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週刊READING LIFE vol.174

祈りよ届け《週刊READING LIFE Vol.174 大人の友情》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2022/06/20/公開
記事:赤羽かなえ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
その連絡は突然来た。

 

 

 

彼女は雲の上の存在だった。
 
中高の同級生で、スポーツ万能でバスケ部の選手。優しくて明るくて、クラスの中心グループの、さらにど真ん中にいるような人だった。片や私は、文化部でとりたてて明るくもなく、クラスの隅っこで昼寝しているか小説を書いているような人。絵に描いたようなマイナーメンバーで、いてもいなくてもどうでもいいようなポジションにいた。
 
自分自身はそれが不幸だったか、というと別段そんなわけでもない。学校自体は窮屈だったけれど、置かれた場所で、ほどほどに楽しく生きていた。けれど、そんな私でも、彼女のグループを遠目にうかがいながら、あんな風にクラスの中心グループに入っていたら毎日楽しいだろうな、なんて思うことはあった。
 
私達は、6年間、同じ場所の空気を吸って生きていたわけだけど、ほとんど話すこともなく、何かを一緒にすることもないまま、学校を卒業した。
 
もちろん、今後ももう関わることもないと思っていた。お互いに、それぞれの人生のエキストラ、という程度でしかなかったのだ。

 

 

 

ある日、見知らぬ名前の女性からフェイスブックのメッセージが来た。
 
何かの勧誘か、送り間違いだろうか、不審に思いながらもチェックしてみると、彼女からだった。結婚して姓が変わったんだ、という前置きがあった上で、
「フェイスブックの有名なグループでライターをやっているでしょう? 記事の名前を見て、驚いてすぐ連絡しちゃった」
 
と書いてあってこちらが驚いた。私の書いた記事を彼女が読んでくれている。彼女の向日葵のような笑顔が思い浮かんだ。よもや、クラスの人気者から連絡が来ると思わなくてドギマギしてしまった……今更、クラスもなんも、ないんだけど。
 
お互いの現在の状況を報告し合うと、手作りの食事にこだわっていたり、子供が同年代だったり、と共通点があって意気投合した。
 
お互いのエキストラから始まった私達は、長い時を隔てて、ようやく友人と呼べる存在になった。
 
不思議なことに、ライフサイクルが変わると友達付き合いも変わるもんだ。もちろん、ずっと仲の良い友達もいる。一方で、結婚しているとか子供の有無で、かつては仲が良かった友達と距離ができる、ということもあった。逆に、彼女のように共通点が多くなり、当時のしがらみもなくなって仲が良くなる友達もいるのだ。
 
中高の妙に閉鎖的なコミュニティは6年間でお腹いっぱいで、元に戻りたいなんてこれっぽっちも思わない。だけど、あの思春期特有の薄い空気をあの場所で吸っていたからこそ、偶然に再会できたのだから、学校に通っていた甲斐はあったんだ。
 
そう思うくらい彼女と仲良くなれたのは嬉しいことだった。
 
住んでいる場所が離れていたので、最初は、メッセンジャーでやり取りをしていた。中高時代、なんでも積極的にこなしていたように見えたけど、彼女は彼女で色々悩むこともあったらしい。なんだ、クラスの中心でキラキラしていた子でも、私と同じようなモヤモヤを抱えていたんだ。お互いに背伸びして頑張ってきたことに親近感がわいた。他人の芝ばっかり青く見えたけど、みんな思っていることなんて似たり寄ったりだったんだ……今更、種明かしされたようでおかしかった。
 
それでも、私が実家に帰省する折に20年ぶりに会おうという話が決まった時には、心の中で尻込みをした。文章で自分の思いを表現するのは得意だからメッセージのやり取りは対等にできたけど、面と向かって話すのは大して得意じゃない。ましてや、クラスの人気者だよ? ……新幹線が関東に近づくたびに、私が実家に放置してある『ネクラな私像』が重くのしかかる。いきなり、彼女との間に距離ができるような重苦しい気持ちになった。
 
実際に会ってみるとそれは杞憂だった。彼女に対して、壁を作って逃げようとしているのは私の心だけで、彼女は、会えたことをとても喜んでくれた。ようやく、ちゃんと友達になれたような気がした。当時は気づかなかったけれど、彼女決して派手で底抜けに明るい人ではなく、実は物静かな人だった。きっと、当時は、必死に背伸びして明るい自分を演じていたんだろうな。当時の彼女はすごくまぶしかったけれど、私は、今の方が彼女らしくて素敵だなと思う。
 
彼女は、その後もずっと、私の書く文章や仕事に共感してくれていつも応援してくれた。私が本の販売をすると言えば、関東から広島までやってきてくれた。私が主催しているイベントに参加するためにこちらに来てくれたこともあった。
 
最後に会った時に、ちょっと彼女の顔色が悪いのが気になっていた。でも、食生活の改善を頑張って元気になるからね、と言ってくれたから、きっと大丈夫、彼女なら大丈夫だよねって思っていた。
 
帰り際に、彼女とハグして見送るつもりだったけど、ハグができたかどうか、今となっては思い出せない。

 

 

 

そう、その連絡は突然来たのだ。
 
彼女は、私が開催している鉄と栄養のお話会をオンラインで聞いてくれる予定だった。
確かに最後に会った時に具合は悪そうだったけど、フェイスブックの彼女の投稿を見ながら、だいぶ持ち直しているのだろうと勝手に思っていた。
 
