしも、作っている工場の人たちが低賃金で搾取されていたとしても、そして、それを薄々分かっていても、「ありがとう!」と思いながら、ありがたく買ってしまったりもする。
 
でも、この本の著者は、もっと積極的な、言ってみれば「モノ言う消費者」の時代が来ているのだ、と言う。彼女の言葉で言えば「消費アクティビズム」だ。例えば、従業員の搾取をやめなければ、それに、環境に優しい材料を使った製品にしなければ、その企業の製品を買わない、と言い、実際にそうすることで、経済格差を減らそうとしたり、環境保全につなげたりする、という行動のことを言っている。

 

 

 

この20年来アメリカに住み、ライターとして生活する佐久間裕美子さんは、最近、立て続けに、この消費アクティビズムの行動をアメリカで目撃したという。そして、それらの流れを起こしているのは、若い世代のミレニアル世代とZ世代なのだと言う。
 
アメリカのミレニアル世代は、2022年現在、上は40歳ぐらいから下は20代半ばぐらい。ちょうど、社会の労働人口の中心に躍り出てきている感じだ。レディ・ガガが上の方の世代なら、カナダ人だけれどアメリカで活躍するジャスティン・ビーバーが下の方の世代だと言ったら、分かりやすいだろうか。彼らは、生まれ年にもよってくるが、2008年のリーマン・ショックやその後の大不況の影響を受けて大人になっている。その間、貧富の差も増大したので、激しい経済格差や、居住環境を脅かしつつある環境破壊、トランプ政権で拡大したかに見える人種不平等に憤りを感じるようになった。
 
アメリカのミレニアル世代以降の世代は、これらを見過ごしにしてきた既存の政府や企業、メディアなどすべてのものが気に入らずに「ノー」と言う。そして、従業員の搾取をやめなければ、他者の犠牲の上に自分たちだけいい思いをしようという企業態度を改めなければ、そして環境を考えた製品を作らなければ、その企業の製品やサービスを買わないし、その企業に就職もしないし働き続けないとも言って、実際にそうしているのだという。例えば、トランプ元大統領は、イスラム教の国から来る人のアメリカ入国を制限したことがあったが、その時、その政府の対応に抗議してボイコット運動をしていたタクシー業界の腰を折るようなことをした配車アプリ会社に対して、アプリを削除するという抗議のボイコットを行ったそうだ。他にも、ブランド価値を保つために売れ残りを大量に焼却するアパレル企業に再考を迫ったこともあるそうだし、人種差別的なホームページに広告が載っても平気な企業に対して、SNSを通して大々的な不買運動を起こしたりもした。彼らは、不買運動やボイコットを通して企業の方針を見直させ、結果、人種差別や資源を無駄にすることを止めたいのだ。そのようなことが、特にトランプ政権時代以後、アメリカでは日常茶飯事に起きているという。想像するに、きっと、分断が進むなか、「何かしなければ。何とかしなければ」と思ったのではないかと思う。
 
ミレニアル世代は、デジタル・ネイティブ(物心ついた頃から、そばにデジタル機器があり、インターネットも出来た世代)だから、SNSでの口コミが早い。しかも、アメリカのミレニアル世代は、口コミの影響力をよく分かっていて、それを社会を良くする(出来るだけ多くの人が心地よく暮らせる社会にする)運動にも利用している傾向があるのだそうだ。著者は、アメリカには「Meの時代」(自分のことだけ考える時代)ではなく、「Weの時代」(個人の自由よりも社会全体の幸せを考える時代)が到来しているとも言っていた。そして、本の題名を『Weの市民革命』とした。
 
もし、気に入らない企業を利用しないようにすれば、それなりに自分たちも不便になるかも知れない。そんな企業でも、就職しないと失業者になるかも知れない。SNSやインターネットに依存しつつある私たちが、アマゾンやフェイスブック(今は社名がメタか)にそんなに盾突けなくなっているように、限界もあるのだろうとは思う。でも、「お客様」だという立場を逆手に利用して、少しでも企業活動や企業と癒着している何かにまで意志を表明出来る機会があるのだとしたら、それは、すごいことかも知れない。

 

 

 

ここで思い出されるのが、1950年代にアメリカ南部アラバマ州のモンゴメリーという都市でマーチン・ルーサー・キング・ジュニア(通称キング牧師)が中心となって行われたバス・ボイコット運動だ。かつてのアラバマ州には、人種分離法があった。黒人は運転手にお金を払った後、後ろのドアに回ってバスに乗る。バスの後部座席(白人席より粗末)は、一応黒人も座ってもいい席になっているが、もし白人が座れないぐらいバスが混んできたら、その列全員の黒人が立ち上がって白人に席を譲らなくてはならない。そういったことが法律で決まっていた。「人種で分けるなんておかしい!」と始まったバス・ボイコット運動は、1年以上も続いたそうだ。その抗議中、黒人たちは、頑張ってバスに乗らなかった。たとえ仕事に行くのに20キロの道のりを歩いて往復することになっても! 乗客の約75%を占めていた黒人たちが1年以上もバスに乗らなかったことで経営難に陥ったバス会社は、根負けした。黒人たちは、不便な生活を耐えしのいで、結果、もっと大きなもの(人種分離法をなくすこと)を得たのだ。この出来事が、1964年の公民権法(全米で人種分離法をやめると決めた法律)成立につながっていく。
 
