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週刊READING LIFE vol.174

名古屋のタフなおばちゃんたちに学ぶ、老後の生き方《週刊READING LIFE Vol.174 大人の友情》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2022/06/20/公開
記事:飯田裕子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
私は、時々、名古屋の市バスに乗る。名古屋の地下鉄も、市をぐるっとまわる環状線が出来たりした頃からだいぶ便利にはなったが、地下鉄のない場所をこまごまと走ってくれるバスは、やはり、なくてはならない乗り物だ。
 
バスは、老若男女乗るにしても、昼間はやっぱり高齢者の方が多くなる。65歳以上の名古屋在住の方なら、敬老パスが持てるので、バスが来る20分前ぐらいから、バス停で休みがてら、ゆっくりゆったりとバスを利用していたりする。
 
「あらあ。こんにちは。お元気?」
 
「ええ。おかげさまで」
 
「今日はどちらまで?」
 
「今病院の帰りでね。もう、くすりももらったから、そこらへんでちょっと買い物でもして帰ろうと思って」
 
「あら、いいわね。今、衣替えの時期だから、着るものにも困っちゃうわよね」
 
おばちゃんたちが何人か集まると、バスの中でも、わいわいと会話の花が咲く。大きな声なので、内容が逐一どうしても聞こえてしまうが、とっても楽しそうだ。
 
ああ、バスで知り合いに会ったんだな、と思った。たまたまバスに乗り合わせたりして、世間話をしているんだな。こんなに仲良く話しているんだから、きっとけっこう若い時からの知り合いなんだろうな。PTAが一緒だったとか? それとも、幼ななじみとかかな? 想像がふくらんでいく。
 
「ほら、私って、着ぶくれしちゃうタイプじゃない? お腹がぽっこりしなくて、きつくないズボンなんて、どこかに売ってないかと思って……」
 
「ああ、それならね……」
 
おお。おばちゃんたちの情報網はすごい。一人のおばちゃんは、赤信号でバスがとまっている時に立ち上がって、自分のズボンを見せている。
 
「あら。このシルエットいいわね」
 
「でしょー」
 
「あははは」
 
私は、大人になってから名古屋へ来たクチなので、名古屋にそんなにたくさん知り合いがいるわけではない。子どものPTAとかで知り合いが出来る、という経験もして来なかったし、もっぱら仕事をきっかけに知り合った方々が多い。それでも、その中から友達になった人もいるのだからいいのだが、ただ、たまには寂しく思う時もある。
 
大人になってから出来た友達も、とても大切な友達。でも、お互いに、学生時代とかのことは全然知らない友達ではある。今の私を知るばかりで、どんなふうに今の私が出来て来たのかなんて知らない。育った場所が違えば、経験してきたこともだいぶ違ったりするから、「そうそう。そうだったよねー」みたいな話は、しづらかったりする時もある。そういう意味で、たまには、小さい時を知っている友達が恋しくなることもあるよ、という、ただ、その程度の意味ではあるんだが……。
 
ああ。いいな。おばちゃんたち。名古屋生まれ、名古屋育ちで、昔からの知り合いもいたりして、それはそれで楽しい毎日なんだろうな。

 

 

 

楽しく談笑していた中の数人が、手を振ってバスを降りていった。とてもなごやかな雰囲気になっていたこともあって、私は思わず、残ったうちのお一人に声をかけてしまった。
 
「楽しそうですね。幼な友達とかですか?」
 
私には、古くからの知り合いで、とても仲の良い人たちにしか見えなかったのだったが、意外な答えが返ってきた。彼女は、ニコニコしながら、
 
「いいえー。今日初めて会いましたよ」
 
と言ったのである。
 
ガーン!
 
殴られたような衝撃があった。
 
え? 初めて会った人たちどうしだったの? だって、さっき、「私って、着ぶくれしちゃうタイプじゃない?」って言ってたじゃない? あれって、昔から、そうだったよね、って意味じゃなかったの? 若い人が(最近あまり聞かない気もするけど)、「私って、おっちょこちょいじゃないですかー。だから、スマホにメモっておくようにしてて……」などと、「私それ初めて聞いたけどね」的な話を振ってくるのは聞いたことがあるけれど、敬老パスのおばちゃんも、同じなんだとは思わなかった!
 
