週刊READING LIFE vol.187

メンタル不調の時どうしたらいいのだろうか?《週刊READING LIFE Vol.187 最近のほっこりエピソード》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2022/09/26/公開
記事:塚本よしこ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
身体が重い……。
朝起きて毎日のように思う。まるで背中に鉛でも入っているようだ。
夏の終わりに体調を崩してから、いまだ倦怠感がある。もう2週間は経ったのに。
 
ゲームの主人公のようにパワーを数値化できるとしたら、ここのところずっと40くらいだ。これでも元気になってきた。マックス元気なのが100、普段は70から80でいたとすると、その半分くらいだった。
 
そんな冴えない中、頭の片隅でずっと気になっていることがある。
それは今週のライティングの課題のことだ。ライティングの講座を受講中の私は、週に1回課題を提出しなければならない。
いや、提出しなければならないということはない。書けなければ、提出しないという手もある。しかし、自分の中での目標は、全ての課題を出す! ということだった。あと3回、何としても書きたい。ここで、やめてしまえたらどんなに楽かと思うが、1度出さないと残り3回も「ま、いいか出さなくても……」となってしまいそうだった。
 
このライティングの課題にはお題があり、今週は「最近のほっこりエピソード」だ。
ほっこり……。ほっこりするようなことが、皆は日常にあるのだろうか?
きっとあるに違いない。他の受講生は感動的な話を書いてくるだろう。
しかしどうしよう、私には特に思い当たらない。
 
私の感性が鈍っているのだろうか?
色んなことを見落としているのだろうか?
ほっこりというのだから、思わず微笑んでしまうような心温まるエピソードがあるといいのだろう。
「そんなのない、特にない」
「でもさ、それってなんだか寂しい感じじゃない?」
頭の中で勝手に会話が始まる。
「そうかもしれないけど、ないものはない」
「……そうは言っても、何か探してよ」
すると、
「そんな悠長なことあるもんか!」
何を怒っているのか、八つ当たりだろうか?
「最近大変だったんだ! ほっこりなんて気分になってない!」
 
確かに体調崩して以来、ほっこりとは真逆といっていいような緊迫した毎日だった。
どうにもおさまらない頭痛から始まった体調不良は、3日も経てばほぼ普通の状態に戻った。
しかし、その後子どもも体調を崩し、ほぼつきっきりの看病がはじまった。気を張っていたために自分がゆっくり休めていない。
子どもはその後スッキリ治ったが、私は絆創膏をはって隠したところがずっと膿んで治らないように、いつまでも尾を引いていた。
 
「このまま寝ていたい……」
朝起きて、そんな思いがやってくる。でも、いつまでも寝るわけにはいかない。
朝ご飯を作って子どもを学校に送り出さなければならない。
自分で何かを食べていくような歳でもなければ、お母さんの体調が良くないから、何もお願いしないでおこう! なんていう歳でもない。
「朝ご飯は?」
「お水欲しい」
「髪しばって」
と、次から次に注文はやってくる。それに食器も洗わないといけないし、洗濯もある。
仕事を休んでしまうこともできるが、もう行かなければならない。既に1週間休んでいた。
 
体調不良をきっかけに一番厄介だったのは、この倦怠感だけでなくメンタルの不調だった。
「もう無理だ」
「この先に希望がない」
「生きる意味ってなんだろう?」
このように言葉にして、自分が驚く。でも実際こんなことばかり浮かんできた。
 
私はどうしてしまったのだろう……?
夜余計なことを考えても起きてスッキリしていればいいのだが、朝一番に思うこと、もしくは夜中にふと目が覚めて思うことが、
「もう無理……」
「人生を間違えた」
そんなことなのだ。完全におかしなことになっている。
心身相関というのは保健の授業でも習った。そう、心と体は繋がっている。体がいつまでも重いことが、気持ちも重くしてしまっているようだった。
 
お金をもらえるわけではないのに、なんで時間かけて必死にやっているのだろう?
お金を払ってまで何でこんな苦しいことやっているのだろう?
私はどこに向かっているのだろう?
メンタル不調からのネガティブ祭りは、ライティングを学んでいることにまで疑問を持ちはじめた。そして、文章を書こうとパソコンに向かうが、気づくと寝てしまっている。
 
このような不調に追いうちをかけたのが、何も美味しく感じないということだった。
味はする。けれど何も美味しく感じないのだ。
特に食べたくない。それでも、強引に口に物を入れるような感じだった。
酸っぱいも甘いも辛いも分かる。なのになぜ美味しくないんだ?
 