テレビに理不尽な人種差別の映像が映し出される時代でなければ、また、社会全体に人種差別を是正する機運がそれなりになければ、やはり成功しなかった可能性もあるけれど、キング牧師とモンゴメリーの黒人たちの運動は、草の根の私たちの消費行動だって、世の中に影響を与えられるかも知れない、という可能性を、大きく示してくれているような気がする。

 

 

 

日本でも、アメリカのミレニアル世代がしているのと同じようなことは可能だろうか? 日本の社会は、またアメリカとは少し違うのかも知れない。それに、日本のミレニアル世代以降を集団として見た場合、人口に占める割合、つまり数としては不利なのかも知れない。アメリカのミレニアル世代は、2019年のピュー研究所の計算だと、アメリカ人口の22%ぐらいいるらしい。世代集団としてはベビーブーマー世代を超えて最大の集団になったそうだし、行動が似ているZ世代の人口も増えているし、労働人口世代の中心でもあるしで、これからもっと集団としての力を得ていくだろう。人口の多さに物を言わせることが出来るわけだ。じゃあ、日本はどうか? 総務省の統計で日本の同世代人口を見ると(世代分けが違うのでそもそも意味はないかも知れないけれど)、だいたい17.5%にはなる。でも、X世代が23.4%もいて、まだしばらくは影響力を持つだろうから、それを考えると、世代として多数派になるのは少し難しそうだ。
 
でもだ! 世代集団としては数としての力がなくても、出来ることはあるのだろう。X世代を巻き込んでもいいし、デジタル・ネイティブ世代の強みを生かして、他の世代の上を行くのもいい。きっと大切なのは、自分の消費活動に責任を持つこと、誰かにしわ寄せが行くかも知れない世の中にはならないように、出来るだけ注意をしていくこと、なのだと思う。そして、自分たちデジタル世代の可能性と影響力を信じて、いいと思う商品の口コミや写真の紹介だけで終わらせないことを気に留めておくといいのかも知れない。消費を通じて、世の中を是正することも出来るかも知れない、とも思っていることは大切なのだろう。著者も、本文中で「自分はどんな消費者でありたいか」を考えてみようと呼びかけている。

 

 

 

ただ、消費アクティビズムの話は、何もミレニアル世代に限ったことではない。誰だって、どの世代の人だって、今日から実行出来ることだ。
 
半分は自分の消費行動への戒めとして書いてきた面もあるので、なんだか説教くさくなってしまった……。でも、消費をしながら世の中を変えられるって、一石二鳥な感じで、ステキだ。それを気づかせてくれたこの本は、最近読んで良かったと思える本の1冊だった。

 

 

 

さて、この本についてもう一つ言うなら、著者はとても正直な人だ。トランプ政権やコロナ禍に遭遇してのアメリカの変化を間近で目撃した時のその熱を、全部この本にぶつけている。書き方も、ビジネス本にしては、かなり個人語り的だ。本の最初の方には、X世代としての自分がどんな人生を歩んできたかも書いてあるが、そのうえで、「X世代の一アジア人女性が見たアメリカはこうだった。こんな変化が起こっている。それは、これからアメリカを背負っていくミレニアル世代やZ世代の考え方の変化から起こっている。でも、考えてみて! 私たちみんな、同じことが出来るかも知れない」と書いているのだ。と、私は思った。彼女は「革命が中継されている」という文章から本を書き始めているが、その「革命」を目の当たりにした感動が書き綴ってあるようで、こちらの熱量も一緒に上がった気がした。書き手の熱が伝わってくると、ワクワクする。生のアメリカのルポとしても、是非おススメしたい。

 

 

 

そうだ。私、きちんとは本の題名を紹介してあげていなかった! 最近私が読んだビジネス書でベストだったのは、
佐久間裕美子『Weの市民革命』朝日出版社、2020年です。
 
アメリカの今を知るためにも、世代へのマーケティングについてのヒントを得るためにも、かしこい消費者をねらっていくためにも、ライフスタイルを見直してみるためにも、きっと読んで損はないと思いますよ。ぜひ!
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
飯田裕子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

2021年11月に、散歩をきっかけに天狼院を知り、ライティング・ライブを受講。その後、文章が上手になりたいというモチベーションだけを頼りに、目下勉強中。普段は教師。

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2022-05-11 | Posted in 週刊READING LIFE vol.169

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