いや。絶対に、昔から仲がいい知り合いに見えたって! でなければ、週に1回ぐらい、デイケアセンターとかで、一緒に体操をしているとか。とにかく、初対面ではない、ちょっとした知り合いには見えましたからー!
 
それから、バスに乗るたびに、おばちゃんたちの様子を、もっとよく観察するようになった。この人たちは、古くからの知り合いなのかな。それとも、今初めてあったけど、昔からの知り合いのようにしているんだろうか? よくよく見たけれど、はっきり言って、よくは分からなかった。まあ、本人たちが、とても楽しんでいるんだから、それでもいいのか。
 
とりあえず、そう思うことにした。

 

 

 

そんなある日。イートインで野菜ジュースを飲んでいた時のこと、どこかのおばちゃんと同席することになった。目を見て軽く挨拶したら、そのおばちゃんは、一生懸命、私に話しかけてきた。
 
「いやあ。毎日がつらくてねー。私、元いた家を引き払って、愛知県の別の町から娘夫婦の家に引っ越してきたんだけど、肩身が狭いのよ! 部屋も狭いから、持ってこられた物もちょっとだったんだけど、それでも多いって言われちゃってね。早く処分しろって。でも……そう言われたってね。戦後のまだ大変だった時から大切にしてきたものなんて、簡単に捨てられないじゃないの」
 
おばちゃんの話は、とどまるところを知らなかった。20分ぐらいだったけれど、二人が、あらかた飲み終えてしまうまで、おばちゃんのグチは続いた。おばちゃんの話は、戦後の大変だった時期のことにも及んで、生きた証言としても、けっこう面白かった。
 
ひとしきり話すと、おばちゃんは、「ちゃんとお金は貯めておいて、好きな所に住めるようにしておいた方がいいわよ」などと言って、さっさと立ち上がると、帰り支度を始めた。私は、戦後のお話が面白かったのと、何やら年老いた時のアドバイスまでくれたことに対して、とにかくもう一回お礼を言おうと思って、2、3歩追いかけたのだが、その時、おばちゃんは、少し追いかけてきた私を見て、驚いて、露骨にイヤそうな顔をしたのだった。
 
ドキッ! けっこう傷ついた。私は、おばちゃんが、自分の胸のうちや恥にもなるであろう話を洗いざらい話してくれたことについて、けっこう感動していたのに!
 
思うに、このおばちゃんは、自分のグチを聞いてくれる人を探していただけだったのだ。それも、刹那の、もう二度と会わないだろう人を選んで。だって、そうすれば、グチは、当の本人たちに聞かれることは一切なく、どこかへ消えていくからだ。私は、おとなしく聞いてあげたので、おばちゃんのいいカモになってしまったのだ。
 
でも、少しして、思い直した。おばちゃんは、普段イヤだと思っていることを、私に話してスッキリできた。私は、娘に呼ばれたからって同居すると、思わぬ落とし穴もあるもんだ、という生の経験談を聞くことが出来たし、戦後の名古屋の話も聞くことが出来た。それに、二度と会わない相手に対してした話だから、かなり赤裸々な話を聞くことも出来た(多分、少し大げさには言っていたと思うが)。戦後は大変だった、という話の内容に涙も出そうだった私の気持ちは、どこかへすっ飛んでしまったが、まあ、それなりに楽しんだんだから、よく解釈すれば、ウィン・ウィンの関係だったわけだ。刹那の話と思ってされた話を聞いたあとは、あと腐れなく別れなければならない、ということも学んだ(こういう話をけっこうされる性分だが、このおばちゃんほどに突き放してきた人は、それまでいなかったけども)。

 

 

 

それに、いろいろ考えてみると、私は、このバスのおばちゃんたちとイートインのおばちゃんから、貴重な教訓を得た気もした。
 
人間、タフじゃなきゃダメだよ! 話し相手がいなければ、自分で探せばいい! グチを聞いてくれる相手がいなくて気持ちがふさいでいるなら、あと腐れのない誰かをつかまえて、聞いてもらえばいい。昔からの知り合いのように仲良く話して、笑い合えば、もう孤独だなんて言わせないからね!
 