自分を喜ばせようとチョコレートケーキも買ってみた。
でも残念ながらハッピーな気持ちで食べれたのは最初の一口で、もういらないと思ってしまった。
この世の中から味が消えてしまったら、それはとてもつまらない。喜びが減ってしまう。
もしかしたら生きる力も失ってしまうかもしれない、そんな風に思った。
美味しいと感じることが、私たちの人生をどれほど楽しいものにしているかということを思い知った。
 
そして、皆さんもひょっとしたら経験があるかもしれないが、こんな風に沈んでいる時ほど、誰かに「今辛い」「きつい」「やばいかも」ということが、言えない。
「しんどくてさー」
「落ち込んでてさー」
なんて友人に話せる時はもう大丈夫だ。
 
本当に辛かったりしんどい時ほど、
「言っても相手も困ってしまうだろう」
「忙しいかな?」
「こんな話できない」
「みんな自分の生活で大変だよな」
などと、考えて友達に言えなかったりする。
いや、そもそも話す元気もなかったり、自分の世界にはまってしまい、それを外に出すという発想もない。
 
「すごくしんどかったんだ……」
友達から連絡がきて驚いたことがある。
そんなに辛かったならその時連絡くれたらよかったのに……なんて思ってしまったが、出来なかったのだろう。本当にきつい時に連絡はこない。
話をして相手の反応で逆に傷ついたり、疲れてしまう可能性もある。また、辛いことを思い返したくない時もある。
友達が本当に辛い時に、連絡しようと思ってもらえ、力になれる人になりたいものだ。
 
さて、こんなメンタル不調の時皆さんはどうするだろうか?
病院に行く?
誰かに聞いてもらう?
何もしない?
 
そのまま何もせずに過ごせばいいのかもしれない。
けれどついつい「この現状を何とかしたい」と私は思ってしまう。ただ過ぎるのを待てずに、何かをきっかけに浮上できないかと思ってしまうのだ。早く元通りになりたかった。
 
何日経っても一向に気が重い私は、Tさんならどう言うか? 話を聞きたくなった。
Tさんというのは友人の紹介で知り合った、この世の真理を説く僧侶のような人だった。
Tさんに連絡を取ってみた。
「体がだるくてどうしようもなく、そこから気持ちも落ちて……」
いつものように、取り立てて相槌を打つでもなく、私の話をじっと聞いてくれている。
「何も希望が見いだせない感じで、何で生きてるんだろう? とかまで考えるように……」
言葉にしてみたら、私は何を言っているんだろう? と逆に恥ずかしくなり、笑ってしまった。
 
するとTさんも夏に体調を崩したらしく、その倦怠感はよく分かると言う。
しかし、「将来に希望が見いだせない」とかはなかった。それ以前に「未来に希望とか抱いていない」それでも毎日がつまらないわけでもないという。
な、なんと!
期待もないからガッカリもしない、まあこんなものかな、というのだ。
 
え? 待てよ。私は日々に期待し過ぎなのだろうか?
人生は楽しいものだと勝手に思っていて、そうでないとこれは変だと思う。でも、実は人生はそんなに面白くないのだろうか? こんなものだと思えばいいのだろうか。
色んな話をし、結局は、体調が1か月もすれば回復してくるだろうから、それまでは、特にどうにかしようとしなくていいのでは? 体調が良くなってくれば解放的な気持ちになるだろう……ということで話を終えた。
 