けれど、お話会をキャンセルしたいという申し出が直前になって来て驚いた。
 
体調を崩して実家で療養している、と書かれていた。
 
彼女は、簡単にドタキャンをするような人ではない。その行間から漏れ出てくる気配にただならぬものを感じてしまう。軽く書いてあるけど、どうしても見過ごせなかった。私にできることは? 何か役に立てることはない? とにかく本人を不安にさせるのは逆効果だから努めて冷静に尋ねた。それでも、いても立ってもいられなかった。
 
できること、できること、できること……。頭の中で必死に考えて、私ができたことは、日にちをあけずにメッセージを送ることだった。
 
内容は、ほとんど世間話だ。正直、何の役にも立てないような話ばっかりで、無力さを感じた。
 
メッセージを送るたびに、入院したり、輸血したり、退院したり、また入院したり……、彼女の状況は刻々と変わっていた。そのメッセージの中には、いつだって、「頑張るね」って書かれていて、私はその頑張る、という言葉にいつも引っかかっていた。
 
私の世間話は、彼女を頑張らせちゃうんだろうか。今までもずっと頑張ってきたじゃない、もっと愚痴を言ったっていい、何もしてあげられないけど、不安なら吐き出したっていい。聞くことしか、私、できないけど、吐き出してスッキリできるのなら、せめて聞くくらいのことはしたい、そう思っているのに。
 
本当はメッセージを送るのも怖かった。私が連絡するたびに、良くない知らせが返ってきたらどうしようって、いつも送信マークを送る時に手が震えた。
 
それでも、彼女の様子が知りたかった。
 
その時に、初めてわかったことがある。
 
彼女がどれだけ私のことを応援してくれて、支えてくれていたかっていうことを。
初めてメッセージをくれた時、私のことをたまたま見つけ出してくれて、共感もしてくれて、その声を素直に届けてくれたおかげで、私が文章を書いていこうと思えるようになった。
 
自分が書いた小説を本にしたときに、わざわざ広島まで会いに来てくれた時も本当に喜んでくれた。本も折に触れて読んでいるよ、と言ってくれた。だからこそ、私は、私が書くことが、どこかでほんの少しでも誰かの役に立っているって信じることができている。彼女が応援してくれることが、私の心のよりどころで、私、そんなのずっと当たり前のように応援し続けてくれるって思っていたんだ。
 
でも、この世の中に、ずっと、も、当たり前、も、ない。
 
それでも、まだまだ、あなたの応援が必要なんだよ。だから、私が前に進まざるを得ないくらいの後押しができるように元気になってよ。
 
頭の中でグルグルと不安な感情が噴出してくるのを沈めて、いつもみたいに馬鹿みたいな世間話を送ることしかできない私だ。
 
彼女から、「退院したよ」と返事が来たときにどんなに安心したことか。
 
まだまだ、これから頑張らないといけないけど。
 
そう続いたメッセージを読んだ時、もはや頑張らなくていい、とは思わなかった。彼女の文章から、覚悟のような、静かな気持ちが流れ込んできたから。
 
彼女にとって、今は、頑張り時なんだ。今ここで頑張らなくて、いつ頑張るというくらい、一生懸命、難関を超えようとしている。そんな彼女を、私が訳も分からずに頑張らなくていい、なんて、口が裂けても口にしちゃいけない。そのままでいいんだよ、という言葉は残酷だ。そのままでいることすら、彼女にとっては頑張らないといけないことなのだから。
 
「私に、今、できることはない?」
 
何か助けたいけど、何が彼女の生きる糧になるのかわからない。彼女の力になれることは?
 
彼女からは、「祈っていて、それで頑張れるから」と返ってきた。
本当にそれだけでいいの? 私を無力だと思わせないでよ……。
 
でも、彼女は続けて、「今回、祈りの力をすごく感じたんだよ。私はいろんな人に愛されていて、守られているって感じた」と返してくれた。
 
そうか、いざとなったら祈るなんて大した力にもならないんだって勝手に思っていたけど、それでも祈りの力って無力じゃないんだ。
 
その時に、ようやく、私にしかできないことを思いついた。
今こそ、私は、文章を書くべきなんだ。
 
だって、彼女は最初から、私が書くことを応援してくれているんだから。私が書く文章を好きだって言い続けてくれた。だから、私は、文章を書くことで彼女の応援に応えるんだ。
 
だから、ずっと祈りながら書いている。
彼女が早く元気になるように。今は頑張り時だから、彼女が、私の文章を読んで元気になってくれますように。
 
最後に会った時に、ハグしたかどうかは忘れてしまったけど、今度会えた時には、絶対に忘れられないくらいに、よく頑張って乗り越えたねって、盛大にハグしてやるんだから。
 
この祈りは、彼女のもとにちゃんと届くと信じて、今日も私は祈り続けている。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
赤羽かなえ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

2022年は“背中を押す人”やっています。人とモノと場所をつなぐストーリーテラーとして、自分らしい経済の在り方を追究している。2020年8月より天狼院で文章修行を開始。腹の底から湧き上がる黒い想いと泣き方と美味しいご飯の描写にこだわっている。人生のガーターにハマった時にふっと緩むようなエッセイと小説を目指しています。月1で『マンションの1室で簡単にできる! 1時間で仕込む保存食作り』を連載中。天狼院メディアグランプリ47th season総合優勝。

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2022-06-15 | Posted in 週刊READING LIFE vol.174

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