私は、人は年を取ると、みんな浦島太郎になると思っている。浦島太郎が、楽しかった竜宮城から帰って、ハッと気が付くと、まわりは知らない人ばかり。多くの人も、息つく暇もない人生を駆け抜けてきて、ハッと気が付くと、知り合いの多くは別の世界へ旅立っている。同窓会は、高齢を理由に開催が出来なくなり、久しぶりに電話をかけてみると、呼び出し音が鳴るだけだったりする。まだ呼び出し音が鳴るならいい。その電話番号は、まだ生きている可能性がある。でも、「この電話番号は、現在使われておりません」になったら……。友達は、生きているのか、病院へ行ってしまったのか、ボケてしまったのか、もう調べる術もなかったりする。長く生きれば生きるほど、昔からの知り合いは歯が抜けるようにいなくなり、彼らを見送っているうちに、昔のことを話せる人もいなくなってしまって、だんだん寂しい気持ちになっていく。子どもや孫が生きがいになったりすることはあるのだが、それでも、昔のことを一緒に経験したどうしで話せなくなる孤独感は、やっぱり残る気はする。年をとると、最近の記憶よりも、小さな頃の記憶の方が鮮明になるようだから、思いも募るような気もする。
 
でも……、それも、もし、昔にばかりこだわっていれば、の話だ。
 
懐かしいことがなんだ! 年をとれば、知り合いがいなくなっていくことは仕方がないじゃないか! それに、考えてみれば、幼なじみが、間の人生をどんなふうに生きてきたか、なんてよくは知らないんだから、昔を知っているか、もう少し古くない昔を知っているか、ぐらいの違いでしかないんだろう。それなら、古い友達にばかりこだわらずに、過去にしがみつかずに、健康に長生きして、あちこちへ出かけて、新しい友達も探していけばいいのだ。現に、名古屋のカルチャーセンターのまわりのレストランは、お昼には、習い事終わりの高齢者の方でいっぱいだ。
 
そうだ! 名古屋のおばちゃんたちみたいに、タフに生きよう! おばちゃんたちにだって、まだ存命な幼なじみはいるだろう。それはそれで大切にする。家族も大切にする。ただ、それに加えて、動き回ったことをきっかけに最近知り合った習い事の仲間、デイケアサービスでよく会う知り合いも大切にしていけばいいのだ。それから、もし、将来、そこまで深い知り合いが現世にいなくなってしまったとしても、とりあえずは、誰か、話が出来る人を捕まえればいいのだ!

 

 

 

今を大切に生きる。それが一番大切!
 
きっとそういうことなんだろう。一生懸命探せば、気の合う友達は、いくつになっても、きっと見つかるさ!
 
名古屋のおばちゃんたちはすごい! 私が知っているのが、たまたま名古屋のおばちゃんだけだからかも知れないが、ほんとにそう思った。
 
おばちゃんたちも、人知れず、寂しい気持ちは抱えているのかも知れない。私も、長生きするうちには、見送る寂しさは味わうのかも知れない。でも、私も、名古屋のおばちゃんたちを見習って、タフに生き抜いてやりたい! そんなことを思った。
 
浦島太郎だって、寂しさのあまりに玉手箱を開けないで、若い人を捕まえて竜宮城の話をして、それを本にして出版して、あちこちに講話をしに行ったりして、タフに生きれば良かったんだ。名古屋のおばちゃんを見習ってね!
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
飯田裕子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

2021年11月に、散歩をきっかけに天狼院を知り、ライティング・ライブを受講。その後、文章が上手になりたいというモチベーションだけを頼りに、目下勉強中。普段は教師。

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2022-06-15 | Posted in 週刊READING LIFE vol.174

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