すぐ現状をどうにかしよう! 改善しよう! としてしまうけど、放っておくのがいいのかもしれない。「問題は解決するな」なんて題名の本もあるくらいだ。
バカボンのパパごとく、「これでいいのだ!」なのかもしれない。
 
結局私は重い体を持ち上げ、何のやる気もないまま、何もしたくない気持ちをそのままに、職場にとりあえず日々向かった。
「今かなり元気ないです」
「今人生に希望を失っています」
そんな私の内側で起こっていることなんて誰も知らず、日常は過ぎていった。
自分が休みたいと思っていたが、逆に他の人が体調を崩し、違う仕事を任されたりもした。私も調子悪いんです、なんて言うこともできず、少し無理をした感があったが1週間が過ぎていった。
 
そして、気づくと、
「この先の生きる希望は?」「生きる意味は?」
なんてことを考える時間がなくなっていた。日々淡々と仕事をするうちに、他に考えることができ、少しずつ元の自分に近づいている感じがした。
 
ああ、そういうことか!
 
気持ちが沈んでいると、何もしたくなくなる。あらゆることを放棄し、停止したくなる。
もちろん体調がよくない時には休んだ方がいいだろう。
しかし、メンタル不調の時、きっと本来の自分に戻る術は、無機質な電車になることだ。
いつもの時間に、いつものようにやってくる電車のように、時間になったらすることをする。平常運転、それが1番だということだ。
 
昔物理の授業でも習ったように思う。
止まってしまったものを動かすには力がより必要になるが、動いているものを動かすにはそこまで力はいらない。
 
「やる気」についても、「やる気を出そう!」と思ったら出るものではなく、やらないとやる気は出ないということを本で読んだことがある。
やる気が出たらやろう! と思っていては、いつまでもやる気は出ないのだ。
 
「仕事に行きたくない」「このまま寝ていよう」
そう決めて行かなかったら、再び行くのにより大きな力を必要としただろう。
多少しんどくても、気が乗らなくても通常運行をする。
それがメンタル不調時の最善の策のように思う。
 
普段通りに淡々と、元気がなくても取りたてて意識を向けずに、まあこんなものかなと日々を過ごしてみた。
そんな中、ふとYoutubeを見てみたら、宇多田ヒカルさんが出てきた。
何を話しているんだろう? 聞いてみると、
「ヒッキーはBADモードの時どうやって抜け出す?」
という質問に対して答えていた。
 
すると、落ち込んでいたり、うつっぽい時は「できるだけ通常運転を心がける」というのを誰かが本で提唱していたのが心に残っていて、それはちょっと意識していると話していた。
調子悪いなという時に、あれもやめよう、これもやめようと色々なことをやめてしまうのではなく、いつもやっていることをやるように心掛けているという。
ま、まさに!!
最近思っていたことと、内容が重なり、より強い確信となった。
また、BADモードがきても、これも終わるというのが分かっているので焦らないと話していた。
 
そうだ、きっとそうに違いない。
梅雨のように雲がしばらく停滞することがあっても、それもいつかは晴れる。沈んだ気持ちもいつかは雲のように流れいくだろう。
 
「ほっこりすること? 別にない」
そんな風にすさんでいた私の心はどこまで回復したのだろう?
まだまだ本調子ではないのは確かだ。
でもきっと大丈夫。
焦らず日々を過ごすうちに、気づけばいつもの自分に戻っているはずだ。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
塚本よしこ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

奈良女子大学卒業。
一般企業をはじめ、小・中・高校・特別支援学校での勤務経験を持つ。
興味のあることは何でもやってみたい、一児の母。
2022年2月ライティング・ゼミに参加。
2022年7月にREADING LIFE編集部ライターズ倶楽部に参加。

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

【6/4(土)〜6/12(日)の期間限定)】

天狼院読書クラブ“新規入会キャンペーン”!!〜期間中に年間契約をしていただいた方限定で!66,000円以下の対象講座がどれでも1講座「無料」で受講できるお得な入会キャンペーン!〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



2022-09-21 | Posted in 週刊READING LIFE vol.187

関連記事